Project E.D.E.N. ~古代の花園~   作:濃霧/Nolm

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Welcome to Sanctum Ruina

 夏休み初日。俺はウキウキな気分で目を覚ますと、そこは無人島だった。

 いや、無人かはわからない。ただ、少なくとも俺の寝転がっていた砂浜の周辺には人の気配がなかった。

 潮の香りが鼻を通り、ただ静かに波が浜辺を撫でては引いていく音だけが聞こえる。

 一度深呼吸をして、自分の右頬を叩く。痛い。夢ではないようだ。この状況夢じゃないとは信じたくはないが、今は信じる他ないのだろう。

 軽く溜息を吐き、この周辺ぐらいは探索しようと歩みを進めた、そんな時、草むらから何か生物が出てきた。

 それは、四足歩行で、小さな身体を持ち、その姿に似つかわしくない牙を二本持った生物だった。一瞬、俺は理解を拒んだ。その生物は図鑑などで見たことがあった。存在()()()()ことも知っている。しかし、今ソイツは俺の目の前で動いている。

ソイツ────リストロサウルスは、何千万年も前に絶滅したはずなのに、だ。

 俺が小首を傾げていると、不意に後ろから何かに突かれる。驚いて振り返ると、鶏のようでいて鶏とは違う鳥が佇んでいた。これも絵やゲームでしか見たことないが、ドードーという鳥なのでは。

 その時、不意に頭の中でとある可能性を思い出す。

 これは、ゲームの中なのでは?と。

 確かそのゲームでは、左手首に謎の石が埋め込まれているはずだ。そう思って左手首を眺めるが、特に何かが埋まっている様子はなかった。そもそもそのゲームではプレイヤーはパンイチで始まるはずだが、俺は今服を着ている。

 もしやと思い、目元に手を持っていくが、特にVR装置のようなものはない。

 人間、本当に理解できない時は冷静になることもあるというが、それは事実らしい。

 ふと、手癖でポケットに入っているスマホを取り出す。

 

 ……うん?スマホ?

 疑問に思って眺めると、それは長方形をした黒色の筐体なのは間違いないが、ブランド名や社名などは一切刻まれていない無骨なデザインをしていた。特にスマホカバーのようなものも付いていなく、俺のものではない。

 若干の警戒心がありながらもスマホ型をしたそれを起動する。すると、画面には「Alveron Genetics」という聞いたことのない会社のロゴが映し出されてから、何か文章が表示される。

 そこそこ長いが、要約すると、

『この島の名前はサンクタム・ルイナ島。Project E.D.E.N.という実験のために作られた人工島であり、古生物が時代関係なく存在している。俺たち探索者の役割は、この島に存在する六頭の頂点捕食者と一頭の番人を討伐すること』

 だそうだ。これまた聞いたことのない島の名前に実験だ。そもそも無関係な人間を実験に巻き込むなっての。

 多少の苛立ちを感じつつ、他に情報がないかと操作をしていくと、地図のアプリのようなものが目に留まった。

 開いてみると、端末が独りでに画面を空に向ける。突然のことに狼狽えていると、画面から3Dで立体的な島のホログラムが現れる。そんなSFチックな演出に、俺は内心興奮してしまった。

 高鳴る胸を抑え、簡単に見ると、あまり地理学には詳しくないが、火山エリア、森林エリア、湿地エリア、というようにいくつかのバイオームが存在する巨大な島であることは分かった。

 大方見終えたところで、火山の頂上付近に『???』と書かれた謎のピンが立てられていることに気が付く。得体のしれない恐怖に飲まれそうになりながらそっと触れようとした時、俺の足元から何かの鳴き声が聞こえる。

 咄嗟に地図を閉じ……ようとして方法が分からず、手こずりながらもなんとか閉じて足元に目を向けると、俺の腰ほどの高さで二足歩行の可愛らしい恐竜がこちらを見ていた。

 こいつは俺の判断が正しければコエロフィシス、またはコンプソグナトゥス。大きさ的にはコエロフィシスだと思う。

 ただし、問題なのはどちらにせよ肉食である、ということだ。もしかしたら、いやほぼ確実にこちらを獲物だと捉えてるだろう。

 こういうときに重要なのは冷静さだ。クマに遭った時にも目を見ながらゆっくりと下がるべきだと爺ちゃんも言っていた。まさかこんなところで役に立つとは、会う時があれば感謝しよう。

 なるべく音を立てないように、慎重に後ろに下がっていくと、俺の脇をすっと通過していく生物が一匹。先程とは別の個体のリストロサウルスだ。

 リストロサウルスはコエロフィシスに気付くと、その短い足で慌てて逃げようとする。しかし、コエロフィシスは素早く反応し、その小さな首に噛みつくと一瞬で絶命させてしまった。

 命が目の前で一つ失われたことに衝撃が走るが、それと同時に隙が出来たことで安堵の気持ちも湧き上がってくる。申し訳ないと思いながら、俺は足音を立てないように踵を返し、駆け出した。

 

 二分ほど走り、少し息が上がってきたところで振り返る。追われていないことを確認した俺は、喉の渇きを覚えた。

 よく考えれば、俺は眠りについてから今まで一度も水分を口に含んでいなかった。

 とはいえ、周囲に湧水が出ている場所があるわけではなく、目の前に広がるのは大海原。塩分が強く飲めたものではない。しかし、もしやということがあるかもしれない。俺は人差し指を海に浸し、覚悟を決めて口に含む。

 だが、予想していた強い塩味はなく、ほんの少しだけ磯の香りがする程度。奇跡的に俺は飲める海水を引き当てたのだ。

 いや、飲める海水ってなんだよ。そもそもなんでこの水は塩味がしないんだろうか。

 疑問は尽きないが、それでも俺は飲み水を確保できたことに違いはなかった。

 何度か手で水をすくい、喉を潤す。

 水問題が解決したとなると、次に俺が探すべきは食料だろう。

 幸い、この周辺には多くの低木があり、そのいくらかには色とりどりの果実がついている。

 とりあえず毒があるかという問題を置いておき、目についた果実を何個か採取する。

 

 五分ほど集めた結果、俺の目の前には五種類の果実が並んだ。

 ひとつは、サクランボのようにふたつがくっついた青色の果実。そして真っ白でブルーベリーのような見た目をした果実。他にも真っ黒なビワのような果実、薄紫色をした野イチゴに黄色のプラムといった具合だ。

 明らかに毒々しい見た目のものがあるが、俺はいちばん初めに青色の果実を食べることにした。深い意図はない。サクランボが好きだということは、理由ではない。たぶん。

 恐る恐るかじると口の中に甘みが広がる。中に小さめの種があったが、これぐらいなら自分で除去できるだろう。味はそれこそサクランボから酸味を抑えたイメージで、とても食べやすい。

 意外と食べられることに驚きつつ、次に手を伸ばしたのは黄色のプラム。今までの人生の中でプラムという果物は食べたことないが、どんな味だろうか。

 リンゴを食べる要領でかじりつくと、まず最初に感じたのは苦味。恐らく皮と果肉の間の薄皮の味であろうが、思った以上に苦い。しかし、その奥には微かに酸味がある。一度水で口を洗ってから、果肉だけを食べると、レモンとリンゴを足して二で割ったような味だった。これはこれで美味しいと思える味だ。

 次に、薄紫色の野イチゴ。これは探してもあまりなくて、観察していると草食生物が好んで食べているようだ。期待を胸に口に放り込んで、咀嚼する。一度、二度と噛んで……味が殆どしない。酸味が遠くにあるが、ほぼ感じられない。拍子抜けだ。

 肩を落としつつ、続いて俺が手に取ったのは白のブルーベリー。白なのにブルーなのはおかしいか。ホワイトベリーとでも呼ぶことにしよう。正直あまりおいしそうに見えないので、ちびっと食べる。すると、とんでもなく苦かった。思わず吐き出してしまうほどに苦く、果肉が触れた舌の感覚がなくなる。もしかしたら麻酔効果があるのかもしれない。

 最後に、黒いビワ。最期になるかもしれないという怖さを感じながら食べようとするが、皮が思ったより硬い。仕方なく近くにあった岩にぶつけると、中からは予想外にも赤い果肉が出てきた。先程の教訓を糧にそっとかじると、舌の先が熱く感じる。(から)かった。

 未だに残る辛味を青いサクランボで和らげながら、俺は思った。

 

 二度と白と黒の果実は食べない、と。

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