現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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日の本の国

 日本、首相官邸。

 

神代(かみしろ)総理、現在尖閣諸島にて実施中の合同軍事演習についてですが……」

 

 暗がりに青白いライトが照らす。電子地図に浮かび上がる尖閣諸島周辺の戦域。その中心で、神代首相は腕を組んでモニターを見据えていた。

 

「ああ……何か問題でも?」

 

 低く押し殺したような声。額に刻まれたシワと鋭利な眼光が、部下の喉元を刺すようだった。

 

 その威圧に、若い防衛省の担当官が一瞬たじろぐ。手元のタブレットが微かに震えた。

 

「し、失礼します……。自衛隊諜報部より、極秘の通達がありました。明日未明、米軍が新設した魔法少女部隊──コードネーム《Wingshade Division》が、演習に合流するとのことです」

 

 室内の空気が一瞬で凍りつく。神代はゆっくりと振り返り、口元にかすかな笑みを浮かべた。

 

「……ついに()()()を切ってきたか、アメリカが」

 

 その声音には、怒りでも驚きでもない。ただ深い、冷酷な計算の色があった。

 

「彼らが我々に圧力をかけるなら……こちらもやり返さねばならないな」

 

 神代は重く息を吐き、椅子の背にもたれかかる。まるで次の一手を刺すような余裕を漂わせていた。

 

「F-0と……B-100を、演習中に展開させろ。もうすでに実戦投入可能な状態にあるはずだ」

 

 静かに告げられたその命令に、担当官の顔がこわばる。背筋が凍りつくような冷気が室内を満たした。

 

「し、しかし総理……! そんなことをすれば、明確に()()()()()()()と取られます。国内外のメディア、国連、NATO、あらゆる方面から非難が──平和主義に反すると──」

 

 神代は彼の言葉を遮るように、ゆっくりと立ち上がった。その顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

()()()()? ……そんなもの敗者の言い訳だ」

 

 部屋が静まり返る。神代は歩を進め、電子マップの前に立つ。そして尖閣諸島の上に指を置いた。

 

「歴史とは……勝者が描くものだ。そうだろう? 敗戦国のままいるわけにもいかない」

 

 誰も言葉を発せなかった。

 ただ、誰しもわかっていた。今から行われるのは演習という皮を被った政争だと。

 


 

 ──同時刻、尖閣諸島沖、米国海軍第7艦隊ジョージ・ワシントンの艦内。

 塩気がする空気が艦内を包んでいた。

 その一角にある作戦会議用のブリーフィングルームの中に俺たちは集められていた。

 明日が演習当日、それとともに俺たちの存在が全世界に示される日だ。──尖閣諸島が敵軍に占拠されたという想定のもと。自衛隊と米軍による()()()()()()が実行される。

 

 ただし、予想外の問題がひとつ発生していた。

 

「本当か!? 向こうも魔法少女を寄越してきたって? 」

 

 オリビアが頭を抱えてうめいている。彼女の眉間にはシワがよっていた。

 

「明日はよろしくお願いします」

 

 凛とした雰囲気をまとった少女が挨拶をしてきた。彼女の名前は村雨(むらさめ) 雫音(しおん)

 日本の保有する魔法少女の1人。演習への参加はアメリカへの対抗措置に違いない。完全に想定外の出来事だ。

 

 その服装は、和服をベースにした軍装を意識した意匠。艶やかさと機能美が同居するその姿には、戦場の華という言葉が相応しい。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 俺は握手を求める。第一印象は良くしといたほうがいい。タミスは……、戸惑っているようで俺の後ろに隠れている。

 村雨は、そんなタミスに目を向けながら優しく俺の手を握った。

 

「緊張されてるみたいですね。でも、大丈夫。敵じゃないですよ」

 

 その柔らかな物腰に、少し場の空気が和らいだ──と、思った矢先だった。

 

「フン、実戦経験のない甘ちゃんが……! 」

 

 グリムが悪態をつく。

 こいつのせいで印象が悪くなりそうになるのを必死に取り繕うとした。

 

「ふふ、グリムさんは個性的な人ですね」

 

 どうやら村雨のほうが精神的に大人だったらしい。それがグリムの癪に障ったようだ。

 グリムは顔を赤くして声を荒げる。

 

「僕のことを笑いやがって、明日の演習でけちょんけちょんにしてやる! 」

 

 まるで子どものような啖呵だった。

 俺は小さくため息をつきながら、タミスの手を握る。彼女の手は少し震えていた。

 

 その日の夜だった。壁越しで整備音が聞こえる狭い寝室で寝ようとした時、明かりを落とした薄暗い部屋の中、誰かが俺のベッドに近づいてきた。

 

「どうしたんだタミス? 眠れないのか? 」

 

 ベッドの中に立ったタミスが、俺の腰の裾をそっと掴む。

 

「怖いよ……お姉ちゃん。すごく嫌な感じがする……」

 

 彼女は今にも涙でうるんだ目で俺を見上げる。まるで暗闇そのものが彼女を見つめているようだ。

 どうしてやればいいのか、頭が真っ白になる。だがゆっくりと思い出すことにした、自分が小さな子どもだったときを。自分が夜、怖くて怯えて眠れないとき母親はどうしてくれたかを。

 

「じゃあ、俺と一緒に寝るか? 」

 

 タミスは黙って頷いた。そして、俺のベッドに潜り込んでくる。ただえさえ1人でも狭いベッドが余計狭くなる。でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。タミスの体温が俺の胸元に伝わる。

 10分と経たずにタミスは俺の腕の中で眠った。静かな寝息を立てる彼女は幼い子どもそのものだった。魔法少女──そんな異形な存在だとは到底思えない。

 

「あなたは、優しい人なのですね……」

 

 隣から声がする、エレクシアだ。彼女の姿は影のように溶けていたが。その声には確かに芯のある温かさがあった。

 

「ここ数日、きっと困ったでしょう。疲れてはいないですか? 」

 

「これくらい慣れてるさ」

 

 そう答えながら、俺は視線を落として、そっとタミスの柔らかな髪を撫でた。その感触は、不安を少しだけ忘れさせてくれるような気がした。

 

「グリムはあんなことを言いますが、気にしないでください。あの人の言葉に価値を見出すのは時間の無駄です」

 

 静かに、迷いなく放たれたエレクシアの言葉に思わず笑いをこぼしそうになった。

 普通は『根はいい人だから』とか『慣れてないだけ』って、言うものじゃないのか?

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 肩の力を抜いて返すとエレクシアはふっと笑いった。その表情は暗闇の中でもはっきりと見えた。

 

「おやすみなさい、レイヴン」

 

 彼女は一礼すると、音もなく去っていった。うっすらと見える背中はとても静かで、なぜか寂しく見えた。

 

 タミスの寝息が深く穏やかなものに変わっていた。

 

「お姉ちゃん……行かないで……」

 

 小さな声がベッドの中に響く。タミスの寝言だった、よくない夢でも見ているのだろうか。

 

「ああ、どこにも行かないさ」

 

 起こさないように俺はできるだけ優しい声色で返す。そのときだった。

 

『お兄ちゃん! 行かないで! 』

 

 耳鳴りとともに、タミスのものではない何者かの声が頭の中に反響する。自然と呼吸が荒くなる。

 

 一体、誰の声だ……。

 

 呼吸を整えた後、俺は疑問を拭うために、静かに目を閉じながら、胸の奥に、言葉にならないなにかが芽生えてるのを感じた。




【極秘資料 - 機密指定:TOP SECRET/LEVEL 4】

項目:日本における次世代航空戦力の独自開発計画に関する分析報告

概要:

近年の情報収集および関係機関からの報告に基づき、日本が米国の監視・共同開発体制の枠外で、第6世代戦闘機およびステルス爆撃機の独自開発を進行中である可能性が極めて高いと判断される。ステルス性能および無人自律型兵器との連携を前提とした長距離侵攻型航空戦力の存在が指摘されている。

主な懸念点:
• 機体開発は米国提供のF-X技術基盤を逸脱しており、完全な自主設計と推測される。一部では、欧州製アビオニクスや極超音速推進システムとの統合試験も進行中との情報。
• ステルス爆撃機は長距離戦略投射を可能とする構造・出力を有しており、特定の敵性 国家のみならず同盟国への威圧にも転用可能。
島嶼防衛という建前のもと、台湾・朝鮮半島・中国沿岸部を射程に含む運用半径が想定されている。
• 現時点では公式な記録も国際連携開発枠組みにも該当せず、「影の航空兵器計画」としての計画が濃厚。
  この開発計画が事実であれば、米日間の軍事信頼関係を根底から揺るがす外交リスクを孕む。

推奨対応:
1. 対日監視衛星の運用優先度を一時的に上昇。航空自衛隊基地周辺での不自然な発着記録の再分析。
2. 情報機関を通じ、三菱重工・IHI・防衛装備庁への非公式ヒューミントを強化。
3. 必要に応じて「技術情報共有協定違反」に対する外交圧力および対話のカードとして 使用可能。
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