魔法科高校の転生者〜暴虐の魔王の力を継ぐもの〜   作:Aibelnik

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第二話 検査

検査室のドアが、静かに開いた。

 

 中に広がるのは、白を基調とした静謐な空間。壁際に設置された機器類は、どれも精密かつ近未来的な光を放ち、室内の空気はほんのりと冷たい。

 

「一条将輝くん、こちらの装置に乗ってください」

 

 研究所の女性に案内された装置は、透明な球体の中心に設置された測定リング。弟の将輝は、好奇心を隠さずに嬉しそうな声を漏らす。

 

「わぁ……すごい、ほんとに魔法の研究室みたいだね、兄さん!」

 

「……静かにしとけって」

 

 俺は、口元をゆるく引き締めながら応えた。いつも通り明るく無邪気な将輝は、こうしたイベントごとが大好きだ。

 

「それでは、サイオン量の測定を開始します」

 

 技術者の掛け声と同時に、リングが起動し、将輝の全身を淡い光が包む。

 

 数秒後、装置のディスプレイに数値が浮かび上がった。

 

『サイオン量:Aランク(上位12%相当)』

 

「素晴らしい数値です。一条家の血筋らしい、高い基礎サイオン量ですね」

 

「続いて、魔法演算領域の測定を開始します」

 

そう言うと先ほどと同じように、リングが起動し、ふたたび将輝の全身を淡い光が包む。

 

 数秒後、装置のディスプレイに数値が浮かび上がった。

 

『魔法演算領域:AAランク(上位8パーセント)』

 

「サイオン量、魔法演算領域共に素晴らしいですね」

 

技術者が笑顔で頷き、後方に立っていた父・一条剛毅も満足げに腕を組んだ。

 

「ふっ、まずは順調のようだな。将輝、よくやった」

 

「うんっ!」

 

 将輝は得意げに胸を張る。さすがに嬉しいらしい。

 

 そして──次は、俺の番だった。

 

「では、次は悠也くん。こちらへどうぞ」

 

 無言で装置の中心に立つ。身体を包むリングが、ゆっくりと回転を始めた。

 

 その瞬間──

 

 ピィィィィィィィィィィィン……!

 

 耳に痛いほどの高周波が鳴り響き、測定装置の表示画面が瞬間的にバグを起こしたかのようにノイズを走らせた。

 

「な……これは……!?」

 

 技術者の顔がみるみる青ざめる。後方の別のスタッフが慌てて補助装置を操作し、再計測を試みる。

 

 数秒後、ようやく画面が安定し、表示された数値に一同が息をのんだ。

 

『サイオン量:SSランク(上位0.1%未満)』

 

「……バ、バケモノか……」

 

 思わず技術者が呟いた。

 

「おい、これは……正しい数値なのか?」

 

 剛毅の声にも、動揺が滲む。

 

 技術者は慌ててモニターと補助データを確認しながら、しぶしぶと答える。

 

「……はい。二度の再計測で確認しましたが、数値は一致しています。彼の体内には、一般的な魔法師の百倍を優に超えるサイオン量が存在しています」

 

「百倍……だと……?」

 

 剛毅が目を見開く。将輝も、隣でぽかんと口を開けていた。

 

「兄さん、そんなにすごかったの……?」

 

 ……すごいというか、これはもう“異常”だ。

 

 もちろん俺自身も、ある程度の覚悟はしていた。アノス・ヴォルディゴードの力を封印しているとはいえ、ベーススペックはやはり人間離れしている。

 

 けれど──まさかここまでとは。

 

「これほどのサイオン量を持つ人は、過去の十師族の記録を含めても……いや、類を見ないレベルですね」

 

 技術者が何かの資料をめくりながら、驚愕を隠せない表情でそう呟いた。

 

 それにしても、今の反応からすると、アノスの力そのものは“完全には見えていない”ようだ。

 

(……封印は、やはり正常に機能している。しかし、力を受け止める器としての性能はまさに怪物そのものだな)

 

 俺は内心で静かに判断する。

 

 そして、次は魔法演算領域の測定だ。

 

「続いて、演算領域の計測を行います」

 

 頭にリング状のセンサーを取り付けられ、脳波と魔力の伝導構造を読み取られていく。

 

『魔法演算領域:AAAランク(上位1パーセント)

 

「うわ……こちらも規格外です。演算領域の容量は、通常の魔法師の……五十倍以上ですね。しかも非常に安定している……演算回路の精度も、既に大人並みだ」

 

 技術者がぽかんと口を開いたままモニターを見つめている。

 

 それでも、ここまでは“まだ”想定の範囲だった。

 

 本当の問題は、次。

 

 ──適性検査。

 

「それでは、家系魔法適性の確認に移ります。まずは、一条家伝統の爆裂系統から……」

 

 技術者が、模倣魔法式を俺の演算領域に挿入する。

 

 瞬間──

 

 演算領域の内部に、明らかな“異変”が起こった。

 

「……っ!? こ、これは……!?」

 

 技術者が固まった。

 

 モニター上に表示された、俺の演算領域。

 

 それは──黒。

 

 全体の約九割が、黒く塗りつぶされていた。圧倒的な質量の情報と魔力の塊が、領域の大部分を“沈黙”の中に押し込めていた。

 

「爆裂の演算式が……作用しません。適性なし、です」

 

 その言葉に、剛毅が勢いよく前に出た。

 

「何だと!? 適性が“ない”? 一条家の子供である悠也に、爆裂の適性がないなどあり得ん!」

 

「お父様、落ち着いてください! まだ他の系統の検査も──」

 

「ふざけるな……! なぜだ……なぜ、継げない……!」

 

 父の顔は怒りとも、困惑ともつかない感情に満ちていた。

 

 その横で、俺は静かに目を閉じる。

 

剛毅は拳を握りしめたまま、しばし沈黙した。

 

 だが次の瞬間、自らの激情を押し殺すように深く息を吐き、研究員に向き直った。

 

「……どうして、こんな重大な異常を、事前に報告しなかった?」

 

 その声には、怒気よりも困惑と焦燥がにじんでいた。

 

 研究員は、言葉を探すように視線を泳がせ、やがて重い口を開いた。

 

「本来、演算領域の適性検査では、基礎構造の偏りや制御回路の形成不全など、目に見える“欠陥”があれば事前に兆候として現れます。しかし……悠也くんの場合、演算領域の“構造自体”は、むしろ理想的で……」

 

「それで、このような状態に“気づかなかった”と?」

 

「……はい。測定上は、驚異的な演算容量と精度が記録されており、通常であれば異常と見なされる要素はありませんでした。ただ、今回のように魔法式を実際に挿入してみることで、ようやく“何かが支配している”ことが判明したのです」

 

 剛毅は黙って話を聞いていたが、次第に険しい表情が和らいでいく。

 

 感情を抑えたように静かに呟いた。

 

「……つまり、悠也の演算領域は、表面上は完璧だが、その深部に正体不明の何かが巣食っている……そういう理解でいいのか?」

 

「……はい。その認識であっています」

 

 沈黙が落ちる。

 

 剛毅は腕を組み、しばらく考え込んだ後、ようやく俺の方を向いた。

 

「……悠也、お前、自分で何か“感じて”いるか?」

 

 俺は、少しだけ視線を逸らしながら答えた。

 

「……少しだけ、思い当たる節はある。でも、今はまだうまく言葉にできない」

 

 それは、嘘ではない。

 アノスの力は封印されている。だが、その存在は、確かに俺の中に“在る”。

 

 眠っているのではない。

 ただ静かに、俺自身の意識の奥で、その力が機を待っているだけだ。

 

 再び静寂が落ちた検査室の中で、剛毅はその表情に幾分の落ち着きを取り戻していた。

 

「……わかった。今日はここまでにしよう。残りの適性検査は、後日改めて行う」

 

 技術者が頷き、装置の電源を落とす。

 

 検査室の光が少しだけ落ち着き、空気が和らいだように感じた。

 

 

 

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