現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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兵士

 ランホアの右胸を、灼けるような魔法が貫いた。

 光が弾け、空気が震える。

 焼け焦げた匂いが漂い、赤い飛沫が宙に舞う。

 その一撃は、確実に死へと繋がる致命傷。

 

「……」

 

 ランホアの身体が大きく揺れ、次の瞬間、力が抜けるように頭から床へと崩れ落ちた。

 硬い衝突音が響き、血が静かに床へと広がっていく。

 それでも、彼女の瞳にはまだ微かな光が残っていた。

 

 ランホアは、震える腕を地に突きながら前へ進む。

 爪が床を引っかき、血の跡を残す。

 焦点の合わない視界の奥で、ひとつの姿だけが見えていた。──リファ。

 

 止めを刺すために、グリムが一歩踏み出す。

 だが、その腕をレイヴンが制した。

 

「まだっ……! 」

 

 グリムが声を荒げる。

 しかし、レイヴンは静かに首を振った。

 

「……いいんだ」

 

 レイヴンの言葉にグリムは口をつぐむ。

 グリムもわかっていた、もうランホアに戦う気力も、命も残っていないことも。

 

 ランホアはようやくリファのもとへ辿り着く。

 震える指先でリファの冷たい頬に触れ、かすかな息を漏らす。

 そのまま、倒れたリファを抱き寄せた。

 

「……マスター……ずっと、ずっと一緒だから……」

 

 掠れきった声が、静まり返った空気の中でか細く震える。

 心臓の鼓動は、1秒ごとにゆっくりと弱まっていった。

 

「愛してる……マスター……」

 

 肺に残った最後の空気を振り絞り、ランホアはその言葉を紡いだ。

 その顔に、ほんの僅かな安堵の笑みが浮かぶ。

 痛みも、怒りも、もう何ひとつなかった。

 

 まぶたが静かに降り、まつげが震える。

 その瞬間、世界から音が消えた。

 魔力の揺らぎさえも止まり、風すら息を潜める。

 

 ランホアは、愛する主の腕の中で、穏やかな眠りへと落ちていった。

 


 

 戦いは終わった。勝者は、誰の目にも明らかだった。

 

 俺とグリムは後続の部隊に回収され、即席の野戦病院で治療を受けた。

 麻酔の切れかけた痛みが、皮膚の奥からじわりと滲んでくる。

 血の匂いと薬品の匂いが入り混じった空間に長くいるのが耐えられず、包帯を巻いたまま、俺は外へ出た。

 

 夜風が頬を撫でる。

 空は鉛のように重く、遠くで燃え残りの煙がゆらめいていた。

 耳に届くのは、風がテントを揺らす音だけ。

 あまりの静けさに、水滴が落ちたら世界全体に反響しそうなほどだ。

 

 ……魔法少女とは、なんなのか。

 

 その問いが、頭の奥で繰り返される。

 魔法少女──本来それは、物語の中の存在。

 悪と戦い、世界を救い、人々に希望を与えるヒーロー。

 しかし、この現実に存在する彼女たちは違う。

 国家、宗教、理念の名のもとに戦場へ送り出される、使い捨ての兵器。

 その力の代償は、彼女たち自身の命そのもの。

 

 ふと、自分の掌を見る。

 乾ききっていない血の跡が、月光に照らされて黒く光っていた。

 ウクライナで魔法少女を殺したときも、今日、あの子を殺したときも──俺は何を感じていた? 

 

「レイヴン……だったな? 」

 

 背後から声がした。

 落ち着いた、低く響く男の声。

 振り返ると、TF-17の隊員──ゼロ・ゴーストの指揮官がそこにいた。

 

「……ああ、合ってるぞ」

 

 彼の目は、任務中のそれとは違っていた。鋭さはなく、深い疲労と空虚だけが宿っている。

 

「いるか? 」

 

 そう言って、男はポケットから缶を取り出し、ドロップをひとつ差し出した。

 薄いハッカの香りが夜気に混じる。

 俺は黙ってそれを受け取り、口に放り込む。

 冷たくて、甘い。だが、不思議と味がしなかった。

 

 男は夜空を見上げ、淡々と口を開く。

 

「……敵軍の魔法少女を2名殺害、歴史に残る戦果だ」

 

 その声は、まるで死者への弔いのように沈んでいた。

 勝利の言葉には聞こえない。むしろ、敗北を噛みしめる兵士の声だった。

 

「……そうだな」

 

 返す声も、乾いていた。

 

 沈黙が少し続いたあと、隊員がぽつりと問いを落とした。

 

「レイヴン……魔法少女を、子どもを殺したとき、どんな気分だった? 」

 

 口の中のドロップを、無意識に噛み砕く。

 小さく砕ける音が耳の奥で響き、嫌に大きく感じた。

 

 答えを探そうとした瞬間、隊員が先に言葉を継いだ。

 

「……少なくとも、俺は最悪の気分だったよ」

 

 低く、震えるような声。

 まるで自分の罪を懺悔するように。

 

「たとえ、魔法少女と言っても人間なんだ。誰もが、死が迫ったとき命乞いをする。それを殺すんだ、やってることは殺人鬼となんら変わらない」

 

 彼はドロップを噛み砕く。硬い音が夜に響く。

 わずかに食いしばった歯の隙間から、感情が滲み出る。

 バラクラバ越しに見えた瞳は、怒りと後悔とが入り混じっていた。

 

「……国家にとってはそんなこと関係ない。魔法少女も、兵士も、全ては自らの利益を享受するための道具に過ぎない」

 

 その言葉が夜気に溶け、風の音にかき消されていった。

 遠くで野犬が鳴く。

 誰も答えようとしなかった。

 

「ただ、人を傷つけるために正当な理由が欲しいんだ。それがただ戦争だったというだけだ。国家のため、神のため、なにかのためにして戦争をする。なにかしらの大義のもとで戦争をしている」

 

 その言葉は、長い戦いの中、彼自身が見つけ出したひとつの答えのように感じた。

 

「……レイヴン、お前は大義に取り憑かれているように見える」

 

 彼はそう言って、ポケットから再びドロップを取り出した。金属の缶が小さく鳴り、夜の静寂にその音が吸い込まれていく。

 2粒目のドロップを口に放り込み、噛み砕く。硬質な音が、まるで何かを断ち切る決意のように響いた。

 

「俺も一緒だ、取り憑かれている。だから、ここにいる」

 

 彼は空を仰いだ。月明かりの淡い光が、ヘルメットの縁を照らす。

 その目は遠くを見ていた——まるで、戦場の果てにあるはずもない()()()()()を探すかのように。

 

「……なにに取り憑かれているんだ? 」

 

 俺の問いに、彼は短く息を吐いた。しばし沈黙。夜風が砂を転がし、テントの布をわずかに揺らす。

 やがて、低く、しかし確かに彼は言葉を落とした。

 

「……()()だ」

 

 その瞬間、彼の瞳が変わった。

 さきほどまでの人間らしい疲労の色は消え、そこには()()としての鋭さが戻っていた。

 それは、戦場で幾度も死を見てきた者の目——怒りと悲しみを等しく宿した、静かで冷たい炎のようだった。 




公開可能な情報
ランホア 12歳 女 身長148cm 体重37kg
経歴 中国人民解放軍の魔法少女。
特筆すべき点 幼さゆえ他者(特にリファ)への依存が強い。
機密情報 交通事故に巻き込まれた際に魔法能力が覚醒、時を戻したことにより、1人だけ生存。
趣味・好きなこと マスター(リファ)、リンリエと過ごすこと。

リンリエ 15歳 女 身長161cm 体重47kg
経歴 中国人民解放軍の魔法少女。
特筆すべき点 どのような状況でも冷静だが、時折激動的になる。
機密情報 魔法能力が覚醒した際、自ら志願して人民解放軍に入った。
趣味・好きなこと 読書、弓の手入れ。ランホア、リファと過ごすこと。

リファ 25歳 女 身長173cm 体重61kg
経歴 中国人民解放軍の兵士、リファとリンリエのマスター。
特筆すべき点 野心的で理想主義者。魔法少女の軍事転用について懐疑的な姿勢。
機密情報 元ロシアのPMC:Alpha Companyの兵士であり、実力を認められ人民解放軍にスカウトされた。
趣味・好きなこと ランホア、リンリエと過ごすこと、コーヒーを飲むこと。

ファントムナイツ 年齢不詳 男 身長182cm 体重79kg
経歴 元陸上自衛隊第一空挺団、TF-17の隊員兼ゼロ・ゴーストの指揮官。
特筆すべき点 戦争への憎悪が激しい。
機密情報 削除済み
趣味・好きなこと ゼロ・ゴーストとゲームをすること。




防衛省報道発表資料
国際平和協力活動(PKO)における自衛官死亡事案について

防衛省は、国際連合平和維持活動(PKO)に参加中であった自衛隊部隊の一部隊において発生した事案について、以下のとおり公表いたします。

武装勢力による襲撃により、我が国派遣部隊所属の自衛官2名が一時的に拘束される事案が発生しました。
現地時間時頃、武装勢力は人質となった自衛官の1人に対し、過度の心理的・身体的圧力を加え、もう1名の自衛官に対する暴行及び致死行為を強要しました。
その結果、残念ながら自衛官1名が死亡するという痛ましい結果となりました。

防衛省としては、現地派遣部隊及び国連PKO司令部と緊密に連携し、事案の経緯の詳細な確認と関係者の安全確保を最優先に対応しております。
なお、現地治安情勢の不安定化を踏まえ、同部隊は一時的に後方地域への移動を完了しており、隊員の安全は確保されております。

本件は、任務遂行中に発生した極めて遺憾な事案であり、防衛省としては亡くなられた隊員のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、そのご家族に対し深甚なる哀悼の意を表します。

また、こうした事態の再発を防止するため、今後は現地での部隊行動規範の見直し、心理的ストレス耐性に関する教育訓練の強化、ならびに国際連携体制の一層の強化を図ってまいります。
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