この世界には、導力というエネルギーが存在する。それを操れば、能力が刻まれた者たちはそれを発動することができる。
ただし、能力者は絶対に出すことのできないもう一つの能力…いわば隠し能力も持っており、それが能力者の肉体から分離すると【死霊】として活動を開始する。死んだ能力者が隠し能力に支配されて同一個体のまま死霊化するケースもあるだろう。死霊は無差別に人間を襲い殺す。知性も理性もなく、ただ殺す。
それは遥か昔からそうだ。なぜなら、4代神の1人の創造の女神シンフォニオンがそういうふうに世界を作ったからだ。
人間の想像力は止まることを知らない。歯止めの効かない想像力は、結果的に自分達に牙を向くこととなる存在を作り出すことになってしまった。それこそが、闇薔薇の異名を持つ存在である。
(…む?)
光の勇者の異名を持つ剣士、星守丸雄凛(せいしゅまる ゆり)。彼女はこの時代の「最強」の仲間として有名だった。
(…導力が広がる気配がする…)
雄凛はたった1人で街の廃墟の上に立ち、辺りの様子を確認していた。闇薔薇による侵攻によって廃墟と化した街。少し前まで人が暮らしていたことが嘘のように静まり返っている。金髪を風になびかせ、紺色のドレスを纏う彼女の姿はまさに天使のようだ。背中には白い鳥の翼がひらひらと動いている。
そんな中、雄凛は微量の導力の変化を感知して迫る危機を見抜いた。
ガシュン!!
「あれれ…しくったかー。」
ふわりと1人の青年が雄凛のいるビルの屋上に舞い降りた。
「グラノミス。おのれだな。」
雄凛が静かに言った。
グラノミス、赤黒い髪をした暴力的な男だ。先日からよくあちこちで名前とともによくない評判を聞いているが…その能力は未知数だな。
「あんたが雄凛ちゃんでしょ〜?最強が率いてる軍隊のメンバーの。」
「ならばどうするつもりだ…おのれのことは彼方此方で噂を聞くぞ…」
雄凛が剣を構えながら言う。
「あっはは〜。俺そんな有名人なの〜?」
グラノミスが突然殺意をむき出しにして右手を掲げた。2人が立っている塔が地上から根こそぎ引き抜かれ、空中を舞っているらしい。
(む…重力操作か?)
グラノミスが腕を振り下ろすと、塔は急降下を開始する。
「愚かなことを。」
雄凛は翼を広げてその場に空中静止する。先ほどまで自分が立っていた塔は地面に叩きつけられ、凄まじい音を立てて崩壊した。グラノミスはいつのまにかとなりの塔に立っていた。その手が捻じるように動くのが見える。
雄凛のすぐ横の塔がねじ切られ浮遊した。
「これ以上地形を壊すでない…」
グラノミスが笑いながら引き抜いた塔を雄凛に向かって叩きつけた。雄凛は左手に持った盾をぐいっと構える。塔が雄凛に激突して大爆発したかのように見える。
グラノミスはニヤリと笑う。しかし、煙が晴れたあとには、雄凛が何事もなかったかのように同じポーズで浮いていた。
「まじで!?」
雄凛は完全な無傷でグラノミスに音速で近づき、その体を剣で斬り飛ばした。
「がっ…なめてたな〜。」
グラノミスは真っ二つにされた状態で遥か下の廃墟へ落ちていった。雄凛はそれを黙って見ていた。
星守丸雄凛の能力は、盾で防ぐこと。それと剣で傷つけること、だ。