魔法科高校の転生者〜暴虐の魔王の力を継ぐもの〜 作:Aibelnik
一条悠也と一条将輝、校舎入口まで保護者が迎えに来ている。至急来るように」
突如として教室に響いた校内放送に、教室の空気が凍りついた。
「な、なんだ? 迎えって……」
「授業中だぞ……」
「事件……?」
ざわめきと疑念が渦巻く中、俺──一条悠也と、弟の将輝は顔を見合わせた。目を通わせた瞬間、嫌な予感が全身を駆け抜ける。
「……行こう」
「うん……」
立ち上がり、教室を飛び出す。その背後で、クラスメイトたちの不安げな声が遠ざかっていった。
校門前──そこに立っていたのは、父・一条剛毅だった。鬼のような形相で俺たちを見据える父の背後には、黒塗りの大型車。
「乗れ!」
命令のような声に従い、車に飛び乗った瞬間、タイヤが甲高い音を鳴らして走り出す。スーツ姿の父は、運転席から低い声で告げた。
「……佐渡が、いきなり侵攻された」
「……は?」
「敵性武装勢力が佐渡に上陸。佐渡にある研究所を襲撃。それによる甚大な被害が出ている。」
思考が一瞬、停止する。
俺たちが暮らすこの日本に、そんな展開が――しかも現実に?
「国防軍の酒井大佐に交渉して、国防軍から兵を借りた、お前たちも義勇軍の一員として戦場に出るぞ」
「ま、待ってくれよ! 俺たち、まだ学生だぞ!? まだ訓練だって……!」
「将輝、お前は『爆裂』の後継者だ。悠也、お前は……“未知の力”を宿している。それが何かは俺にも分からん。だが、戦場に立つ資格は、お前たちにはある」
車はサイオン増幅エンジンを駆動し、金沢から佐渡島へと向かって一直線に疾走していく。
後部座席では、将輝が唇を噛みしめながら震えていた。
「兄貴……俺、怖い……戦えるかな……」
「……俺も分からない。でもな、将輝。お前の命だけは、絶対に俺が守る。何があってもだ」
佐渡に到着した頃には、空はすでに朱に染まりかけていた。
港周辺はすでに火の海と化し、複数の防衛線が完全に突破されていた。
爆音、魔法光、銃撃、断末魔。そこはまさに“地獄”だった。
「悠也、将輝。これが現実だ」
父の声に振り返ると、すでに彼は戦闘服に着替え、腰のCADに手をかけている。
後方には20名の一条家直属の魔法兵たちが展開準備に入っていた。
「将輝、お前は後衛。“爆裂”の構築は俺が支援する。悠也、前衛に出ろ。お前の剣が必要だ」
「了解」
俺は腰のベルトに装着された武装一体型のCADを引き抜く。
刃にサイオンを通すと、紅の輝きが走り、内部に圧縮されたエネルギーが共鳴音を発する。
「加速展開──三重収束」
そのまま俺は、最前線へと跳び出した。
敵影確認。確認できるだけで、魔法師3名、無人兵器2機。
さらにその奥には、部隊規模の魔法師集団が展開中。武装、連携――どれを取っても正規軍並だ。
「敵の動きが早い……!」
すぐさま初撃。
俺は加速魔法を脚部に重ねて展開し、瞬間移動に近い踏み込みから斬撃を放つ。
「せいやッ!」
剣が振るわれた瞬間、前方の魔法兵の防御結界が粉砕された。
そのまま刃は胴を両断し、血飛沫が夕焼けの空に溶ける。
だが――
「まだ来るぞ! 左、無人機! 右から狙撃魔法!」
無人機が火を噴き、銃弾の嵐が俺を包む。そこへ追い打ちをかけるように、敵の魔法師が容赦なく距離を詰めてきた。
かろうじて地形を利用し、跳躍で回避。
だが、今度は敵魔法師が収束魔法を放ってきた。
「チッ──!」
即座に干渉領域を展開し、なんとか展開を妨害する。しかし、意識外からの攻撃によって吹き飛ばされ、背中を地面に打ちつけた。
「くそっ……っ、精度も反応速度も速すぎる……!」
「兄貴、下がって!」
その声と共に、将輝が“爆裂”を展開した。
空間を圧縮し、一点に集束させた爆発魔法が、敵の無人兵器に直撃。
ドオォン!!
音が遅れて追いかけてくる。
砂塵と爆炎の中、敵の機体がひしゃげ、破片を撒き散らして飛び散った。
「ナイスだ将輝! もう一発いけるか?」
「構築中……! 三式構成、15秒!」
だが、敵は待ってくれない。
もう一機の無人兵器が俺たちの横合いから回り込み、背面に砲塔を向けた。
「兄貴、避けて!」
「間に合わ──ッ!」
次の瞬間、全自動の射撃が火を吹く。
俺が回避しようとするその瞬間、将輝が飛び込んできた。
「兄貴ィィィ!!」
「将輝!! 馬鹿、下がれ!」
だが、すでに遅かった。
直後、敵魔法師の魔法が構築完了し、俺たちの上に着弾。
──ズガァアァァァン!!
俺は無意識に将輝を庇い、盾となった。
衝撃。
感覚が、消えていく。
腕の骨がきしむ。視界が白く染まる。
冷たい……ああ……終わるのか、ここで。
こんなところで、ただ弟を守って、終わるのか?
まだだ!! まだ終わらない!!
こんなもんで、終われるはずが──ない!
俺は……俺は、まだ……!
──燃える。
心臓が、焼ける。
いや、それは“熱さ”なんかじゃない。
暴走する雷光が、胸の奥で暴れているような感覚。
脈打つたびに、骨が軋み、血管が破裂しそうなほどに、サイオンが暴走していく。
「……う、あああ……!」
呼吸ができない。肺が膨らまず、酸素が足りない。
視界が明滅し、音が割れ、世界が反転する。
封印されていた“何か”が──動いた。
どくん。
全身を駆け巡るサイオンの流れが、一瞬で“別物”に変わる。
それは、世界の理そのものを否定する何かが、俺の中に確かにある。
演算領域が……崩れる。
いや、違う。これは“拡張”だ。
まるで、今まで自分が使っていた演算領域が“偽物”だったかのように、
外側から本物の自分が殴り込んでくるような衝撃だった。
「グ、アァ……!」
思考が加速する。
視界が開けていく。
血液が炎となって流れ、神経が超伝導するかのように感覚が敏感になっていく。
脳の奥底、今まで閉ざされていた暗闇の扉が、ギィ……と音を立てて開いた。
中にあったのは、黒い光。
“存在しないはずの記憶”が、無数に流れ込んでくる。
異世界。
破壊。
再生。
審判。
理の否定。
全てを無に帰す剣。
ーーああ、これはアノスの記憶だ。
その瞬間、俺の肉体が悲鳴を上げた。
皮膚が焼け、血管が破れ、骨が軋む。
それでも止まらない。
暴れる“力”が、俺という器を拡張しながら、完全に目覚めようとしていた。
──ガキィィィィン……!
空気が割れた。
右手に握っていた剣が、音もなく砕ける。
だが、その代わりに現れたのは──
漆黒。虚無。否定。
すべての理を打ち砕く、絶対の否定存在──
理滅剣《ヴェヌズドノア》。
世界が、再び静まった。
そして俺は、確かに“目覚めた”。
「貴様らが……俺の“家族”を脅かすというのなら」
「容赦はしない」
俺たちを追い詰めるために放たれた魔法が、一瞬で消失した。
理滅剣が放つ波動が、空間そのものを削り取っていく。
斬る。
それだけで、敵魔法師の命が断絶される。
一歩踏み出せば、地面が裂けた。
「行けえええええええええええええッ!!」
次の瞬間、俺の斬撃が世界を断った。
障壁魔法など意味を成さず、敵を瞬時に斬り裂く。
魔法兵たちは悲鳴を上げる間もなく、その存在を断たれた。
衝撃波が吹き荒れ、敵部隊の中央に大穴が穿たれる。
一条家の魔法兵たちが呆然と見つめる中、
俺は敵の第二陣へと向かい、斬り伏せた。
彼らが何を展開しようが、何を発動しようが──全て無意味。
演算が完了する前に、存在ごと切り裂く。
「……こ、これは……!」
「後退しろッ、あれは……人間じゃない!!」
敵部隊に、明らかな“動揺”が走った。
次の瞬間。
「……全軍、撤退ッ!!」
「いいから逃げろ!!近づくな!!」
魔法兵たちは魔法式の展開すら放棄して逃げ出す。
その顔には、“怒り”でも“憎しみ”でもない。
──“恐怖”。
理解不能な存在に対する、本能的な恐怖が、奴らを突き動かしていた。
それに追撃をかけようと剣を払おうとする。
──だが。
「……っ、は……あ……」
体が、動かない。
「く、そ……!」
膝が、崩れ落ちた。
世界が、暗く染まりはじめる。
呼吸が浅くなり、心臓が早鐘のように脈打つ。
理滅剣が手から滑り落ちる。黒い光が霧のように空へと溶け、消えていく。
(やばい……)
(限界……か)
体内を走っていたサイオンが、暴れたまま、急激に失速していく。
焼けただれた神経。軋む骨。
“力”に身体が追いついていない。
「兄貴!!」
駆け寄ってくる将輝の声が、どこか遠くに聞こえる。
「ああ……無事で、よかった……」
それだけを、どうしても伝えたかった。
指先を伸ばす。弟の手に触れる。
それだけで、満足だった。
──力を解き放ち、守るべきものを守った。
ただそれだけの満足感と共に、
俺は、崩れ落ちた。
夕焼けに染まった空の下、
静寂が、戦場を支配していた。