現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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秘匿部隊17

「エレクシア! この傷……治せるか? 」

 

 グリムのケイトを地面にゆっくりと降ろして、傷口を見せる。止血帯でかろうじて出血は比較的、抑えられている。それでも、猶予はなかった。

 エレクシアはケイトの傷口を見た瞬間、息をのみ、青ざめた顔で言葉を失った。

 

「治せるのか? 」

 

 傷口には魔力が焼き付いており、それが細胞を腐食していた。それは、エレクシアの魔法では治癒が不可能なことを意味していた──。

 

「この傷は……私では……」

 

 エレクシアは首を振る。虫の羽音のような小ささで発した声は自らの無力さを悔いていた。

 

 グリムはエレクシアを一瞬、怒りをぶつけそうにになったが奥歯を噛み締めて飲み込む。そもそも、自分の油断しなければケイトは負傷しなかったからだ。責任は自分自身にある。

 

「……そうか。わかった、今はとりあえずここから離れよう」

 

 廃墟の中に吹き込んでくる風が、矢が突き刺さった傷に冷たく染みる。戦場とは思えないほどの沈黙が辺りを覆い、こちらを嘲笑っているかのようだった。

 

「ケイトお姉ちゃんは無事なの……? 」

 

 物陰から、タミスの不安混じりの小さく震える幼い声がする。幼い瞳は、必死に希望を探している。

 グリムは唇を噛み締める。

 

「……ああ」

 

 嘘をついた、つくしかなかった。タミスはまだ幼い、真実を告げるには早すぎる。

 すでに、ケイトの意識はないに等しい。目は虚ろになり、わずかに胸が上下しているだけだ。1秒後には息絶えてもおかしくはない。今生きているのは奇跡に近い状態だ。エレクシアの魔法での治療ができない以上、今すぐにでも、医療部隊と合流する必要がある。

 

 だがしかし、神などいないとばかりに、残酷な現実が容赦なく迫る。石畳を踏み鳴らす複数の靴音──敵兵の足音が確実に近づいていた。

 

「……畜生! 」

 

 出欠により右腕の動きが鈍い。グリムの魔法は対象に自らの手が触れることによって発動する。よって、グリムはハンデを抱えたまま敵と戦わなければいけない。

 

「エレクシア、タミスとケイトを連れて逃げてくれ! 僕が敵を食い止める! 」

 

 今、この状況で戦えるのはグリムだけだ。グリムは覚悟を決め、詠唱を唱える。

 

「Hear Me, O God──」

 

 その瞬間。

 投げ込まれたフラッシュバンが炸裂し、白い閃光が視界を灼いた。聴覚と視覚も奪われ、ただ爆発の余韻だけが頭蓋に響く。

 

 ──ここまでか。

 

 絶望に沈みかけた刹那。

 抑え込まれた銃声──サプレッサー越しの鈍い破裂音が響き、敵兵の体を次々と貫いた。

 

「クリア! 」

 

 夜視装置とサーマルビジョンを装備した兵士たちが、黒い影のように突入してくる。グリムは咄嗟に身構えたが、先頭の兵士の一言が、その心を揺さぶった。

 

「我々はTask Force17、君たちの味方だ」

 

 兵士は銃口を下ろす。

 Task Force17、グリムは聞いたことのない名前の部隊だった。存在を誇示するかのようにチェストリグには17という数字のワッペンが縫い付けられてあった。しかし、そのなんの変哲のない数字が地獄に差し込む光明のように見えた。

 

「負傷者はこの近くに展開する()()()()()に引き渡す」

 

 兵士がケイトを担いで連れていく。グリムは咄嗟に兵士に向かって叫ぶ。

 

「絶対に、絶対に助けてくれ……。()()()()()なんだ」

 

「ああ、絶対に助ける。君たちは俺の仲間と合流してくれ。君たちを失うわけにはいかない」

 

 バラクラバで隠された兵士の表情はわからない。だが、声には絶対的な自信と覚悟が含まれていた。

 

「我々は敵の残存兵力を排除する。後は任せてくれ」

 

 兵士はそう言い残して、部屋から出ていった。残った別の兵士がグリム達を誘導する。

 外にはオスプレイが着陸しており、中にはレイヴンの姿も見えた。

 

 レイヴンは息を切らしながら、壁にもたれている。グリムは大きく目を見開いた。

 

「レイヴン! 」

 

 赤く染まった黄金色の髪が揺らめく。レイヴンはグリムのほうを見ると、無理に口角を上げて、握り拳の親指を上げてみせた。

 

「お姉ちゃん! 」

 

 タミスが誰よりも早く、レイヴンの元に駆け寄り、精一杯の力でレイヴンに抱きついた。

 グリムの視界は気づかぬうちに、涙で滲んでいた。レイヴンが生きている、その事実が胸を震えわせた。

 


 

 突如、戦場の空気が変わった。砂塵の匂いも銃声の残響も、すべてが一瞬にして冷たく硬くなる──その変化を、そこにいる誰もが肌で感じ取っていた。

 

 廃墟の屋上。兵士たちのなかに、異様な一人が混じる。胸には「17」の数字と日の丸が刻まれ、細身の体躯に似つかわしくない殺意を漂わせている。

 

「なあ、指揮官。あいつら、皆殺しにすればいいん? 」

 

 問いかけた声は軽やかで高く少女のような声だった、しかし言葉の内容は冷酷そのものだった。指揮官は短く肯き、伝令に向かって返答する。

 

「ああ、そうだ。ゼロ・ゴースト、Tier2使用許可。抑制は不要、速やかに制圧せよ」

 

「はいはーい。じゃあ任せといてや。うちがやればすぐに終わるから」

 

 ゼロ・ゴーストは笑いながら肩を弾ませると、屋上の縁に向かって走り出した。風が裂け、瓦礫の上を飛び越え、彼女はまるで落下することさえ楽しむかのように勢いよく飛び降りていった。下方で固まる敵兵の視線が、一斉に彼女へと吸い寄せられた。




 公開可能な情報
 米日共同の特殊部隊について

(機密指定:Top Secret / Level Ω / Eyes Only)

1. 概要

本報告書は、日米間の高度軍事協定に基づき編成された合同特殊任務部隊 Task Force 17(以下、TF-17) の設立背景、編成、任務範囲、および戦力評価を記録するものである。
TF-17は公的記録上存在しない部隊であり、その活動は「外交的責任回避」を前提とした完全秘匿作戦に限定される。
部隊の主任務は テロ制圧、不正規戦、ハイリスク奪還、並びに魔法少女関連技術の確保・回収 である。

2. 編成構成(Core Components)

陸上自衛隊(特殊作戦群)
• 特殊作戦中隊(Type-S)
• 電子戦分隊(SIGINT・妨害)
• 魔法災害対応小隊(M-Hazard Unit)
• 通訳・交渉官(民間出身エリートを含む)

米軍(JSOC配下)
• Delta Force(1st SFOD-D)
• SEAL Team 6(DEVGRU)
• 160th SOAR(Night Stalkers 航空支援)
• CIA SAD(戦略支援/敵性魔法少女モニタリング)

3. 任務範囲(Operational Directives)

TF-17の任務は以下の通り:
1. 敵性国家が運用する魔法少女実験施設の制圧・証拠回収。
2. 魔法兵器開発拠点への先制攻撃および破壊工作。
3. 日本国内に潜伏する敵工作員の摘発・抹殺任務。
4. 想定外の魔法攻撃被害における対象の排除および被害抑制。

4. コードネームと内部通称
• 公式コードネーム:Phantom Union
 「存在しない連合部隊」を意味し、国際法的責任の回避を前提とする。
• 米側内部通称:Ghost Unit
• 自衛隊側通称:秘匿部隊17

5. 運用拠点
• 在日米軍基地(横田・キャンプ座間)に常駐。
• 非公開地下施設において機密作戦の計画・訓練を実施。
• 特殊事案発生時には空母「いずも」型に搭載された 特別作戦区画 を利用可能。

6. 特殊装備
• 日本製:Type-20短縮型・サプレッサーモデル、魔力検知式センサー。
• 米国製:HK416A5 MOD3、レールガン試験装備(限定配備)。
• 共通装備:魔法少女対応兵装「魔力中和弾(Null-Round)」、戦術AI支援ゴーグル。

7. 部隊所属魔法少女(実験運用)

TF-17には、試験的に 1名の量産型魔法少女 が配備されている。
• 通称:Zero-Ghost(ゼロ・ゴースト)
• 元魔法少女であり、重大な軍規違反を起こした経歴を持つ。
• 記憶操作済み。現在は制御下にあるが、その戦闘力と心理的リスクは依然として未知数。
• CIAおよびSFGp心理班により、常時モニタリング対象とされる。

8. 設立背景と戦略的重要性
• 中露両国による魔法兵器開発の加速により、従来の特殊部隊では対処困難と判断。
• 魔法少女兵器の国際的実戦投入が確認された事例を受け、日米は従来の軍事協定を超えた共同作戦枠組みを構築。
• TF-17は「非公式の作戦機構」として、国家の表舞台に出ることなく 同盟の最後の盾 として機能する。


9. 機密保持措置
• TF-17の存在は、国会議員および米国議会の一部にも開示されていない。
• 任務遂行時の記録は「消去」または「別作戦への転嫁」として報告処理される。
• 部隊員は死亡時、公式には「任務中の事故死」または「存在しなかった」と記録される。

10. 結論

TF-17は日米共同の軍事協力体制の中でも、最も秘匿性と危険度の高い特殊部隊である。
本部隊の存在は、魔法少女関連技術の確保と管理、そして国家安全保障上の抑止力維持に不可欠である。
なお、いかなる形においても本報告書の外部流出は許されない。

Prepared by:
米国国防総省 特殊作戦局(JSOC Liaison Office)
Classification: Top Secret / Level Ω / Joint Access JPN-US
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