現代戦争における魔法少女の戦略的価値   作:無能メンヘラ

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おそろい

 雑貨屋のショーウィンドウに並ぶクマのぬいぐるみを、タミスはまじまじと食い入るように見つめていた。

 

 そのガラスの向こうには、俺が知ることのないはずだった世界が広がっていた。中世ヨーロッパの街並みが描かれた切手、判読が困難なほど崩れた英字が刻まれたマグカップ、古いハリウッド映画のポスター、──すべてが現実から少し切り離された、異世界の中に入り込んだかのようだった。

 

「クマさんがいっぱい! 」

 

 タミスの声が弾む。行儀良く並べられたぬいぐるみたちは、大きさも形もまちまちだ。手のひらに収まる小さなものから、両腕で抱えなければ持ち上がらないほどの大きなものまで。

 

「タミス、どれが欲しいんだ? 好きなやつでいいぞ」

 

「うーん……えっとね……」

 

 彼女はひとつひとつ確かめるように視線を移し、真剣そのものの表情で選んでいた。その瞳に映るのは、戦場では見せることがない、年相応の少女のきらめきだった。

 

「これがいい! 」

 

 タミスはひとつのクマのぬいぐるみを抱き上げた。ボタンでできた目、少し歪んだ縫い目。他のぬいぐるみに比べれば簡素で、不器用な温もりが残っている作りだ。けれど、その素朴さこそが彼女を惹きつけたのだろう。

 

 "本当にそれでいいのか? "

 

 ──そう問いかけの言葉が口から出そうになったが、タミスの表情を見て呑み込んだ。

 迷いのない笑顔から見るに余程気にいるところがあるようだ。あれが彼女にとっての一番の()()なのだろう。大人が口を出して壊していいものではない。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

「……どうした? 」

 

 タミスは胸に抱えたぬいぐるみを胸にぎゅっと押し当てながら、別の棚を指差した。

 そこには、小さなクマのマスコットがずらりと並んでいた。

 

「あれ、みんなで()()()()にしたい! 」

 

 みんな──きっとエレクシアとグリムのことだろう。

 エレクシアなら、きっと照れくさそうに笑いながらも受け取ってくれるに違いない。だが、グリムはどうだ? あの性格だ、素直に喜ぶ姿なんて想像しづらい。……いや、あの調子だと案外、気まぐれに受け取ってくれるのかもしれない。

 それでもタミスの願いに濁りはない。彼女にとって、それは()()()()()()を意味しているのだから。

 

「いいよね!?」

 

 タミスが期待に満ちた瞳で見上げてくる。断るなんて選択肢は、初めから存在しないような眼差しだった。

 

「ああ、いいぞ」

 

 俺が答えると、タミスの顔がぱっと花開くように明るくなる。その笑顔を見た瞬間、迷いや逡巡なんてどうでもよくなった。

 ──この子の望むことなら、できる限り叶えてやりたい。そう強く思った。

 

 雑貨屋を出たあと、タミスはずっと袋をぎゅっと胸に抱えていた。中には大事そうに包まれたクマのぬいぐるみと4つのマスコット。

 

「ねえ、お姉ちゃん! 早く渡したい! 」

 

 せっかちに小走りで進んでいくタミスの後を追うと、ちょうど路地の先にエレクシアとグリムが立っていた。

 

「エレクシアお姉ちゃん! グリムお姉ちゃん! 」

 

 タミスは2人に駆け寄り、小さな手で袋をごそごそと探る。そして取り出したクマのマスコットを差し出した。

 

「これ……みんなでおそろいにしたいの! プレゼント! 」

 

 エレクシアは一瞬きょとんとした後、目を細めて優しく笑った。

 

「まあ……ありがとう、タミス。大切にしますね」

 

 その声は抱きしめるように優しかった。

 

 対照的に、グリムは腕を組んで鼻で笑う。

 

「ふん、僕がこんなものをつけるとでも……? 」

 

 タミスの笑顔が少しだけ曇った瞬間、グリムは小さくため息をつき、わざとらしく視線を逸らした。

 

「……まあ、僕だけ仲間外れになるのは嫌だし、受け取ってやるよ」

 

「ほんと! やった! 」

 

 タミスは飛び跳ねるように喜び、グリムは顔をそむけたままマスコットを腰のカラビナにつけた。

 ──不思議なことに、それは驚くほど似合っていた。

 

 タミスも満足げに、心の底から嬉しそうに笑っている。タミスの方を見ていると彼女は思い出したかのように俺の方に駆け寄ってきた。

 

 

 次にタミスは振り返り、俺の手に同じマスコットを押し込んできた。

 

「はい! お姉ちゃんの!」

 

「……ありがとな」

 

 俺はその小さな贈り物を、まるで壊れ物を扱うように大事に受け取った。

 

「おそろいだね!」

 

 タミスが差し出した自分のマスコットと、俺のものを並べる。

 ちいさなぬいぐるみが二つ、揺れながら同じ光を反射した。

 

「ああ……おそろいだ」

 

 その瞬間、胸の奥に温かな灯がともった。

 戦争も、不安も、彼女の正体にまつわる影すらも、この一瞬だけは遠く霞んでいく。

 

 ──この小さな「おそろい」は、ただの飾りじゃない。

 俺たちが共に在る証だ。

 だからこそ、これだけは絶対に守り抜く。心の底から、そう誓った。




公開可能な資料(演習後の各国の声明)
アメリカ合衆国(国防総省発表)

 本日の合同演習において発生した一連の出来事は、我が国及び同盟国の安全保障に重大な懸念を与えるものである。米軍機は即座に介入し、不測の事態を防止した。我々は引き続き、インド太平洋地域の平和と安定を守るため、同盟国・パートナー諸国と緊密に連携していく。すべての関係国に対し、冷静かつ責任ある行動を強く求める。


日本国(防衛省発表)

 本日実施された多国間演習において、我が国の航空自衛隊機が中国軍機の異常接近に対応した。自衛隊機は国際法および自国の防空識別圏に基づき、適切かつ最小限の措置を取ったものである。今回の行動は純粋に防衛的措置であり、地域の平和と安定を損なう意図は一切ない。むしろ一方的な挑発を行ったのは中国側であることを強調しておきたい。

中華人民共和国(外交部発表)

 本日、米日による軍事演習の過程で、日本側戦闘機が中国軍機に対し極めて危険かつ挑発的な行為を行った。我々はこれを断固として非難する。中国は国家の主権と領土的一体性を守るため、必要な措置を取る用意がある。米日両国に対し、地域の緊張を高める無謀な行為を直ちに中止するよう強く要求する。

ロシア連邦(外務省発表)

 我々は東シナ海で発生した深刻な事態を注視している。外部勢力による軍事演習が地域の安定を損ねることは、極めて憂慮すべきである。ロシアは一貫して対話と外交的解決を支持してきた。関係国には自制を求めるとともに、軍事的冒険主義を慎むべきである。
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