現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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投稿が遅れてしまい申し訳ありません。


物真似鳥

 ナイルダン共和国 首都アベシア

 その日、大地が燃えた。無数の鋼鉄の鳥が夜空を覆い尽くし、無数の爆弾が雨のように降り注がれていく。炎と黒煙が街を呑み込み、深夜だというのに地平線は赤く染まった。それは、まるで太陽がもう一度昇ったかのように眩しかった。

 

 俺は窓の外を見るなり、反射的にカーテンを閉めた。あんな光景をタミスに見せてはならない。怯えて眠れなくなってしまうからだ。

 地を震わせる轟音が壁を伝い、心臓の奥まで響く。抗いようのない破壊の音だった。

 

「……タミス」

 

 振り返ると。ベッドの上で小さな体を毛布にくるみ、目を大きく見開いたまま震えているタミスの姿があった。涙が今にも溢れ出しそうに瞳に溜まっている。

 

「怖くて眠れないか? 」

 

 俺が声をかけても、彼女は首を振ることもせず、ただ黙って俺を見つめていた。

 

「大丈夫だ、お姉ちゃんが歌ってあげよう。そしたら、きっと眠れるさ」

 

 俺はタミスを抱き上げ、胸に寄せる。そして自然に口を開いた。自分のものとは思えない高く澄んだ歌声が、夜の闇に溶けていく。

 

「ママ、なんで? 」って聞くかもしれない。

 けど、これでわかってくれるかな?

 私がすること全部は、あなたのためなの。

 私が手に入れなかった人生を。あなたに与えるために。

 それが、私にとって一番大事なことだから。

 神に誓って、絶対にあなたを見捨てないから。

 

 だから、どうか怖がらないで、この世界に怖いことなんてなにもないから。

 ただ、お願いだから泣かないで。

 私がそばにいるから、全て大丈夫になるから。

 

 外の轟音は次第に遠のき、代わりに野良犬の遠吠えが夜を裂いた。

 俺は腕の中のタミスを見下ろす。小さな身体はすでに安堵に包まれ、穏やかな寝息を立てていた。

 

「……」

 

 その寝顔を見つめるうちに、あの夢が脳裏をよぎった。俺の目の前で息絶えた少女の姿──。

 あれは夢なのか、それとも記憶なのか。

 

 本来なら、俺はウクライナで戦死していたはずだ。それを米国に拾われ、こうして生きている。

 だが、はっきりと思い出せる記憶は、ウクライナで魔法少女を殺した瞬間だけ。それ以前の記憶は断片の寄せ集めにすぎない。

 

 自分がまだ男だった頃の顔も、幼少期の思い出も、すべてが霧の中だ。

 ただひとつ確かに胸に残っているのは、理由もないほど強烈なウクライナへの愛国心──。

 

 それだけが、女となった俺に残された唯一の拠り所だった。

 


 

 72時間にわたる米軍の爆撃作戦が終わりを告げた。それはすなわち、敵残存部隊との最終決戦の幕開けを意味していた。

 

 高台の上に立ち、グリムは完全に瓦礫と化した街を見下ろす。煙と焦げた匂いが風に乗り、視界をかすませていた。

 

「……相変わらず、嫌な光景だな」

 

 誰に聞かせるでもなく呟いたその瞬間、不意に背中に衝撃が走る。

 

「グリム!」

 

 思わず目を瞬かせる。次の瞬間には、後ろから抱きつかれていた。

 

「離せ! 気色悪い!」

 

 怒鳴り声が高台に響く。抱きついてきたのはケイトだった。彼女は悪びれることもなく、屈託のない笑みを浮かべてグリムの肩を軽く叩く。

 

「そう怒るなよ〜」

 

「なんでそんなに馴れ馴れしいんだ!」

 

 苛立ちを隠そうとしないグリムに対し、ケイトは首を傾げる。

 

「うーん……。ユイに君のことを任されたから、かな」

 

 その一言に、グリムの表情が固まる。唇を噛みしめ、感情を押し殺すように俯いた。

 

 ケイトはその様子に何かを感じ取ったのか、無言でグリムの頭をわしゃわしゃと撫でる。抵抗はなかった。いや、しようと思えばできたはずなのに──グリムは、しなかった。

 

「グリム、君は……とらわれすぎなんだ」

 

「……」

 

 沈黙のあと、グリムは小さく震える手でケイトの腕を掴む。

 

「……やめてくれないか。()()()()()()

 

 その声はかすかに震えていた。頬はほんのりと赤く染まり、瞳にはうっすら涙が滲んでいた。

 


 

 装甲車と戦車が瓦礫と化した市街地を這うように進む。後方には歩兵が蟻の列のように続き、上空ではヘリのローターが鋭く空気を裂きながら地面へ音を落としている。首都奪還作戦の最終フェーズが、今まさに始まろうとしていた。

 

 装甲車の中で、俺はマガジンの装填をもう一度確かめる。指先に伝わる冷たさと、わずかに震える手。死ぬかもしれないという恐怖は確かにある。だがそれ以上に怖いのは──タミスやグリム、エレクシアといった、未来を失わせることだ。彼女たちの未来を奪うわけにはいかない。

 

「おい、レイヴン。それとケイト」

 

 目の前のグリムが顔を上げ、冷たく指を差す。

 

「どうした、グリム?」

 

「僕の前に出るんじゃない。いいな? 前みたいな真似して死ぬなら、本気で殺すからな」

 

 冗談めかした言い方に似せてはいるが、その声には嘘がない。怒りと恐れが混ざった切迫した音だった。

 

「……わかった」

 

 ケイトは隣で相変わらず大きな声で笑っている。こんな状況で笑える神経に少し救われる気もした。

 

 そのとき、車内の無線が悲鳴のように割れた。

 

『クソッ! こちらアルファ! 至急、応援を!』

 

 声は震え、背景で断続的な銃声と爆発が重なる。

 

『人民解放軍──魔法少女だ! 屋上に二名! 一人は弓術、もう一人は──弾道が狂う、まるで狙いを自在に操ってくる! 戦車が被弾、装甲が溶けてる! 援護を、早く!』

 

 通信はノイズにかき消され、切れ切れになった。車内に重苦しい静寂が落ちる。──魔法少女。三文字が全員の胸を一瞬で締め上げた。表情が引き締まり、手の震えが少し収まるのを感じた。隊列の前方では、確実に何かが起きている。俺たちは即座に行動を切り替えねばならなかった。

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