月光る夜   作:案院運

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すみません。こいつ飛ばしてました。


魔獣の森3

SIDE エリス

 

 朝。

 

 窓の外では、小鳥が呑気に鳴いていた。

 

 実に平和な朝だ。

 

 昨晩、森で魔獣どもを相手にしていたのが嘘のようである。

 

 もっとも、俺の目の前にいる男は、平和とは程遠い顔をしていたが。

 

「……う、あ……」

 

「お」

 

 ベッドの上で、黒髪の少年が身じろぎした。

 

 眉間に皺を寄せ、何やら唸っている。

 

 やがて、その瞼がゆっくりと開いた。

 

「……ん、だ……?」

 

「よう、寝坊助」

 

「…………」

 

 スバルは天井を見つめた。

 

 それから、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。

 

「……エリス?」

 

「おう」

 

「……ここ、どこ?」

 

「ロズワール邸。お前の部屋だ」

 

「…………」

 

 数秒の沈黙。

 

 そして。

 

「――はぁ!?」

 

 スバルが勢いよく飛び起きた。

 

「いっでぇぇぇぇ!?」

 

 直後、悲鳴。

 

 肩を押さえ、ベッドの上で悶絶する。

 

「……朝っぱらからうるせえな」

 

「お前! もっと優しく起こせよ!」

 

「勝手に起きたんだろうが」

 

「正論やめろ!」

 

 元気そうで何よりだ。

 

 俺は椅子の背にもたれた。

 

「気分は?」

 

「……最悪」

 

「だろうな」

 

「身体中痛えし、頭もガンガンするし……」

 

「魔法を無茶苦茶に使ったらしいからな」

 

「……あ」

 

 スバルが口を閉じた。

 

 何か思い出したらしい。

 

 視線が宙を彷徨う。

 

「……そうだ」

 

 小さく呟く。

 

「森……!」

 

 そして、俺を見た。

 

「子供たちは!?」

 

「全員無事だ」

 

「……っ!」

 

「五人とも村に帰した。怪我も大したことねえ」

 

「…………」

 

 スバルは大きく息を吐いた。

 

 そのまま、布団へ倒れ込む。

 

「……そっか」

 

「ああ」

 

「……よかったぁ……」

 

 心底安心したような声だった。

 

 俺は、その様子を眺める。

 

 こいつは本当に、妙な男だ。

 

 自分が死にかけたというのに、最初に気にするのは他人のこと。

 

 しかも、昨日会ったばかりの子供たちだ。

 

「……お前、相当気に入ってんだな」

 

「……ん?」

 

「村のガキども」

 

「…………」

 

 スバルは少しだけ黙った。

 

 そして、笑う。

 

「……まあな」

 

 何か含みのある返事だった。

 

 だが、別に問い詰めるほどのことでもない。

 

「そうかよ」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「なら、助けられてよかったな」

 

「……おう」

 

     ◇◇◇

 

「……そういや、スバル」

 

「あん?」

 

「お前、いつ魔法覚えたんだ?」

 

「…………へ?」

 

 スバルの動きが止まった。

 

「昨日のシャマクだよ。お前が使ったんだろ?」

 

「あ、ああ! あれな!」

 

 何故か、スバルが慌て始める。

 

「いやー、実は俺ってば、隠された魔法の才能がありましてね!」

 

「ほう?」

 

「いざというときに覚醒するタイプっつーか? ほら、主人公にはよくあるだろ、そういうの!」

 

「ねえよ」

 

「即答!?」

 

 俺は呆れてため息をついた。

 

「そもそも、お前のシャマクはマナの扱いが雑すぎる。あんな使い方してりゃ、ゲートがぶっ壊れるぞ」

 

「……え」

 

「誰に教わった?」

 

「……えーっと」

 

 スバルが視線を泳がせる。

 

「……パック?」

 

「パック?」

 

「そう! パック先生!」

 

「…………」

 

 なるほど。

 

 あの猫か。

 

 あいつなら陰魔法も扱えるし、教えること自体は不思議じゃない。

 

「……いつの間に教わったんだよ」

 

「いや、まあ……色々あって」

 

「ふーん」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「ま、いいけどよ」

 

「……いいの?」

 

「使えたんなら使えたんだろ。別にそれ以上聞くこともねえよ」

 

「…………」

 

「ただし、昨日みてえな無茶な使い方はすんな。ゲートを傷めたら魔法どころじゃなくなる」

 

「……おう」

 

 スバルが、少しだけ安堵したように息を吐いた。

 

「……ありがとな、エリス」

 

「あ? 何がだよ」

 

「……いや、なんでもねえ」

 

 変な奴だ。

 

 まあ。

 

 こいつが変なのは、今に始まったことじゃねえけどな。

 

     ◇◇◇

 

「……で、だ」

 

 俺は椅子から立ち上がった。

 

「喜んでるところ悪いが、まだ終わってねえ」

 

「……え?」

 

「お前、昨日何回も魔獣に噛まれただろ」

 

「……あ」

 

 スバルが自分の腕を見下ろした。

 

 包帯が巻かれている。

 

 肩にも。

 

 脚にも。

 

 その下には、無数の傷がある。

 

「……まさか」

 

「ベティーに診てもらった」

 

「…………」

 

「呪いが、いくつも残ってる」

 

 スバルの顔から血の気が引いた。

 

「……マジ?」

 

「大マジ」

 

「……え、ちょっと待って」

 

 スバルは引き攣った笑みを浮かべた。

 

「それって、俺……」

 

「放っときゃ死ぬ可能性がある」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

 長い沈黙。

 

 やがて。

 

「……はは」

 

 スバルは乾いた笑いを漏らした。

 

「……そっか」

 

 その声は、妙に静かだった。

 

 俺は眉を寄せる。

 

 もっと騒ぐかと思ったが。

 

「……怖くねえのか?」

 

「……怖えよ」

 

 スバルは笑った。

 

「……めちゃくちゃ怖え」

 

「…………」

 

「でもさ」

 

 スバルは、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……エリスがいるだろ」

 

「……あ?」

 

「お前なら、何とかしてくれるんじゃねえかって」

 

 妙なことを言う。

 

 俺は鼻で笑った。

 

「他人任せかよ」

 

「……悪いか?」

 

「別に」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「頼れるもんは頼っとけ」

 

「…………」

 

「その代わり、お前も使えるもんは全部使えよ」

 

 スバルが、目を見開いた。

 

 俺は続ける。

 

「生き残るためなら、格好なんざ気にすんな」

 

「…………」

 

 やがて。

 

 スバルは小さく笑った。

 

「……おう」

 

     ◇◇◇

 

「……ところで」

 

 スバルが、ふと顔を上げた。

 

「レムは?」

 

「あ?」

 

「いや、昨日一緒にいたじゃん」

 

「ああ」

 

 俺は頷いた。

 

「まだ見てねえな」

 

「……え?」

 

「朝の仕事に出てんじゃねえか?」

 

「…………」

 

 スバルの表情が曇った。

 

「……なんか、嫌な予感すんだけど」

 

「……おい」

 

 俺は眉を寄せた。

 

「お前、また何か知ってんのか?」

 

「……いや」

 

 スバルは首を振った。

 

「……そういうわけじゃねえけど」

 

 そのときだった。

 

 ――コンコン。

 

 扉が叩かれた。

 

「エリス様」

 

 ラムの声。

 

「おう、入れ」

 

 扉が開く。

 

 そこには、いつも通りの無表情を浮かべたラムが立っていた。

 

 だが。

 

 その瞳には、僅かな焦りがあった。

 

「……エリス様」

 

「なんだ?」

 

「レムの姿が見当たりません」

 

「…………」

 

 俺は眉を上げた。

 

「……いつからだ?」

 

「今朝、部屋を確認したところ、既に不在でした」

 

「……ふーん」

 

 なるほど。

 

 昨日の様子。

 

 妙に思い詰めた顔。

 

 そして。

 

 魔獣の話。

 

「……あの馬鹿」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 スバルが顔を上げる。

 

「……エリス?」

 

「多分、森だな」

 

「……っ!」

 

 スバルが布団を跳ね除けた。

 

「――行くぞ!」

 

「待て」

 

「待てるかよ!」

 

「服くらい着ろ」

 

「……あ」

 

 スバルは自分の寝間着を見下ろした。

 

「……おう」

 

 俺はため息をついた。

 

「ったく、どいつもこいつも……」

 

     ◇◇◇

 

 準備を終え、屋敷の玄関へ向かう。

 

 ラムも同行するつもりらしい。

 

 だが、俺は首を振った。

 

「ラム、お前は残れ」

 

「……エリス様」

 

「屋敷のこともある。それに、レムが戻ってきたとき誰もいなきゃ困るだろ」

 

「…………」

 

 ラムはしばらく黙った。

 

 そして。

 

「……承知いたしました」

 

 頭を下げる。

 

「レムを、お願いいたします」

 

「おう」

 

 俺は頷いた。

 

「任せとけ」

 

 そして、懐へ手を伸ばす。

 

「……ああ、そうだ」

 

「はい?」

 

「これ、持っとけ」

 

 俺は小さな金属製の道具を取り出し、ラムへ放った。

 

 ラムはそれを危なげなく受け止める。

 

「……これは?」

 

「通信具だ」

 

「通信具……ですか?」

 

「おう。離れた場所でも声を届けられる」

 

 ラムは手のひらの道具を眺めた。

 

 掌に収まるほどの大きさ。

 

 銀色の金属で作られた、円形の装飾品。

 

 中央には、小さな青い石が埋め込まれている。

 

「……随分と珍しいものですね」

 

「まあな」

 

「ミーティアの一種でしょうか?」

 

「似たようなもんだ」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「リアに渡した【月】、覚えてるか?」

 

「……エミリア様の首飾りですか?」

 

「そうそう」

 

 俺は頷いた。

 

「そいつと繋がるようにしてある」

 

「……なるほど」

 

「何かあったら、そいつでリアに連絡しろ。向こうにも声が届く」

 

「……便利なものですね」

 

「便利だから作ったんだろ」

 

「エリス様らしいお答えです」

 

「褒め言葉として受け取っとくわ」

 

 俺は笑った。

 

「俺も連絡を受けられるようにしとく。レムを見つけたら知らせるから、そっちで何かあっても遠慮なく呼べ」

 

「承知いたしました」

 

 ラムは通信具を大切そうに握った。

 

 そして。

 

「……エリス様」

 

「あ?」

 

「……妹を、よろしくお願いいたします」

 

 その声は、普段よりも僅かに柔らかかった。

 

 俺は笑った。

 

「おう。任せとけ」

 

     ◇◇◇

 

 森へ向かう道中。

 

 スバルは、妙に静かだった。

 

 普段なら、くだらないことを喋り続けている男だ。

 

 それが、今日は黙って歩いている。

 

「……おい」

 

「……ん?」

 

「何考えてんだ?」

 

「……ちょっとな」

 

「ふーん」

 

 俺は肩をすくめた。

 

 別に、無理に聞き出すつもりはない。

 

 だが。

 

「……なあ、エリス」

 

「あ?」

 

「昨日さ」

 

「おう」

 

「……魔獣、俺ばっか狙ってたんだよ」

 

 俺は足を止めた。

 

「……ほう?」

 

「レムも言ってた。なんか、俺の方に集まってくるって」

 

「……なるほどな」

 

 俺は顎に手を当てた。

 

 確かに、昨日の森では妙に魔獣が集まっていた。

 

 あの黒い靄の周囲に、かなりの数がいた。

 

「……で?」

 

「……それ、利用できねえかな」

 

 スバルが顔を上げた。

 

「俺が囮になって、魔獣を集める」

 

「…………」

 

「そしたら、お前がまとめて倒せるだろ?」

 

 なるほど。

 

 悪くない。

 

 俺はしばらく考えた。

 

 森は広い。

 

 魔獣を一匹ずつ探すのは非効率だ。

 

 だが、スバルに集まってくるなら話は別。

 

 問題は。

 

「……お前、走れるか?」

 

「……え?」

 

「昨日あんだけ噛まれてんだろ。走れんのかって聞いてんだよ」

 

「……走れる!」

 

「ふーん」

 

 俺はスバルの足元を見る。

 

 歩き方に、僅かな違和感。

 

 だが、致命的ではない。

 

「魔法は?」

 

「……シャマクは、もう無理だと思う」

 

「だろうな」

 

 俺は頷いた。

 

「なら使うな」

 

「……え?」

 

「お前は魔獣を引きつけるだけでいい。戦闘は俺がやる」

 

「…………」

 

「ただし、勝手に突っ込むなよ。お前が死んだら意味ねえんだからな」

 

 スバルが目を見開いた。

 

「……いいのか?」

 

「あ?」

 

「……俺を囮にして」

 

「お前が言い出したんだろ」

 

「……いや、そうだけど!」

 

 俺は鼻で笑った。

 

「作戦として成立するなら、使わねえ理由がねえ」

 

「…………」

 

「もちろん、無理なら却下する。だが、今のところは悪くない」

 

 スバルは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……そっか」

 

 小さく笑った。

 

「……ありがとな」

 

「礼は成功してからにしろ」

 

「……おう!」

 

     ◇◇◇

 

 森へ入ると、空気が変わった。

 

 湿った土の匂い。

 

 木々の隙間から差し込む朝日。

 

 そして。

 

 遠くから聞こえる、獣の唸り声。

 

「……いるな」

 

 俺は鞭を抜いた。

 

 スバルが息を呑む。

 

「……エリス」

 

「あ?」

 

「……レム、無事かな」

 

「知らねえ」

 

「……おい」

 

「まだ見つけてねえんだから、わかるわけねえだろ」

 

「……そりゃそうだけどさ」

 

 俺は笑った。

 

「だから、探すんだろ」

 

「…………」

 

「生きてりゃ助ける。それだけだ」

 

「……おう」

 

 スバルが頷いた。

 

 俺は周囲を見渡す。

 

 魔獣の気配。

 

 遠くに、いくつも。

 

 だが、まだ襲ってくる様子はない。

 

「……さて」

 

 俺は鞭を肩に担いだ。

 

「まずはレムを見つけるぞ」

 

「……あれ?」

 

 スバルが首を傾げた。

 

「囮作戦は?」

 

「レムを見つけてからだ」

 

「……え?」

 

「お前一人を守りながら魔獣を全部片付けるのは面倒だ。レムがいりゃ、護衛を任せられる」

 

「……なるほど」

 

「それに、今はレムの救出が先だろ」

 

「……おう!」

 

 スバルが笑った。

 

 俺は頷く。

 

「よし。行くぞ」

 

     ◇◇◇

 

 しばらく森を進んだ頃だった。

 

「……お?」

 

 俺は足を止めた。

 

 地面に、血痕。

 

 折れた枝。

 

 抉れた土。

 

 明らかに、戦闘の痕跡だった。

 

「……レムか?」

 

 スバルが呟く。

 

「多分な」

 

 俺は周囲を見渡した。

 

 そのとき。

 

 遠くから、轟音が響いた。

 

 ――ドォンッ!!

 

 木々が揺れる。

 

 鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

「……あっちだ!」

 

 スバルが叫んだ。

 

「おう」

 

 俺は笑った。

 

「行くぞ!」

 

     ◇◇◇

 

 そこにいたのは。

 

 鬼だった。

 

 額から伸びる一本の角。

 

 赤く染まった瞳。

 

 荒い呼吸。

 

 そして、血に濡れたモーニングスター。

 

「……レム!」

 

 スバルが叫ぶ。

 

 だが、レムは振り返らない。

 

 目の前の魔獣へ、ただひたすら鉄球を振るっている。

 

 一匹。

 

 二匹。

 

 三匹。

 

 倒しても。

 

 倒しても。

 

 魔獣は次々と現れる。

 

「……なるほどな」

 

 俺は呟いた。

 

 鬼族。

 

 その力は知っている。

 

 だが、今のレムは明らかに消耗していた。

 

 動きが荒い。

 

 呼吸も乱れている。

 

 それでも、止まらない。

 

「……エリス!」

 

 スバルが俺を見る。

 

「助けるぞ!」

 

「当たり前だろ」

 

 俺は鞭を握り直した。

 

 そして。

 

「スバル」

 

「……おう!」

 

「お前は俺の後ろにいろ。まず周りの魔獣を減らす」

 

「……わかった!」

 

 俺は前方を見据えた。

 

 レムの周囲には、十数匹の魔獣。

 

 その全てが、鬼化した彼女を警戒している。

 

「……さて」

 

 俺は一歩踏み出した。

 

 そのときだった。

 

「――レム!!」

 

 スバルが、再び叫んだ。

 

 その声に。

 

 レムの動きが、止まった。

 

「…………」

 

 ゆっくりと。

 

 こちらを向く。

 

 赤い瞳。

 

 荒い呼吸。

 

 そして。

 

「……魔女」

 

 低い声。

 

 スバルが眉を寄せた。

 

「……え?」

 

「……魔女の、臭い……」

 

 レムの表情が歪む。

 

 その視線は、俺ではなく。

 

 スバルへ向けられていた。

 

「……おい」

 

 俺は目を細めた。

 

 まずいな。

 

 あいつ、理性が飛びかけてやがる。

 

「……レム?」

 

 スバルが一歩踏み出す。

 

「俺だよ! スバルだ!」

 

「……魔女……!」

 

 レムが、モーニングスターを握り締めた。

 

「……魔女の臭いがする……!」

 

 そして。

 

 地面を蹴った。

 

「――スバル、下がれ!」

 

 俺は叫んだ。

 

 次の瞬間。

 

 巨大な鉄球が、スバルへ向かって振り下ろされた。

 

 ――ガァンッ!!

 

 轟音。

 

 土煙。

 

 地面が大きく抉れる。

 

「……っ!?」

 

 スバルが目を見開いた。

 

 俺はその襟首を掴み、後方へ引き寄せていた。

 

「……あ、あぶねえ……!」

 

「馬鹿野郎」

 

 俺は舌打ちした。

 

「今のあいつに近づくな」

 

「……でも!」

 

「お前を敵だと思ってやがる」

 

「…………」

 

 スバルが、レムを見た。

 

 そこには。

 

 自分を殺そうとする、鬼の姿。

 

 だが。

 

「……レム」

 

 スバルは、拳を握り締めた。

 

「……俺は」

 

 その声が、僅かに震える。

 

「……お前を、助けに来たんだぞ」

 

 レムは答えない。

 

 ただ。

 

 赤い瞳で、スバルを睨みつけている。

 

 俺は鞭を握り直した。

 

「……ったく」

 

 厄介なことになった。

 

 魔獣の群れ。

 

 暴走しかけた鬼。

 

 そして。

 

 その鬼を助けたいと願う、馬鹿な男。

 

「……スバル」

 

「……なんだよ」

 

「お前、レムを助けたいんだな?」

 

「……当たり前だろ」

 

「……そうかよ」

 

 俺は笑った。

 

「なら、まずはあいつを落ち着かせるぞ」

 

「……どうやって?」

 

「そりゃ――」

 

 俺は鞭を振るった。

 

 迫ってきた魔獣の一匹が、横へ吹き飛ぶ。

 

「まずは連絡だな」

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