Re:ゼロから始める無下限術師の異世界生活   作:Griмм

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皆様の暇つぶしに慣れたら幸いです。
感想、評価、誤字報告ありがとうございます。皆さんの応援が力になってます。



第十一話:道化師

 

 

 

「――当主、“ロズワール”様がお戻りになられましたので、どうか食堂へ」

 

 

丁寧な言葉遣い。ほんの数分前までスバルを弄ぶように振り回していたメイドと同一人物とは思えず、五条は少しだけ目を瞬かせた。

だが、これが“使用人の顔”かと理解するのに時間はかからない。

 

 

「ロズワール……あぁ、エミリアを王選に出した後見人っていう? なら、ちゃんと顔合わせしないとね」

 

 

「エミリア様を呼び捨てですか……」

 

 

レム――先ほどから表情に出さずとも地味に刺すツッコミをしてくる方の妹メイドが、ほんの僅かに眉をひそめた。

 

 

「ん? ダメだった?」

 

 

「いえ、客人がどう呼ばれるかを咎める立場ではありません。ただ……いささか奔放ではありますね」

 

 

「僕、基本フリーダムだからね。まぁ、失礼に聞こえてたらそのときは注意してよ、レムちゃん」

 

 

「……承知しました。必要があれば、そのときは」

 

 

言葉は柔らかいが、必要であれば容赦しないというニュアンスが滲んでいる。

(この子、真面目そうだなぁ)と、五条は内心で苦笑する。

 

 

「では、食堂へご案内します」

 

 

レムは静かに一礼し、先導するように歩きだし、五条はそれに黙ってついていく。

歩き出した廊下には、ロズワール邸特有の静謐な空気が漂っている。

この屋敷の当主、そしてルグニカ王国の”宮廷魔導士”。

この国で一番の魔法使いとエミリアは言っていたが、いったいどれほどの実力を持ち合わせているのか。

五条は包帯の下で、ほんのわずかに口の端を上げた。

 

 

 

 

 

 

レムに連れられ、廊下を歩いていく。

早朝の屋敷の廊下は、えもいわれぬ静謐を纏っていた。

途中でレムは朝食を配膳するためにと別れ、五条は食堂の扉の前に立つ。

食堂の扉を開けると最初に目に入ったのは、白いクロスのかかった長大なテーブルとすでに用意されている皿。

次いで目につくのは、皿のある席に並ぶ顔ぶれ。

ベアトリス

そして明らかに上座に座っているスバル。

 

「…………」

 

「お、五条! 遅かったな!」

 

当の本人は満面の笑みで手を振っている。

五条は一瞬だけ沈黙し、それから静かに席についた。

 

(なにその配置。革命でも起こした?)

 

だが、面白いので指摘しないことにした。

ベアトリスがじろりと睨む。

 

「何をにやにやしてるのよ」

 

「いや別に。王様がいたから」

 

「へ?」

 

スバルがきょとんとする。

 

「……お前、相当に頭が残念みたいかしら」

 

「なんで!?」

 

ベアトリスの即断即決に、スバルが机を叩いて抗議する。

売り言葉に買い言葉、取り留めもない問答が繰り返されるうち、食堂の扉がまた開く。

 

「失礼いたします、お客様。 食事の配膳をさせていただきます」

「失礼するわ、お客様。 食器とお茶の配膳をしてもらうから」

 

先ほど別れたレムがラムと台車を伴ってやってくる。

素早く朝食を用意していくうちに、温かな香りが充満してくる。

 

「おほー、いいねいいねぇ。 いかにも貴族って感じの食事だ……これで異世界チックなゲテモノばっかだったらどうしようかと思ったぜ」

 

安堵するスバル、それを横目に五条は元の世界から数えても久方ぶりのまともな食事に少し気分が上がる。

元々日本に四人しかいない特級呪術師、その中でも一線を画する実力の五条は言うまでもなく引く手数多。

加えて直前が渋谷での任務だったこともあり、衝撃的なことが重なりすぎて時間を何倍にも感じていた。

 

来客は止まない。

着替えてきた銀髪の少女が扉を跨ぐとベアトリスが一際大きく反応する。

 

「にーちゃ!」

 

弾むように席を立ち、ベアトリスが走る。

視線の先にはエミリアがいるが、その目は別の存在を移しているようで――

「や、ベティー。 4日ぶりだね、 ちゃんと元気でお淑やかにしてたかな?」

 

瞬間、エミリアから顕現する灰色の子猫、パックと呼ばれる精霊がベアトリスに応じる。

 

「にーちゃの帰りを心待ちにしてたのよ。今日は一緒にいてくれるのかしら」

 

「うん、だいじょーぶ。 今日は久しぶりにゆっくりしてようか」

 

「わーい、なのよ!」

 

昨日の張り詰めた問答を交わした姿からは想像がつかないようなキラキラした様子に、

(あれ? 僕ってめちゃくちゃ嫌われてる? )

と内心で今さら気づく。

 

「ふふ、おったまげたでしょ? ベアトリスがパックとすごーく仲良しだから」

 

「おったまげたってきょうびきかねぇなぁ…」

 

二人がお決まりの会話を交わすなか、エミリアは眉をひそめる。

 

「あれ、スバルその席は…」

 

「あ、違う違う! これは徳川秀吉的なね…」

 

いやそれ異世界じゃ通じないでしょと真面目な指摘を考えながらも、そのやり取りを眺めながら五条は、微かに頬を緩めた。

悪くない空気だ。

昨夜の禁書庫とは違う、陽だまりみたいな温度がある。

 

――その時。

扉が、開いた。

 

「まあまーぁ、気にすることはなーぁいとも。 なるほどエミリア様に君の温もりは届かなかったかもしれないけど、そこは私がきちーぃんと大切に受け取るからねーぇ」

 

エミリアに続くように入ってきた長身の男。

背に届くほどの濃紺の髪を靡かせ、病的なまでに華奢で色白な肌。

左右違いのオッドアイと奇抜なピエロメイク、衣装も相まって空間に違和感を覚えさせるが、何よりも五条に意識させたのはその“声”だった。

五条の顔が、ぴくりと引きつった。

 

(…………は?)

 

ぞわり、と背筋を悪寒が走る。

六眼が、男の全身を瞬時に解析する。

膨大なマナ

緻密な制御

この世界でも最高位クラスの術者なのだろう。

ベアトリスに匹敵する。

いや、総量だけならそれ以上。

等級に換算すれば、文句なしに特級呪霊級。

 

“あの男”には似ても似つかない。

 

だが頭ではわかっても五条の意識はそこでは止まらなかった。

 

(なんで)

 

男はスバルと五条を一瞥して笑みを深める。

 

「君達が新しい客人かーぁな?」

 

(なんでコイツ)

 

声が鼓膜を叩く。

その響きが、五条の記憶を無遠慮に引きずり出した。

 

黒いシャツ

全てを削ぎ落とした真性の虚無

血の匂い

天賦の肉体

あの夏の出来事

 

 

“伏黒甚爾”

 

 

(なんでアイツと同じ声なんだよ)

 

五条の口元がひくつく。

 

(マジで最悪だわ)

 

「……オッエー」

 

思わず、えずく真似をしてしまう。

 

「えっ」

 

スバルが素っ頓狂な声をあげた。

 

「ちょ、五条!? お前まさかピエロ恐怖症!?」

 

「違う」

 

即答。

だが顔は明らかに引きつっている。

エミリアが心配そうに身を乗り出す。

 

「サトル、大丈夫?」

 

「うん……いや……大丈夫」

 

ピエロの男が小首をかしげる。

 

「おやおやおーやぁ、嫌われてしまったかなぁーあ?」

 

「いや、違う違う。あなたに罪はない。ほんとにない」

 

「では、何かねぇ?」

 

「……そっくりな声だなと」

 

「誰に?」

 

スバルが聞くが五条は一瞬黙る。

言えるわけがない。

“学生時代に僕を殺しかけたフィジカルゴリラです”なんて。

 

「……知り合い」

 

「雑!」

 

スバルが即ツッコミを入れる。

ラムが呆れたようにため息をつく。

 

「目隠しも相当雑なのね」

 

「お、もうあだ名?」

 

「光栄に思いなさい」

 

「真希にもよくそう呼ばれてたなぁ」

 

「誰よそれ」

 

「怖い後輩」

 

「怖いのはお前の交友関係かしら」

 

ベアトリスが吐き捨てる。

その軽口に、食卓の空気が少し和らいだ。

五条はそこで、意識を切り替える。

 

(……声だけで判断するとか、さすがに失礼だろ)

 

深呼吸。

目の前の男は伏黒甚爾じゃない。

奇抜な格好と彼に渦巻くマナから以前エミリアが話していたルグニカ王国宮廷魔導士、ロズワールその人なのだろう。

 

――異世界の強者

 

なら見るべきは、過去の亡霊じゃなく今ここにいる相手。

包帯の奥で六眼が静かに細まる。

ロズワールもまた、その視線を正面から受け止めていた。

笑っている。

だがその笑みの奥には、“値踏み”とも“観察”ともとれる冷たい色を纏っていた。

この道化師は、確かに測っている。

この白髪の男が何者なのかを。

 

二人の視線が、交差する。

 

 

 

 

 

 

「改めて、私がこの屋敷の当主、ロズワール・L・メイザースだーぁよ。 無事に当家でくつろげているようでなによりだーぁね。 ――ナツキ・スバルくん、そしてゴジョウ・サトルくん」

 

一瞬の視線の交錯の後、気を取り直したように道化師の男が図々しく名乗る。

肩書きを聞いた瞬間、先ほどエミリアが口にした言葉の意味を理解したのか、直ちにジャンピング土下座に以降しようとするスバルだが、ロズワールに窘められた後本来あるべき席のならびになる。

 

「む……普通以上にうめぇ」

 

「ふふーぅん、そうでしょう。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ?」

 

ロズワールが自慢気なのも納得するその味に、特大の爆弾を投下された五条も段々と落ち着きを取り戻していく。

 

「へぇ、この料理をレムちゃんが…あ、じゃああれか。双子の姉様は掃除とかが得意な感じ?」

 

「いえ、レムは基本家事全般が得意です。掃除、洗濯も得意ですよ。姉様より」

 

「姉様の存在意義が消えた!?」

 

双子メイドでは新しいジャンルに驚くスバル。

それの裏で、五条は妙に納得していた。

 

(なるほどね、ラムちゃんが戦闘担当ってことかな?)

 

現実世界では双子は呪術的に同一人物となり、凶兆とも言われることがあるのだが、この世界には適応されないらしい。

方や一級に届きうる力、方や宿儺並みの潜在能力(ポテンシャル)、内情を見れば姉の方に大きく天秤が傾いているように見える。

変なところで釣り合いがとれてるなぁと思いつつ、久しぶりの食事を食べ進めていく。

 

「さてぇ……まずは改めて礼を言わせてもらおーぉかなぁ」

 

五条の眉がぴくりと動く。

脳裏にチラつく黒シャツのフィジカルゴリラ。反射的に顔をしかめそうになるのを、今度はどうにか耐える。

 

「…問題ないよ、僕にとっては街でアンケートとられたくらいのハプニングさ」

 

「あんけーとがなんなのかはわからないけど…ええっと、スバルとサトルは今この国――ルグニカ王国がどんな状況にあるか知ってる?」

 

「えっと…小耳に挟んだ情報だと、曰く王様が不在とか、王選をしてるとか…」

 

「よかった、少しはわかってるみたいで安心」

 

「エミリアたんの俺に対する信頼が薄い!」

 

スバルが項垂れるのを横目に五条に視線が移る。

 

「悪いけど、僕もそんな感じの認識だね。そもそもこの情報は僕が共有したものだし……詳しく教えてもらえると助かるかな?」

 

そう口にするとロズワールとエミリアからこの国の現状が語られる。

半年前、流行り病で王が急死したことを皮切りに特定の王族に発祥する伝染病と言うあまりにも都合のいい病で血族は根絶やし。王不在の王国などあってはならぬために、王選という政を企てた。

 

――王選。

昨夜、禁書庫で得た知識。

ルグニカ王国、神龍ボルカニカ、そして、“王”の不在。

断片的だった情報が、ロズワールの話で一本に繋がっていく。

そして話を聞くごとに異世界人の身分の危うさを理解することとなる。

特に、エミリアが王候補であることを知らなかったスバルは阿鼻叫喚であった。

ロズワールが続ける。

 

「本来、王候補の徽章を奪われるというのは非常に危険な問題でねぇ。場合によっては、候補者としての資格そのものを疑われかねなーぁい」

 

「……なるほど」

 

五条が頬杖をつく。

つまり、昨夜の事件は単なる盗難じゃない。

王国の政治、権力、派閥。

そういう“面倒臭いもの”が絡む可能性がある。

さらにはエミリア…銀髪のハーフエルフは世界から忌避されている。

――恨みなんていくらでも買うだろう。

 

(やっぱ異世界でも政治闘争はクソかぁ)

 

若干うんざりしながら紅茶を飲む。

 

「加えてぇ」

 

ロズワールの視線が、今度はスバルと五条へ向く。

 

「君達の存在も、正直かなーぁり不可解だ」

 

空気が少しだけ張る。

スバルが肩を強張らせるのがわかった。

 

「身元不明、出身不明、常識も一部欠落している。さらにはサトルくんは見たこともない術式と戦闘技術」

 

ロズワールは笑っているが、その観察眼は鋭い。

宮廷魔導士、その肩書きは伊達ではない。

 

「普通なら、騎士団に即引き渡してもおかしくない案件だよーぉ?」

 

「怖」

 

「まぁそりゃそうか」

 

スバルが素直に引く中で、五条は正反対の反応。

 

(スバルはまだしも僕はエルザをボコったのを見られてるしね)

 

だが五条は、逆に少し面白そうに笑った。

 

「でもそうしてないってことは、少なくとも今のところは敵認定されてない感じ?」

 

「話が早くて助かるねーぇ」

 

ロズワールの目が細まる。

互いに腹の探り合い。 だが敵意はない。

――少なくとも現時点では。

すると、エミリアが少し慌てたように口を開いた。

 

「ち、違うの! 二人とも悪い人じゃないわ! スバルもサトルも、本当に助けてくれて……」

 

「わかっているとも、エミリア様」

 

ロズワールが穏やかに言う。

 

「だからこそ、“褒賞”を用意しようと思ってねぇ」

 

「へ?」

 

「そう。スバルとサトルは私にとって、もうすごい恩人。命を救ってもらっただけじゃ済まないくらい。だから、なんでも言って。私に出来ることなら、なんでもするから」

 

エミリアの真っ直ぐな声音が食卓に落ちる。

そこに打算はない。 恩を返したい――ただそれだけの、あまりにも真っ直ぐな言葉だった。

スバルは一瞬だけ目を丸くし、 それから、ちらりと五条を見る。

五条は肩を竦めた。

 

「ほら、スバル。こういう時は遠慮すると逆に失礼らしいよ?」

 

「なんだその知ったか異世界マナー」

 

「今作った」

 

「適当じゃねぇか!」

 

だが、軽口を叩きながらもスバルの表情は真剣だった。

異世界。 頼れる人間はいない。 金もない。 身分もない。

だからこそ――答えは決まっていた。

会心の笑みを浮かべたスバルは言い放つ。

 

「俺の願いは一つ。俺をこの屋敷で雇ってくれ」

 

静寂

スバルの申し出に、唖然とする女性陣。そして次の瞬間、

 

「ぶふっ」

 

五条が吹いた。

 

「スバルさぁ、もっとあるでしょ。金塊とか地位とか美少女侍らせたいとか」

 

「ねぇよそんな強欲セット!」

 

「えー、異世界主人公なのに?」

 

「なんだよその偏見!」

 

スバルが机を叩く。

エミリアはその要求に絶句したようでスバルに詰め寄る。

 

「わ、私が言うことじゃないけど、ちょっとそれは…欲がなさすぎるの!」

 

エミリアは自分事のようにその無欲さを怒り、本当に理解できない様子だった。

 

「こっちの……感謝の気持ち、全然わかってくれない。そんなことで…命を救われた恩も、なにも返せてないのに…」

 

正面で潤んだ瞳がスバルを見上げる。

それをみたスバルは出来るだけ真摯に本心を伝える。

 

「あのとき、俺は君の名前を知りたかった。多分ほかに必要なものなんて色々あったけど…

――でも、俺は自分に嘘はつきたくない」

 

「ロズっちへの頼みだって…今の俺、マジで何もないし。だったらせめて、役に立てる場所くらい欲しいっていうか」

 

スバルは熱い眼差しをエミリアへ向ける。

その熱量にエミリアも根負け、納得をしたようで、潤んだ瞳も、少し柔らかく細められる。

ロズワールは頬杖をつきながら、 面白そうに笑う。

 

「なるほーぉど。使用人希望、と」

 

「はい! ナツキ・スバル! 働きます!」

 

「体力だけはありそうね」

 

ラムが辛辣に言う。

 

「姉様、脳みそは期待できそうにありません」

 

「お前ら初対面から当たり強くない!?」

 

「安心しなさい。ラムたちなりの歓迎よ」

 

「歓迎のハードルが高ぇ!」

 

食卓に笑いが零れる。

そんな騒がしさを眺めながら、 ロズワールの視線が今度は五条へ向いた。

 

「ではサトルくーぅん。君はどうするのかなぁ?」

 

全員の視線が集まる。

五条は少しだけ考え、 紅茶を一口飲んでから口を開いた。

 

「僕は……そうだな」

 

包帯の奥。

六眼が静かに細まる。

 

「しばらくは食客として扱ってもらおうかな」

 

「その手があったか! ロズワールさん、ぜひ俺を食客に……」

 

「最初の要求が有効です。男に二言とかしないもんねーぇ!」

 

「わかってたよチクショウ!」

 

スバルが机に突っ伏す。 そんな彼を眺めながら、ロズワールは喉を鳴らして笑った。

 

「しかし食客、かーぁ。随分と落ち着いた願いだねぇ」

 

「だって今の僕、知らないことだらけだし」

 

五条は肩を竦める。

 

「文化も歴史も魔法も、この世界の常識すら危うい。下手に動くより、まず知識を集めた方がいい」

包帯越しに細められた視線が、 ロズワールを真っ直ぐ射抜く。

 

「特に魔法かな」

 

その瞬間。

ぴくり、とベアトリスの肩が揺れた。

ロズワールはそれを見逃さない。

 

「ほぉーぉ?」

 

興味深そうに目を細める。

 

「サトルくんは魔法に興味がある、と」

 

「かなりね」

 

五条は軽く答える。

だがその実、 彼の中ではかなり重大な問題だった。

無下限呪術

六眼

異世界のマナ

昨夜の検証でわかったことは多い。 だが同時に、 “この世界の理”を理解しなければ、 本来の術式運用には辿り着けないことも理解していた。

 

「僕の力、この世界だと少し不安定なんだよね」

 

「不安定?」

 

エミリアが不思議そうに首を傾げる。

 

「そ。だから知りたい。この世界の法則を」

 

五条は笑う。

 

「まぁ、ただでは起きたくないってことだよ。知らないものは全部見ておきたいじゃん」

 

軽い調子。 だがその眼だけは笑っていない。

ロズワールは数秒、 静かに五条を見つめる。

 

(……面白い)

 

そう言いたげに。

 

「昨夜もベアトリスに色々教えてもらってたしね」

 

「――っ」

 

ベアトリスの身体が目に見えて固まった。

エミリアがぱちぱちと瞬きをする。

 

「え? ベアトリスと?」

 

「うん。禁書庫で」

 

「禁書庫に入れたのかーぁい?」

 

今度はロズワールが目を細めた。

その声音には、 初めて明確な驚きが混じっていた。

五条はきょとんとする。

 

「入れたっていうか、こじ開けた感じだけどね」

 

「…………」

 

沈黙。

ベアトリスが露骨に視線を逸らす。

 

「ベアトリス?」

 

「な、なんでもないのよ!」

 

「いや絶対なんかあるじゃん」

 

スバルが即座に突っ込む。

 

「にしてもすげぇな、五条さん。あの腹黒ドリルロリをてなづけるなんて…」

 

「お前は黙ってるのよ!」

 

会話に侮蔑の成分を検知した瞬間声を上げるベアトリスに自然と笑みが浮かぶ五条。

ロズワールは頬杖をついたまま、 じっとベアトリスを見つめていた。

オッドアイが、 静かに細められる。

――ゴジョウ・サトル

底が見えない。

単純な戦闘能力だけではない。 何かもっと、 世界そのものに干渉するような異質さを感じる。

だが当の本人は、 空気も読まずにベアトリスへ笑いかけていた。

 

「いやぁ助かったよ、先生」

 

「先生じゃないのよ!」

 

「え、でも教えてくれるんでしょ?」

 

「それは契約だからかしら!」

 

「じゃあ先生じゃん」

 

「違うって言ってるのよ!」

 

ベアトリスが珍しく感情を露わにする。

パックがそれを見て、 面白そうににやついた。

エミリアもどこか嬉しそうに笑っている。

食卓の空気が、 少し柔らかくなった。

するとロズワールが、 わざとらしく咳払いをする。

 

「では改めてーぇ」

 

その声で全員の視線が集まる。

 

「スバルくんには屋敷の使用人の職を、サトルくんには食客として屋敷への滞在を認めようじゃなーぁいか」

 

するとラムが唐突に口を開いた。

「では改めて、自己紹介でもしておくべきかしら」

 

レムが静かに頷く。

 

「ラムはラムです」 「レムはレムです」

 

「双子そのまんまだなぁ!」

 

スバルがツッコむ。

 

「そしてあなたは今日からバルス」 「なんで目潰しの呪文!?」

 

「響きがバルスだからよ」

 

「理不尽!」

 

食卓に笑いが広がる。

騒がしいく奇妙で、 どこか温かい朝だった。

 

―こうして。

使用人として地獄の労働生活へ突入するスバルと。

禁書庫に籠り、異世界の理と魔法を学び始める五条悟。

二人の異世界生活は、 それぞれ違う形で動き始めるのだった。

 

 

 





本当にお久しぶりです。久々なので大ボリュームです。エタってません。
前回は早めに投稿できるとかのたまってましたが、去年は大きな生活の変化があり、それに追われるうちに創作と疎遠に…
書こうとしてもいまいち興が沸かず…正直スランプでしたが、なんとか書けました。
次いつ投稿できるかは断言できませんが、少なくともエタることは絶対にないです。
それではまた次の投稿で

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