現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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運命の人

 民間軍事企業『華龍安保軍団』前哨基地

 夜は静かだが、空気の奥底に鉄と火薬の匂いがこびりついていた。遠くで鳴る発電機の低いうなりが、戦場にいる現実を忘れさせない。

 

 その窓辺で、1人の少女が星空を見上げていた。 

 砂漠の夜空は透き通るほど深く、手を伸ばせば掴めそうなほど近くのに無数の星々が輝いている。少女の瞳には、それらが宝石のように映り込んでいた。

 

「ランホア、もう遅い。休む時間だ」

 

 背後から声がかかると、少女の表情はぱっと明るくなる。

 

「マスター! 」

 

 ランホアと呼ばれた少女は駆け出し、その声の主に飛びついた。ランホアは離さないと言わないばかりに声の主である女を強く抱きしめる。

 

「マスターって呼ぶのはやめてくれないか……。私はリファだ」

 

「マスターはマスターだもん! 」

 

 ランホアはリファの胸に顔をうずめて、子猫のように頬を擦り寄せる。

 

「……マスターの心臓の音、あったかい」

 

 リファはため息をつきつつも、結局はその小さな頭を優しく撫でた。

 

「大人になったら絶対、マスターと結婚する! 18歳になったら結婚してくれるって約束だよね!! 」

 

「……ああ」

 

 返事はしたが、その声はかすかに揺れていた。

 リファは知っている。()()()()()()()()1()8()()()()()()()()()()()()

 ランホアは、その残酷な事実を知らない。彼女にとって18歳は"自由"と"未来"を意味していた。だからこそ、その無邪気な笑顔が痛々しく見えてリファの胸を締め付ける。

 

「だってマスターはあたしの()()() でしょ? 運命の人ってことだよ! 」

 

 ランホアはそう言って、リファを見上げる。瞳に一片の迷いもなく。

 リファは視線をそらし、言葉を飲み込んだ。

 

「さあ、寝ようかランホア。夜更かしは体に悪いぞ」

 

「マスターがキスしてくれたら寝る! 」

 

「……しょうがないな」

 

 そっと身をかがめ、唇を近づける。

 短い口づけ、それは約束ではなく、祈りにも似た仕草だった。

 


 

 米軍基地・ブリーフィングルーム。

 低い蛍光灯の光が室内を冷たく照らし、壁一面のモニターにはナイルダン全土の地図が表示されていた。

 オリビアが端末を操作すると、赤と青に塗り分けられた勢力図が浮かび上がり、各地の交戦ポイントが点滅を繰り返す。

 

「現在、ナイルダンは二大勢力に分断されている。政府軍と、反政府勢力だ」

 

 オリビアはペン型のポインターで赤と青を示しながら続ける。

 

「赤は政府軍、青は反政府勢力。我々米軍は、青側を戦略的パートナーとして支援している。しかし現場の状況は単純じゃない。南部地域には政府軍を後方から支える民間軍事会社()()()()()()が存在し、最新の兵器と魔法少女を投入している」

 

 画面右下、赤いマークとは別に、金色のマークが点滅する。

 

「華龍は中国系の企業で、事実上、人民解放軍の外郭組織だ。彼らの存在が政府軍を長期的に優位にしている。特殊部隊の投入も確認されており、今作戦での最大の脅威のひとつだ」

 

 オリビアは操作を続け、地図の東側を拡大する。

 

「そしてここ、沿岸地域では日本の自衛隊が小規模な平和維持活動を行っていたが、先日の交戦で甚大な被害を受けて撤退を余儀なくされた。彼らが接触した敵は、人民解放軍所属の魔法少女と推定されている」

 

 ブリーフィングルームに一瞬、重苦しい沈黙が落ちる。

 

「つまり、この戦場は政府軍・反政府勢力・華龍安保軍団・自衛隊の残存部隊、さらに我々米軍が入り乱れる混沌状態だ。ここから先は、敵と味方の境界が曖昧になっていく。判断を誤れば、それだけで命を落とすことになる」

 

 オリビアは一度深呼吸をして、場を見渡す。

 

「君たちWingshade Divisionの役割は単純、敵の魔法少女の排除、そして華龍安保軍団の活動阻止だ」

 

 モニターには、暗視カメラで捉えられたと思わしきぼやけた映像が映し出された。夜の戦場で、幼い少女のような影が閃光とともに自衛隊部隊を蹴散らす映像。

 

「これが彼女たちの戦い方だ」

 

 オリビアの声は低くなる。

 

「加えて、自衛隊の生存者から得られた情報によると、連中の魔法少女は遠距離型、もう1人は詳細不明。だが、その戦闘結果は壊滅的だった。現に自衛隊部隊が交戦後数分で壊滅している」

 

 誰も声を発しない。緊張が張り詰める。

 

「……だが、我々には優位はある。すでに友軍部隊が現地に展開している。さらに、情報統合チームが敵の動向を解析中だ。君たちはその先鋒、矛として動く。リスクは高いが、だからこそ我々にしかできない作戦だ」

 

 オリビアは腕を組み、モニターを消す。

 

「作戦開始は現地時間で明朝0500時。準備を整えろ。敵は容赦しないし、味方も待ってはくれない」

 

 視線が一瞬、エレクシア、タミス、グリムに向けられた。

 

「魔法少女同士の戦いになる。運命を背負う者だけが生き残れる。……以上だ」

 

 ブリーフィングが終わり、張りつめていた空気の中に唐突な声が響く。

 

「いやー、緊張するね! 」

 

 ケイトだ。彼女はひょいと俺の肩に手を置く。

 

「あのオリビアっていう君たちの指揮官。いつもあんな感じなの? ちょー怖いね! 」

 

 場違いな軽さに、一瞬だけ空気が緩む。緊張を和らげようとしているのか、それとも本気でそうなのか判断がつかない

 

「おい、なにヘラヘラしてるんだ」 

 

 後ろからグリムが近づいてくる。ケイトの態度を見て呆れてるようだ。

 

「グリム! ピンチになったら助けてくれよ〜」

 

 ケイトはお構いなしにグリムの腕にとって抱きつく。

 

「離せよ! 暑苦しい! 」

 

 グリムは自身に抱きつくケイトを乱暴に引き剥がした。だが、ケイトはまるで気にする様子もなく、ニヤリと笑っている。

 

「私たち仲間なんだからさ、スキンシップも大事だよ? 」

 

「うるさい! 気持ち悪いんだよ! 」

 

 グリムは吐き捨てるように言い残し、足早にブリーフィングルームを後にした。

 その背中を見送っていると、俺のズボンの裾が引かれる。足元を見るとタミスがいた。

 

「どうしたタミス? 」

 

「お姉ちゃん……これ」

 

 タミスは手のひらの上に乗ったクマのマスコットを俺に見せる。

 

「グリムお姉ちゃんの落とし物。さっき落としたみたい」

 

 タミスはそっと差し出してくる。まるで壊れやすいものを扱うかのように慎重な手つきだ。

 そのマスコットを受け取ると、わずかにぬくもりが残っているのを感じた。

 

「……ありがとう。後で返しておく」

 

 俺は苦笑しながら彼女の頭を撫でた。

 

「先に部屋に戻っておいてくれ」

 

「……うん」

 

 タミスが小さな背中を揺らして部屋に戻っていくのを見送り、俺は迷わずグリムの部屋へ向かった。

 扉を軽くノックすると、返事もなく静寂が返ってくる。遠慮なくドアを開けると、グリムは窓際に立ち、外の暗闇を見つめていた。

 

「グリム……」

 

「……誰だ。……なんだお前かレイヴン」

 

 振り返りもせず、投げやりな声が返ってくる。その横顔は、戦場への緊張感とも違う、どこか別の場所を見ているような、遠さがあった。

 

「これ、落としてたぞ」

 

 俺はポケットからクマのマスコットを取り出し、差し出す。グリムはそれをチラリと見るとそっと受け取った。一瞬だけ彼女の表情が緩む、だが、それは一瞬ですぐ無表情に戻った。

 

「……これだけのために来たのか? 」

 

「ああ……」

 

 グリムはしばしクマのマスコットを手のひらで転がすように見つめていた。

 そして、小さく呟いた。

 

「……結局、誰も残らない」

 

 漏れた声は、ため息のように掠れている。

 

「どうせお前も、タミスも全員いなくなる……」

 

 その顔はどこか寂しさと悲しみに満ちていた。




公開可能な情報
米国国防総省/統合参謀本部
件名:民間軍事企業《華龍安保軍団》に関する評価レポート

配布範囲:国防総省・統合特殊作戦司令部・在外米軍司令部

1. 概要

華龍安保軍団(以下「華龍」)は、中国本土を拠点とする大規模民間軍事企業(PMC)であり、表向きは企業体としての活動を行っているが、実質的には中国人民解放軍(PLA)の外郭組織と見られる。公式には「資産保護」「要人警護」「紛争地域での安保サービス」を提供しているが、その活動範囲は戦闘作戦、兵器輸送、特殊工作にまで及ぶ。

現在、華龍はナイルダン共和国の政府軍を支援し、PMCの枠を超えた規模での参戦を行っている。特に以下の点で注視が必要。

2. 主な特徴と戦力構成
1. 人員構成
• 元PLA特殊部隊出身者を中心とする高度訓練兵。
• 外国人傭兵・技術顧問も雇用。
• 指揮系統は企業形態を取るが、中国政府と密接な連携が疑われる。
2. 装備・技術
• 最新型小火器、ドローン兵器、車両化部隊。
• 電子戦・情報戦能力を保有。
3. 活動範囲
• 南部地域に主力拠点を設置。政府軍の補給・防衛線を強化。
• 海外ルートを利用した兵站・物資供給。

3. 脅威評価
• 政治的影響:PMCという形態を利用することで、中国政府は国際的非難を回避しつつ、地域への軍事的影響力を拡大。
• 戦術的脅威:訓練度・装備ともに高く、既存のPMCと比較して正規軍に近い能力を保有。魔法少女部隊の存在により、従来の戦力評価が通用しない可能性がある。
• 米軍への影響:米軍や同盟軍の作戦自由度を著しく制限。特に特殊作戦部隊や友軍PMCとの交戦リスクが高まる。

4. 推奨対応策
1. 情報収集強化:華龍の指揮系統・契約ルート・背後組織の特定。
2. 直接的交戦の回避:不必要な正面衝突は避ける。
3. 特殊戦力対策:魔法少女部隊への専用対抗戦術・兵器の検討。
4. 外交的圧力:PMC活動を国際法違反として問題提起。

5. 結論

華龍安保軍団はPMCの皮を被った国家戦力であり、その活動はナイルダン内戦を長期化させ、米国の戦略目標を阻害する可能性が高い。今後の作戦計画では、同組織を主要脅威対象として扱うべきである。
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