現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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投稿が遅れてしまい申し訳ありません。



自由

 俺は野営地の中で、グリムを探していた。

 オスプレイで撤退したあの時から、彼女はずっと伏せていた。きっと、ケイトのことだろう。TF17の隊員が「自衛隊の医療部隊に引き渡した」と言っていたが……。あの傷で助かる見込みは正直、低い。嫌な予感が頭を離れなかった。

 

「お、レイヴンやん! 」

 

 聞きたくもない声に振り返る。ゼロ・ゴーストだ。

 正直、彼女とはあまり関わりたくない。今日、初めて会ったばかりだが、行動を見るだけで十分だ。自己中心的で自分勝手、やっていいことといけないことの境界線があまりにも薄い。……こんなやつの世話をしなければいけないTF17の隊員たちのことを思うと彼らに忍耐強さに頭が下がる。

 

 ゼロ・ゴーストは音もなく俺の背後に忍び寄り、強引に肩を組んできた。

 

「そんな顔をせんといてくれや。悲しいなってまうやろ? 」

 

「……触らないでくれ」

 

 俺はゼロ・ゴーストの手を掴み、引き剥がそうとする。だが、思ったより力が強く、振りほどけない。

 耳元に近づくゼロ・ゴーストの口元。生ぬるい吐息が肌をかすめ、背筋がぞわりと粟立つ。

 

「なあなあ、……お前、元は男やったやろ? 」

 

 からかうように笑う声。

 図星を突かれ、背中を嫌な汗が伝った。隠すつもりはなかったが、こうも軽々しく言葉にされると、胸の奥に焦燥が広がっていく。

 

「その反応、図星みたいやね。……てか絶対、()()()()()()ないやろお前」

 

 デリカシーのカケラもない言葉、無意識に顔をしかめていた。

 

「じゃあさ……うちと()()()()してみる? 」

 

 ふざけているのか、本気なのか。ゼロ・ゴーストの声色は読めない。

 その片手がゆっくりと俺の腹に滑り、いやらしい笑みが視界の端にちらつく。

 

「結構お前の顔タイプやねん。ちょっとくらいなら……ええやろ? 」

 

 生暖かく、柔らかい感触が頬を撫でる。舌だ。

 全身に嫌悪が走る。

 

「ハハ、めっちゃ興奮したやろ? 」

 

「別に……」

 

 吐き捨てるように返すが、心の底では今すぐこの場を離れたい一心だった。

 だが、ゼロ・ゴーストの手はしっかりと俺を掴み、逃げ道を許さなかった。

 

「……やめろ、ゼロ・ゴースト」

 

 背筋に貼り付く冷たい殺意、ナイフでじわじわ撫でられているような圧に、思わず肩が震えた。振り返ると、TF17の隊員が立っている。バラクラバに奥から覗く眼光は。射抜くように鋭い。

 

「指揮官! ちょっと仲良うしたろう思てただけや。なんもいらんことはしてへん、なぁ? 」

 

 ゼロ・ゴーストは薄笑いを浮かべる。冗談のつもりなのか、本気なのかわからない声音に、場の空気は一瞬張り詰めた。

 

「レイヴン、うちのバカがすまない」

 

 隊員は迷うことなくゼロ・ゴーストの腕を掴み、あっさりと引き剥がす。その仕草に無駄はなく、怒りよりも呆れが勝っている。

 

「スマブラがお預けになってもいいのか? 頼むから面倒ごとはよしてくれ」

 

 そう言われると、ゼロ・ゴーストはわざとらしく頭を掻き、鼻で笑った。

 

「……しゃあないな。わかったって指揮官。気をつけるさかいに、許してや」

 

「わかったなら先にブリーフィングルームで待っていろ」

 

 命じられると、ゼロ・ゴーストは肩をすくめてかかとを返した。背中を見送る俺の胸中には、安堵と同時に言い知れぬ不気味さが広がっていた。隣に立つ、隊員からは大きなため息が漏れる。

 

「なるべくあいつに絡まれても無視してくれ」

 

「……わかった」

 

 隊員は疲れ切ったように両目を手で隠す。そして、独り言のように呟いた。

 

「任務より……あいつの相手をしてるほうが疲れる」

 

 バラクラバ越しでも、隊員の顔が苦虫を噛み潰したように歪んでいるのがはっきりわかった。

 


 

 野営地の外では、沈黙など存在しないかのようにヘリコプターのプロペラ音が響き渡っていた。兵士たちは前線へと送り出され、負傷者が繰り返し運び戻される。昼夜を問わぬ慌ただしさが、辺りを支配していた。

 

 その光景を見るたび、グリムの胸には幼い頃の記憶がよみがえった。

 


 

 僕は──、ずっと不自由だった。

 誰が死のうと、見向きもされない街で生きていた。

 まだ、10歳になったばかりの時だった。母は薬中で夜な夜な知らない男をたいして大きくもない集合住宅の一室に連れ込み、遊ぶ。僕のことは存在しないかのように物置の中に閉じ込めて、母親の喘ぐ声だけが聞こえていた。

 

 ある日のことだ。お腹が空いて仕方がなくて、物置の中から這い出てキッチンに向かったときだった。

 

「ガキがいるじゃねーか! 」

 

 僕のことを見つけた男は激昂して怒鳴り散らした。男は僕のことを蹴り飛ばして、うずくまる僕の胸ぐらを掴み殴った。殴られたせいで口内が切れ、口の中が鉄の味で満たされる。

 

 このまま殺されるんだと思った。諦めかけた時に、目の前に黒いやつが現れた。

 

『そいつを殺せ』

 

 どうやって? そんなのできっこないじゃないか。

 

『今から僕が言うように唱えるんだ、そしたら殺せる』

 

 信じるしかなかった。

 

『聞け、炎の神よ、その怒りを我に貸し与えよ』

 

「Hear Me, O God Of Flames, Lend Me Your Wrath」

 

『インフェルノ──我が触れるすべてを燃やし尽くせ』

 

「Inferno──Ignite I Touch」

 

 ──《Wrath Of Flame God(炎神の怒り)

 

 手が激しく熱持った感覚がした。僕はその手で男に触れる。

 

「AAAAA!! 体が! 燃え……! 」

 

 男の体は烈火の如く燃え上がり、一瞬にして灰となった。

 母親の薄汚い叫び声が聞こえる。

 

「化け物が! 」

 

 ──手が、熱を帯びていた。

 

 見下ろした掌は赤く光り、指先の皮膚の上で小さな炎がちらついているようだった。鼓動が喉の奥で早鐘を打ち、世界の輪郭がふらつく。なにか根本的に変わってしまったことを、身体が無言で告げていた。

 

「なんだよ……これ」

 

『魔法さ、君は特別なんだ』

 

 耳鳴りのような余韻の中、あの黒い影の声が低く、冷たく響いた。命令は簡潔で、逃げ道を与えない。──従うほか、選択肢はなかった。

 黒いやつは笑みを浮かべ、指を指す。指先は母に向いていた。

 

『君のこと邪魔する奴は……全員殺せばいいんだ』

 

「僕のことを……邪魔する奴……」

 

 もう一度、自分の手を見て、今度は母の方を向く。ゆっくりと足を踏み出す。あいつは、殺しても……いい奴だ。

 

 僕は逃げ惑う母の首元を掴む。

 

「……焼け死ね、クソアマ」

 

 それは紛れもなく、心の奥底から出た憎しみの言葉だった。

 母の体は炎に覆われ、炎を消そうと必死にもがく。そんなことしても意味はなく、母も男同様に灰になった。

 叫び声は聞こえなくなり、部屋の中は静寂に包まれた。真っ白になった頭の中に、逃げなければいけないということだけが浮かび、僕はドアを開けて部屋を飛び出した。

 

 外の景色は意外にも、明るかった。

 

「アハハ、なんだ! 全然明るいじゃん! 」

 

 その時、僕は生まれてから初めて自由を感じた

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