魔法科高校の転生者〜暴虐の魔王の力を継ぐもの〜   作:Aibelnik

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第五話

──静寂。

それが、最初に感じたものだった。

 

耳鳴りもない。世界が凍り付いたかのような沈黙。

 

「……ここは……」

 

ゆっくりと瞼を開ける。白い天井、無機質な蛍光灯の光。鼻をつく消毒液の匂い。

 

(病院……か)

 

体を起こそうとしたが、鉛のように重く、わずかに首を傾けるのがやっとだった。

視線を動かすと、簡素なベッド脇の椅子に制服姿の将輝が突っ伏して眠っていた。乱れた上着を枕にしている。

 

(……生きてる。よかった……)

 

胸の奥がじんわりと熱くなったその時。

 

「……っ! 目を覚まされたんですね!」

 

看護師が慌てて立ち上がった。すぐさまナースコールを押し、走り去っていく。

 

数十秒も経たぬうちに、病室のドアが乱暴に開かれた。

 

「悠也!」

 

飛び込んできたのは父・一条剛毅だった。あの戦場で見せた“家長”の顔とは違い、今は血相を変え、ただ息子の生を確かめる父親の顔をしていた。

 

「……父さん」

 

安堵と怒りとが入り混じった声で剛毅は言った。

「目を覚ましてくれて……よかった。本当に……」

 

「俺は……どうなったんだ?」

 

剛毅は数秒黙り、重く口を開いた。

 

「お前が意識を失った直後──敵は壊滅した。研究施設ごと、消し飛んだ」

 

「……っ」

 

悠也の心臓が跳ねる。

あのとき感じた焼け付くような熱。剣が変貌した瞬間。全てが現実だった。

 

「敵は、研究所を拠点にした不法武装集団だった。だが……あの規模の武装と魔法装置、背後には国家か大企業が絡んでいたと考えるべきだろう。研究所は瓦礫になり、生き残った者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた」

 

淡々とした声に、戦場の残酷さが滲んでいた。

 

「……そして。お前の戦いぶりを見た者たちが、勝手に呼び始めた名がある」

 

剛毅はわずかに顔を曇らせ、口にした。

 

「“黒の魔王”。──いや、“黒の怪物”とも、“死神”とも呼ばれている」

 

「黒の……」

 

呟いた悠也の胸に、重たい感覚が広がる。

戦いの最中、己を焼き尽くさんばかりに溢れ出た力。その光景を目にした者にとって、自分はもはや人間ではなく、災厄として映ったのだ。

 

「マスコミは面白がって“黒の魔王”と煽っている。兵士の間では“黒の死神”が定着しつつあるようだ。どちらにせよ……お前は、この国で特異な存在になった」

 

まるで悪い冗談のような呼び名。だが父の表情は冗談ではなかった。

 

「戦場にいた味方の兵士ですら震え上がった。理を滅ぼす剣で敵を消し去る姿は、人の枠を超えた“魔王”そのものだったそうだ」

 

「……」

 

言葉が出ない。

敵を殺すつもりはなかった。ただ守るために力を振るったはずだったのに。

 

「国防軍はすぐに動いた。『兵器として管理下に置くべきだ』と通達が来た」

 

「兵器……」

 

血が凍る。

人としてではなく、ただの武器としてしか見られていない。

 

「もちろん俺は拒否した。一条家の長男を軍の駒にされてたまるか」

剛毅の声には激しい怒気が滲んでいた。

「十師族の一条家を無視することはできん。政府も軍も板挟みになり、結局お前は“監視対象”として扱われることになった」

 

つまり──逃げ場はない。

悠也は深く息を吐き、決意を固めた。

 

「父さん……頼みがある」

「なんだ」

「訓練の場を用意してほしい。この力を……制御できるようになりたい」

 

剛毅は悠也の瞳を見つめ、やがて頷いた。

「……わかった。ただし俺の目の届く範囲でだ」

 

 

 

 

数日後。

俺はあの騒動からほどなくして病院を退院し、一条家の地下訓練場に足を運んでいた。

 

あれから気づいたことがある。

──俺の体は、色々とおかしくなっていた。

 

まず、身体能力。

目を覚ましてからというもの、視界の解像度が異常に高い。

遠くの針の穴すら見通せるほどに。

筋肉の反応速度も、以前とは比べ物にならない。

拳を軽く振るだけで空気が悲鳴を上げ、病室のカーテンが大きく揺れた時は、本気で看護師に睨まれた。

 

そして脳。

膨大な情報が一度に流れ込んできても、混乱しない。

むしろ瞬時に整理され、答えが浮かぶ。演算能力そのものが跳ね上がっていた。

 

「……やっぱり、あの時の力のせいか」

 

そう呟きながら、俺は訓練場の中央に立った。

あの戦場で暴れた“何か”を放置するわけにはいかない。

制御できなければ、自分も周囲も滅ぼすだけだ。

 

剛毅父さんの伝手で、地下訓練場はすぐに用意された。

結界と強化壁に覆われ、国防軍でも使えるレベルの施設だ。

ただし、本来は十師族の研究用に使われているものを借り受けただけ。

「壊すなよ」と釘を刺されたが……正直、自信はない。

 

深呼吸して、手を前に出す。

まずは意識を内側に沈め、あの時暴走した感覚を探る。

 

すると──視界が、揺らいだ。

 

「……来たか」

 

瞳孔の奥が灼けるように熱い。

自分の意思ではなく、勝手に開いていくような感覚。

眼の奥に渦巻くのは、破壊の衝動そのもの。

 

──破滅の魔眼。

 

目に映った機材が、音もなく震え始める。

結界壁に走る細かな亀裂。

金属ラックが軋み、設置された計測器が異音を発する。

 

「……っ!」

 

慌てて瞼を閉じる。

数秒後、破滅の衝動がようやく引いた。

冷や汗が背中を伝う。

 

「なるほど……これが俺の“魔眼”か」

 

ただ見ただけで、対象を壊す力。

制御できなければ、人も、建物も、あっという間に瓦礫に変わるだろう。

 

「悠也……今のは……何だ?」

 

背後から低い声がした。

父さんだ。

訓練の様子を観察するために立ち会っていたが、想定外の現象に顔を強張らせていた。

 

「……俺にも、はっきりとはわからない。ただ、見れば壊れる……そんな“眼”だ」

「馬鹿な……そんな能力、聞いたことがない」

「俺だって知らないさ」

 

父さんの瞳に、一瞬だけ恐怖がよぎった。

だがすぐに、それを怒りでかき消した。

 

「制御できなければ、ただの災厄だぞ」

「わかってる。だからこそ、訓練が必要なんだ」

 

俺は拳を握りしめ、再び深呼吸する。

 

次は魔眼ではなく、別の力を試す。

あの戦場で使った、創造の魔法。

 

手のひらを空中に掲げ、意識を集中させる。

「創造」

イメージしたのは小さなナイフ。

シンプルで、壊しても問題のないもの。

 

瞬間、空気が震え、光が凝縮していく。

 

「……っ!」

 

だが、完成する寸前で形が歪んだ。

刃の部分が過剰に膨張し、鋭利な破片が四方に飛び散る。

結界に弾かれたが、壁に亀裂が走った。

 

「やっぱり……簡単にはいかないか」

 

肩で息をする俺を、父さんが険しい表情で見つめていた。

 

「悠也。お前の力は危険すぎる。国防軍が言うように“管理下”に置かれる方が安全かもしれん」

「……っ!」

 

その言葉に、胸がざわついた。

国防軍──あの戦いの後、俺を「兵器」として組み込みたがった連中だ。

だが父さんが拒み、一条家として突っぱねてくれた。

 

「父さん。俺は……兵器じゃない。俺は俺だ」

「……」

「だから、力を制御する。CADについて学ばせてほしい。自分のための道具を、自分で作る。そのための勉強がしたい」

 

父さんは腕を組み、しばらく黙り込んだ。

地下の静寂に、機材の軋みだけが響く。

 

やがて、深い溜息。

 

「……好きにしろ。だが、制御できなければ本当に……」

「わかってる」

 

その時だった。

訓練場のドアが、強く叩かれる音がした。

 

「一条剛毅殿、国防軍です。ご子息の件で──」

 

父さんの眉が吊り上がる。

 

「……またか」

 

どうやら、あの戦いの余波はまだ収まっていないらしい。

国防軍は、何度も俺を“管理下”に置こうと働きかけている。

 

「悠也。お前は部屋に戻っていろ。俺が話をつける」

 

父さんは低い声で言い残し、扉の方へ向かった。

背中から伝わる気配は、怒りと決意そのものだった。

 

俺は拳を見つめた。

破滅の魔眼、制御できない創造。

確かに危険すぎる。だが、だからこそやるしかない。

 

数日後──。

国防軍との交渉の結果、妥協案が示された。

 

「……第一高校に入学する。監視と育成を兼ねて、だとよ」

 

父さんが不機嫌そうに告げた。

 

国防軍が望んでいた“兵器管理”ではなく、表向きは教育機関への進学。

その裏で、監視と研究を兼ねていることは明らかだ。

 

だが、それでいい。

俺にとっては、制御と学びの場が必要だった。

 

父さんの言葉に、深く頷いた。

 

そうだ。

黒の魔王でも、兵器でもない。

 

俺は──俺として生きる。

 

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