WARFAITH:Hotel Moscow Black Doctrine   作:星乃 望夢

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第1話

 

ロアナプラ、ホテル・モスクワ支部オフィス 午前06:10。

 

 カーテンを通した朝日が、重苦しい硝煙の残り香と混じり合い、薄曇りの光を壁に落としていた。

 

 その静寂を破るように、分厚い鉄製扉が音もなく開く。   

 

「大尉、起きているな?」

 

 低い声。

 

 端的で、滑らかにして鋼鉄のような芯を帯びた語調。

 

 ハヤト・ダーキアン──ホテル・モスクワ東南アジア方面の元締めである彼は、まっすぐに執務机の奥を見据えた。

 

「もちろんだ、同志少佐」

 

 バラライカことソフィーヤは、いつものスーツ姿のまま、煙草に火をつけていた。

 

 朝一番のウイスキーがすでにデスクに用意されているところを見れば、少なくとも一睡もしていないのは明白だ。

 

 ハヤトは一枚の封筒を無言で机に置く。

 

「本国より暗号化コードK-17、直接回線で届いた。解読済みだ。内容は……あまりにも興味深い」

 

「どこが“興味深い”?」

 

 バラライカは煙をくゆらせながら、封筒を開く。

 

 中には命令書と、薄く焼けた写真──“めらねしあ丸”と書かれた貨物船の偵察映像。

 

「旭日重工、東南アジア局。表向きは産業機械輸出船。その実態は──某国との核開発計画に関与した証拠の、デジタル文書だ」

 

 ハヤトが答える。

 

 バラライカの指が止まる。

 

「文書内容は?」

 

「“ユグドラシル・シェル”。地下ウラン鉱山の衛星座標、供与された遠心分離機の設計図、取引時期を示す通話ログ……とにかく、戦争を起こすには充分な材料だ」

 

「で、本国はその“火薬樽”を確保せよと?」

 

「そういうことだ。できれば、『偶然誰かが奪った』という形でな」

 

 バラライカは笑った。

 

 くぐもった、まるで胸腔の奥にこだまするような、死者の残響のような笑みだった。

 

「まったく、あの亡霊どもは変わらん。いつだって、誰かの墓標を隠すために他人を使いたがる」

 

「その亡霊を統べているのは私だがな。だからこそ、選ぶべき手は限られる」

 

 ハヤトが一歩踏み出し、机に手をつく。

 

「遊撃部隊を出せば確かに確保は可能だ。海上にヘリボーンを展開し、制圧してディスクを奪取。だが──」

 

「足がつく。間違いなく」

 

「そうだ。旭日重工は政財界の影が濃すぎる。軍の部隊が動いたとなれば、我らが存在自体が暴かれる」

 

 ソフィーヤは煙草の火を灰皿に押し付けた。

 

「ならば……一つ、良い“運び屋”に心当たりがある」

 

 沈黙。ハヤトの視線が鋭くなった。

 

「……まさか、“あれ”か」

 

「“ラグーン商会”。南洋の野良犬どもだ。噛み癖はあるが、使い方を間違えなければ都合のいい牙になる」

 

「バラライカ。あれはただの運び屋ではない。“人間らしさ”の残った連中だ。場合によっては、噛まれるぞ」

 

「分かっている。だが噛まれたら撃ち返せばいい。海の匂いで動く奴らにとって、金と情報は最高の餌だ。保険も利く」

 

 ハヤトはしばらく考え込み、やがて静かに頷いた。

 

「……いいだろう。足のつかない海賊に委ねる。だが、その手綱はお前が持て。同志大尉」

 

「了解。では、契約の手筈を整える」

 

 バラライカはすでに電話に手を伸ばしている。

 

「どうせすぐ、“めらねしあ丸”がジャカルタを離れる。その次の海域が奴らの狩場だ。前金を弾けば、いい仕事をしてくれるだろう」

 

「やらせろ。ただの強奪ではなく、“回収不能な海の事故”に見せかけろ。奴らならそれができる」

 

「ええ、同志少佐」

 

 その言葉を最後に、二人は互いに視線を交わすだけで解散した。

 

 それぞれが、次の地獄の舞台を動かす役者として。

 

 ロアナプラの朝は、戦争の前触れのように静かだった。

 

 やがて海の向こうでは、ラグーン商会が航路に忍び寄る。

 

 運命は、銃声と共に開幕する。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

ロアナプラ市街地・ラグーン商会 オフィス

 

 午後の日差しがじっとりと路面を舐めるロアナプラ。

 

 港から数ブロック離れた裏通りの一角、年季の入った2階建ての建物の2階──そこがラグーン商会の事務所だった。

 

 剥げかけた塗装の壁に、歪んだブラインド。

 

 どこかの国の標語プレートが斜めに掛けられたその部屋で、レヴィはいつものようにソファにだらしなく腰掛けていた。

 

「ったく、何日ぶりの仕事だよ。あたしのデザートイーグルもすっかり鈍っちまった」

 

灰皿に溜まった煙草の山を無視して、レヴィが煙を吐く。

 

 その言い回しに、ベニーが肩を竦める。

 

「あれ? レヴィが持ってるのソード・カトラスじゃなかったっけ……?」

 

「ジョークだよ、ジョーク。わかれよメガネくん。退屈で脳みそまで発火しそうなんだよ」

 

「冗談の口調が物騒すぎんだよ」

 

 ダッチが呆れながら、ゆっくりと革張りの椅子に座る。

 

 窓の外には、薄汚れた裏通りを行き交う行商人と、昼間から酔っている浮浪者が見える。

 

 テーブルの上には1枚の写真──日本船籍の貨物船「めらねしあ丸」があった。

 

「で? 依頼の内容ってのは……この船に積まれてる“なにか”を拝借ってやつか?」

 

「その通り。バラライカからの“指名案件”だ。詳しい内容は伏せられてるが、どうやら“文書”らしい。よほど慎重に扱いたいらしいな」

 

 ベニーがノートPCを叩きながら、ルートと貨物の推定リストを表示する。

 

「現時点で船は日本の南方、太平洋を西進中。積荷は雑貨と通関書類上はあるけど……まあ、表に出したくない“何か”があるってのは確か」

 

「めらねしあ丸……名前がムカつく」

 

 レヴィが煙を吹き出しながら言う。

 

「バラライカの依頼なら、高くつくぜ」

 

「もちろん。それに、今回の条件はこうだ──“目立つな”“足が付くな”“回収不能に見せかけろ”。つまり、“完璧な事故”ってことだ」

 

 ダッチは渋い顔で額をこする。

 

「俺たちがやるには手頃だが、しくじれば面倒だぞ。あの女が裏切り者を許す性格じゃないのは、お前らも知ってるだろ」

 

「試されてるってわけか」

 

 ベニーがぼそりとつぶやくと、レヴィが立ち上がった。

 

「へっ、望むところじゃねぇか。あたしたちは“ラグーン商会”なんだろ?」

 

「なら──やるしかないな」

 

 ダッチは言って、立ち上がる。

 

 軋む床板の音が、午後の湿った空気に溶けていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロアナプラを照らす陽光は、どこか陰を孕んでいる。

 

 この街では、光の裏には必ず銃声と血の気配がある。

 

 市街地の外れ──一際厳めしい石造りの建物、その一室にて。

 

バラライカは、焼け焦げた古い灰皿に煙草を押し付けながら、契約成立の報せを一通の電文で確認した。

 

 ラグーン商会。

 

 “海の狼ども”にして、血と硝煙で仕事を彩る運び屋。

 

 今回も例外ではない。だが、今回は“いつも通り”とはいかなかった。

 

「荷の受け渡し先は、イエローフラッグで構わないな?」

 

 そう言ったのは、バラライカだった。

 

 だがその言葉に対し、同席していた男が、短く──だが確かに言い返す。

 

「──荷の回収は、こちらでやる。私が、行こう」

 

 灰皿の縁を指でなぞっていたバラライカの動きが、わずかに止まる。

 

 顔は崩さない。だが、指先に緊張が走った。

 

 この街を預けられて久しい。

 

 ロアナプラの裏の機構は彼女が整備し、調律してきた。

 

 その任を託したのが、いま彼女の正面に座る男──。

 

 ハヤト・ダーキアン。

 

 ホテル・モスクワの東南アジア方面統括官にして、バラライカ──ソフィーヤの直属の上官。

 

 だがこの男は、最初期の橋頭堡構築時以外は基本的に指示だけを出す立場に徹していた。

 

 ロアナプラの秩序と暴力は、実質的に彼女に任されていたはずだった。

 

 ──それが、出てくる。

 

 彼の“足”がロアナプラに触れる。

 

 それはただの移動ではない。

 

 『この件は他と違う』と、関係者全てに告げる、

 

 ──軍靴の足音そのものだった。

 

「……理解しました。同志少佐」

 

 バラライカは微かに頷き、灰皿を指先で弾いた。

 

 灰が跳ねる音すら、どこか緊張を孕んでいた。

 

「あなたが動くというならば、当然ながら警戒は三段階引き上げます。港湾封鎖、哨戒再配置、スパイクの投入も視野に入れましょう」

 

「そこまでは不要だ。回収対象は非武装。反撃能力もない。ただ、海上の動きは速い。ミスは許されないだけだ」

 

「……承知。では“荷物”の受け取り──イエローフラッグには、配下ではなくあなたが?」

 

「ああ。核関連だ。足跡を残せば──それは火種になる」

 

 そう言って、ハヤトは立ち上がる。

 

 背筋は軍人らしく伸びきり、命令ではなく責任を背負っている姿だった。

 

 バラライカの目が、かすかに細まる。

 

(やはり……これは、“戦争”の火薬庫だ)

 

 崩壊国家の亡霊たちが、再び這い出る。

 

 その引き金に触れたのがこの一件──旭日重工の機密文書であることは、もはや疑いようがなかった。

 

「ラグーン商会には既に通達済み。『沈黙を貫くなら金は出す』。レヴィが騒ぎ出さなければ、成功率は高いでしょう」

 

「レヴィには任せておけ。ダッチがいれば、狂犬でも繋げる」

 

「では……イエローフラッグで」

 

「──いや」

 

 ハヤトは振り返らずに言った。

 

「場所は変える。詳細は私から直で連絡する。必要なのは“足を残さない着地点”だ。あのバーは、少し喋りすぎる」

 

「……了解しました。同志少佐」

 

 その敬礼に、ハヤトは軽く手を挙げて応えた。

 

 背中を向けたその姿を、バラライカは見送る。

 

 かつてのアフガンを共にした同志──血の底から這い上がってきた、本物の戦争狂。

 

(この人が出てくるということは……)

 

 バラライカの喉奥がわずかに鳴った。

 

(──核の匂いが、ついにこの街にも届いたということ)

 

 そして、静かに口角を上げる。

 

「さて──戦争だ」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 南シナ海──空は晴れ渡り、海は穏やかだった。

 

「めらねしあ丸」はコンテナを山積みにして、鈍重に進んでいた。

 

 旭日重工の貨物船として、日本を出て数日。

 

 目的地はインドネシア方面。

 

 デッキでは船員たちがタバコを咥えて日差しを浴び、作業の合間の退屈を潰していた。

 

 船室のひとつ、六畳程度の部屋──。

 

 岡島緑郎。

 

 彼は旭日重工のサラリーマンであり、資材管理課という部署に籍を置く男だった。

 

「……ほんとにこれ、俺が運ぶ意味あるのか……?」

 

 膝の上にある黒いケース。

 

 “報告書”とだけ書かれたラベル。内容は見せられていない。

 

 だが──。

 

 上司からは、いつものように命令だけが降ってきた。

 

> 「これの中身はお前の知る必要はない。ただし、これを無事に届けなければ──お前は終わりだ」

 

 “責任”と“意味のわからない恐怖”に挟まれたまま、岡島は狭い船室で、カーテンすら閉めたまま気配を消していた。

 

 ──その頃、水平線の先から黒い影が近づいていた。

 

 ラグーン号。

 

 鋭く波を切り裂くその高速艇が、捕食者のような沈黙をまとって近づく。

 

「見えてきた。目標、旭日重工の“めらねしあ丸”。中型貨物船、商用船籍」

 

「陽射しが強ぇな。今日もいい殺し日和ってやつか」

 

 レヴィがタバコを噛み砕き、ソード・カトラスを両腰にぶら下げながら、船縁に腰かけた。

 

「今回は殺しはナシ。あくまで回収、荷物のな」

 

 ダッチが無言の視線で海を切る。

 

「荷物、ねぇ……“ケース”だけじゃねーんだろ?」

 

「社員一丁もセットだ。“ケースの中身”を知ってるかはわからねぇが、あっちの筋が“必要”って言うなら、運ぶのが俺らの仕事だ」

 

 レヴィの口元が皮肉に歪む。

 

「くっだらねぇスーツだってのに、大事にされてるなぁ、ホント」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──昼の海に銃声が響いた。

 

「!? な、なんだッ!?」

 

 めらねしあ丸のデッキ上。

 

 船員が悲鳴を上げる暇もなく、甲板でフラッシュバンが炸裂。

 

 視界を真っ白に焼き、鼓膜に衝撃を叩きつける中、怒号が飛び込んでくる。

 

「動くんじゃねぇぞ、海のゴミ共! 船ん中で震えてなッ!」

 

 黒髪、タンクトップ、ソード・カトラスを構えたレヴィが煙の中から躍り出る。

 

 続いて、黒スーツの巨躯──ダッチが無言で船室の扉を蹴破る。

 

 岡島緑郎は、訳がわからないままケースを庇うように抱えていた。

 

「お、おい……なんだ……誰だ、あんたら……!」

 

「運び屋だよ、坊や。お前の会社が失くした“モノ”を拾いに来た」

 

 レヴィが笑う。だがその笑いには一切の温度がない。

 

「そ、そのケースは──!」

 

「黙れ。大事なのは“こいつ”と“お前”の両方だ。お前が中身を知ってるかは問題じゃねぇ。お前が“そこにいる”って事実が重要なんだよ」

 

岡島は立ち上がり、後退りする。だが船室のドアを塞ぐダッチの体格に絶句した。

 

「っ……!」

 

「いいから手ぇ出せ。撃たれたくなきゃな」

 

 レヴィの銃口が確かに岡島の額に“触れた”瞬間──彼は観念した。

 

「……わかった……従う……だから……殺さないでくれ……!」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 ──その瞬間、彼の人生の歯車は音を立てて外れた。

 

 いま手にしている黒いケース。

 

 それが、後にあの“ロアナプラ”という地の誰もを巻き込む引き金になるとは、岡島にはまだ知る由もなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロアナプラ──。

 

 この街において、“静けさ”とは一つの合図だ。

 

 それは嵐の到来か、それとも──「死神の巡回」か。

 

 今日のそれは、後者だった。

 

 午後1時30分。

 

 陽射しが強く差し込む通りに、異質な空気が流れ込んでいた。

 

 それは視覚的にすら認識できる、重く冷たい“気配”。

 

「来たぞ」

 

 そう呟いたのは、通り沿いの喫煙所に座っていた武装男。

 

 彼は灰皿に吸殻を押し付けたまま立ち上がり、足早にその場を離れた。

 

 理由は単純だ。

 

 ──あの男と、あの“影”たちが歩いてくる。

 

 ハヤト・ダーキアン。

 

 かつてソ連崩壊の夜に300名の同志と共に「戦争の亡霊として生きる」誓いを立てた男。

 

 そして今、1000人を超える規模にまで膨らんだ“亡霊国家”の頂点に立つ者。

 

 その傍らに控えるのは“ヴォルキ”──。

 

 正式名称【第零特別戦略遊撃親衛大隊】、通称「亡霊親衛隊」。

 

 東西冷戦を通じて極秘裏に養成された国籍不明の精鋭特殊戦闘部隊であり、かつて国家を持たぬまま戦い続け、主も戦場も失った後に、唯一忠誠を誓ったのがこの男、ハヤトである。

 

 今やこの部隊は、“国家”を名乗らず、“旗”も掲げず、戦う意志そのものを国家と定義する存在になっていた。

 

 世界の裏側で、口にされることすらない亡霊たち──だが、彼らは確かに生きている。

 

 そして今日、その少佐が、“護衛付き”で街中を歩くという事実だけで──通りの空気が凍りつくのに十分だった。

 

 カリビアンバー。

 

 店の名は伏せるが、街では有名な“ロシアンフレンドリー”の店だ。

 

 つまり、ホテル・モスクワの息がかかっている。

 

 正面入口から入ってきた男──ハヤトを見た瞬間、店内にいたバーテンが即座に動く。

 

「……少佐、入店」

 

 その報告が店内通信で流れ、全席の客が沈黙する。

 

 異常なまでの統制、それはここがただの酒場ではなく、“連絡点”である証拠だった。

 

 亡霊親衛隊の面々は、店内の構造を無言で確認しながら入室。

 

 その立ち位置や動線はまるで“清掃班”のような緻密さと徹底性だった。

 

 ハヤトは店内奥の「渡しの間」と呼ばれる隔離区画へ進む。

 

 そこは、受け渡しが行われる予定のスペース。

 

 ただし──まだ“荷”は届いていない。

 

「同志大尉は来ていないな?」

 

「はい。大尉は現在、ロアナプラ支部本部にて全体の状況把握と統制に専念されています」

 

「当然だ。これほどの作戦ならば、拠点指揮から一歩も動けん」

 

 ハヤトは短く頷いた後、親衛隊員の差し出した書類を確認する。

 

 そこには、フィリピン方面から上がる最新情報──ディスクを積んだ「めらねしあ丸」が数時間前に襲撃され、回収作業がラグーン商会により無事完了したとの連絡が入っていた。

 

「この店での受け渡しは、予定通り進める。到着の時刻を確認し次第、再び私が出向く」

 

「承知いたしました。対応班を配置しておきます」

 

 部屋を出たハヤトは、酒場の中央で一瞬だけ立ち止まる。

 

 その背後に従う“亡霊”たち──黒服の衛兵たちが、無言で周囲に目を光らせていた。

 

 もし仮にこの場に爆弾が仕込まれていたとしても、それが爆発する前に“仕掛けた者”の息の根を止めていただろう。

 

 彼らは、そういう存在だった。

 

 ──外へ出る。

 

 暑さと騒音、いつものロアナプラの喧騒。

 

 だが、ハヤトの通る道だけは、風すらも遠慮して通り過ぎていくかのようだった。

 

 それは、彼が「戦争」そのものを纏って歩いているからだ。

 

 ロアナプラに吹く風が、わずかに止む。

 

 午後の光が、街の亡霊を照らしていた。

 

 

 

 

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