現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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未来

 未来が視える相手に攻撃を当てる──それは一見、不可能に思えるだろう。

 だが、本当にそうだろうか?

 

 レイヴンは頭の中で、冷静に仮定を組み立て始める。

 敵の魔法はおそらく未来視──もしくはそれに近い能力。

 攻撃が当たる未来をAとしたとき、敵は事前にAを見ることができる。よって、攻撃が当たらない未来Bを選択することが可能。では、最初からBという選択肢が排除された未来Cが存在したら──?

 それなら、攻撃を当てることが可能ではないか?

 

 理屈の上では、ほんのわずかな隙間だ。

 だが、そのわずかな1秒の裂け目こそ、レイヴンの賭けた()()だった。

 

「レイヴン、なにか気づいたのか! 」

 

 グリムが問いかける。

 レイヴンはこの仮説の証明という急務に駆られている。顔には一瞬見えた勝機を期待が浮かんでいた。

 

「……攻撃を当てられるかもしれない」

 

 その瞬間、ランホアが短剣を構える。

 少女の瞳は冷たい硝子のように澄み、次の一秒をすでに知っている。

 

 説明している時間はない。

 レイヴンは短く息を吸い、叫んだ。

 

「グリム、俺たちで()()()()()()()! そうするしかない! 」

 

 一瞬の戸惑いのあと、グリムが頷く。

 

「そういうことか! 」

 

 2人は同時に走り出す。

 Bという攻撃を避ける未来が生み出せないほど、同時に、全力で軌道を描く。

 それは正解とは言えないが不正解でもない。あくまで、ランホアの魔法は1秒先の未来を確定させる能力、未来視とはわずかに違う。だが、目指すベクトルは間違っていない。Cという未来を確定させれば、いやでも攻撃が当たる。

 

 ランホアは2人の間を引き裂くように、肉薄してグリムの喉元に短剣を突き出す。ランホアの確定させた未来ではこの攻撃は避けられる。それでいい。

 避ける位置が分かりさえすれば、そこに向かって短剣を振り抜くだけ。

 

 未来を確定させる魔法のクールタイムは存在しない。使用者、ランホアの命が尽きるまで発動し続ける。そして、魔法の発動はランホアの意思とは関係なく全自動。確定させた未来の情報が1秒足らずでランホアの脳に送られる。

 確定される未来にノイズが走った。

 

 1秒にレイヴンの拳が、ランホアの顔面を撃ち抜く。

 

 その未来が、唐突に現れたのだ。

 

 レイヴンの拳が弾丸のように迫る。

 空気が震え、拳圧が頬を切り裂く。

 遅れて、熱と痛みがランホアを襲った。

 

「……え? 」

 

 彼女の唇から小さな声が漏れる。

 あり得ない。

 当たるはずがない攻撃が、当たった

 

 ランホアの魔法は、幾千億と数え切れぬ無数の未来の中から、最も自分にとって()()()()()()()()()()()()()を選び、確定させる。

 つまり今の結果──頬を裂かれる未来こそが、ランホアにとって()()()()()だったということになる。

 

 ……おかしい。そんなの……。

 どうして、全ての未来が()()に書き換わっている?

 

 答えは恐ろしいほど単純だ。

 レイヴンがランホアの魔法が視た未来の結果をすべて最悪のものに作り変えた。ただそれだけ。

 

「──なんだよ! 当たるじゃないか! 」

 

 レイヴンの口角はグイッと上がる。

 自分の仮説は正しかった。理論は現実に届く──勝機は、ここにある。

 血の匂いに混じって、胸の鼓動が耳の奥で轟音を立てる。

 未来を変えられる。いや、未来そのものを壊せる。

 

 このまま未来Cを生み出し続ける。それが勝利への導き。

 

 グリムがランホアの背後を取り、手のひらを構える。

 それと呼応するようにレイヴンはランホアの足を絡めとるように蹴りを入れようとする。

 

 ──その瞬間。

 

Chrono Reversal(時の逆流)

 

 空間が軋み、時間の流れが裏返る。

 無詠唱での発動。声もなく、ただ光と音が引きちぎられる。

 

 未来Cを破壊する、未来D。

 時は1秒戻されると同時に1秒後の未来が再確定される。

 レイヴンとグリムが作り上げた可能性は、無情にも塗り潰される。

 

 ランホアの短剣が閃いた。

 刃が走る軌跡は、避けようのない“確定された運命”。

 回避は不可能。

 

 レイヴンの身体を、斜めに閃光が走る。

 左胸から右腹へ──アーマーが火花を散らし、肉の奥まで衝撃が突き抜けた。

 即死は免れた。だが、立っているのがやっとの傷。

 

「──お前っ……! 」

 

 怒号と同時に、グリムの詠唱が走る。

 しかし、それさえも“避けられる未来”が確定していた。

 

 ランホアは軽やかに体を捻り、グリムの掌をすり抜ける。

 反動でそのまま回転し、踵をグリムの顎へ突き上げた。

 

「うっ……! 」

 

 衝撃が骨を伝い、グリムの視界が白く弾ける。

 次の瞬間、ランホアの拳が鳩尾を抉った。

 乾いた音とともに、グリムの身体が壁に叩きつけられる。

 

 砕けた瓦礫の音が、静寂を裂いた。

 

 ランホアはゆっくりと歩を進める。

 うずくまるグリムに、まっすぐ短剣を向けながら。

 

 そのときだった──ランホアの視界が滲む。

 

 禁術魔法による過剰な生命の燃焼──ランホアの身体は限界を迎えようとしていた。

 肺に吸い込んだ空気が、まるで刃のように痛い。

 はっきりと死の輪郭が見える。

 それでも、歩く。

 

「……マスター、悪いやつをみんなやっつけたら……」

 

 ふらつく足どりで、ランホアは笑う。

 

()()()に行くね」

 

 倒れかけた体を短剣で支え、前へ進む。

 視界の端で、血の滴が地面に落ちていく。

 

 肌が切り裂かれるような感覚、一度味わったあの時の、まさか──。

 

 ランホアは反射的に振り返る。

 

 すぐ後ろに赤く染まった女──レイヴン。

 

 死の淵から戻ってきたような瞳。

 彼女は拳を構え、低く息を吐いた。

 

 禁術の負荷で、《Chrono Reversal》は発動しない。

 未来を塗り替えることも、確定させることもできない。

 残されたのは──最悪の未来。

 

 未来Cが、確定する。

 

 拳が振り抜かれ、轟音が頭蓋を打った。

 鈍い衝撃が全身を貫き、ランホアの視界が弾け飛ぶ。

 小さな体が床に崩れ落ちた。

 

「……どうして……どうして、あたしの邪魔をするの! 早く死んでよッ! 」

 

 声は悲鳴とも嗚咽ともつかない。

 子どものように泣き叫びながらも、ランホアは短剣を離さない。

 

 レイヴンは沈黙したまま、ゆっくりと歩を進める。

 その眼差しには、怒りも憐れみもなかった。

 ただ、終わらせるという決意だけ。

 

 ──確定させた1秒先の未来。

 

 ああ、もし、またマスターと会えるなら……。

 

 レイヴンの拳がランホアの目の前に迫る。

 ランホアは拳を避けた、だが、その先には──。

 

「──チェックメイトだ」

 

 グリムがランホアの右胸にそっと手を置く。

 

Wrath Of Flame God(炎神の怒り)

 

 瞬間、赤熱が一点に集中し、爆ぜた。

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