第一話:昏い眠りから
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第1話 昏い眠りから
「領域展開――“
大量の一般人と特級呪霊が渦巻く渋谷駅構内。
真人が電車から大量の改造人間を引き連れてきたことで、現場はさらなる混迷の一途をたどっていた。
そんな中、現代最強の呪術師・五条悟が選んだのは、呪霊側が使用しないと思われていた、まさかの“領域展開”。
一か八か、0.2秒の領域展開を実行。
渋谷駅の「時」が凍りつく。
そして、その刹那にすさまじい速度で動き出した五条悟は、術式焼き切れ状態でありながら、基礎的な体術と呪力操作のみで、改造人間を圧倒していく。
――その結果、民間人への被害を最小限にとどめつつ、改造人間1000体を299秒で鏖殺。
「ハァ……ハァ……」
息を切らす五条。
しかし、顔を上げたそのときだった。
目の前に、“それ”があった。
ーー"開 門"
それが開くとともに赤黒い瞳と目が合う
とっさに離れようとするも、
「や、悟」
「……は?」
そこに立っていたのは――
手ずから葬ったはずの親友、夏油傑。
(偽物? 変身の術式? いや……本物⁉)
脳内に一気にあふれ出す、三年間の青い春。
一瞬の隙。
そのわずかな“考え事”が命取りとなった。
拘束される五条。
力が、まったく入らない。
「駄目じゃないか、悟。戦闘中に考え事なんて」
そう喋る“夏油傑”――だが、五条は見抜いていた。
「……で、誰だよ、お前」
「夏油傑だよ、忘れたのかい? 悲しいねぇ」
「この
思い出すのは、かつての青い春。
「“俺”の魂が、それを否定してんだよ‼ さっさと答えろ‼ オマエは誰だ‼」
その言葉に、“夏油”の皮を被った“それ”はニヒルに笑いながら、額の縫い目を引き抜いた。
「キッショ……なんでわかるんだよ」
頭蓋を外すと、そこには口のような器官をもつ“脳”が、蠢いていた。
それを見た五条は、ギリ……と歯ぎしりし、言葉にならない怒りを浮かべる。
偽夏油はぺらぺらと語り出す。
「君、強すぎるんだよ。私の目的に邪魔なの」
「は? 忘れたのか。僕に殺される前、その身体は誰にボコられた?」
「乙骨憂太か……。私はあの子にそこまで魅力を感じないね。
無条件の術式模倣(コピー)も、底無しの呪力も。
どちらも、“最愛の人の魂”を抑留する縛りで成立していたに過ぎない」
周囲で、特級呪霊たちが目を覚まし始める。
「残念だけど、乙骨憂太は“君”にはなれないよ」
一拍置き、偽夏油は言う。
「おやすみ、五条悟。新しい世界で、また会おう」
それを聞いた五条は、ふっと笑った。
「僕はな……オマエは、そろそろ起きろよ」
「……いつまで、いいようにされてんだ、“傑”」
その瞬間――
偽夏油の意思に反して、身体が勝手に動き、己の首を締めはじめた。
「あっはっは。すごいな、初めてだよこんなの」
そう言いながら、目を覚ました真人と笑い合い、やり取りを始める。
いい加減に嫌気が差した五条は、眉をしかめながら口を開く。
「おーい、やるならさっさとしてくれ。ムサ苦しい上に眺めも悪い」
「こちらとしては、もう少し眺めていたいが……そうだね。何かあっても嫌だし」
――“閉 門”
偽夏油がそう呟いた瞬間、五条の視界は昏く沈み、光が消えた。
いつ開くとも知れぬ、獄門彊の彼方へ――。
*
無数の骸骨に囲まれた空間。
その中心で、五条は目隠しをつけ直した。
「……物理的時間は流れてないっぽいね」
ふと、渋谷のことを思い出す。
自身の失敗。
あの時守れなかったもの。
「まずったよなぁ。色々とヤバいよなぁ」
だが、口元はふっと緩む。
頭に浮かんだのは、教え子たちの顔だった。
「……ま、なんとかなるか」
あの子たちなら、きっとやれる。
「期待してるよ、皆」
本来なら、ここで約2か月の幽閉が始まる――はずだった。
だが。
そこに、“歪み”が生まれた。
獄門彊内部の結界が、ゆっくりと捻じれ、色彩の奔流が流れ込んでくる。
“鮮烈な茈”、黒に近い“蒼”、そして形容しがたい極彩色が、空間を裂いていく。
「……なんだ、コレ」
五条の六眼が、焼けるような情報を吐き出して暴走する。
呪力ではない。だが、確かに“似ている”。
「呪力……? いや、違う。輪郭が捉えられない……?」
まるで宇宙の深淵を覗き込むような、名状しがたい感覚。
それが、結界の内側に侵食してきたのだ。
「ちょっと……待て……!」
六眼はすでに情報過多でオーバーヒート。
結界内ということもあり、無下限の術式すら不安定。
視界がゆがみ、地に立つ感覚が消えていく。
そして――
世界が、“入れ替わった”。
*
五条は、目を見開いた。
呪力の流れをまったく感じない空気。
中世風の街並みを歩く、コスプレのような人々。
「……は?」
五条悟の異世界転移は、あまりにも唐突に始まった――。