Re:ゼロから始める無下限術師の異世界生活   作:Griмм

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更新遅れてすまない!やっぱ構成大変だわ。
感想、評価、誤字報告ありがとうございます。皆様の応援が力になっております。これからもよろしくお願いいたします。



第五話:盗品庫にて

 

 

「大ネズミに」

 

 

「ホウ酸団子ってどこで売ってんの? 毒」

 

 

「白鯨に」

 

 

「俺の船長の原点はやっぱりエイバブ船長です。釣り針」

 

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

 

「ファンタジー世界だから実際いるんだろうけど、マジ直接対面したらなんにもできないこと請け合い。でもロマンだから会いたいのも事実。そんな曖昧な自分の心に嘘をつくこともできなくて、ところがそんな自分がやっぱり嫌いじゃない。クソったれな気分」

 

 

「余計な枕詞つけんと合言葉も言えんのか! 余計に腹立たしいわ!」

 

 

扉が内側から蹴破られるように開かれる。が、予期していたスバルは素早く後方に飛びのいてノーダメージ。五条に至ってはスバルの後ろをついて歩いていたのでそもそも射程内にいない始末。

悔しげに喉をうならせるのは、入口の高さに身長が噛み合っていない巨人――フェルトが言うにロム爺が顔を真っ赤にして、血圧が高そうな有様になっていた。

 

 

「あんま頭に血ィ上らせると死んじゃうよぉ? お爺ちゃん」

 

 

「なんじゃお前らは! 今日はな、人払いしなきゃならん日なんじゃ! 入れん、入れんぞ! わかったらさっさと帰れ!」

 

 

合言葉を好き勝手改変したスバルと、ロム爺の様子ににやにやと笑みを浮かべる五条をみて即門前払いを宣告するが、その言葉を覆したのは、

 

 

「あー、悪い。コイツらもアタシの客なんだ。入れてやってよ、ロム爺」

 

 

五条の隣に立っていたフェルトだった。

彼女はがっくりと肩を落とすロム爺を同情的な目で見て、それからしらっとした顔で口笛など吹いているスバルを横目に、

 

 

「アンタら、かなり性格悪いな。控えめに言って最悪だ」

 

 

「それ、僕の生徒にもよく言われるんだよねぇ。僕は完璧な教師なのに...なんでだろ」

 

 

「知らねーし知らなくてよさそーだから深く聞かねー。上がるぞ、ロム爺」

 

 

道中でもさんざん聞かされたスバルと五条の軽口にいい加減辟易していたフェルトは、うなだれるロム爺を無視して盗品蔵に入る。

盗品庫に入る。

ロム爺は困惑顔をスバルに向けた。そんな皺だらけの顔にスバルはうんうんと頷きかけて、

 

 

「マイペースな奴はこれだから困る。俺らみたいな一般人は置き去りだぜ、なあ?」

 

 

「まったくやかましいやつらが来たと思ったら散々場を引っ掻き回しおって......とっとと入れ」

 

 

なにもかもを諦めたように投げやりに、ロム爺は巨体を小さくして中へ戻る。その背中についていく様に、スバルと五条は盗品蔵に入っていく。

 

 

外からみればただのボロい倉庫、中に入ると統一感がゼロの品々が所狭しと並び、蔵の中の広いスペースを無造作に覆い尽くしている。

それを一瞥しながら、五条は目隠し越しの六眼で罠の類いがないかの識別を試みる。

 

 

(うーん...解析は始まったけど、歪みはまだまだ激しいな。でも、異常な反応を示す物品は見当たらない)

 

 

なにかエネルギーが込められたものはナシ。ただの物理攻撃なら僕の無下限で十分対処可能。そう結論付けた五条はそのまま併設されたカウンターに座る。

 

 

隣を見ると、スバルとフェルトが出されたミルクの違いに関して、冷えてないだの言い合いをしていた。

 

 

「ハァー...さすがの僕でも疲れるねこれは」

 

 

そのやり取りを無視してカウンターに少し寄りかかる。

六眼が与える継続的な疲労は、星漿体護衛任務の終盤を思い出すがいまの状態はそれよりひどい。体内から訴えてくる目眩、吐き気を無視して動いていたがやはり疲れるものは疲れる。

 

 

(ふぅ...まあ、この程度の疲労で立ち止まってるわけにはいかないよね)

 

 

五条は一人そう思い、顔をあげるとスバルたちのもとに合流する。

 

 

「お、五条さんも来たな。さて、爺さん。かなり時間ロスしたんで、横道逸れる前にさっさと本題に入りたい」

 

 

「だいーぶ脇道走ったのはお前らのせいな気がしてならんが……なんじゃい」

 

 

「頼みたいのは鑑定、って感じになるかな。俺の持ってきた『魔法器(ミーティア)』に値段をつけて、それをフェルトに対して保障してもらいたい」

 

 

話が商談ともなれば、ロム爺の灰色がかった瞳が真剣味を帯びる。

 

彼は確認するようにフェルトを見やり、彼女の肯定の頷きを見ると視線を戻した。

その瞳が鑑定品を求めているのが伝わると、スバルは懐から携帯電話を取り出す。五条が使っているようなスマートフォンではなくガラケーだ。メタリックな見た目がまずその興味を惹き、大きすぎる手の中にあってはまさしく玩具のような機器を繊細な指触りが確かめるように撫でた。

 

 

五条は盗品蔵に来る前のやり取りを思い出す。

 

 

 

 

 

 

「それで? 徽章を買い取るっつーのはどういうことだ? もともと、これを頼んできた姉さんとは別口だろ? 商売敵か何かか?」

 

 

その言葉に対し、五条が一歩前に出て、やや面倒そうな顔で指を鳴らす。

 

 

「まあまあ、聞いてよ。事情を説明するなら順番ってもんがあるでしょ」

 

 

フェルトがジト目でにらむが、五条は気にも留めずに続ける。

 

 

「ていうかそもそも、理由ってそんなに重要かな?君は盗人だろう?なら高い値段を提示したほうに売りつけるほうが合理的だ」

 

 

「まぁ、そういうこったな。でも、そこまで言うなら交換条件に見合うものの一つは持ってきてるんだろうな?」

 

 

「当然。そうだろう?スバル」

 

 

「おうよ。これが俺らが提示する報酬、『魔法器(ミーティア)』だ」

 

 

そういうと、スバルは交渉のキーアイテムである携帯電話を取り出す。

小型の機械の出現に、フェルトはほんのわずかに眉をひそめる。

 

 

「それがミーティア? アタシにゃ手鏡かなんかにしか見えねーが」

 

 

「侮るなかれ、時間を切り取り、凍結させる。さあ、受けて見るがいい――NATUKIフラッシュ8連射!!」

 

 

写真を撮ると白光が裏路地を切り裂き、まともに光を浴びるフェルトが音と輝きに「うわぉう!」と女の子らしからぬ悲鳴で反応。

 

 

文句言いたげな顔を浮かべる少女に画面を突きつける。赤い双眸が驚きに見開かれる。

 

 

「これがこのミーティアの力だ。こうして精巧な絵を残すことができる。推定聖金貨20枚の価値がある代物だ。さあ、どうよ」

 

 

ミーティアの能力と提示された金額に面食らうフェルトだったが、徐々に冷静さを取り戻すとスバルに突っ込む。

 

 

「まぁ、確かに物珍しさは認めるけどどんだけの金になるかは微妙だぜ? 言っとくが、交渉相手の意見を丸呑みして、これが聖金貨二十枚だなんて甘い蜜を信じてやるほど頭が空っぽってわけじゃねーんだ」

 

 

そういうと、詳しく鑑定してくれる場所があるといって盗品蔵に案内される。スバルは終始焦った様子で、交渉の帰結を急いでいた。

 

 

 

 

 

 

「これがミーティア。さしもの儂も見るのは初めてじゃが……」

 

 

ロム爺はガラケーを掌に乗せ、まるで精密細工でも扱うような手つきで観察し始める。金属の質感、ボタンの配列、画面の輝き。開閉するたびにわずかな駆動音が鳴るのも、彼の好奇心を刺激しているようだった。

 

 

「たぶん世界に一個しかない。あと、わりとデリケートな機械だから扱いには注意。ぶっ壊されるとマジで死ななきゃいけないレベル」

 

 

スバルの言葉に、ロム爺はふむと頷きながらも口元は少し引き締めた。

 

 

「貴様……それほどの品を気軽に渡すとは、なかなかの度胸じゃな」

 

 

「いやぁ、まあ……背中に最強がついてるし」

 

 

スバルが親指で五条を指すと、五条は肩をすくめながらカウンターの端に腰を下ろしたまま手を振る。

 

 

「プレッシャーかけんのやめてよね。僕、戦闘以外じゃあんまり役に立たないのに~」

 

 

「嘘こけ。てめぇみたいなのが一番タチ悪いんだよ、ニコニコして余裕ぶっこく奴が一番信用ならねぇ」

 

 

フェルトのツッコミに苦笑しつつも、ロム爺はようやくミーティアをカウンターに置いた。

 

 

「これは確かに恐れ入ったわい。もしも儂が取り扱うなら、聖金貨で十五……いや、二十枚は下らずにさばいてみせる。それだけの価値はある」

 

 

売人としての職人魂が刺激されたのか、やたらと瞳を輝かせるロム爺。

それを聞いたスバルはフェルトに顔を向け、思わずわき上がるドヤ顔で鼻を鳴らし、

 

 

「とまぁ、俺の手札はこんな感じだ。宣言通り、聖金貨で二十枚以上の品物。これでお前の徽章との物々交換を申し込みたい」

 

 

こちらの思惑通りに事が進むのが面白くないのか、フェルトは不満げな顔つきだ。が、それでも自分の懐が温かくなる事情には代えられないのだろう。

 

 

「ま、それが金になるって保障がついたのは素直に嬉しいさ。聖金貨二十枚ってのも疑わないで済みそーだし。アンタの手札は了解した」

 

 

「だろ!? んじゃ、交渉成立ってことで。うまく売るのはそっちのやりようだ。ガンバ! それじゃ俺は急ぐんで、ここらで失礼させてもらおうかと……」

 

 

そそくさとフェルトに歩み寄り、手を出して徽章を求める。

しかし、その掌は上からやんわりと取り下げられた。

 

 

眉を寄せるスバルに、至近まで顔を近づけてフェルトは、

 

 

「ちょっと待て。なんでそんなに急いでんだ?」

 

 

「人生ってのは有限なんだ。一秒一秒を大切に、無駄を極力省くことで……」

 

 

「あー、はいはい。そーゆーのはいいんで。つかさ……」

 

 

語尾を濁らせて誤魔化そうとするスバルをフェルトが流す。

彼女はその赤い瞳を細めると、淡々とした態度で核心を突く。

 

 

「そもそも、なんで兄さんはこの徽章を欲しがんだよ?」

 

 

うぐ、と思わず息が詰まったのを見られて、スバルは己の失策を悟る。

獲物をなぶる猫のような残酷さで、フェルトはスバルの至らなさを攻め立てる。

彼女は嗜虐的な笑みを浮かべたまま、押し黙るスバルを突き放し、

 

 

「この徽章は、なんだ? 実はこいつには、この見た目以上の価値があるんだ。だから欲しがるんだろ? それはつまり、ミーティア以上の金になる価値ってことだ」

 

 

フェルトの追及にスバルが目に見えて焦りだす。それに対し、五条は黙って様子をうかがう。

 

 

「待て、フェルト。お前、その考えはマジに危ないぞ。話の流れ的に何を言い出すのかだいたい予想がつくのがゲーム脳でアレだけど……それはマジにやめとけ」

 

 

「聖金貨二十枚以上、その価値で手ぇ打っとけ! それ以上は欲しがるな! エル……お前に依頼した奴だって、聖金貨二十枚が限度だ! それ以上は出してこない!」

 

 

「なんでアンタがそれを知ってんだよ」

 

 

「あ……」

 

 

「語るに落ちてるぜ。――関係者だってな」

 

 

スバルが口走った言葉に対し、静観していた五条もぴくりとする。

 

 

(薄々感づいてはいたけど、やっぱり僕に隠してることがあるみたいだね。この子はいったい何を知ってるんだ?......とはいえ、このままだと交渉が難航しそうだ。スバルに手伝うといった手前、ここで何もしないのもまずい。...仕方ない、ここは一肌脱いであげよう)

 

 

そう思うと緊迫した交渉現場に、五条が割って入る。

 

 

「おっと、ちょっと空気が重すぎない?」

 

 

場の緊張を断ち切るように軽やかに笑う五条をみて、その場にいる全員が怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「実はさ。言ってなかったんだけど、僕からも“おまけ”をつけようと思っててね。──はい、これ」

 

 

彼の手の中にあったのは、黒い光沢を放つ、スタイリッシュな板状の機械。

 

 

「……それは?」

 

 

ロム爺とフェルトが声を重ねる。

 

 

「こっちはさっきのミーティアと違って、映像も録れるし、音も残せる。もっと言えば、条件次第で人との遠隔通信も可能。あのミーティアが静止画なら、これは──動く魔法器さ」

 

 

デモンストレーションとして、アルバムに保存していた適当な動画を流してみる。

静かに語る五条の声に、フェルトとロム爺の顔が一変する。

特にロム爺は、五条の手元を食い入るように見つめ、喉を鳴らす。

 

 

「お、お主……それを今まで隠しておったんか……!?」

 

 

「いやあ、状況に応じて切り札ってのは使い分けるものでしょ?」

 

 

五条が冗談めかして肩をすくめると、スバルが思わず叫ぶ。

 

 

「おい待て! 五条さん、それ俺も聞いてなかったぞ! そんな反則カードまだ持ってたのかよ!」

 

 

「サプライズってやつ。君があんまりうまくやってるから、途中で邪魔するのも悪いと思ってね。でもさ──」

 

 

五条はスバルを横目に見ながら、フェルトにスマホを軽く見せつける。

 

 

「彼の“本気”を信じる後押しになるなら、僕は協力を惜しまない。だからさ、これで疑いが晴れるなら──どう?」

 

 

フェルトは沈黙のまま、五条の顔をじっと見つめた。

その視線の奥にあったのは、警戒ではない。──揺れる好奇心と、商人としての打算。

 

 

「……なんなんだよ、アンタらは。わけわかんねぇことばっかりで、でも──嘘はついてない顔してるんだよな」

 

 

しばしの間を置いて、フェルトは懐から、金色の徽章を取り出した。

窓から差し込む夕日を受けてそれがきらりと輝く。

 

 

「……あたしは“金にならない情”は信じない。でも、“金になる誠意”ってのは、認めてやってもいい。取引、成立だ」

 

 

徽章がスバルの手に渡ったその瞬間──

彼の背中から、重たい何かが剥がれ落ちたように力が抜けた。

 

 

「──ありがとう。……本当に、ありがとう」

 

 

スバルはフェルト、そして五条に深々と頭を下げた。

五条は、そんな彼の姿を黙って見守りながら、スマホを軽く回す。

 

 

「……それにしてもアンタ、食えない奴だな。見た目は呑気でスカしてんのに、話すことは筋通ってやがる。あの兄ちゃんとは大違いだ」

 

 

「うぉい! どさくさに紛れて俺の悪口言うなよ!」

 

 

そのやり取りに対し、クスクスと笑いながら、最後に一言。

 

 

「さて。後は、間に合うかどうかだね」

 

 

「――誰じゃ」

 

 

ロム爺がその表情を変えて、盗品蔵の入口を睨んだのはそのときだ。

スバルは交渉が成功したことによる安堵で体が弛緩していた。

それ故に、今一歩、思考がその答えに達するのが遅れる。

 

 

「アタシの客かもしれねー。まだ早い気がするけど」

 

 

その背中を見つめていると、スバルは焦燥に満ちた顔で叫ぶ。

 

 

「――開けるな! 殺されるぞ!!」

 

 

スバルのただならぬ態度に五条は構える。

扉が開かれて、夕焼け色の光が盗品蔵の薄闇をぼんやりと淡く振り払う。

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

「――殺すとか、そんなおっかないこと、いきなりしないわよ」

 

 

どこかで聞いたような容姿の少女が、仏頂面で唇を尖らせながら蔵の中へと足を踏み入れていた。

 

 

 





次回はようやく異世界での五条の本格的な戦闘が描けるかも。


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