現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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なにか

 ゼロ・ゴーストは笑い声を上げながら、歩みを進める。リンリエはその姿に戦慄した、無詠唱での魔法の発動の成功、矢は確実にゼロ・ゴーストの心臓を貫いた。普通の人間なら、即死は免れない。

 だが、目の前にいるのは、人間でも、魔法少女でもない。人の皮を被った()()()だった。

 

「もう1発撃ってみろや、次は殺せるかもしれへんよ? 」

 

 リンリエの目の前で、ゼロ・ゴーストは立ち止まる。それは、明らかな挑発行為だった。

 ゆっくりと、心臓に刺さった矢を引き抜く。左胸にはぽっかりと開いた傷口が、みるみるうちに塞がっていく。

 

「お前……人間か? 」

 

 思わずリンリエの口から、疑問が漏れた。その言葉を聞いて、ゼロ・ゴーストは嫌な笑みを浮かべる。

 

「さあ? 」

 

 リンリエは焦燥を抑え込み思考を回す。心臓を破壊されても治るようなものは聞いたことないが、再生系の魔法は確かに存在する。そして、再生系の魔法には確実に弱点がある。それは魔法の再生の限界以上の攻撃を受けた際は再生しないということだ。

 

 今、ここで、最も高威力の魔法で相手の撃ち込み、再生の限界を越える攻撃で葬る。それしか選択肢はない。今のところ、敵はこちらに攻撃する気はない。つまり、今が最大の好機。

 

 リンリエは矢を弓につがう。一度、浅く呼吸をしたのち、詠唱を始めた。

 

By threads of fate and will of Artemis,(運命の糸とアルテミスの意思により)I seize the sky itself.(我は天空すら掌握する)My arrows are legion,(我が矢は軍勢となり) my strike inevitable.(必然の一撃を)──」

 

Artemis's Arrow(アルテミスの矢)

 

 矢は(いかづち)のような閃光をまとい、限りなく光に近い速度でゼロ・ゴーストの元へ放たれる。

 

 しかし──。

 

「……なんや、意外と遅いやん」

 

 幾千分の1秒すらかからずに、ゼロ・ゴーストの肉体を貫くはずだった。しかし、矢はゼロ・ゴーストの手の中。

 

「今のが必殺技? ショッボイな」

 

 瞬間、ゼロ・ゴーストが視界から消え失せる。

 

「はい、おつかれちゃーん! 」

 

 拳がリンリエの額にお見舞いされる。脳が揺れ、視界がぼやけた。

 

「ぐっ! 」  

 

 咄嗟に地面を蹴り、後ろに下がろうとしたとき、体が浮いた瞬間をゼロ・ゴーストは見逃さない。軍靴のつま先がリンリエの横腹に食い込む。

 そのまま、数メートル吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付けられた。胃液が逆流し、喉を焼く。

 

「……あ、ああ」

 

 歪んでぼやける世界の中に、1人だけくっきりとした輪郭を持った者が1人。

 ゼロ・ゴーストはナイフの刃をリンリエの首に突き立てる。

 

「なんか言い残すことは? 」

 

「……くたばれ、クソ野郎」

 

「最後まで威勢のいい奴は嫌いじゃないで、ほな……おやすみ」

 

 ナイフがリンリエの喉元を掻っ切ろうとした瞬間、銃声。乾いた破裂音が廃墟に響き、1発の弾丸がゼロ・ゴーストの脳天を貫いた。

 

「大丈夫か、リンリエ! 」

 

 聞き馴染みのある、落ち着いた声、リンリエは振り返る。

 

「マスター……」

 

 そこには、ライフルを構えたリファの姿があった。彼女はリンリエに駆け寄り、手を差し出す。

 

「立てるか? 友軍が壊滅した。撤退するぞ」

 

「待ってください……! まだやれます、私が戦わなければ……! 」

 

 リンリエはふらつく身体を起こし、弓を握り直す。しかし、リファはその手を強く押さえ込んだ。

 

「犬死させるわけにはいかない。これは命令だ、リンリエ」

 

「……っ! 」

 

 リンリエは歯を食いしばった。ゼロ・ゴーストはおそらく死んでいない。だが、リファの瞳には揺るぎはなかった。

 

「今は生きて帰ることが優先だ。あれは、お前ひとりでどうにかできる存在じゃない」

 

 しばし沈黙ののち、リンリエはかすかに頷いた。

 

「……了解した、マスター」

 

 2人は屋上から退却の準備に入った。

 


 

「ゼロ・ゴースト……起きろ」

 

 指揮官が大の字で眠りこけているゼロ・ゴーストの肩を揺さぶる。

 

「……ZZZ……んあ。……指揮官!」

 

 半ば寝ぼけ眼をこすりながら跳ね起きるゼロ・ゴースト。その視線の先に、呆れ顔の指揮官と、その背後でハッチを開いたオスプレイの姿があった。

 

「ごめんな、うっかり敵、逃してしもうたわ」

「……はあ」

 

 ため息混じりに頭を振る指揮官の声は冷ややかだった。

 

「……それで、あん中にいる女の子たちはなんや?」

 

「彼らはWingshade Division。米国の魔法少女部隊だ」

 

 ゼロ・ゴーストは短く口笛を吹き、オスプレイ内部を覗き込む。その視線は、並んで座る少女たちの中でひときわ異彩を放つ存在に留まった。

 

「おっ……うちに似た子、おるやん」

 

 白髪の少女を指さすと、ゼロ・ゴーストは無邪気に声をかける。

 

「なあ、そこのお嬢ちゃん。名前なに?」

 

 唐突な呼びかけに、白髪の少女は肩を震わせる。

 

「タ、タミス……」

 

 おずおずと名乗った瞬間、ゼロ・ゴーストは口角を上げてにやりと笑う。

 

「ふーん、タミスちゃん。かわいいやん。……でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 にじり寄るように手を伸ばし、その頭に触れようとしたとき──。鋭い力がその手首を掴んだ。

 

「……今すぐ離れろ」

 

 隣に座っていた金髪の女が、氷のような眼差しをゼロ・ゴーストに向ける。

 

「なんや、ちょっとくらいええやろ」

 

「……」

 

 彼女の名を探るように、ゼロ・ゴーストは挑発的に笑う。もう片方の手を伸ばし、金髪の女のドックタグを手元に引き寄せる。

 

「んーと……名前はレイヴン、やな? ……お姉さんもいい顔してんなぁ」

 

 掻きむしった自分の髪の間から、ふとレイヴンの指先に目をやる。乾ききっていない血がにじんでいた。ゼロ・ゴーストはその手を取り、あろうことか舌で血を舐めとる。

 

「ッ……!」

 

 反射的に手を離したレイヴンが眉をひそめると、機内の空気が一層張り詰めた。

 

「ゼロ・ゴースト……そこまでにしておけ」

 

 指揮官の低い制止の声に、ゼロ・ゴーストは肩をすくめて引き下がる。渋々といった様子でシートに腰を下ろし、正面に座るタミスへと顔を向けた。

 

 そして、ふざけたように舌を突き出し、両手で顔を隠すお化けの真似をする。

 

「……怖がってくれや」

 

 だが、タミスは怯えたまま固まっているだけで、声すら上げなかった。

 

 オスプレイのローターが空を切り裂き、機体全体を震わせる。その轟音にかき消されるように、ゼロ・ゴーストの呟きは静寂へと溶け消えていった。




公開可能な情報
ゼロ・ゴースト 20歳 女 身長172cm 体重62kg
経歴 元自衛隊    スクワッドの魔法少女
特筆すべき点 人工的に魔法能力を付与された魔法少女のため、精神状態が著しく不安定。
機密情報 削除済み
趣味 指揮官とゲームをすること(最近はスマブラ、6勝17敗)
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