現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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意味

「生きろ」──そう言ったクリスの目には。死に対する絶望など一欠片もなかった。潔く自らの運命を受け入れた戦士のような目をしていた。自らの最期を悟りながらも、僕に未来を託す目。その光景は今でも焼き付いて離れない。

 

 クリスの死刑が決定すると同時に、僕は軍の管理する施設へと幽閉された。

 そこでの日々は「研究」と呼ばれる実験の連続だった。僕の魔法を解析し、利用するために、科学者や軍人が毎日のように部屋に押し寄せてきた。冷たい器具、無機質な照明、そして「被験体」という言葉。あの場所は牢獄であると同時に、実験室でもあった。

 

「マギー……、カイ……、みんな……」

 

 静寂が支配する独房のような部屋の中、僕は時折、ポツリと呟く。声にしたところで返事が返ってくることはなかった。

 それでも口をついて出てしまうのは、心の奥に渦巻く喪失感を少しでも和らげるためだった。ふと、脳裏に浮かぶのはリナとアーサーの顔。2人はいま、どこでどうしているのか──。もしや路地裏で野垂れ死んでいるのではないかという不安が、こびりついて離れなかった。

 

 幽閉されてから、1ヶ月ほどが過ぎたある日、突然ドアが開き、見知らぬ女が現れた。

 

「やあ、君がグリムか」

 

 女は黒髪に黒い瞳。アジア系らしい顔立ちで、綺麗に整った軍服を着ていた。にこやかに笑みを浮かべているが、それはまるで何もかもに余裕がある者だけが浮かべる笑顔に見えた。僕が一番嫌悪するタイプの人間。口では同情を装いながら、心の底で弱者を見下す人間。

 

 反射的に視線を逸らす。顔を見ているだけで、腹の底が煮えくり返るようだった

 

「私は今日から君の相棒になる。名前はユイ・タチバナ、よろしくね」

 

 ユイは僕の目の前に手を差し出す、それが無性に腹が立って、僕は手を払いのけた。

 これは向こうの癪に触ったみたいで、ユイは顔をムッとさせると、僕のほうに近づき、頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 

「なにすんだよ! 」

 

 僕は両手でユイを突き放す。

 頭を撫でられるのはマギーのことを思い出すから、嫌だった。いや、正直にいうなら思い出すのが怖かった。

 

「あはは、嫌がってる割には嬉しそうじゃないか」

 

 どうやらこのとき、僕の顔は少し嬉しそうに見えたらしい。もしかすると、長い孤独の中で誰かに触れられることが、本当は心の奥底のどこかでは嬉しかったのかもしれない。

 

 その日から、ユイはなにかと僕にひっついて過ごすようになり、ことあるごとにちょっかいを出すようになった。部屋も、独房のようなものから、温かみのある部屋に変わり、そこでユイと過ごすことになった。

 

「グリム! 来週は外出の許可が出たからMLB見にいこう! 」

 

 ユイはチケットを2枚、ひらひらと僕に見せつける。拒否しようと思ったが、無理やり連れて行かれた。

 

「グリムお姉ちゃん! 」

 

 球場に着くと、リナとアーサーが僕に子犬のように飛びついてきた。2人とも綺麗な洋服を着ており、顔は希望に満ち溢れていた。そのあまりにも眩しい姿に僕は言葉を失った。

 

「どうして……? 」

 

「クリスがね! 私たちが学校に行けるようにお願いしてくれたんだって! 」

 

 後で、ユイから聞いた話だが、クリスは自身が死刑になる前、条件にリナとアーサー、2人を学校に通わせることを付け加えたらしい。それで、2人は保護されて、新たな人生を送っていた。胸の奥が熱くなり、僕の視界が滲んでいく。

 

「泣いていいんだよ。グリム」

 

 ユイがそっと僕の頭に手を置いた。必死に涙を堪えようとしても、零れる雫は止まらなかった。リナとアーサーが不安そうに見つめる中、僕はどうにか笑みを作り、かすれた声で言った。

 

「お姉ちゃん……大丈夫? 」

 

「……大丈夫、僕は……大丈夫だから」

 

 どうやら、ユイはどうにかして僕を2人に会わしてやりたかったらしく、外出を禁止する上層部を骨を折って説得したらしい。

 

 それから、1ヶ月に1度、リナとアーサーと会う日が設けられるようになった。2人が新しい生活の中で前に進んでいる姿を見て、僕もまた自分の道を歩まなければならないと思うようになった。クリスが最後に言い残した「生きろ」という言葉の意味が、ようやく理解できた気がする。

 

 ユイは僕に彼女自身の過去や家族のことを話してくれた。彼女は移民の家に生まれ、家族が市民権を得るために軍に入隊したのだという。

 

「ケイトがね、『私も軍に入る!』って言って、まったく話を聞かないんだ。私は止めてるんだけど」

 

 そう言ってユイは携帯端末から写真を見せてきた。そこには、少年のような短髪で、はにかんだ笑顔を浮かべる少女が写っていた。僕よりも年上のはずなのに、どこかあどけなさを残している。

 

「ユイの妹なんだから、きっと優秀な軍人になるよ」

 

 僕がそう口にすると、ユイは「そうかなぁ?」と少し困ったように笑った。だがその笑みには、妹への誇りが滲んでいた。

 

 ──しかし、ユイとの別れは唐突に訪れた。

 


 

「ユイ!」

 

 乾いた銃声が響いた直後、ユイの身体が僕の胸元へ崩れ落ちてきた。僕を庇って撃たれたんだ。

 胸部に赤黒い染みが広がり、僕の手のひらへと熱い液体が伝っていく。必死に銃創を押さえるが、止血など追いつくはずもない。

 

「グ……リム……」

 

 ユイの唇が震え、そこから血が泡のようにこぼれ落ちる。僕は必死に叫んだ。

 

「喋るな! 大丈夫だ、すぐに助けが来る! 絶対に死なせない!」

 

 だがユイは首を横に振り、微かに笑みを浮かべた。

 

「……私と……いてくれて……ありが、と……」

 

 その言葉と同時に、彼女の手がゆっくりと僕の頬に触れ、そして力なく滑り落ちた。

 

「ユイ!? ユイ!!」

 

 呼びかけても返事はなかった。彼女の瞳から光が消え、残されたのは穏やかで静かな表情だった。

 

 僕は人と関わるのが嫌になった。どれだけ互いを理解し、手を取り合っても、いつか別れの瞬間は必ず訪れる──そんなことを知ってしまったからだ。だから、誰かを失うことが怖くなった。だったら、最初から誰とも深く関わらない方が楽だ。そう思い込み、ひとりでいることに安堵を覚えた自分を、いつしか許すようになっていた。

 


 

 でも──、今は違う。

 僕はカラビナにつけられたクマのマスコットを見る。

 

 もう、仲間を失いたくはない。もう、自分の弱さを憎みたくはない。ーーその思いが、静かに、確実に強まる。拳を握りしめると、爪先に血が昇る感覚があった。

 

 後ろから足音が近づくのを感じ、僕は振り返る。そこには薄い月明かりに照らされるレイヴンが立っていた。レイヴンが口に開く前に僕は言う。

 

「……レイヴン、ケイトの仇はとるぞ」




米国防総省報告書

件名:第二次キューバ危機について
発行部局:国防総省 戦略分析局
分類:極秘(TOP SECRET / EYES ONLY)

1. 概要

第二次キューバ危機は、キューバ共和国における親米派政府の失脚および反米派政権の樹立に端を発した地域的・国際的危機である。新たに権力を掌握した指導者「ヘッズ」は、ロシア系民間軍事会社(企業名:Alpha Company)と協力し、キューバ領内に軍事基地を建設する計画を進めた。本件は米国の国防体制および西半球安全保障に深刻な脅威を与えるものと判断された。

2. 危機発生の経緯
• 2022年4月:ハバナにて親露派指導者ヘッズを中心として軍事クーデター発生。親米派大統領が国外に亡命。
• 2022年5月:ヘッズを中心とする反米派政権が成立。ソ連崩壊後に流入した武器市場を利用し、急速に武装勢力を拡大。
• 2022年9月:ヘッズ政権はロシア系PMCと契約を締結。キューバ南部に大規模な軍事施設の建設を開始。

3. 米国の対応

米国政府は、カリブ海における軍事バランスの崩壊を防止するため、以下の措置を講じた。
1. 海軍による臨検作戦の準備。
2. CIA主導による情報収集作戦。
3. 海兵隊特殊作戦コマンドによる暗殺・攪乱任務の計画。

特に「ヘッズ」の存在は、米国の安全保障に対する象徴的かつ現実的な脅威と位置付けられ、暗殺が最優先事項とされた。

4. 暗殺作戦「コードネーム:ファントム・ランス」
• 作戦実行部隊:海兵隊特殊作戦コマンド、CIA特殊活動部要員、魔法少女グリム
• 主任務:ヘッズの暗殺、PMC基地の建設阻止。
• 付随任務:キューバ国内の親米派残存勢力支援。

作戦中、グリムの指揮官であるユイ少佐が戦死。少佐の戦死は作戦続行に重大な影響を与えたが、部隊は任務を完遂し、ヘッズの排除に成功した。

5. 危機の収束と影響
• ヘッズの死亡により、反米派政権は求心力を失い、ロシア系PMCは撤退を余儀なくされた。
• キューバ国内は一時的に無政府状態に陥ったが、米国の支援を受けた暫定政権が樹立された。
• 米国の軍事的威信は一時的に回復したものの、作戦の露見は国際社会で議論を呼び、冷戦後の米露関係に深刻な亀裂を残した。

6. 結論

第二次キューバ危機は、冷戦後のカリブ海地域における最も深刻な軍事的対立事案の一つである。米国は短期的な勝利を収めたが、民間軍事会社を介した代理戦争の可能性を国際社会に印象付ける結果となった。今後も同様の事案発生が予測され、米国としては引き続き監視体制の強化が求められる。
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