小説投稿経験が少ないので、読みずらいなど何かあればコメントいただけると嬉しいです。
『勝者、潮田渚!』
放送と同時に、アリーナの観客席がどよめきと歓声に包まれる。
「男が女に勝つなんて……」「代表候補生に勝っちゃった……」
「なぎちゃん、すごーい!」「……最後のアレなんだったんだろう? 猫だまし?」
――勝った。
その実感がようやく、じわじわと胸の奥から湧き上がってきた。
僕はゆっくりと手を伸ばし、気を失った彼女――セシリア・オルコットの身体を支える。
そして、そのまま自然と……いや、ほとんど無意識に、彼女をお姫様抱っこの形で抱きかかえていた。
「ああ……本当に、勝てたんだ」
緊張がほぐれると、全身の力が一気に抜けそうになる。
でも、ISをまとっているとはいえ、彼女は今、完全に意識を失っている。
このまま落ちたりしたら、大怪我を負ってしまうかもしれない。
僕はそのまま、彼女を抱きかかえながらピットへ向かって飛び立つ。
アリーナは、先ほどまでとはまったく違う熱気に包まれていた。
観客の視線が、明らかに僕に集まっている。
……なぜだろう? よくわからないけど、たぶん、気のせいだよね。
「えっ、お姫様抱っこしてる……!?」「いや、まあ、気絶してるからな……」
「セシリア代表候補生があんな風に運ばれるなんて……」「羨ましい!」
歓声に混じる、ひそひそとしたさまざまな反応。
でも、今の僕には、それらを気にする余裕はなかった。
ピットの扉が開き、スタッフが慌ただしく駆け寄ってくる。
僕は、そっとセシリアを支え直しながら彼女を引き渡した。
そのとき――
ちらりと彼女の顔を見た。
汗をにじませた額。普段は自信に満ちていた唇も、今は静かに閉じられている。
……戦っていたときは、正直、怖かった。
強くて、自信にあふれていて、容赦のない攻撃を次々に仕掛けてきた。
でも、それでも彼女は最後まで手を抜かなかった。
その強さと誇りは、本当に――かっこよかった。
「渚くん!」
声を上げて走り寄ってきたのは、楯無さんと簪さんだった。
「お姫様抱っことか……ええ、これはまるで少女漫画のような展開ねぇ!」
「ちょ、ちょっと! セシリアさんは気絶してるんだよ!? あんまり……からかわないでよ……!」
「ふざけてないわよ? 渚くんの腕の中で気絶とか、これはポイント高いわね~♪」
「何言ってるんですか?!」
僕は思わず、敬語も忘れて反論してしまった。
それを見て楯無さんは楽しそうに笑い続けている。
簪さんも近づいてきて、僕を見ながら話す。
「でも、本当にすごかったよ、渚くん……!」
「うん。ありがとう。簪さんと楯無さんが、特訓してくれたおかげだよ」
僕は心からの感謝を込めて、まっすぐにそう伝えた。
ふと、視線を感じてそちらを向くと――
ピットの隅には、篠ノ之さんとフィッティングを終えたばかりの白式を装着した織斑くんの姿があった。
「やったな、渚!」
「潮田、いい試合だった」
「二人とも……ありがとう」
そして、その後ろでは、織斑千冬先生がモニターを静かに見つめていた。
その瞳には、鋭い光が宿っている。
「暗殺技術は、IS操縦者にも通用する……か。
潮田渚――この少年が、周囲にどんな影響を与えていくのか」
誰にも聞こえないような、小さな声。
だがその言葉には、確かな興味と、一抹の警戒が込められていた。
「さて……オルコットが気を失っている以上、次は織斑と潮田の試合を行う。潮田が使用していたラファールの補給が完了し次第、試合を開始する」
織斑先生の言葉に従い、僕は別のピットに移動する。
ラファールの補給は、整備科の生徒が手配してくれるそうだ。
(……自分専用のISを持てるようになったら、こういう知識も覚えておかなきゃな)
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから足音が聞こえる。
振り返ると、楯無さんと簪さんが、当然のようについてきていた。
ピットに到着すると、僕は律さんに頼んで調べてもらった、織斑くんが使う白式のテストデータを確認する。
(あくまでテスト段階のデータだけど……無いよりはずっとマシだ)
データによると、白式は、オルコットさんのブルー・ティアーズよりもスピードに優れる機体らしい。
そして最大の特徴は――近接武器一本のみで、近接戦に特化していること。
(さっきのオルコットさんは遠距離特化で、今度の織斑くんは近接特化か……
今日の相手、どっちも極端だなあ)
「渚くん、作戦はあるの?」
楯無さんが軽い調子で尋ねてくる。
「作戦らしい作戦はないですが……速攻で仕掛けたいと思っています。」
「速攻?」
「速攻……?」
二人そろって首をかしげる。その動きが妙にシンクロしていて、ちょっと笑いそうになる。
こういうところ、本当に姉妹なんだな。
「はい。織斑くんは、ここ一週間ほどISを動かせていなかったみたいです。
つまり、ISを動かした経験は、入試の時の一度きりの可能性が高いので、操作に慣れる前に一気に勝負を決めてしまおうかと」
「なるほどね。理にかなってるわ♪」
「さすが、渚くん……!」
楯無さんが満足そうに頷き、簪さんも目を輝かせて褒めてくれた。
(……あとは、実行あるのみ、だ)
アナウンスが響き渡る。
『次の試合――潮田渚対、織斑一夏!』
観客席から一斉に歓声が上がった。
セシリアに勝利した余韻が冷めやらぬまま、今度は先ほどの試合とはまた違う熱気。
なにせ世界に二人しかいない男性操縦同士の試合だ。
僕は深呼吸して、視線を正面へ向ける。
白式をまとった織斑くんが、すでにアリーナ中央で待機していた。
彼の顔には、不安よりも期待の色が強く浮かんでいる。
「渚、全力で来いよ!」
「……もちろん」
返事をしながらも、頭では改めて情報の整理をしていた。
――武装は一本の近接武器のみ。
射撃武器はなく、完全な近接特化。
そして、彼自身はまだIS操作の経験が浅い。
(やっぱり……最初の隙を突くしかない)
「試合開始!」
号令と同時に、僕はラファールを加速させた。
最初からトップスピード――一瞬で間合いを詰め、先制の突きを放つ。
「うぉ!」
僕の剣は当たったけど、織斑くんはぎりぎりで身をひねったため、かすったようなあたりにしかならなかった。
技術は荒い。けど反射神経はいい。もしかしたら、篠ノ之さんとの特訓が生きているのかもしれない。
観客席がどよめく中、僕は次の一手に移った。
暗殺の基本は、相手の「無意識の隙」をつくこと。
彼が刀を振った瞬間、必ず生まれる死角――そこを狙う。
「はっ!」
織斑くんが力任せに斬りかかってきた。
その瞬間、僕は姿勢を低くし、地を這うように滑り込む。
織斑くんから「消えた!?」という声が聞こえる。
(――ここ!)
背後に回り込み、ラファールの刃で切りつける。
「ぐわぁ!」
織斑くんが後ろに下がったところを追撃するために追いかけ、剣を振るう。
しかし、織斑くんはすぐに態勢を立て直し、僕の剣を受け止めた。
剣と剣が軋み、火花が散る。次の瞬間、二人は弾かれるように距離を取り――観客席から轟音のような歓声が押し寄せた。
「やっぱり強いな、渚!」
「織斑くんもIS二回目でこんなに動けるなんてすごいよ!」
(……そろそろ織斑くんも操縦に慣れてきている。
ラファールで正面戦闘を続けるのは、もう厳しくなってきた。)
「なら、」
織斑くんは白式の刀を構え直し、真正面から突撃してくる。
僕は距離を取るように後ろへ下がり、剣からライフルに持ち替えて、織斑くんを狙いながらも散らすように撃ち続けた。
「くっ…!」
織斑くんは空中を縦横無尽に飛び回り、必死に回避しようとする。
けれど、慣れてきたとはいえやっぱり操縦が甘い部分がある。
一緒に特訓した更識姉妹やオルコットさんと比べれば、確実に狙いやすい動きだ。
僕は続けて、本命の弾と牽制弾を混ぜながら織斑くんのシールドエネルギーを削りきるようにライフルを打っていく。
しばらく逃げ続けていた織斑くんだったが、急加速でこちらに突っ込んできた。
おそらく、思ったよりシールドエネルギーが減っていないと気づいて、先ほどのオルコットさんと同じく被弾覚悟で勝負を決めにきたのだろう。
「はぁぁぁっ!」
「……っ!」
とっさに剣を呼び出し、鍔迫り合いになる。
凄まじい衝撃が全身を揺さぶった。
押し負ける。
正面からの力比べなら、彼の方が圧倒的に上だ。
(やっぱり……正面戦闘は不利だ!)
僕は力を抜き、押される勢いを利用して後方へ飛ぶ。
すかさずライフルを構え、牽制なしの本命弾だけを撃ち込んだ。
けれど、織斑くんは僕の攻撃など気にせず突っ込んでくる。
その剣が、眩い白光を放っていた。
(あれは、律からもらったデータにはなかった。
どういうものかわからないけど、あれに当たったらダメな気がする…!)
しかし、スペックの差でもうすぐそこまで来ていた。
「行くぞ!」
叫びとともに、白式の剣が大きく振りかぶられる。
僕は体をひねり、紙一重でかわす。
神経の先まで研ぎ澄ませなければ、掠っただけでも致命傷だ。
「まだ終わってない!」
織斑くんが切り返し、よけきれず態勢を崩した僕の前に剣が振り下ろされる。
(まずい……! 避けきれない!)
勝敗を悟りかけた、その瞬間――白式の刀身を包んでいた白光がふっと掻き消えた。
――そして
『勝者――潮田渚!』
「「……え?」」
アリーナに放送が響き渡り、状況を理解できない男が二人残った。