︎︎「ポケモンバトルって、何がそんなに面白いわけ?」
︎︎数年前、飲みの席で、私が友人に向けて漏らした一言だ。真っ赤な目と顔で、ほとんど当てつけみたいに、睨みつけてしまっていたと思う。
︎︎当時のに私は、マンガ家として、一つ大きななやみのタネがあった。「ポケモンバトルを題材に書いてみろ」という課題を、担当の編集者から出されていたのだ。
︎︎この頃の私の作品は、バトルなどとはおよそ縁遠い、ストレートな恋愛モノが2作のみ。せいぜい、マスコット役に、チラーミィ(作品の舞台であるシンオウには生息していないというご指摘のお便りが何通か届いた)やキレイハナを出していた程度である。
︎︎ポケモンバトルには興味もないどころか、実家暮らしの当時、父がさも当然の権利であるかのように、リーグ中継でテレビを占領するものだから、ささやかな恨みすらあった。
︎︎私は、興味がないものに対しては、とことんアイデアが浮かばないタイプである。
︎︎しかし、だからと言って編集者に「興味がないから書けません」と電話口に不貞腐れれでもすれば、ありとあらゆる手段で私がポケモンバトルに興味を持たざるを得ない状況を作られるであろう。それは御免被る。
︎︎こうして若き日の私は、頭を抱え、何も書けない・書きたくない日々を過ごしていた。
︎︎そして、苦しみから逃れようと、友人との飲みの席に臨めば、その友人がポケモンリーグの話を始めたのだ。
︎︎そうやって勝手に我慢の限界に達し、飛び出したのが、冒頭の言葉である。
︎︎その友人は、あるリーグトレーナーの大ファンだったので、その後、「この魅力が分からないなんてもったいない!」といった風に、アレコレとポケモンリーグの魅力を語り始めた。
友人はそのトレーナーの顔以外の、バトルの妙であるとか、ポケモンとの素晴らしい関係性であるとか、リーグに続く因縁などについて、熱く語って頂いたわけである。
︎︎これは私も良い機会だと思って、それなりに真剣に話を聞いていた。
しかし、 酔いの回った頭は、馴染みのない単語をぽいぽい素通ししていくばかり。
︎︎そんな適当に相槌を打つだけの私に、この友人も諦めればいいものを、何とかリーグに興味をもってほしい彼女は「今度一緒にリーグ見に行こう!」と言い出した。
︎︎私は渋った。興味の無いものは書けず、だからといって「とりあえずバトルを見てみよう!」などとはならないモノグサ人間であるからこそ、今も昔も、私はアルコールに逃げているのだ。
︎︎しかし、そこは友人が強かった。私の「えーめんどくさいよー」という言葉を少しも聞き入れられず、気がつけば彼女の中で、リーグ観戦は決まった予定なっていた。
︎︎そしてその翌日には、彼女はもともと取っていたらしい、週末のポケモンリーグの試合観戦チケットを、どういう手品か2枚に増やしていた。
︎︎今となってはこのような惰性に塗れた人間を連れ出してくれた事に、感謝しかない。
︎︎たが、惰性を省みることのなかった当時の私は、断りきるほどの気力もなく、差し出されたチケットの片方を、渋々受け取ったのだった。