何が。
自分を殺した。
分からない。
手掛かりも。
まだ。
何もない。
でも。
「…………」
調べる。
今度こそ。
そして。
できるなら。
この。
馬鹿みたいに。
平和な光景を。
壊さずに。
「…………」
生き残る。
そのために。
まずは。
自分を殺した。
何かを。
見つけなければならない。
◇ ◇ ◇
「……で」
「ん?」
「いつまでそうしてんだよ」
「何が?」
「それ」
指差す。
「…………」
エリス。
椅子。
ベアトリス。
膝。
「……何か問題でもあるのかしら」
「いや」
ある。
ものすごく。
ある。
「俺がわりと命の危機を訴えた直後なんですけど」
「知らないかしら」
「冷てぇ!」
「ベティーには関係ないのよ」
「俺が死ぬかもしれないんだぞ!?」
「――――」
「…………」
しまった。
口。
滑った。
「…………」
エリス。
見る。
「……死ぬ?」
「…………」
ベアトリスも。
見る。
「…………」
心臓。
跳ねる。
「いや」
違う。
「そういう」
「スバル」
「…………」
エリス。
「死ぬかもしれないって」
「…………」
「どういう意味?」
「…………」
言えない。
「……たとえば!」
「たとえば?」
「嫌な予感がするって言ったろ!」
「おう」
「それが!」
必死に。
頭。
回す。
「命に関わるようなヤベェ予感だったらって話!」
「…………」
「だから!」
「…………」
「死ぬかも!」
「…………」
「っていう!」
「…………」
「仮定!」
「…………」
沈黙。
「……なるほど」
「そう!」
「怪しいかしら」
「うるせぇ!」
「明らかに何か隠しているのよ」
「…………」
ベアトリス。
じー。
「…………」
「なんだよ」
「…………」
「見るなよ」
「スバル」
「なんだ」
「こっちに来るのよ」
「…………」
「は?」
「聞こえなかったのかしら」
ベアトリス。
膝の上。
座ったまま。
手招き。
「こっちに来るのよ」
「…………」
エリスを見る。
「俺に聞くなよ」
「いや」
「ベティーが呼んでんだろ」
「…………」
嫌な予感。
しかし。
言われた通り。
近付く。
「……何」
「手」
「?」
「出すのよ」
「…………」
右手。
出す。
ベアトリス。
小さな手。
掴む。
「――――」
ぞわり。
何かが。
身体を。
通った。
「うおっ!?」
「動くんじゃないかしら」
「何してんだ!?」
「黙るのよ」
「…………」
ベアトリス。
目。
閉じる。
「…………」
数秒。
「…………」
長い。
「…………」
そして。
目。
開く。
「……特におかしなところはないかしら」
「……え?」
「少なくとも今のところは、なのよ」
「…………」
今。
の。
ところ。
「魔力の流れも普通」
「…………」
「身体に異常があるようにも見えないかしら」
「…………」
「じゃあ」
「くさいだけかしら」
「おおい!…俺そんなに臭い?」
「ああ、」
スバルは無意識に呟く
「じゃあ、なんだったんだ……」
「?」
「――――」
「何が、なのよ」
「…………」
また。
「……なんでもない」
「…………」
「本当に?」
「…………」
答えない。
「……ふん」
ベアトリス。
手。
離す。
「まあいいかしら」
「…………」
「ただ」
「?」
「本当に何か異常を感じたら」
「…………」
「すぐベティーのところへ来るのよ」
「…………」
スバル。
瞬く。
「……心配してくれてんの?」
「違うかしら」
「即答!」
「屋敷の中で勝手に死なれると寝覚めが悪いだけなのよ」
「十分心配じゃねぇか」
「違うと言っているのよ!」
「痛ぇ!」
脛。
蹴られる。
「なんで!?」
「うるさいからかしら!」
「…………」
エリス。
横。
「…………」
笑っている。
「何笑ってんだよ!」
「いや」
「なんだよ!」
「ベティー優しいなと思って」
「――――」
ベアトリス。
固まる。
「…………」
「なんだよ」
エリス。
首。
傾げる。
「……エリス」
「ん?」
「黙るのよ」
「なんで?」
「黙るかしら」
「はい」
「…………」
耳。
赤い。
「…………」
スバル。
見る。
ベアトリス。
エリス。
「…………」
やっぱ。
距離。
近ぇな。
「…………」
それに。
少しだけ。
思う。
いいな。
ああいうの。
「…………」
でも。
今は。
それより。
「……ベアトリス」
「何かしら」
「もう一個」
「?」
「聞いていいか」
「内容によるのよ」
「…………」
スバル。
考える。
「たとえばさ」
「またたとえ話かしら」
「うるせぇな!」
「聞いてやるから早くするのよ」
「…………」
息。
吸う。
「外から傷つけられなくても」
「…………」
「人って死ぬ?」
「…………」
空気。
僅かに。
変わる。
「質問が曖昧すぎるかしら」
「……だよな」
「病気なら当然死ぬのよ」
「病気……」
「毒もそう」
「――――」
「呪術の類もあるかしら」
「…………」
呪術。
「…………」
その言葉。
引っ掛かった。
「……呪術?」
「知らないの?」
「知識としては」
知っている。
ファンタジー。
呪い。
そういう。
「……実際にあるのか?」
「当然かしら」
「…………」
「ただし」
ベアトリス。
指。
立てる。
「術式にもよるのよ」
「…………」
「条件」
「条件?」
「発動するための条件かしら」
「…………」
「対象に触れる必要があるもの。何かを介するもの。時間を置いて作用するもの」
「…………」
「色々あるのよ」
「…………」
スバル。
黙る。
「どうしたのかしら」
「……いや」
分からない。
まだ。
何も。
でも。
「…………」
外傷。
なかった。
誰にも。
襲われていない。
突然。
身体が。
おかしくなった。
「…………」
毒。
病気。
呪術。
「…………」
候補。
初めて。
候補が。
できた。
「……ベアトリス」
「何かしら」
「もし」
「…………」
「呪術かけられてたら」
「…………」
「お前、分かる?」
「…………」
ベアトリス。
スバルを見る。
「場合によるかしら」
「…………」
「でも」
胸。
少し。
高鳴る。
「術式が発動していたり、痕跡が残っていれば」
「…………」
「ベティーなら気付ける可能性は高いのよ」
「…………」
「そうか」
なら。
手掛かり。
あるかもしれない。
「…………」
まだ。
分からない。
でも。
「……ありがと」
「…………」
「助かった」
「…………」
ベアトリス。
目。
逸らす。
「別に」
「?」
「ベティーは何もしてないかしら」
「教えてくれたろ」
「その程度なのよ」
「それでもだよ」
「…………」
「ありがとな」
「…………」
ベアトリス。
さらに。
顔。
逸らす。
「……エリス」
「ん?」
「こいつを連れて出ていくのよ」
「なんで!?」
「うるさいかしら!」
「照れてる?」
「殺すのよ」
「すいません!」
「…………」
エリス。
笑う。
「じゃ、行くか」
「おう」
椅子。
立つ。
「――――」
そして。
エリスも。
立とうとして。
「…………」
立てない。
「……ベティー」
「何かしら」
「降りて」
「嫌かしら」
「俺スバルについてくんだけど」
「…………」
ベアトリス。
スバル。
見る。
「…………」
「なんだよ」
「…………」
エリス。
見る。
「…………」
「ベティー?」
「…………」
ぎゅ。
エリスの。
服。
掴む。
「…………」
「え?」
「……エリス」
「ん?」
「行くの?」
「スバルの近くにいるって約束したからな」
「…………」
む。
明らかに。
むっとした。
「…………」
「ベティー?」
「…………」
「怒ってる?」
「怒ってないかしら」
「いや怒ってるだろ」
「怒ってないのよ」
「…………」
スバル。
なんとなく。
分かった。
「……お前も来る?」
「――――」
「…………」
ベアトリス。
スバルを見る。
「別に」
「…………」
「ベティーは」
「…………」
「仕方なく」
「はいはい」
「最後まで聞くのよ!」
「来るんだろ?」
「…………」
沈黙。
「……仕方ないからついていってやるかしら」
「やっぱ来るんじゃねぇか」
「仕方なくなのよ!」
「分かった分かった」
「分かってないかしら!」
「…………」
エリス。
笑う。
「じゃあ三人で行くか」
「おう」
「…………」
ベアトリス。
まだ。
エリスの服。
掴んでいる。
「…………」
スバル。
その手。
見る。
「…………」
ほんの少し。
胸。
何か。
動く。
「…………」
羨ましい。
――そう。
思った。
「…………」
なんで。
分からない。
ベアトリスに。
ああして。
甘えられている。
エリスが。
なのか。
エリスに。
ああして。
遠慮なく。
甘えられる。
ベアトリスが。
なのか。
「…………」
たぶん。
両方。
「おいスバル」
「ん?」
「行かねぇの?」
「あ」
「?」
「……行く」
歩く。
◇ ◇ ◇
禁書庫。
出る。
「…………」
廊下。
エリス。
横。
スバル。
反対側。
ベアトリス。
「…………」
シュール。
「なあ」
「ん?」
「ベアトリス」
「何かしら」
「お前ほんとについてくんの?」
「何度言わせるのよ」
「いや」
「…………」
「禁書庫から出て大丈夫なん?」
「問題ないかしら」
「そういうもん?」
「そういうものなのよ」
「へぇ」
「…………」
数歩。
「…………」
そして。
「お客様」
「――――」
前。
桃色。
「…………」
ラム。
「何をなさっているのですか?」
「……散歩?」
「何故疑問形なのかしら」
「うるせぇ」
ラム。
スバル。
見る。
次。
エリス。
そして。
ベアトリス。
「…………」
僅かに。
眉。
動く。
「エリス様」
「ん?」
「朝食のお時間です」
「ああ」
「エミリア様もお待ちです」
「分かった」
「…………」
スバル。
そのやり取り。
見る。
「お客様も」
「――――」
「食堂へどうぞ」
「……おう」
お客様。
また。
その呼び方。
「…………」
分かっている。
今は。
そう。
「…………」
それでも。
変な感じ。
昨日まで。
違った。
いや。
自分にとっては。
昨日。
ラムにとっては。
まだ。
「…………」
何も。
始まっていない。
「お客様?」
「…………」
「どうかなさいましたか?」
「いや」
笑う。
「なんでもねぇよ」
「そうですか」
「…………」
ラム。
歩く。
「…………」
スバル。
その背中。
見る。
「…………」
この屋敷。
誰が。
敵。
「――――」
違う。
「…………」
決めつけるな。
まだ。
何も。
分かっていない。
「…………」
「スバル」
「ん?」
横。
エリス。
「顔」
「……何」
「怖い」
「…………」
「考え事?」
「まあな」
「…………」
「…………」
「手伝う?」
「――――」
また。
簡単に。
「…………」
「いや」
「そ」
「…………」
「必要になったら言え」
「…………」
「おう」
それだけ。
「…………」
それだけなのに。
また。
少し。
楽になる。
「…………」
そして。
そのことが。
少し。
嫌だった。
「…………」
俺。
こいつがいないと。
こんなに。
不安なのか。
「…………」
弱ぇな。
自分。
「…………」
その時。
「――エリス」
「ん?」
ベアトリス。
「手」
「?」
「手を出すのよ」
「なんで?」
「いいから」
「はい」
エリス。
手。
出す。
ベアトリス。
握る。
「…………」
「…………」
スバル。
見る。
「……何してんの?」
「別に」
「手繋いでんじゃん」
「違うかしら」
「どう違うんだよ」
「エリスが迷子にならないようにしているだけなのよ」
「俺!?」
「お前が迷子になる側!?」
「ならねぇよ!」
「信用できないかしら」
「俺二十――」
「エリス」
「はい」
「黙るのよ」
「はい」
「…………」
スバル。
笑う。
「尻に敷かれてんなぁ」
「うるせぇ」
「契約者の務めかしら」
「そんな務めあったっけ?」
「今できたのよ」
「横暴!」
「…………」
また。
いつもの。
馬鹿みたいな。
やり取り。
「…………」
スバルは。
それを。
横で。
見ながら。
歩く。
「…………」
羨ましい。
また。
思う。
「…………」
でも。
今度は。
少し。
分かった。
自分が。
何を。
羨ましいと思ったのか。
「…………」
信じている。
ベアトリスは。
エリスを。
だから。
あんな風に。
当たり前みたいに。
手を。
握れる。
「…………」
自分は。
「…………」
誰を。
信じればいい。
分からない。
ラム。
レム。
ロズワール。
屋敷の。
誰か。
もしかしたら。
全く。
別の何か。
「…………」
自分を殺した。
相手すら。
分からない。
「…………」
だから。
エリスに。
縋った。
「…………」
信じたから。
なのか。
他に。
いなかったから。
なのか。
「…………」
分からない。
「…………」
ただ。
「おい」
「ん?」
「また顔死んでるぞ」
「縁起悪いこと言うな!」
「?」
「…………」
エリス。
いる。
「…………」
今は。
それで。
いい。
それだけ。
考える。
◇ ◇ ◇
食堂。
「おはよう、スバル」
「――――」
銀髪。
紫紺。
「……おう」
エミリア。
いる。
「おはよう、エミリアたん」
「たん?」
「あ」
「…………」
そうだ。
今は。
「……たんっていうのは愛称みたいなもんだよ」
「ふーん?」
エミリアは首を傾げる。
「変なスバル」
「はは……」
それだけ。
今は。
それだけでいい。
「ベアトリスも来たの?」
「悪いかしら」
「ううん」
微笑む。
「珍しいなって」
「ベティーにも気分というものがあるのよ」
「そっか」
「…………」
それ以上。
何もない。
エリスも。
普通に。
席へ。
「…………」
スバルのその隣に座る。
「…………」
「近くね?」
「…………」
「スバル」
「……約束」
「…………」
「あ」
「…………」
「そうだった」
エリス。
椅子。
少し。
空ける。
「ほら」
「…………」
「座れ」
「…………」
「なんだよ」
「いや」
胸が少し痛い。
「……ありがと」
「今日何回言うんだよ」
「感謝は何回してもいいってもんだよ」
「…………」
座る。
すぐ。
隣。
「…………」
これなら。
何かあっても。
「――――」
違う。
また。
頼ってる。
「…………」
「お客様」
「――ッ」
皿。
置かれる。
レム。
「朝食です」
「…………」
「ありがとうございます?」
「何故疑問形なのでしょう」
「いや……」
「?」
「なんでもねぇ」
「…………」
レム。
離れる。
「…………」
見る。
料理。
見覚え。
ある。
「…………」
この日。
この朝。
「…………」
そして。
このあと。
自分は。
「…………」
何をした。
誰と。
話した。
何を。
食べた。
どこへ。
行った。
「…………」
思い出せ。
何か。
ある。
絶対。
どこかに。
「…………」
自分を殺した。
何かに。
繋がる。
ものが。
「…………」
「スバル」
「ん?」
「飯冷めるぞ」
「…………」
エリス。
パン。
齧っている。
その横。
ベアトリスが。
エリスの皿へ。
手を伸ばす。
「おい」
「何かしら」
「それ俺の」
「今からベティーのものになるのよ」
「ならねぇよ」
「もうなったかしら」
「返せ」
「嫌なのよ」
「自分のあるだろ!」
「エリスの方が美味しそうだったかしら」
「同じ皿から取ったやつだよ!」
「…………」
スバル。
それを眺める。
「…………」
なんだこれ。
朝飯。
食ってるだけなのに。
隣では。
精霊と契約者が。
果物一つで。
本気の攻防戦。
「……平和だなぁ」
「どこが!?」
「平和かしら」
「お前が言うな!」
「お客様」
「はい?」
声。
後ろ。
振り返る。
レム。
「おかわりはいかがですか?」
「あー……」
皿。
見る。
まだある。
「大丈夫」
「かしこまりました」
レムが。
離れていく。
「…………」
目で。
追う。
「…………」
「スバル」
「うおっ」
「今度は何」
エリス。
「いや」
「…………」
「なんでもねぇ」
「そう?」
「おう」
「…………」
エリス。
じー。
「……何だよ」
「いや」
「…………」
「なら食え」
「…………」
パン。
押し付けられる。
「お前は俺の母ちゃんか」
「食わねぇとベティーに全部取られるぞ」
「取らないかしら」
「じゃあその手を俺の皿から退けろ」
「…………」
「おい」
「…………」
「ベティー?」
「これはベティーのパンなのよ」
「いつから!?」
「今からかしら」
「泥棒!!」
「契約者からの献上品なのよ」
「献上してねぇ!」
「…………(なんだ契約者って?)」
「…………」
スバルは一口パンをかじる
「…………」
味。
する。
ちゃんと。
美味い。
「…………」
もう一口。
「お客様」
「ん?」
今度は。
ラム。
「朝食後ですが」
「…………」
「本日はどうなさいますか?」
「……え?」
「ロズワール様から伺うようにと」
「…………」
今日。
「…………」
スバル。
フォーク。
止まる。
「…………」
そうだ。
今日。
何をする。
そこから。
考えなければならない。
「……ちょっと待って」
「?」
「考える」
「かしこまりました」
「…………」
考える。
「…………」
前は。
どうした。
「…………」
確か。
「…………」
「スバル?」
「今思い出してる」
「何を?」
「色々」
「?」
「…………」
エリス。
不思議そう。
ベアトリス。
勝手に。
エリスのパン。
一口。
「お前ぇぇぇぇ!!」
「うるさいかしら」
「それ最後の一個!」
「美味しいのよ」
「感想聞いてねぇ!」
「…………」
スバル。
考える。
「…………」
その横で。
「返せ!」
「もう食べたかしら」
「吐け!」
「嫌なのよ!」
「…………」
「…………」
「……うるせぇなぁ」
思わず。
漏れた。
「誰のせいだと思ってんだ!」
「ベティーは悪くないかしら!」
「お前以外誰がいんだよ!」
「…………」
考えたいのに。
全然。
集中できなかった。
いい感じ