現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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雑談

 首都攻略作戦は多国籍軍の完全な勝利、のはずだった。

 

『こちら司令部、SEALSチーム6が核弾頭と見られる装置を発見した。現在、核緊急支援隊が解除作業にあたっている。全多国籍軍部隊は直ちに作戦区域から離脱しろ。繰り返す、離脱しろ──オーバー』

 

 無線に乗ったその声は冷静を装っていたが、明らかに動揺が滲んでいた。

 その内容は戦場全体に遅れて理解される恐怖をばら撒く。

 

 前進していた戦車が停止し、突入していた歩兵が足を止める。

 誰もが一瞬、状況を飲み込めず──そして次の瞬間、理解した。

 

 ここは“核の中心”だ。

 

『ふざけんな……今さら下がれるかよ! 』

 

『どこに逃げろって言うんだ! 包囲してるのはこっちだぞ! 』

 

『──待て、優先順位は? 誰が指揮を取ってる!? 』

 

 焦りからくる錯乱と悲鳴の無線は一気に飽和し、命令と怒号と恐怖が入り混じる。

 統制は一瞬にして完全に崩壊した。

 

『駄目だ!! 解除できない! 』

 

 一際大きな叫びが悲鳴に割り込む。

 

『トリガーが多重かされている! 早く逃げろ!! 』

 

 各緊急支援隊の兵士の切れ切れの息継ぎは、一瞬沈黙した。

 

 そして、泣き叫ぶような声がこだます。

 

『──起爆シーケンスに入った!! 』

 

 その瞬間、戦場にいた兵士は全員同じ未来を見た。

 

 逃げ場はない。

 時間もない。

 

 ──ここにいる全員が、死ぬ。

 


 

 ダマスカス上空、高高度を旋回するUAV。

 その光学センサーが捉えた地上の映像は、リアルタイムで一つのモニターに映し出されていた。

 

「あーあ……」

 

 気だるげな声が、暗がりの中落ちる。

 

「もう手遅れね。完全に詰みよ。チェックメイトだわ」

 

 モニターの光に照らされているのは、長身の男──梅花(バイカ)

 190を優に超えるであろう影の中で歪に伸びる細身の体躯、そして、美男子その言葉を体現したような顔立ち。

 

 その朱という表現が相応しい唇は笑っている。

 だが、その目は、刻一刻と壊されていく現世(セカイ)の景色を楽しんでいるだけだった。

 

 彼の後ろには2人の少女が瓦礫の上に座って手遊びしていた。

 2人ともかつての極東の帝国を連想させるような黒いダボついた軍服を着ている。軍服には黒と灰色で旭日旗が刺繍されていた。この場において、それは国家の象徴ではなく、この世に存在してはならないモノのように月明かりに反射していた。

 

「……もとからこうなる予定だったんでしょ?」

 

 縁のない丸メガネをかけた少女──回天(カイテン)が、小さく呟く。

 

「いっぱい死んじゃうよ? なにが目的なんだろう、お姉ちゃん」

 

「さあね」

 

 眼帯の少女──桜花(オウカ)が、興味なさげに答える。

 

「でも、知らなくても関係ないよ。それに、どうせ私たちには教えてくれないし……」

 

 桜花は手遊びを続けながら、視線すらモニターに向けない。その表情は何度も同じ昔話を聞かされた子どもの退屈さそのものだった。

 対して回天は、じっとモニターを見つめている。

 

「核武装をする口実作り、ってところじゃないかしら」

 

 梅花が両手をギュッと握り体を伸ばす。

 

「核攻撃で自衛官1000名以上が死亡。理由としてはほぼ完璧ね」

 

「でも、日本は……」

 

 回天が言いかける。

 

「先生は、核は──」

 

「あらやだァ……純粋」

 

 梅花はからかうようにクスリと笑う。

 

「学校で教わることなんて、大半は誰かさんが作った都合のいいお話よ。()()()()()()()? ──素敵な響きねぇ……、でも、とってもお馬鹿」

 

 わざとらしくうっとりと目を細める。

 

「戦争反対を謳う年寄りどもはあと数年で死に絶えるわ。残るのは頭が空っぽのかわい子ちゃんだけ」

 

「……よくわかんないよ……」

 

 回天は首を傾げた。

 

「いいのよ、それで」

 

 梅花は優しく笑う。その口角は明らか吊り上がっていた。

 

「純粋な子は嫌いじゃないわ。汚しがいがあるもの」

 

 チラリと、梅花は暗闇の奥を見る。

 そこに立っているのは、1人の隊員。顔はバイザーで完全に覆われ、表情は一切読み取れない。

 

「でもねぇ、上層部も大変よね。わざわざ()()()()使()()なんて」

 

「……なにか言ったか? 」

 

 低く、抑えられた濃い殺意が混じった声。

 

「いいえ? なにも? 」

 

 梅花は肩をすくめる。

 

「そんな顔しないで、ケイトちゃん、ゾクゾクしちゃうじゃない」

 

 バイカは赤らめた表情を両手で隠す振りをするが、指に隙間を作りモニターを見る。

 

「こんな興奮したの、9番目の彼氏に『心中しよう』って言われたときくらいかも♡ 」

 

「……気持ち悪い」

 

 回天がボソリと呟いた。

 

「お姉ちゃん、やっぱり梅花気持ち悪いよ。殺しちゃおう? 」

 

 梅花は大袈裟に身を引く。

 

「まあやだ! アタシを罵るのはポリコレ違反よ! 炎上しちゃうわよ! 」

 

「キモい! やっぱり殺すべきだよ! 」

 

「怖いこというのはやめて頂戴! アタシは男も女もイケるだけの平均的一般男性よ! 」

 

 梅花は舌をベっと出して笑う。目だけをモニターの方に向けて言った。

 

「……そろそろね」

 

 10秒ほど数えたあと、一回、パンと手を叩く音が静寂に響く。

 

「ボンッ!! 」

 

 梅花は愉快な声で一言。

 その瞬間、モニターの中のダマスカスの空が、白い閃光に包まれたあと激しいノイズと共にエラーメッセージに染まった。

 

 終わりが始まった瞬間だった。




■ 日本国防衛省 内部機密資料

■ 文書番号

防衛機密指定:特級機密(SSS)
識別コード:JMOD-Ω/PROJECT-KIKUSUI-02

■ 件名

第二次量産型魔法少女型兵器計画
「菊水 Project」概要報告書

■ 作成機関

防衛省
技術研究本部 / 特殊兵装開発局

■ 機密区分
• 閲覧制限:内閣安全保障会議構成員のみ
• 外部漏洩時:国家反逆罪適用対象

■ 1. 計画概要

本計画は、第一次量産型魔法少女計画において問題視された精神的不安定性および制御不能リスクの排除を目的とし、
完全制御型・量産兵器としての魔法少女の実用化を目指すものである。

■ 計画目的
1. 戦略級破壊能力の低コスト量産
2. 人的リスクの最小化(代替可能戦力の確保)
3. 非対称戦力としての優位確立
4. 核兵器に依存しない抑止力の構築

■ 2. 背景

第一次計画において以下の問題が確認された:
• 魔法少女の高い精神負荷による暴走
• 対象個体の感情変動による戦闘能力の不安定化
• 任務拒否・自我の覚醒

■ 評価結論

「自然発生型魔法少女は兵器として不適格」

■ 3. 技術的アプローチ

■ 3.1 デザイナーズベイビー技術
• 遺伝子操作により魔法適性を最大化
• 感情領域の選択的抑制
• トラウマ耐性の人工設計

■ 3.2 人格制御
• 教育段階からの完全管理
• 言語・倫理・価値観の限定的付与
• 命令絶対服従プロトコルの刷り込み

■ 3.3 魔法発現制御
• 魔法発現トリガーの人工制御
• 暴走時の強制遮断機構(未完成)

■ 4. 成果(第二世代個体)

■ ■ 成功例

● 個体識別番号:KKS-02A

コードネーム:回天
• 能力:精神干渉型(行動強制停止)
• 安定性:極めて高い
• 命令遵守率:99.8%

● 個体識別番号:KKS-02B

コードネーム:桜花
• 能力:高出力物理破壊型
• 火力:対艦級
• 精神状態依存性:中程度

■ 総合評価

「兵器として実用段階に到達」

■ 5. 運用ドクトリン

■ 基本方針
• 人間兵士の補助ではなく主戦力として運用
• 高リスク区域への優先投入
• 非公開任務(殲滅・抹消)での使用

■ 特記事項
• 国際法上の兵器定義に該当しないため、
戦争犯罪の立証回避が可能


■ 6. 問題点

■ 6.1 倫理的問題(報告制限項目)
• 人権侵害(該当項目:多数)
• 生体兵器条約違反の可能性
• 未成年兵の強制運用

※本項目は審議対象外とする

■ 6.2 技術的課題
• 長期使用による精神崩壊リスク
• 魔法出力の個体差
• 感情完全排除の未達成

■ 7. 今後の展開


■ 短期目標
• 量産体制の確立(第3ロット投入)
• 実戦データ収集(新シリア連邦戦域)

■ 中長期目標
• 完全無感情型個体の開発
• 魔法出力の均一化
• 核兵器代替戦力としての正式配備

■ 8. 特記事項(最高機密)

本計画は以下と連動する:
• カミカゼ特別選抜群(人的兵器)
• 核抑止政策転換(対外戦略)

■ 最終評価

「菊水プロジェクトは、日本の安全保障における“次世代抑止力”である」
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