木々の間から矢が飛んできた。
食らっておいた。
私は西アフリカ、赤道直下のジャングルに居た。
こんな蒸し暑いところまで逃げ回ったターゲットに天晴と言いたいところだが、仕事が面倒になっただけだ。
だいだらぼっちは使わなかった。これもまた面倒な話で、ターゲット以外は殺すなという依頼主からの注文だ。偽善者の理屈に腹は立ったが、聴き流されるうちにどうでもよくなった。
死体を獣に食わせるままにして、ボートまで歩いている最中。
枝を削っただけの粗末な矢だ。それが飛んできた。
避けることもできたが、疲労から首を動かすのも億劫だった。
食らっておいた。
ほとんど空のスーツケースを抱きかかえて、パパイヤの木にもたれかかる。
ガサガサと茂みをかき分ける音がする。矢を引き抜くこともなく私は待っていた。
私の前に現れたのは小麦色の肌の少年だった。
彼は私を見つけるとこわごわと、矢に触れて、今度は私の身体に触れた。
脈を見ているようなので鼓動を消してやった。
「―――」
死んでいる。
言葉はわからないが何を言ってるかはわかる。
彼に続いて現れたのは大人の男だった。狩りの監督役だろう。
二人はなにやら話し合い、やがて私の身体を二人がかりで担いで村へと連れて行った。
矢を引き抜けばすぐに傷は塞がるだろう。だがそれはしなかった。
村の人間たちはなにやら話し合っている。
聴こえてくる本音、曰く。
『格好からして相当な金持ちだ』
『財布にすこしくらい手を付けてもいいだろうか』
『いや、それはよくない』
『葬式の準備をしないと』
どうやら私は埋葬されるらしい。
ここで起き上がって帰ってしまうか。
しかし私を見つめる一対の目があって、それがあまりに申し訳なさそうにしているものだから、面白くなってしまった。
大木が倒れる気配があった。
これから棺桶を作るらしい。
拍子木と太鼓の音がする。
集まった人々が歌い踊っている。
そういえば踊念仏というものもあったな。この土地の葬式は、賑やかなものらしい。
私の周りに熱帯性の花々が置かれる。
村の人間たちは、私を射た少年も、狂ったように歌い踊っている。
一晩中、彼らは歌い踊る。
棺桶ができあがったらしい。歓声と共に私へ近づいてくる。
身体を抱えあげられて、赤い恐竜型の棺桶に入った私は、やはり踊る男たちによって運ばれた。
葬式の踊りは私についてくる。
棺桶が墓地へ下されたら今度は土を掘りながら彼らは歌っていた。
すっかり土をかけられて、私は土の中から彼らの音楽を聴いていた。
やがて御囃子は遠ざかっていく。
寂しい墓地にイヌ科の遠吠えが聴こえて、ようやく私は棺桶の蓋をずらした。
土の乗った礼服の裾を払う。
棺桶に入れられていたスーツケースを引っ張り出す。
奴らが少しでも私を嘗めた真似をしたのなら、村ごと踏みつぶしていただろうが、そうはしなかった。
私はボートまで、夜のジャングルを歩いた。
終