ギスギスした雰囲気で解散した次の日、俺たちは施設内のブリーフィングルームをに集められていた。
前方の巨大なスクリーンの前に立つオリビアが満面の笑みで話し始める。
「さて、それじゃあ──、君たちを全世界にお披露目しようと思う」
「は……? 」
軽く発された言葉があまりにも衝撃的すぎて開いた口が閉じない。
意外なことに、隣のグリムも全く同じ表情をしていた。俺を睨みつけていた目が今は混乱に染まっている。
「オリビア、まさか本気じゃないよな? 僕たちをK-POPアイドルかなにかと勘違いしてるんじゃないか? 」
「もちろん本気だ。君たちの存在を全世界に公開する」
オリビアがリモコンを操作して、モニターの映像を切り替える。
画面に映し出されたのは部隊のエンブレムだった。
──ひとりの少女が、天使にそっと抱きしめられている。まるで聖女と幼子のような。
「部隊名は
オリビアは無邪気な笑顔を浮かべているのだが、その瞳の奥には冷徹な光が宿っていた。
「君たちには軍事演習に参加してもらう。そこで君たちの存在を大々的に世界に知らせるんだ」
スクリーンに地図が映し出される。場所は東洋の島国、日本。その南西に位置する──赤点で強調された場所、尖閣諸島。地図の注釈には『日米合同軍事演習地域』と明記されていた。
「ターゲットはここだ。現在、自衛隊とアメリカ第七艦隊による合同軍事演習が実施中だ。規模は過去最大級……実戦さながらの内容だ」
彼女の口から淡々と告げられる言葉は、明らかな緊張が滲んでいた。
「ただ、問題がある、いや正確には
オリビアがモニターを操作すると、映像が切り替わる。
そこには空母、強襲揚陸艦、哨戒機、そして多数の艦船の動向が記録された衛星画像が出された。
「数年前、日本が極右政権へと舵を切り、外交方針は強硬化、軍事政策は暴走気味。特に問題なのはアメリカの意向を無視した独断行動……」
彼女が指の一点を示すと、スクリーンには『海上自衛隊 第三空母打撃群 - 台湾海峡通過』と表示された。
「現在、日本はアメリカ海軍を模倣した空母打撃群を3個運用しており、そのうち一部隊は先日。アメリカ本国の通達を無視して台湾海峡を強行通過した。これは自立志向という名のもとにアメリカの地域戦略を損なう動きだ」
オリビアの言葉には静かな憤りがこもっていた。
「今回の演習も、本来の共同訓練ではなく
その言葉にグリムが鼻を鳴らす。
「要するに、日本は調子に乗り過ぎてるってことだろ? 」
「……その通りだグリム」
オリビアは頷きながらも、表情に笑みを浮かべた。だが、その目は冷たい鋼のようだった。
「だから君たちWingshade Divisionには、
スクリーンには『対日戦略広報計画』と記されたファイルが開かれる。
演習中に行われる『共同戦術実演』ではタミス達が模擬戦で敵部隊を圧倒する様子がCGで再現されている。
「これは警告だ。正面からではないが、日本に、全世界に
オリビアはゆっくりと息を吐き、モニターから目を外した。
「全世界が注目する軍事演習だ、そこで君たちを表舞台に出す、正々堂々、力を見せつけてくれ」
ブリーディングが終わったあと、俺は唖然としたまま立ち尽くしていた。
この状況をどう飲み込めばいいのか、正直わからない。アメリカ、世界の警察と呼ばれる所以を垣間見た気がしてならない。そして、そのためにこれから任務を遂行していいのかと思った。やっていることは正義という大義の名の下で自国の発言権を維持しようとしているだけなのだ。
所詮、俺たちは政治のための駒しか過ぎない、その事実を痛感する。
「……お姉ちゃん」
タミスは俺の足にピッタリとくっついてきた。細い指がズボンの裾を握っている。手もわずかに震えていた。不安なのだろう、無理もない。
人智を超えた力を持っていても、見た目も中身も、幼い少女だ。それに国家の大義を背負わせるなど正気ではない。本来ならそれは大人の仕事だ。
「おい、レイヴン! 」
突然、後ろから声が飛んできた。振り返るとグリムが呆れ顔でこちらを見てくる、相変わらず尊大な態度で、俺を値踏みするように見る。
「僕は喉が渇いたんだ。ところで指揮官ってのは、部下の体調管理も仕事に入るんじゃないか? レイヴン 」
『なにか飲み物を持って来い』、そういう意味だろう。まるで下僕扱いだ、いやグリムから見て俺はそれくらいの存在としか見られてないのだろう。こんなやつと任務をこなすと思うと、頭が痛くなる。
逆らえば、また何を言われるかわかったもんじゃない。大人しく飲み物を買いに行くことにした。
施設内の地図を見ると、どうやら売店があるらしい。指定された区画へ足を運ぶ。施設は思ってたより数倍広く、10分程度歩いて売店に辿り着いた。
そこには売店のレベルを遥かに超えた、軍専用のショッピングモールのような空間が広がっている。
棚にはエネルギーバーや栄養補助食品のほか、最新鋭の戦闘糧食、カフェ顔負けのコーヒーラインナップ、果てにはナイキのスニーカーまで取り揃えられていた。
あまりにも衝撃的だった。アメリカ軍というものの次元の違いを思い知った。
俺は適当にドリンクを選んで戻ると、グリムは足を組んだまま座っていた。こちらを見るなり薄く笑って言った。
「買ってきたんだ。へぇ、意外と気が利くじゃん」
そう言いつつも、一切の礼はなく俺の手からドリンクの入った袋をとった。
「プライムにコークね……ふーん。センスは悪くないな。ドクターペッパーとか買ってきたらぶっ飛ばしてたかもね」
冗談なのか本気なのかわからないが、グリムの目は笑っていない。
口では軽く言っていても、明らかこちらを下に見ている。
「まあ、僕は君のこと認めてないから、──あと
グリムはタミスのほうを向いた。軽蔑するような目でタミスを見る。
「……見ればわかるだろ? こいつは
作り物──その言葉が頭の中で何度も反響した。グリムの表情は冷笑していたが、その奥には確かな憎悪があった。
ゆっくりとグリムは立ち上がる。靴音を鳴らしながら、ゆらりと俺の方へ歩を進めてくる。
「お前、僕に舐めた態度とったら、体で
俺の襟元を無造作に掴む。鼻先が当たるほどの距離まで顔を近づけ、目を細めたあと、口角をつり上げた。
「せいぜい……僕に殺されないように頑張るんだな」
その声音には、冗談でも脅しでもない明確な殺意がにじみ出ていた。
一瞬、部屋の空気が凍りつく。心臓の音がやけに耳に響く。
そう言い残すと、グリムは用済みの人間を捨てるかのように、俺の襟を話し、背を向けて歩き去っていった。
机の上には、飲みかけのペットボトルが投げ出されていた。中途半端に残ったコークの炭酸が、音を立てて虚しく弾けていた。
「お姉ちゃん、大丈夫……? 」
タミスは小さな声で問いかけてくる。心配そうに見てくるその目は澄んでいて──どこか不安げに揺れていた。
「大丈夫だ、気にしなくていい」
俺は笑って見せたが、その声はどこかうわずっていた気がする。
タミスはほんの少し安心したように微笑み、そっと俺の手を握る。小さな手だった。驚くほど温かくて、柔らかい。
──
まるで心の奥底に棘が刺さったかのようだった。
あれはグリムの悪意ある戯言か? それとも──。
公開可能な情報(外務・防衛広報向け要約)
■ 日本による過度な軍事行動の顕在化
1. 竹島周辺における大規模軍事演習の実施
日本政府は韓国との領有権問題を抱える竹島周辺にて、陸・海・空自衛隊を動員した大規模な統合作戦訓練を展開。実弾射撃を含む訓練内容は、地域の軍事的緊張を著しく高める結果となった。
2. 北方領土周辺における艦隊行動の活発化
ロシア連邦が実効支配する北方領土周辺において、自衛隊の艦隊が連日のように哨戒
・演習航行を実施。ロシア太平洋艦隊との接触事例も報告されており、一触即発の状況が続いている。
3. 領空侵犯を行った中国軍無人偵察機の撃墜
沖縄本島南方の防空識別圏において、日本の航空自衛隊が中国人民解放軍所属の無人偵察機(UAV)を「領空侵犯の疑い」で撃墜。外交ルートを通じた中国側からの強い抗議があったものの、日本政府は撃墜の正当性を主張している。
4. 空母打撃群による台湾海峡の強行通過
日本が保有する第3空母打撃群が、アメリカの同意なしに台湾海峡を通過。これにより、地域の軍事的バランスを不安定化させ、東アジア全体の安全保障環境に深刻な影響を与えている。
米国防総省内では「同盟国による《逸脱的単独行動》」として、懸念が高まっている。
備考
・いずれの事例も、日本政府は「自国の防衛と地域の安定を目的とした正当な措置」と主張している。
・しかしながら、国際社会および複数の同盟国からは、こうした行動が「集団安全保障の枠組みを逸脱した先制的軍事姿勢」として危惧されている。
公開可能な人物情報
グリム・ヴァルカナ 16歳 女 身長 167cm 体重 62kg
経歴 元NYブロンクスの孤児
特筆すべき点
エレクシア・ベネディクト 17歳 女 身長 176cm 体重 66kg
経歴 教会の修道女
特筆すべき点 普段は聖母のような立ち振る舞いをしている反面、自分の魔法に大して否定的、悲観的な考えを持っているように見られる。魔法少女としての能力は残りX年で失われる可能性が高い。