魔法科高校の転生者〜暴虐の魔王の力を継ぐもの〜 作:Aibelnik
──あの検査から、二週間が経過した。
俺は再び研究所を訪れ、より詳細な魔法適性の再検査を受けた。結果は、残念ながら変わらなかった。
俺は一条家に代々伝わる秘術、「爆裂」を継ぐことができない──というのが、確定した事実だった。
原因も明らかになった。
魔法演算領域の約九割一分──実に91%が、あの“力”によって占有されているという、異常事態だったのだ。
あの力、つまりアノス・ヴォルディゴードの魔王の魔力は、封印状態にあるとはいえ、演算領域の奥深くで依然として存在し続けている。
まるで、眠る龍のように、静かに、そして圧倒的な圧力で、他の魔法系統を排除するように。
……それでも、ひとつだけ救いがあった。
将輝は、「爆裂」をしっかりと継ぐことができたのだ。
俺と違って、演算領域はすっきりと整理されていて、サイオンの流れも素直。適性検査の結果は、まさに教科書通りだった。
「悠也の分まで、俺が頑張るよ!」
そう言って笑う弟の姿に、俺も父さんも、ようやく胸を撫で下ろすことができた。
……正直に言えば、少しだけ不安だった。
十師族の家系に生まれておきながら、家の魔法を継げないと分かった時、俺は“拒絶”されるんじゃないかと。
けれどそんなことはなかった。
父さんは最初こそ動揺していたけど、すぐに気持ちを切り替えてこう言った。
「魔法はひとつじゃない。お前に合った道を進めばいい」
母さんも相変わらず優しくて、何も変わらずおやつを作ってくれるし、新しく生まれた妹に「ほら、お兄ちゃんだよ〜」って抱かせてくる始末だ。
……俺が“爆裂”を使えないことなんて、家族にとってはさほど重要じゃなかったらしい。
その点では、恵まれていたと思う。
ただ──
外では、そうはいかなかった。
「え? 一条家なのに“爆裂”使えないの? マジで?」
「やっぱ次期当主は将輝くんだよな〜」
どこに行っても、冷ややかな視線と笑い声が背中を追いかけてくる。
魔法師の世界は、実力と血統が全て。いくらサイオン量や演算領域の容量が飛び抜けていても、“家の魔法”が使えないとなれば、“落ちこぼれ”扱いされるのが現実だ。
──でも、俺は諦めるつもりはない。
確かに魔法演算領域の九割がアノスの力に“占拠”されているという異常な状態にあるが、逆に言えば、残りの一割でも十分に戦えるだけの演算能力があるということだ。
元々の演算領域が人間離れして広すぎるのだ。九割を封じられても、残りの一割が普通の魔法師の五倍を優に超えているのだから、恵まれすぎていると言ってもいい。
実際、現代魔法の基本訓練は普通にこなせている。むしろ――
「また干渉力が高すぎて壊れたぞ、悠也」
「……すみません」
その制御に、俺自身が一番苦労していた。
あの検査の後、俺と将輝は魔法の基礎訓練を始めた。教師役は、父・一条剛毅。将輝は爆裂の後継者として当然だが、俺にも時間を割いて丁寧に指導してくれた。
「悠也、お前の魔法は普通じゃない。制御は難しいが、それを扱えるようになれば――」
言葉に出さずとも、父の瞳はいつも真剣だった。将輝のように家を継ぐ役割を担えない俺にも、彼は何一つ見返りを求めずに向き合ってくれた。そのことには、今も感謝しかない。
俺は現代魔法を一通り使えるが、その中でも特に得意としているのが『加速系』と『収束系』の魔法だ。
加速系魔法は、対象物の速度や加速度、さらにはベクトルそのものを制御する術式。対象を弾丸のような速度で射出したり、自身の移動速度を一瞬で数倍に引き上げたりと、攻守に応用が利く。
そして収束系。これは、エネルギーを一点に集中させ、破壊力や貫通力を最大限に引き出す系統だ。主に防御貫通や射出魔法の威力強化に使われるが、俺の場合はもっと違う方向に発展させていった。
──剣にエネルギーを収束し、斬る。
最初は、ただの模倣だった。訓練中、父から木剣を渡された時、「魔法だけに頼るな」と言われたことがきっかけだった。最初は納得がいかなかったが、何度も基礎訓練を繰り返すうちに、剣術に魔法を組み合わせることで、近距離戦での応用が見えてきた。
そこで活きたのが、収束系だ。
魔力を刃に纏わせることで、通常の物理的な一撃に魔法的な破壊力を上乗せする。しかも、俺の干渉力の高さがそれをさらに強化した。
ある時など、訓練用の硬化合金ダミーを、収束魔力を込めた斬撃一発で真っ二つにしてしまった。
「……ちょっとやりすぎたかも」
「……もはやそれ、“魔剣”だな……」
父も将輝も、唖然とするしかなかった。
さらに、加速系の応用で踏み込みや回避、斬撃そのもののスピードを強化することで、近距離から中距離までの連携が異常なレベルで高まった。
魔法と剣術の複合技。これが、俺の主戦術になりつつある。
確かに、“爆裂”は継げなかった。けれど、俺には俺の道がある。
そして、年月は流れた──
俺と将輝は中学一年生になった。
中学生になるまでに新しい妹である瑠璃が生まれた。瑠璃は母似でとても可愛い。俺や将輝、茜は兄、姉バカになり、父と母から飽きられた顔をされたが関係ない。
話は変わるが、入学祝いとして父から特化型CADが贈られた。俺には、加速と収束の2系統に最適化された武装一体型のCAD。将輝には、爆裂系の演算効率を最大化する拳銃型のCADだった。
どちらも、父の伝手を使って設計・制作されたカスタムモデルだ。
「……大事に使うよ」
「おう。壊すんじゃないぞ」
言いながらも、父の顔はどこか嬉しそうだった。
ーーーそしてある日、父に呼び出された。
訓練場の片隅で、静かに彼は告げた。
「……悠也、本当にすまないが、この家は将輝に継いでもらう」
その言葉に、俺は少しも驚かなかった。
むしろ、当然のことだと思っていた。
「うん、いいよ」
すぐに、そう答えた。
「将輝なら、立派な当主になれる。俺は俺で、別の道を進むから」
父は黙ったまま、しばらく俺の顔を見つめていた。
その後、ポンと頭に手を置き、ぽつりと呟いた。
「……お前は、強くなったな」
その言葉が、妙に心に染みた。
この家を継げないことに、悔しさがなかったわけじゃない。
でも、俺には戦う力がある。