前回の話から数日後、友人と一緒にコガネシティへリーグ戦を見に行った。生まれてこの方、カントーから出た回数など両手で足りるような私にとって、すぐ隣のジョウトでも異国のような距離感だ。そんな億劫な距離を、わざわざポケモンバトルを見るために!当時の私を思い返すと、信じられない話だ。
だが、会場へ到着するなり、友人はお目当てのグッズの方へとすっ飛んで行ってしまった。置いて行かれた私はどうするのが正解なのかも分からず、とりあえず、手元のチケットに書かれた座席を探すことにした。
しかし、来たこともないバトルコート、座席番号の並びの規則性も分からず、素人一人での捜索は困難を極めた。もしかして反対側?いや番号からしてこちらのはず……。と、チケットと会場を見比べながら、同じエリアをぐるぐると回り続けた。
そうして迷いに迷い、もう諦めようかと柵に体重を預け、ぼんやりとコートを眺めていたところ、反対側の座席の方で、いそいそと動き回る数匹のポケモンを見つけた。それも、なにかものを運んでいるのではなく、その場で踊っているような、奇妙な動きだ。
なんだ、あれは。気になる。バトルの前に余興のパフォーマンスでも始まるのか。座席や友人のことなど頭から飛ばして、私は年甲斐もなく(当時でも既にいい年してる)、小走りで反対側まで移動した。
そこにいたのは、バリヤードというポケモンだった。パントマイムのような動きで、見えない壁を作り出すポケモンだという知識はあった。というのも、相棒のバリヤードとともにコントを披露する芸能人が、ちょうどテレビでブレイクし始めた頃だったからだ。恋人にキスしようとした唇を阻まれたり、バーで女性に向けて滑らせたグラスを阻まれたりする、あの人。おかげで、バリヤードというポケモンの名前と特徴自体は、私でも何となく理解していたのだ。
だが、ここにいるバリヤードたちは、決してコントの相方ではない。何か目的があって、観客席の端から端まで、数匹がせっせと動き回っているはすだ。しかし私には、「バリヤードなんだから、透明な壁を作っているんだろうなあ」以上の想像ができなかった。
彼らを指揮するスタッフが近くにいたので、手っ取り早くそちらに尋ねた。するとバリヤードたちは『リフレクター』というわざを用いて、バトル場と観客席との間に、大きく透明な壁を作っているらしかった。観客をバトルの余波から守るためだ。
この壁は、プロ同士のポケモンバトルの余波による被害が少しも出ないよう、大きくて丈夫に作られている。それでいてバトルの迫力は損なわないよう、限りなく透明なつくりになっているそうだ。
そしてこれは、バリヤードというポケモンならば誰でもできるというわけではないらしく、彼らの熟練のわざとコンビネーション、そして彼ら全体を取りまとめるトレーナーが揃って初めてできる技巧のようだった。
この壁を作り出す作業というものが、私には、炎と雷にの飛び交うド派手なバトルよりも、じんわりと尊敬できるものに思えた。スタッフの彼がバリヤードたちに指示を飛ばす様子が、ポケモンと大工仕事をしていた祖父の姿と重なって見えたせいだろうか。
彼らの作り出したリフレクターは、バトルに夢中な観客を、感動を損なわせないまま守るのだ。ちょっとでもおいしいものを食べているといいな、と思った。
そんなところで、私は探しに来た友人に見つかり、再びコート反対側まで戻ることとなった。遠い。どうして少し気になったからって、私は真反対まで来たのだろうかと、自分でも疑問に思いながら歩いた。今でも私は、自分の少しの好奇心に振り回されがちである。
座席は、コートの真ん中あたりだった。ポケモンのぶつかり合いを目の前で見られる、人気の高い席であろうことは、バトルに疎い私でも想像できた。しかも、前から3列目。特等席中の特等席である。
しかし友人は、試合中トレーナーの表情ばかりを追っていた。なるほど、トレーナーの表情を、できるだけ正面寄り、かつできるだけ近くで見ようと思うと、ここになる。私は変に感心してしまった。
透き通るほどのリフレクターは、迫力のバトルもイケメンも、少しだって邪魔しない。