くきちよ結婚式です。ネタバレを含みます。

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#狂気作品結婚式WEBアンソロ
参加資格:狂気作品のキャラが結婚式に居るなんらかの二次創作作品をアップしてタグをつけるだけ
という内容でXで企画して書いたものです。

ピクシブとぷらいべったーでも読めます。

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神よ、愛を誓おう

 披露宴の三次会で九鬼が言った。

 

「我もするか。結婚」

 

 永次はとっくに酔いつぶれていて(弱いのに付き合いの良い奴だ)師匠や室井は冥界へさっさと引っ込んでしまった。

 なので、九鬼の話し相手は俺しかいない。

 

「死んでるだろ、お前」

 

 九鬼は無反応だった。甘口の日本酒の入った枡を傾けている。俺はしこたま飲まされた後だったのでチェイサーに切り替えていた。

 言葉を続ける。

 

「だいたい、相手がいないだろ」

「千代がいるはずだ。いずこかに……」

 

 千代とは彼の許嫁だったか。九鬼がまだ戦国時代、家の下で想師の力を振るっていた頃の。俺は師匠から聴いた話でしか知らない。

 

「きっと見つかる」

 

 九鬼はそうつぶやくと、酒を手酌で注ぐ。

 あの時代の婚姻とは家同士の結びつきで、嫁や婿は人質のようなものだったと調べたことがある。

 

 彼女が九鬼にとってどのような存在だったのかは伺い知れなかったが、見つかってほしいと願った。

 

 

 

 

 あれから三か月後。

 

 彩香がちょうど出かけている時、九鬼が来店してきた。

 コーヒーを出したら「まずい」とケチをつけられ、一発殴ってやろうかと思ったが、鞄をカウンターに置いたので様子をうかがう。

 差し出された書状には、『招待状』と達筆で書かれていた。

 

「なんだ」

「結婚式の招待状です。来るでしょう」

「誰のだ」

「私と千代のですよ。当然来ますよね」

「死んでるだろ、お前」

「死後婚というものもあるそうですよ。別にいいでしょう」

 

 コーヒーカップを置いて九鬼は笑顔を深めた。

 

「来んと暴れるぞ」

 

 行くことにした。

 

 見つかってほしいとは願ったが、強引に招待される謂れはない。

 

 

 

 

「やっぱり、遼も来ていたのね」

「彩香」

「私も招待状を貰ったの」

 

 死者の結婚式は彼女にはどう見えているのだろうか。青いドレスに身を包んだ彩香の手を引いて列に並ぶ。

 

 黒い紋付き袴の九鬼と、白い着物に身を包んだ花嫁……千代さんが列の中央を歩いている。

 丸みのある頬でどこか陰がある、上品な振る舞いの美人だ。九鬼と並ぶと大きな身長差があった。

 

「やっぱり迷うかも、和風も素敵よね~。ねっエイくん」

 

 囁き声で真由ちゃんが永次に話しかけている。自分たちの結婚式について考えているらしい。永次は「おう」と短く答えるだけだ。緊張しているらしい。

 

「面白そうなので来てみました」

 

 幽螺が黒い布を頭からかぶった状態で参列していた。言葉が気になるが深くは聴かない。隣には深紅のドレスを着た真宮もいる。

 室井や近江もいた。彼らは国際情勢について談笑している。天承師匠は既に酒をあおっていた。

 

 花嫁の被り物は角隠しと呼ぶそうだ。名前からして新婦よりも隣の新郎に必要かもしれない。そんなことを考えていると鳥居が見えてきた。死者の国に作られた神社は銀色の光を放っている。

 拝殿に入ると神主がお祓いをし、神への捧げものが置かれていく。

 

「かしこみかしこみ申す……」

 

 来賓客の俺たちは黙って祝詞を聴いていた。

 九鬼は朱塗りの盃を渡され、口をつけた。それを千代さんに渡す。

 

 花嫁が盃を口につけたその時だった。

 

 御簾が翻る。拝殿全体が歪んでいた。天地が回転し色が混ざりあう。強制再転かと思ったがそうではなかった。世界が作り替えられている。

 

 拝殿は白い壁の教会に変わっていた。

 御神体のあった場所には十字架が掲げられ、その下にパウロ神父が立っていた。

 

「永遠の愛を誓いますか?」

 

 何事もなかったかのように結婚式は続く。気が付けば花嫁はドレス姿に、新郎は白い燕尾服に衣装替えしていた。

 

「はい」

「ええ」

「指輪の交換を」

 

 自分が殺した相手の前で愛を誓うとは。俺は苦い顔をしたが当のパウロ神父は気にしていない様子だ。

 指輪が二人の指に輝く。

 

「それでは、誓いの口づけを」

 

 九鬼は、花嫁を抱え上げた。お姫様抱っことか言う、あれだ。真由ちゃんが嬌声を上げる。同時にはしゃぐような笑い声が聴こえて、それが千代さんのものだと気付いた。

 ベールをよけて口づけが交わされた瞬間、また天地がひっくり返った。

 

「さっきからなんなんだこれは!」

 

 俺はたまらず叫んだ

 

「千代と話したんだが神前式と仏式で迷ってな」

 

 回転する景色と共に回りながら九鬼が言う。

 

「せっかくだから思いつく限りの神仏に誓おうと思った」

「馬鹿!」

 

 あらゆる宗教の聖典が読み上げられ、幾度も誓いが交わされ、キャンドルは二周灯し、清めの水は三十回以上かけられ、新婦の手で血の付いたハンカチが投げられ、新郎の革靴がグラスを踏み割った。新郎新婦の手は大量の指輪で銀色に輝いている。式場の様式は和風になったり洋風になったり中東風になったりと忙しない。何百回と拍手を送りいいかげん手が痛くなってくる。

 

 太った老人が現れた。ある宗教の代表で現人神を名乗っていることで有名だった。黄金に光る台座に座らされている。

 

「えっ、何、なんですか、これ」

「私たちは永遠の愛を誓います」

「あ、そうですか」

「次」

 

 一方的に誓われたあと、九鬼に蹴り落とされた。拍手。

 同じ目に遭う者がつづけて五人、流れ作業のように現れては消えていく。

 

「私たちは永遠の愛を誓います」

「そうですか、では浄財を」

「次」

 

 布施をせびる豪胆者もいたが用が済んだらさっさと蹴り落とされた。客席を見渡すと真宮は唖然と口を開けていて、室井は笑いを堪えていた。

 いつの間にか師匠が台座に座らされている。

 

「いやいや、わしは神なんて大層なものではないが」

「ギャハーッ!」

「あ痛ぁ!」

 

 蹴り落とされた。それまでの流れで拍手が鳴り響く。

 永遠の愛を誓ってない気がするがいいのだろうか。いやそんなことよりも。

 

「……いつまで続くんだ」

 

 呟いても式は終わらない。彩香の方を見ると人差し指を立ててシィーと、諫められた。

 

 どこの神だか知らないが新郎新婦が寝室へ入るのを見届ける式もあった。真由ちゃんが指の間から見届ける。寝室が爆発し、九鬼たちが飛び出してまた新たな衣装で次の式へと移った。

 彩香を連れて帰ろうかと思ったが目まぐるしく変化する式場から無理に出ていくのは危険な気がした。二人がザルを被って紐が絡んだような姿の神に誓うのも黙って見ていることしかできなかった。永次が倒れた。

 人の形の闇が一瞬だけ現れて、「こういうのは苦手」と言って去っていった。

 男性陣が新婦にキスを送り、女性陣が新郎にキスを送る。彩香が参加しようとしたので全力で止めた。

 ギリシャのほうの神々か、牛やら羊やら並べられて目の前でどんどん解体されていく。近江が大きなナイフを手にして手伝っていた。

 全員で新郎を雪の上にぶん投げた時は少しだけスッキリしたが、奴は顔に炭を塗られてる時も嬉しそうに笑っていた。

 もうどのくらい経っただろうか。丸三日はこうしてるような気がする。もはや結婚式なのか披露宴なのかもわからない。何を見せられてるんだ。皆で笑いましょうと言われて無感情で声を発し、音楽に合わせて踊っているとまた式場が変化する。

 

 今度は小さな円形劇場のような作りだ。

 パイプ椅子に座った来賓客に囲まれている。中央の舞台と客席との境はわずかな段差だけだ。

 俺は舞台の上に居る。入り口から見て右側、上手側に立っていた。隣には頭から黒い布を被った幽螺がいる。俺たちの席は無いのかと後ろを振り返ると、見覚えのある、粗末な椅子が一つだけ置いてあった。

 下手側には九鬼と彼の花嫁が立っている。

 

「これで最後か」

 

 俺は訊ねる。

 

「ああ」

 

 九鬼は言って、花嫁の手を取り片膝をつく。

 

「私たちは、永遠の愛を誓う」

 

 俺は幽螺と顔を見合わせてから、二人に頭を下げた。

 他の神々に比べれば簡素な、愛の誓いが終わった。

 

 

 

 

「最後はどこの神様だったのかしら」

 

 真由ちゃんが紅茶の砂糖を溶かしながらつぶやく。永次は頭をかしげていた。

 

「ほら、すごくシンプルな形式の。あれがしみじみ良かったな~って」

「俺は気絶してたから……兄貴、覚えてます?」

「いいや」

「ええ~、草薙さん重要な役してたじゃん」

 

 ソファー席にもたれかかり、目頭を摘まんで天井を見上げる。昨日の疲労が残っている。

 全能の神になった時の記憶はない。俺は忘れてしまった。幽螺は少しばかり覚えているかも知れないが。

 

 しかし、神の仕事がああいうものなら、悪くはない。

 

 彩香が俺の顔を覗き込む。

 

「もう一回結婚式、やってもいいかも」

 

 彼女は悪戯っぽく笑う。

 

「九鬼みたいなのは勘弁してくれ」

 

 俺はため息交じりに言った。

 

 

  了


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