タミスの魔法の破壊力は、俺の想定など容易に超えていた。
それは──まるで神話の再現。神の領域と呼ぶほかない、圧倒的で絶対的な力。
炎が渦を巻き、光がすべてを呑み込む光景を、俺はただ呆然と見ていた。
その場にいた全員が、言葉を失った。
直接命令を下したはずのオリビアでさえ目を見開いたまま、ただ呆然と立ち尽くす。
普段なら皮肉を飛ばすグリムですら声を発せない。
たった1人の少女が、──世界の常識を歪めた。
その現実を目の前にして、胸の奥が冷たくなる。兵器としての魔法少女という存在に対する恐怖と魔法の発動を成功させたタミスに対する安心、自分でも判断できない感情が渦を巻いた。
だが、余韻は一瞬で終わる。
──警告音。
無線の機械的なアラートが甲高く鳴り響き、沈黙を切り裂くように緊急通信が飛び込んできた。
『……レーダーに接近反応あり。西方よりマッハ1.3、高度1万3千。機種はJ-20 “威龍”と推定』
無線の機械音が、首筋を氷の刃でなぞられたかのような感覚をもたらす。
オスプレイの内部に緊張が走り、全員の表情から血の気が引く。視線は自然と無線機へと吸い寄せられた。
「嘘だろ……」
ぽつりと俺の口から、乾いた声が漏れた。冷静を保とうとするが、額からじわりと嫌な汗が吹き出る。
そんな状況を嘲笑うがごとく最悪の報告は続く。
『日本側から通達。威嚇射撃後も中国軍機が空域を離脱しない場合──撃墜する、とのこと』
「……は?」
オリビアの口から漏れたのは、驚愕と怒気が混ざった低い声。その声は低く震えていた。
冗談で済む話ではない。彼女は即座に怒鳴った。
「何を言ってる! 撃墜なんて許可できるわけないだろ! 今すぐ中止させろ! こちらの指揮系統に回線を繋げ!」
その声には焦燥と、人間としての恐怖が混じっている。
ほとんど奪うように通信兵のヘッドセットに手を伸ばすオリビア。だが、返ってきたのはさらなる絶望だった。
『それが……日本側はすでにF-0戦闘機を発進済みです』
空気を切り裂くような轟音が聞こえた。俺は思わず窓の外を見る。
次の瞬間、衝撃波とともに鋭い機影が視界を切り裂いた。米軍艦隊の上空を通過したものと同型F-0が──白い尾を引きながら雲間へ消えるF。
日本は、本気だ。
この状況で撃墜などすれば、演習は一瞬で実戦に変わる。
数分前まで“安全な訓練”だったはずの空は、今や引き金ひとつで世界を巻き込む火薬庫と化していた。
戦争が、手を伸ばせば届く距離まで迫っていた。
空母ジョージ・ワシントン ― 司令室
『F-22を出せ! 今すぐにだ!』
緊急チャンネルに怒声が響き渡る。声の主は第七艦隊の上級将校か──もはや誰が叫んだかは問題ではなかった。
『日本機に中国機を撃墜させるな! 絶対にだ!』
誰もが事態の重大さを理解していた。交戦は即ち、第三次世界大戦の引き金。わずかな判断ミスが、世界の均衡を崩壊させる。
艦上カタパルトが甲高い悲鳴を上げ、F-22ラプターが白煙を裂いて飛び出す。わずか数秒で艦隊上空を離れ、演習空域へ向けて急旋回、加速。
『……ダメだ、追いつけない! なんだあの加速は!』
哨戒機からの悲鳴に近い報告が入る。
すでに日本の次世代戦闘機F-0が、J-20との距離を信じられない速度で詰めていた。ミサイルではなく、至近距離での格闘戦に持ち込むつもりだ。
『日本機が撃った!』
閃光。F-0のバルカン砲が火を噴き、曳光弾がJ-20をかすめる。音速を超える衝撃波が空域を引き裂いた。
『F-0をロックオンしろ! 威嚇だ、撃つな!』
即座にラプターのパイロットへ命令が下る。だが、その返答は想定外だった。
『……ロックできない! ノイズが酷い……ジャミングだ! 電子妨害を受けてる!』
スクリーン上のマーカーが乱れ、ロックオンが無効化されていく。
米軍の司令室に低い罵声が漏れた。
『日本機、ミサイル発射! 接近中!』
警報がけたたましく鳴り響き、モニターにはチャフとフレアを撒き散らしながら急降下するJ-20の映像が映る。だがF-0はすでに次弾装填、射角を合わせていた。
──その瞬間、轟音。
一機のF-22が低空から弾丸のように飛び出し、F-0とJ-20の間に割って入った。
『……間に合ったか!』
F-0はロックオンを外す。その隙を突き、J-20は雲間へ姿を消した。
次の瞬間、米軍司令室のスピーカーに焦りを含んだ声が響く。
『日本機が空域を離脱しない! 何か企んでる!』
『追跡しろ! これ以上、余計な真似はさせるな!』
だが、F-0はラプターを置き去りにする速度で進む。その航路は一直線──まるで何かを狙っている。
『まさか……』
F-22パイロットの声が低く震える。
『日本機、中国軍艦艇上空を通過! 繰り返す──』
司令室の大型モニターに映し出された映像は、F-0が超低空、わずか数十メートルで中国海軍フリゲートの上空をかすめる瞬間だった。
それは明らかな武力の誇示──「いつでも撃てる」という、日本側からの無言の通告。
2度にわたり中国艦の真上を飛び抜けたF-0は、何事もなかったかのように空域を離脱していった。
──この出来事は後に「尖閣危機」と呼ばれ、東アジアの軍事バランスを根底から揺るがす事件となる。
公開可能な情報
F-0 零戦 ― 第6世代多用途ステルス戦闘機
■ 開発概要
• 開発国:日本(防衛装備庁+三菱重工+IHI+NEC複合開発体制)
• 開発目的:アジア太平洋圏の航空優勢確保、戦域外攻撃能力の確保、電子戦環境下での生存性向上
• 初飛行:2023年(極秘裏に実施)
• 就役予定:2026年(公には未発表)
■ 機体構造・寸法
• 全長:20.2m
• 全幅:14.7m(可変翼先端)
• 全高:5.1m
• 最大離陸重量:38,000kg
• 空虚重量:18,500kg
• エンジン:IHI XF9-2 高推力アフターバーナー付きターボファン × 2基(推力ベクタリング対応)
• 推力(AB時):1基あたり20トン級(合計約40トン)
■ 性能
• 最大速度:マッハ2.5+(超音速巡航可:マッハ1.8)
• 航続距離:約4,500km(増槽なし)
• 戦闘行動半径:2,000km(ステルス・兵装搭載時)
• 実用上昇限度:22,000m
• ステルス性:全周ステルス(マルチバンドRAM/メタマテリアル吸収材使用)
• レーダー反射断面積(RCS):0.0005m²以下(F-22の約1/10)
■ 特徴・先進機能
• AI統合戦術支援システム(AISA)
パイロットの意思を予測・補完する国産AI戦術支援。電磁波干渉・センサー情報統合解析をリアルタイム実行。
• 無人機の運用機能
最大4機の無人ステルスドローン(通称:隼型)を指揮可能。電子戦・囮・攻撃に対応。
• 量子通信対応
地上・衛星・僚機との非傍受型通信システムを搭載(試験段階)。
• レーザー迎撃装置(試験搭載)
赤外線ミサイル迎撃用に低出力レーザーを装備(正式採用は未定)。
• 極低周波環境下での戦闘能力維持
EMP耐性、GNSS(GPS)ジャミング環境下での自律航法能力を搭載。
■ 兵装
• ウェポンベイ内搭載兵装(ステルス維持時):
• AAM-6改(日本独自開発空対空ミサイル)× 6発
• ASM-4C(超音速ステルス空対艦ミサイル)× 2発
• JSM(Joint Strike Missile 日本仕様)× 2発
• ハードポイント搭載兵装(ステルス解除時):
• 対地精密誘導爆弾、巡航ミサイル、ECMポッドなど最大6,000kgまで
■ 特記事項
• F-35とのネットワーク連携可能(ただし制限あり)
• 開発は米国には非公開の機密計画(コードネーム:Zero Fighter)
• F-3(三菱・ロッキード共同開発機)とは別系統の完全国産開発機