最近忙しいのと執筆が楽しいので、相反する感情がめばえている。ぐぬぬぬぬ
感想、評価、誤字報告ありがとうございます。これからもお待ちしております。
変わった子だなぁ、と五条は率直な感想を内心述べる。
先ほどまで、五条はこの世界の情報を手に入れる方法を探るため、王都に向かい情報収集を行おうとしていた。
そこに向かう途中助けを求める声がしたため、心配半分興味半分で路地に入ったところこの少年、”ナツキスバル”に遭遇したのだ。
風貌的に日本人だと当たりを付け、何か情報を得られるかもと打算を持って近づいたら、これが面白い。
非力な一般人だと思ったら、明確な意図を持ったまなざしでこの僕に取引を持ち掛けてきたのだ。一般高校生とは思えない気概に教え子の面影を感じつつ、単純にこの少年に興味がわいた。
――なにせ、この少年からは予感がする
この一見平凡な子が、これから起こる”あらゆること”の渦中に引き込まれるような、理由のない予感が。
それにこの子が言っていた女の子が巻き込まれる事件とやらも気になるし、情報も欲しい。
もはや断る理由が見つからなかった五条は、笑いながらスバルの申し出を承諾したのだ。
*
「それじゃあまずは、君が知っているこの世界の情報を教えてくれるかい?」
「おうよ」
と、スバルは親指を立てて見せたが、すぐにその手を頭に回してポリポリとかいた。
「って言っても、俺もそんな詳しいわけじゃないんだけどな。ただ……何度か、いや、いくつか“経験”したことはある」
「ふうん?」
「この世界には魔法があって、剣と精霊と獣人とエルフがいて……たぶん、ゲームの異世界テンプレに近いんだけど、その中でも特に“マナ”ってのが根っこにあるっぽい」
「マナ……?」
五条が口の中で繰り返すと、その響きが喉の奥に残るような、奇妙な感触がした。
「マナってのは、簡単に言うと、この世界に満ちてる魔力の源みたいなもんだ。魔法を使う時にもこれを操作するんだけど、俺は使えないし、よくわからん。ただ――」
スバルは空を見上げる。
「空気みたいに、この世界に“当たり前にある”って感覚なんだよな、たぶん。あ、五条さんは何か感じるか?この世界に来てからの違和感とか...」
「……違和感、ねぇ」
まさに、というべきだろうか。五条は内心で舌を巻いた。
彼がこの世界に来てから、ずっと自身の“呪力”がまとわりつくように重く、妙に不安定だったのだ。特に無下限を展開しようとすると、まるで細かい粒子が邪魔をして、精密な制御が一切効かない。まるで濁った水中で、針の穴に糸を通そうとしているような、そんな感覚。
(呪力が干渉を受けてる感覚はずっとあったけど、それが“マナ”ってやつなのか?)
五条はふと、目隠しの奥の六眼を凝らして、情報を走らせる。
相変わらずノイズはひどいが、マナという存在を意識して空間を覗いてみると、何か明確に呪力とは違った輪郭を持つエネルギー体が宙を舞っているように見え始める。
“マナ”の存在を情報として咀嚼し、呪力と分けて考えることで、ようやく六眼の分析が進み始めていた。
「……ふーん。なるほどねぇ」
「ん、なんか分かった?」
「ちょっとだけ。僕がこっちに来てから、どうにも調子が悪かったんだけどさ……おかげでひとつ、腑に落ちたよ。ありがとう、スバル」
「さっきから思ったけどあんた距離縮めるの早ぇな...」
スバルからの辛辣なツッコミを受け、またあの軽薄とも取れる笑顔を浮かべる五条。
だがその裏で、彼の六眼は確実に“この世界の法則”を捉え始めていた。
*
スバルの話がひと段落し、五条のほうに顔を向ける。
「じゃあ次はそっちの番だ。五条さん、あんたは何か知ったことはあるか?」
五条は壁にもたれかかったまま空を仰ぎ、わざとらしく肩をすくめる。
「うーん、まぁ知ったってほどじゃないけど、ちょっと気になる話は耳にしたよ」
スバルが目を細め、身を乗り出す。
「この国、王様がいないらしい。で、今は『王選』ってのをやってて、何人かの候補者が次の王を争ってる最中なんだとさ。ちょうど街の道端で、おばさまたちが井戸端会議をしてる場に偶然遭遇してね」
「王がいない? でも、そういうのって普通は王様の子供が後を継いで万事解決じゃないの?」
「それに関しては僕も詳しい事情は分からないけど、王選って大々的にまつりごとをしてる以上、この国に何かがあったのは確実だろうね」
「王選......」
スバルが疑問に顎を触る。
「それだけじゃない。僕らはいきなり異世界に連れてこられたわけだけど、それって僕らにこの世界でやってもらう明確な”役割”を期待してのことだと思うんだ。確実に僕らを呼んだやつがいる」
「ってことは、誰かが俺たちを……?」
「監視している...かもしれない。異世界転移なんて非日常的な現象が起きてる時点で、ファンタジー気分で済む話じゃないんだ。おそらく、“意図的な何か”が働いてる。僕たちはただの通行人じゃなくて、舞台装置として選ばれた存在なのかもしれない」
五条の口調は軽かったが、その目は冗談を言っているものではなかった。スバルは無意識に拳を握りしめる。
「さあな。でも、誰かを救いたいって思って足を突っ込んだのは俺の意思だ。だから……駒でも、動くしかないんだよ」
「いいねぇ、君みたいなのは嫌いじゃない」
五条がそういった後、スバルに顔を向ける。
「さて、お互いの情報共有も済んだしそろそろ動こうか。君の言っていた“事件”ってやつを止めるために」
「……本気で、手伝ってくれるのか?」
「あったり前じゃん。だって僕、“最強”だしね」
その言葉はどこまでも軽く、けれどどこまでも自信に満ちていた。
スバルは頷きながら、ふと胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
「じゃあ、行こうか。君のヒロインを助けに」
そう言って立ち上がる五条の背に、スバルもまた足を踏み出す。
どこに向かえば正解かなんて、誰にも分からない。
でも、それでも──誰かと肩を並べて進めるなら。
「……頼りにしてるぜ、最強さん」
「おっ、それもっと言って。何回でも聞きたいな、それ」
こんな人が担任って、生徒の人たちは大変だろうなと思いつつ、軽口を交わしながらふたりの影が路地裏を抜けていく。
*
「フェルトの奴のねぐらか。そんなら、そこの通りを二本奥へ行った先だ」
「ありがとよ。助かったよ、兄弟」
「気にすんなよ、兄弟。――その、なんだ、強く生きろよ」
終始、そのひきつった笑みから同情の色が抜けない男の表情に、スバルは己の作戦がうまくいっていることにそっとこぶしを握る。
道に戻ってきたスバルを見て五条は素直に感心する。
「いい作戦があるっていって道に転がりだしたときはさすがに笑っちゃったけど、なるほど。貧民街の人々に同情を誘うためとは、スバルも考えたね」
「ま、ちょっと汚れがオーバーな節もあるが...あと、俺が作戦を遂行してる最中に写真撮っちゃおとか言ってたの覚えてるからな」
先ほどのひと悶着について追及されるが、ごめーんと平謝りすることで事なきを得る。スバルは終始納得がいっていなかったが。
「いやぁにしても結構とんとん拍子に行くもんだ。君本当に僕と同じ異世界初日?」
五条が茶化すように肩をすくめて言えば、スバルはふてくされたように口を尖らせる。
「そりゃ俺だって、いろいろあったんだよ……なんていうか、経験だけは積んでるからさ」
言葉に含ませた重みを、五条は敏感に察知する。
けれど、今の彼にはその真意まで踏み込めない。
なぜなら――六眼はまだ、この世界を完全には見通せていないのだから。
「ま、頼れる相棒ってことだね。じゃ、次は僕が決めようか。とりあえず目的地は分かった。あとは……どう攻めるか、だね」
「フェルトが盗品を持ってるなら、そこに戻ってる可能性は高い。あとはこっちの出方次第ってわけだ」
五条はくいっと首を鳴らして、軽く背伸びをする。
「力ずく、ってのは避けたいけど……まあ、僕が前に出るってだけで、案外素直に返してくれるかもよ?」
「そう上手くいくかね?」
「だって僕、見た目からして怪しいでしょ? やばい奴って思わせとけば、相手もあんまり変な動きはできないもんさ」
言って笑う五条に、スバルは肩をすくめた。
「……なんだか、敵に回したくねえな、あんた」
「でしょー?」
軽口を飛ばし合いながらも、二人の歩みに迷いはなかった。
途中から、スバルは小走りに貧民街の奥へと向かう。
足元の得体のしれない水たまりを回避、したところで、向こうから現れた人影とぶつかりそうになる。
慌てて身をかわして、細い通りに背中からぶつかり思わず「うぐ!」と息が詰まる。
そんなスバルを見て、相手はおっとりとした仕草で、
「あらごめんなさい。大丈夫かしら?」
「大丈夫大丈夫。こう見えても俺って頑丈なのが取り柄――っ⁉」
五条が追いつくと、そこにはスバルと女がいた。
年齢はおそらく二十歳くらい。病的なまでの白い肌と露出度の高い黒い外套をまとった姿だ。
「――そんなに恐がらなくても、何もしないのだけれど」
女の言葉に対しスバルが何か返答しようとする。
状況を察した五条は二人の間に割って入る。
「いやぁ、うちのスバルが失礼して悪いねぇ。でもそうかっかしないでよ。スバルだって謝ってるし、あんまり怒るとその美貌が台無しだよ?」
「あら、うれしいことを言ってくれるのね。悪いわね、お連れの人を怖がらせてしまったようで。でも、ここで騒ぎを起こす気はないから安心して?」
女がそういうと五条はスバルの腕をつかんで連れていく。だがすれ違いざまスバルの耳に女が囁く。
「――次はもっと敵意を隠せるようにね」
放たれた一言に驚愕し思わず振り返る。
「それじゃ、失礼するわ。また会えそうな気がするわね」
「そりゃどうも、それじゃ」
そう五条が言って離れると、真面目なトーンでスバルに話しかける。
「スバル、さっきからずっと震えてたけど……知り合い? あのお姉さん」
「な、なんでもねぇよ。たまたまちょっと、昔……似たようなのに会っただけでさ」
「ふぅん。そうやって黙ってると、余計気になるんだけどねぇ。でもまぁ、無理に聞く気はないよ。僕、空気読めるタイプだから」
軽く笑いながら、五条は背後で立ち尽くすスバルの肩をぽんと叩いた。
(あの女、立ち姿からしてなかなかの手練れだったな。まあ僕には及ばないけど。スバルが怖がるのも納得だけど、だとしてもあそこまで異常に怖がるかねぇ?)
五条の胸に疑問が残る中、再び目的の場所へと動き出す。
通り過ぎた道にあの女の残り香が、妙に強く漂っていた。
*
謎の女との遭遇からしばらく後、二人は先ほどの中年の男が教えてくれたフェルトのねぐらにたどり着く
「情報じゃこれだと思うんだが...」
「...あんまり寝れそうにはないね」
スバルと感想が一致する五条。扉からボロ屋を覗くと、そこには立って半畳寝て一畳を地で行くような空間が広がっていた。
「ほんとにここで合ってんの? スバルが言うには、その女の子は割と身なりがきれいだったらしいじゃない」
「あの作戦に狂いはないはず...こんなとこで小さい体をちっちゃくして生きてるんだ。こりゃ盗賊やってんのにも割と同情が...」
「言いすぎだろ、人の寝床見てどんだけだよ。兄ちゃん」
声をかけられて振り返るとそこにはこちらをジト目でにらみつける金髪の小柄な少女――彼女がスバルが口にしていた”フェルト”なのだろう。
「あー、君がフェルトちゃんで合ってるかな?こちらのスバル君が君に頼みがあるらしくて。ちょっと聞いてくれない?」
フェルトはじとっとした目でスバルと五条を交互に見たあと、大げさにため息をついた。
「……はぁ? あたしが誰かって知ってて、なおかつこんなトコまでわざわざ来たわけ? 暇人かよ、あんたら」
「暇って言うなよ、こっちは命がけなんだよ!」
スバルがやや必死に声を上げると、フェルトは訝しげに眉をひそめる。
「ほぉん? 命がけで、あたしに頼み事ぉ? 物好きってレベルじゃねぇな。で、何の用だよ?盗みの依頼なら前金出せよ。相手の質次第じゃ、追加もらうけどな」
その言葉に対し、スバルが五条の一歩前に出てフェルトに向き合い、こう告げる。
「俺の要件は一つ。――お前が盗んだ”徽章”を、こちらで買い取りたい」
話が原作の話とだいたい一緒なのが申し訳ない。これからの展開のためには必要なんだ。