現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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 日射が地面を照り付け、砂塵の匂いが立ち込める。

 ナイルダン共和国、首都アベシア北方の未舗装道路を走る装甲車の内部は、沈黙と熱気が満ちていた。

 窓の外に広がるのは、干上がった大地と焼け落ちた集落。どこかで鳴る銃声と爆発音が、この国が()()として戦争を抱えていることを雄弁に物語っていた。

 

 中国人民解放軍が魔法少女を2人、この地に投入した──その報告は数日前。米軍の衛星通信網を通じて届いた。

 2人の魔法少女の存在は、既存の戦術体系を無意味にし、前線の均衡を一気に崩壊させている。

 

 その脅威に対抗するため、ある部隊が派遣された。

 

「……()()、魔法少女と戦うのか」

 

 誰の口からともなく漏れた言葉が、車内に重く落ちた。

 


 

 休暇が終わり、俺たちには新たな任務が課された。

 

「君たちWIngshade Divisionには、アフリカ・ナイルダン共和国に向かってもらう」

 

 ブリーフィングルームのモニターが光を放ち、現地の地図と作戦概要が映し出される。画面中央、血のように赤い文字が浮かび上がっていた。

 

 最重要目標:敵軍魔法少女の殺害

 

 喉が乾く。前回の任務とは重みが違う。今回は、演習ではない実戦だ、必然的に死の可能性がある。

 

「──今から14時間前、日本の自衛隊が同地にて人民解放軍所属と思われる魔法少女と交戦。甚大な被害を被った」

 

 オリビアの声は冷静で、それでいて張りつめていた。淡々と事実を告げているはずなのに、その響きには異様な緊迫感が宿っている。

 

「現地には我々米軍も展開中だ。しかし、戦況は悪化の一途を辿っている。追加戦力として、君たちの派遣が決定された」

 

 沈黙を破ったのはグリムだった。鋭い視線をオリビアに向け、手を挙げる。

 

「敵の魔法少女の能力……把握しているのか? 」

 

 オリビアは一瞬だけ言葉を選ぶように間を置き、答えた。

 

「1人は矢を操る魔法を使用。もう1人は……詳細不明。ただし、すでに数十名規模の兵力が壊滅させられている」

 

 空気が一気に重くなる。情報の欠落、それが何よりの脅威だった。

 

「ふーん。まあいいや。僕さえいれば勝たせてやるよ」

 

 グリムが口の端を上げて言うと、オリビアの表情がわずかに和らいだ。

 

「……任せたよ」

 

「ああ、大船に乗ったつもりでいてくれ」

 

 ブリーフィングが終わり、部屋の空気が少し緩んだその時だった。

 エレクシアが静かに俺の方へ歩み寄り、そっと手を伸ばしてきた。

 

「レイヴン……」

 

「どうした?」

 

 その声は震えていた。彼女の指先が、ためらうように俺の手に触れる。

 冷たく、けれど確かに温もりを求めていた。

 

「……なにがあっても、私が貴方を助けます。だから……どうか死なないで」

 

 その言葉は祈りであり、命令のようでもあった。

 タミスが隣で小首をかしげ、不思議そうに二人を見ている。無垢な視線が、かえって胸を締め付ける。

 

 死ぬわけにはいかない──そんな当たり前のことが、今はとても重い誓いに思えた。

 

「お姉ちゃんは死なないよ! タミスが守るもん! 」

 

 小さな手で俺の足にぎゅっとしがみつきながら、タミスはまっすぐ言い切った。

 その幼さに似つかわしくない決意に、エレクシアも、そして俺も、笑みをこぼしてしまう。

 

「ど、どうして笑うの! 」

 

 タミスはほおをふくらませて抗議したが、俺はその頭をくしゃくしゃに撫でてやった。

 思いがけず目をつむり、驚いた顔を見せるタミス。

 

「頼んだぞタミス」

 

「うん!! 」

 

 短い返事が、やけに頼もしかった。

 俺は部隊の中で唯一の()()だというのに。まだ子どもである彼女たちに守られている。情けない話だ。

 本来なら、俺が彼女たちを守らなければならないのに──。いや違う、守ってみせる。どんなことがあったとしても。

 

 輸送機のエンジンは低く唸り、やがて轟音となって鋼鉄の腹を震わせる。

 俺たちは迷彩のシートに腰を下ろし、装備の最終点検を繰り返す。

 

 ──目的地、ナイルダン共和国。

 

 この国は数十年と続く内戦で焼き尽くされ、荒廃しきっている。

 そして、今回の敵はただの兵士じゃない、魔法少女だ。

 

「おい、レイヴン」

 

 隣でクマのマスコットを指先でいじるグリムが声を潜める。

 

「お前、戦闘になったとき僕の足を引っ張るなよ? 」

 

「……ああ」

 

 短く答えたが、胸中は複雑だ。

 グリムの戦闘能力は未知数だが、魔法少女である時点で俺より遥かに強いのは間違いない。

 だが、俺も兵士だ。戦うためにここにいる。

 

 輸送機が降下を開始すると、機体全体に低い振動が走った。

 窓の外には、赤茶けた大地が広がり、乾いた風に舞う砂塵が空を霞ませている。かつて農地や村があったであろう場所は、爆撃と火で抉られ、瓦礫の山と化していた。

 

「……ひどいな」

 

 思わず漏れた俺の言葉に、エレクシアが静かに目を伏せる。彼女の横顔は、祈るように固く結ばれていた。

 

 機体が揺れながら滑走路に接地する。タイヤの軋む音とともに衝撃が伝わり、全員が反射的にシートベルトを握りしめた。

 

 米軍基地はすでに戦場そのものだった。土嚢で固められた塹壕に、鉄板で覆われたトーチカ。武装ジープや装甲車が慌ただしく行き交い、空気は緊張で張りつめている。

 

「君たちがWingshade Divisionか。ようこそ」

 

 輸送機を降りた途端、ひとりの兵士が駆け寄ってきた。小柄な体格に東アジア系の顔立ち、頬にそばかすが浮かんでいる。笑顔がやけに人懐っこい。

 

「私はケイト。これから君たちと任務に同行する。よろしく」

 

「こちらこそ、頼む」

 

 差し出された手を握り返すと、ケイトは勢いよく振り向き、タミスに目を輝かせた。

 

「君がタミスちゃんだね! うわ、超かわいい! 」

 

 初対面だというのに、彼女はためらいもなくタミスの頭を撫で回す。止めるべきか一瞬迷ったが……。

 

「くすぐったいよぉ」

 

 タミスが笑って受け入れているのを見て、俺は肩の力を抜いた。

 

「それとエレクシアちゃん! よろしく! 」

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

 満足するまでタミスを撫でたケイトは、今度はエレクシアと固く握手を交わす。

 

「そしてグリム。君のことは()()からよく聞いてるよ。頼りにしてる」

 

 ユイ、その名前を聞いたグリムの目は一瞬大きく見開いた。

 差し出された手を、グリムは一瞥しただけで背ける。

 

「……余計なお世話だ」

 

 冷たい一言に、ケイトはそれでも笑みを崩さなかった。

 グリムの反応を見るに2人は知り合いなのか……?




公開可能な情報
米国政府公式声明(ナイルダン共和国における軍事行動について)

ホワイトハウス報道官による記者会見声明(抜粋)

 本日、合衆国政府は同盟国および国際社会と連携し、アフリカ・ナイルダン共和国における人道的かつ安全保障上の任務を遂行するため、米軍部隊を派遣することを決定しました。

 ナイルダン共和国では、長年続く内戦により数百万の市民が家を失い、数十万人が飢餓や暴力に苦しんでいます。さらに、近年確認された新たな兵器および特殊戦力の投入は、民間人への被害を飛躍的に拡大させています。

 合衆国は、以下の三つの目的を持って行動します。
1. 民間人の保護 ― 難民キャンプや避難民ルートの安全を確保する。
2. 地域安定の回復 ― 無差別な暴力を行う武装勢力、ならびに違法兵器の使用を抑止する。
3. 国際的枠組みとの協調 ― 国連・同盟諸国と連携し、停戦と平和的解決への道筋を模索する。

 これは侵略でも占領でもありません。我々は自由と民主主義の価値を守り、暴力によって沈黙させられている人々に声を取り戻させるために行動します。

 アメリカ合衆国は、ナイルダンの未来をナイルダンの人々自身の手に委ねることを望みます。私たちはそのための最初の一歩を支援するのです。
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