モンスターストライク 〜大星痕:グランドクロス〜 作:犬社長
「んしょ。」
───水色のアクセントが入った黒い靴に爪先を滑り込ませ、ショルダーバッグを肩に掛ける。
星をイメージしたキーホルダーが付いた鍵を握り締めてドアを開ければ、初夏の陽射しが『少女』の透き通るような水色の髪を一本一本に至るまでキラキラと輝かせた。
「ん……暑い…。」
『家』を出た直後だと言うのに、いま直ぐ回れ右して冷房の効いた室内へ戻りたくなる衝動が湧き上がる。まだ朝なのにこの暑さはおかしくないだろうか。いや、おかしい(反語)
(太陽と心を通じ合わせたい…。通じ合えば…もう少し日光を控えめにして貰える様にお願いできるのに。)
『少女』──改め
───♪♫♪♫♪♫♪♫
ふと、バックの中から携帯が鳴る音が聞こえてきた。
ネオは青々と茂る街路樹に彩られた道を歩きながら、スマホを取り出して通話に出る。発信者は良く知っている人だった。
「
「──あぁ、もしもしネオ。おはよう。」
スピーカーの向こうから、穏やかな青年の声が聞こえる。
「うん。おはよう、
ネオがそう言うと、通話の向こうでニュウと呼ばれた青年が、少し心配そうな声を上げた。
「いやぁ、電車が来るまであと5分なんだけど、間に合うのかなぁ〜って思って。」
「え。」
それを聞いたネオは、はたと歩みを止める。そして、腕時計をチラリと見ながら、少し震えた声で電話の向こうへ話し掛けた。
「……9時じゃ無かったっけ……。」
「……8時40分ですよ……。」
ネオは腕時計を再度見た。時刻は8時35分。…確かにあと5分しかない。
「あぁ、気にしないで良いよ?時間ギリにはなるけれど、次のに乗っても全然───」
「ごめん。勘違いしてた。家出たばっかりだから、急いで向かう。」
ニュウの会話を遮って、ネオはそう言った。そして歩みを速める。
「うーん…間に合う??ネオさん家、駅から遠いんじゃ…。」
「大丈夫。身体能力は高い方。」
「──え。無茶しないでね?!もう新人類じゃないんだから──」
「うん。無理しない。身体の動かし方は身に染み付いてる。神速で行くね。」
「えぇ……あ、せめて爆速位で───」
ニュウの通話を食い気味に切り、ネオは地面を大きく蹴った。
最初の3歩程で一気に街路樹の通りを抜けると、そのまま道路脇の擁壁を蹴って駆け上がり、側に建つ建物の屋根の上に着地。そのまま勢いを殺すこと無く、靭やかな猫の様に色とりどりの屋根の上を翔けて行く。
「───んっ!」
屋根の連続が途切れたタイミングで、電柱と看板を交互に蹴りながら下降。
交差点前へ器用に着地したネオは、交差点を行き交う人々へ素早く
『ごめん皆!急いでるので、道を開けてください!』
その瞬間、何人かの人々が振り向いてネオに道を譲った。中には無反応な人も居たが、特に構う事無くネオは彼らの間を通り抜けた。
『あれ?もしかしてネオ?なんかパルクールみたいなことしてたけど。』
『おお!ネオだ!本物!!すっげー!( ゚д゚)』
『通って、どうぞ。』
『あと少しで赤信号だよ〜〜。』
『足元気を付けろよ。…べ、別にお前の為じゃ無いんだからなっ!』
『アァ…キョウモネオチャンハメチャクチャカワイイ…ネオチャンガトオッタアトノミチニノコッテルネオチャンノノコリガヲビンズメシテモッテカエリタイ。』
『駅に行くなら2ブロック目を左に行くと近いぜ!』
『ありがとう!』
この間、ネオは誰とも言葉を交わしていないし、誰も喋ってすらいない。然しそれでも、ネオは周囲の人間とコミュニケーションが取れていた。
コレが、
コレは半年前に〈星の花〉と交信したネオが創り出したシステムで、今では世界中の全ての人々がこのシステムを使う事が可能だ。
コレを使えば、人は言語と言う壁を越えて、他者とコミュニケーションを取ることが出来る。
──とは言え、自分の心が相手に筒抜けと言うわけではない。ハローワールド構築の際、心と心が強く繋がり合いすぎて人々が『一個人』と言うアイデンティティを喪失しない様、ネオは慎重にシステムを創り上げていた。
心が繋がる時は、誰かが誰かに
つまり電話と同じだ。発信者が
ネオが目指したのは、人と人が分かり合う世界。『分かり合い』とは、人の心を強制的に覗き込むことでは無い。
…そうしてしまえば、それは最早
(───良し…これなら間に合う!)
その後も、ネオは道行く人々にハローワールド経由で道を開けて貰いながら、何とか発車10秒前にホームに滑り込む事が出来たのだった。
「ギリギリセーフだったね。ネオ。」
ゆっくりとホームから滑り出していく電車の車内に、彼女を待っていた
…車内には疎らに人が居る程度で、殆ど空いていた。
「はぁ…はぁ…ん…皆、退いてくれたから間に合った。」
息を切らしながら、ネオは紺色の椅子にペタッと座り込んだ。その隣に座っているニュウがニコリと微笑む。
「う〜ん。やっぱり、急いでる時便利だよな〜
「……その略称だと
「ははは……ごめんね。」
苦笑しながらニュウは短く謝った。そんな彼を、ネオは背凭れに上体を預けながらわざとらしく睨む。
彼はグレーのズボンと白い上着に白い帽子を被り、
ネオと並ぶと、朝の空と夜の空が並んでいる様にも見えるだろう。
───勿論、彼もまた新人類の1人だった。
まだノーマンと星のセラムが存在していた混沌の時代。彼は、新人類を危険視する旧人類の組織──連邦政府──に囚われていた。そして、彼は『とある目的』を達成する為に連邦政府へ協力し、連邦のスパイとして、ネオが所属していた新人類勢力〈
その目的は、かつて連邦政府の手から逃れた新人類であるネオを連れ戻し、対価に囚われの同胞達を解放してもらう事。
しかし、結局彼はソレを成し遂げられなかった。
──彼はイースターの人達と交流し、ネオとも触れ合い、何時しかネオに淡い恋心を抱くようになっていたのだ。
その結果、彼はネオを裏切る事への苦悩と、新人類の同胞達を解放すると言う使命の狭間で揺れ動き、痺れを切らした連邦政府によって離反者として殺されかけてしまう。
───しかし、その命はネオによって救われた。
葛藤も、罪過も、悔恨も、ネオはその全てを赦して、ただ受け入れてくれた。…その時ニュウは、己の人生の全てを彼女に捧げ、彼女の為だけに生きようと心に誓ったのだ。
何故なら、それが裏切りの罪を背負った自分に出来る、唯一の贖罪なのだから………。
『──ご乗車頂き誠に有難うございます。まもなくラムダステーション。ラムダステーションです。両側のドアが開きます。先に右側のドアが───』
ニュウの追憶は、車内のスピーカーから流れ出した流暢なアナウンスで中断された。
隣でネオが身動ぎする。
「次だね。」
「ええ。」
短く返答して、ニュウは窓の外へ目を向けた。
───絵に描いたような入道雲が浮かぶ青空の下、無数の灰色のビル群が地に突き刺さる杭の如く、等間隔で建ち並んでいる。
それらはまだ建設途中らしく、恰も蛹の様に灰色の覆いで覆われていた。その真下を、無数の工事車両とヘルメットを被った人々が、忙しなく働いている。
───働きアリの様だ。
ふとニュウはそう思った。
地球という箱庭の上で暮らす、勤勉で、愛すべき働きアリ達。幾度もの危機を乗り越え、彼等は今日もこの星の上で逞しく生きている。
何時かこの星が消えてしまう日が来たとしても、彼等は広い宇宙へ飛び出して逞しく生きていくに違いない。
〈ラムダステーション〉の次の駅、〈ラグランジュステーション〉で下車したネオとニュウは、駅のホームを出て広いロータリーの前に立っていた。
「暑い。あついよニュウ。なんとかして欲しい。して?」
「いやぁ…無理かなぁ………。」
ネオの巫山戯た無茶振りをサラッと受け流したニュウは、日陰のベンチに腰を下ろす。直ぐに隣にネオもペタンと座った。そして、ペットボトルを取り出してキャップを捻る。
「……ふぅ。」
そっと飲み口に口を付け、目を細めて水を飲むネオ。冷たくて透明な水が喉を降りていくと、多少は暑さが和らいだ気がする。
「迎えは来てないの?」
ペットボトルから口を離し、その桜色の唇の端に付いた僅かな水滴をそっと指先で拭ったネオは、周りを見渡しながらニュウへ問いかけた。
「いや…そろそろ来る筈──あ、来た。」
ロータリーを見渡したニュウの目に、こちらへ向かってくる1台の黒塗りの高級車が見える。その車は2人の横でピタリと停まると、助手席のウィンドウが開いて、運転席に座る男性の姿が露わになった。
「──よぉ。40分のヤツに乗ってきたんだな?待たせたか?」
そう言って軽く笑う黒いスーツを来た銀髪の男性へ、ニュウは首を振る。
「いえ、丁度着いた所です。…
銀髪の男改め、
「なら良い。乗れ。時間には余裕がある。飛ばす必要は無さそうだな。」
「どうせ飛ばすよね?」
乗り込んだネオが、ショルダーバッグを膝の上に置きながらそう問い掛けると、バサラはニヤリと笑った。
「ははっ。──まぁな。」
エンジンが豪快に掛かり、黒塗りの車は滑らかな動きでロータリーを飛び出して行く。ネオはシートベルトをきちんと締めて、窓の外へ顔を向けた。
車内ではニュウとバサラが話し合っている。
「ニュウ、お前んトコの同胞達は元気か?最近会ってねぇからよ。」
「あぁ。みんな元気ですね。」
「そりゃあ良かった。お前が面倒見てるんだろ?大変だな。」
「苦じゃないですよ。何としてでも助けたかった仲間達ですから。──バサラさんの方は、〈
「無理だな。お気楽に放浪してた俺には、事務仕事なんて無理だ。もっぱら開拓の手伝いに回ってるぜ?こっちも意外と大変だがな。」
「…らしいですね。──〈星のセラム〉の影響で
「ははっ。…んなもん目じゃねぇ。一昨日、家ぐらいのサイズの熊と戦ったんだぞ??ありゃあ間違いなくモンスターだな。森のトカゲも、恐竜に戻ったんかって位デカくなってるし。困ったもんだ。」
そう言って、バサラは笑った。
「…駆除したんですか?」
「いいや。
「そうですね。少し前には考えられませんでしたよ。」
「まったくだな。」
そんな会話を横で聞きつつ、ネオはヘッドホンをバックから取り出すと、そっと耳につけて音楽を再生する。耳に流れ込む、弾けるような旋律。そして、そのリズムに乗せて歌手が歌い始めた。
──君は散々乗り越えた
「──まぁ色々あったが、何とか上手くやってるぜ。試練のようなもんさ。俺達がまたかつての時代を取り戻せるか否か、のな。」
──そばで大概見てきた
「争いの時代も終わって、今からは人類が手を取り合う時代だ。」
さぁそろそろ僕らの番じゃない? 気もそぞろ高まってんじゃない??
軽快なエンジン音と共に、窓の外を流れる景色が加速する。同時にメロディも加速を始めた。
oh my way! 飛び立つ
ネオは何処までも青い空を見上げる。世界は幾度と無く巡り移ろって来たが、この青空だけは何億年も昔から変わっていない。
最近見る不思議な夢の事を思い出しながら、ネオは全てを包み込む蒼穹を眺めていた。
───その刹那、ネオの全身に凄まじい
「───ッ…!?」
……違和感に気付いたネオは、鋭く息を呑み込んだ。……空の一部が歪み、黒く塗り潰された穴の様な物が其処に見える。
そして、そのブラックホールの如き黒点の向こうから、
「…!!」
全身の細胞が粟立った様な感覚に陥ったネオは、蒼い瞳を真ん丸に見開いて空を凝視する。しかし、もう黒い穴は何処にも見えない。僅か1秒にも満たない間に、それは幻の如く消え失せたように思えた。
(何?───今の…!!)
きっと気の所為。──そう思ったのに、ネオは自分が見えざる拳で殴られた様なショックを感じていた。
周りにいるニュウやバサラの話し声も、今は耳に入らない。無意識の内に肩が震え、形容し難い感情の波がネオの心を絶えず掻き乱す。
(───何かが───起きる????)
ズキリとした胸の痛みに手を当てると、胸の中心に刻まれていた〈星痕〉が微かな熱を帯びているように感じた。それは何かの前触れ──予兆なのだろうか?
………でも、だとしたら何の?この世界には、まだ人類への試練が残っていると言うの???
ネオの耳に、ずっと遠くから歌声が届いてくる。それはネオへ向けた誰かの叫びのようでもあった。
手招いてくるブラックホールを 躱せ! 光!! 求め!!!
(公式設定に名前だけ有る)ニュウが登場!そしてバサラ(ネオの世界の姿)も登場!!(なんでバサラかって言うと、一応前作にもバサラが出てきていたので…)
そして〈ハローワールド〉システムはこれで良かったかな??完全にコッチの妄想で書いてしまいましたが、納得行くものだったでしょうか??
あと、世界観説明を投げ出している感が否めん…!
ですが、コレを読みに来るような物好きの皆様は、きっとネオのストーリーを知ってる事だと思うので、詳しい説明は公式に任せます()
ただ、今ネオ達がいる〈街〉や、会話に出てきた〈世界再建連邦〉とかのオリジナル要素は絶対説明しなきゃいけないんで、〈
では、また次回!