SCP財団:幻想部門   作:鮫肌猫

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人間の里

夜闇の中で、私達は人里へと着陸する。周囲は思っていた以上に明るく、ちらほらと人間の姿も確認出来る。通りの店には、未だに開いているものもあった。古めかしくも、文明の光に満ちた光景だ。

 

「眩しい〜」

 

「....想像以上に繁盛していますね。この時間帯で店が開いてるなんて」

 

「まぁ、大体は妖怪の為の店だろうけどな」

 

「えっ? 妖怪と人間は対立しているものと思っていましたが....」

 

魔理沙の発言はかなり意外だった。というより、この人里において人間と妖怪がそこまで融和しているのであれば、わざわざ首輪を付けた理由がないのでは....

 

「対立はしてるぜ。人里の外で出会えば妖怪は人間を襲う。ただ、人里では大抵そうじゃないってだけだ。奴らは人のふりをしてこっそり潜り込み、酒を飲んだり飯を食う。人間はまぁ....知った上で、人里では事を起こさないだろうと踏んで看過してる。どうせ連中は人と変わらない姿に変装してるしな」

 

「ふむ....」

 

魔理沙の話からは、妖怪と人間が関わり過ぎず、対立しながらも共存している幻想郷の奇妙な社会構造が見て取れた。興味深い話だが....

 

「じゃあやっぱり首輪要らなくないですか? ルーミアは黒球状態じゃなければどう見ても人間ですよ」

 

「私が人間?ほんとに?」

 

「いや、明らかに妖怪だろ、バレバレだぜ」

 

「??」

 

ルーミアの姿をじっと見つめる....目が合い、にへらと笑いかけてくる。細部まで確認しても、人間から逸脱した部位はない。どう見てもとても可愛いだけだ。

 

「....まさか本気で見分けが付かないのか?外来人は妖怪と人間を区別出来ないって話は聞いたことがあるが....ここまでとは思わなかったな──」

 

逆に魔理沙にカルチャーショックを受けられた。幻想郷の住人には人間と、人間によく似た妖怪を見分ける特殊な技能でもあるのだろうか?

 

「つまり首輪のままで良いの?」

 

「なんだか喜んでません?」

 

「わん」

 

「唐突に犬語で喋らないで下さい」

 

「人前でイチャついてると顰蹙を買うぜ。せめて家でやったらどうだ?」

 

「イチャついている訳では....ああそういえば──」

 

呆れた様子の魔理沙の言葉を聞いて、ふと思い出す。

 

「住む場所の問題がありましたね。暫くはテントで構いませんが、これだけ発展しているという事は所有地の概念もあるでしょうし....ふむ、そうした住宅関連の問題は何処に相談すれば良いんでしょう?」

 

「そんなもんないぜ」

 

「えっ?」

 

「だから、所有地だの相談所だのなんて無いぜ。皆適当に家を建てて適当に住んでるだけだ。大工屋はそこそこ居るからな、お前も金が溜まったら頼めば良いんじゃないか?」

 

「....」

 

適当どころではないとんでもない方法に言葉を失ってしまう。本当に....大丈夫なのだろうか?ここまで発展しておきながらそれでちゃんと成立しているのだとすればびっくりだ。里の住民はちょっと善良すぎる。

 

「....なんでそれで成立してるんですか....?」

 

「呼吸の原理を説明出来るっていうならその問いの答えも返ってくるかもな」

 

「呼吸の原理なら説明は概ね可能ですよ」

 

「なんだと? お前....いや、外来人はそんな事まで知ってるのか?」

 

魔理沙の瞳が好奇心にキラリと輝く。しまった、軽い気持ちで今度こそ本当にまずいことを言ってしまった気がする。

 

「おい天戸、お前は私に借りがある。そうだよな?当然、私が知識の提供を求めたら断れない──」

 

「そうですね。ところで実は体調があまり宜しくないのでそろそろ寝床を探してきても良いでしょうか」

 

「貸し一つな」

 

「貸しの錬金術師かな?」

 

 

 

・・・

 

 

 

再会の約束を交わし、1時間ほどで魔理沙から解放された私は人里の外縁、あまり人の住んでいない地域にテントを張り、眠りに付く事を決めた。

 

....そして一つの学びを得る。このままテント生活を続けるのは、非常によろしくない。

 

「んふー♪」

 

私の布団がもぞもぞと動く。私が発した音ではない。ルーミアがテントの小ささに乗じて布団に潜り込んで来ていた。

 

「あの、ルーミア。そこまで密着しなくても....」

 

「密着したら駄目?」

 

「まぁ、その、駄目ではないんですけど」

 

「じゃあ、ぎゅー」

 

彼女はそのままぎゅうと私を抱きしめる。触れた身体が、布団にも増して心地よい柔らかさを訴える。布団の中で安穏とした笑みを浮かべる彼女は、魔性のように愛らしい。

 

「くっ....」

 

私の理性は自分が思っていた以上に脆かったようだ。こんな生活を続けていては、いつか変な気を起こしてしまうかもしれない。

 

「....明日は仕事を探しに行きましょうか」

 

しっかりとした住居の確保。私はその重要性を一つ繰り上げた。

 

 

 

・・・

 

 

 

朝、私はルーミアにくっつかれたまま目が覚める。久しぶりに起きてすぐに"朝日"というものを拝んだような気がするが....ルーミアは、中々布団の中から動こうとしない。というより、私の事を布団から出そうともしない。どうやら私は単純な膂力において彼女に大敗を喫しているらしく、簡単に布団の中に引きずり込まれてしまう。

 

「凄い陽の光だ〜....夜までこうしない?」

 

「それは....夜になったらどうするんです?」

 

「あなたの寝顔を眺める」

 

「退廃に選手権があったら優勝間違いなしの1日ですね」

 

本末転倒がすぎる。それならせめて闇を纏って外に出たほうが良いのではないだろうか。

 

「まぁ、テントの中なら遮光しても問題ないでしょうし....陽の光が嫌なようなら一人で出掛けて来ますよ」

 

「んー....」

 

ルーミアは少し布団を開け、嫌そうな顔をして閉じる動作を何度か繰り返した後に、緩慢に布団を剥がす。

 

「....一緒に行く」

 

「無理はしないで下さいね?」

 

「人間を軒下に吊るしたり?」

 

「大分無理のベクトルが違いますが絶対にやっちゃ駄目です」

 

軽く準備を整え、テントから出る。外は雲一つない快晴だ。なるほど、ルーミアが辟易するのも頷ける。

 

「どこに行くのー?」

 

ルーミアは目的地を定めて歩き始めた私に追随しながら、そう尋ねる。

 

「昨日の夜に言っていた通り、仕事を探しに」

 

「そうなのかー」

 

魔理沙に質問攻めに遭っていた時に聞いた話だが、幻想郷には一応貨幣制度が存在しているらしかった。自分達で貨幣を製造しているという訳ではなく、外の世界から流れ着いて来たお金をそのまま使っているのだ。しかし現代の紙幣が幻想郷にて見つかる事は極端に少なく、専ら明治時代付近の紙幣が流れ着いている。結果として幻想郷では金銭の単位として円、銭、厘、文が混在している。円の価値も当然のように現代とは乖離しており、概ね1円が現代の1万円ほどの価値を持っているようだ。

 

これらは真の意味での貨幣制度と言えるかは少し微妙だ。何せ幻想郷には法律を制定するような人間の統治者がおらず、誰かが貨幣の価値を明確に定めている訳ではない。それでも円滑に文明が回っているのは、幻想郷の妙と言うべきだろう。

 

ともかく、貨幣制度が存在する以上、金銭を対価とする雇用は促進され、社会のニーズに応える様々な職種が生まれる事となる。そうした雇用情報は、この人里において、掲示板という形で集約されているようだった。今回の目的地も、その掲示板だ。

 

無論、奇跡論によって更に直接的に金を稼ぐ手段は枚挙に暇がないが....露見すれば、妬み嫉みの対象になる事は目に見えている。その上、財団と盟約を結んだという幻想郷の"管理者"にとっても、そのような行為はあまり望ましいものではないだろう──

 

....そんな話を道すがらルーミアにも行ったが、まるでピンと来ていない様子だった。まぁ、彼女に求めているのは頭脳ではなく極めて強力なその能力だ。それに彼女は存在しているだけで精神を安定させる要因になる。

 

 

 

「ついたー....」

 

「よく頑張りましたね」

 

掲示板に辿り着いた私は、山一つ登頂したような様子のルーミアを賞賛しながら、貼られた情報を確認する。

 

殆どの求人は一般的なものだ。極めて報酬の高い夜廻りや平然と張り出される火葬屋バイトなどいくつかの差異は存在するが、幻想郷の状況を鑑みれば納得も行く。

 

「....ん?」

 

しかしその中で、端に貼ってあるにも関わらず、一際異彩を放つ求人が存在していた。

 

 

 

【香霖堂・店舗管理助手】

給与:時価

業務内容:店舗・商品の管理保守、警備。傘を持参する事。

募集要項:腕に覚えのある人間、妖怪に物怖じしないと尚良い。マジックアイテム・希少品・外の世界の産物などを含むありとあらゆる道具を扱うので最低限の慎重さを求める。手品と称して店の商品を持ち出さないこと。名前に"魔理沙"が入らないこと。

・何とかしてあの黴の妖精を追い払ってくれないか。

 

 

 

おかしい箇所が多過ぎる。本当にどういう求人なんだこれは。

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