ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos 作:トリミングチキン
これでいいのだろうか。
アコちゃんも危うい気がする。
窓から太陽が顔をのぞかせている。
もう朝のようだ。
少しホコリがかぶり、最低限の家具だけが置かれている生活感のない部屋。
彼女達『風紀委員会』が使用している寮の使われていない一室だそうだ。
俺を助けてくれた少女は安静にするよう言っていたが、強化人間の再生能力なら歩く程度ならわけない。
痛みもなく、違和感すらない、足の調子は問題ないようだ。
机の上には俺の私物が置かれている。
金庫にあった赤いカードと、ウォルターの手紙、俺のスマートフォン。
深紅に輝くカードを手に取り、眺める。
何度見ても普通のクレジットカードにしか見えない。
(だが、俺をここに連れてきたのはこいつだ。何か特殊な力があるのは確かなはず)
(手紙の内容を鵜呑みにするなら『望む結果を引き寄せる』そうだが…)
改めて机に目を下ろす。
銃も金も一切持ってきていない。
(我ながら所持品が心もとなさすぎるな。ハンドガンの一丁でもあればいいのだが……)
軽く目をつぶり頭をひねる。
頭に思い浮かべたのはルビコンでもよく使っていたベイラム製大口径ハンドガン『
その瞬間、手の中に重みと鋼鉄の感触を感じた。
反射的に目を開く。
俺の右手には馴染みのある鋼鉄の
俺の知るコキュレットはACの武装だ。しかし、目の前にあるものは人間の銃と同じサイズだ。
その光景はずいぶんと簡単に俺の常識をゆがめた。
キヴォトスに来てからそんなことばかりだ。
(だが手紙には『代償と引き換え』と書いてあった何か失ったものがあるはずだ………クレジットカードか)
もしやと思い、スマホを手に取り、自分の口座残高を確認する。
COAMが減っている。ルビコンでのコキュレットの値段の一万分の一ほどが口座から引かれていた。
代償とはこれのことだろうか。
(少し割高だが、抗う力は手に入った)
ふとAC用の汚い作業着を着ていることに気が付く。
(そういえば昨日、風紀委員の制服を渡されていたな)
部屋の隅に置かれている古びた木製のクローゼットを開く。
中には黒のジャケット、白いワイシャツ、赤いネクタイに黒い制帽。
そして
それらに袖を通す。
サイズは多少余裕がある、おそらく思春期の成長を加味してゆとりを持たせておいたのだろう。
(……あいつらに身体のサイズ教えてたっけな)
突如、扉がドンドンと力強く叩かれた。
「おい、起きてるかー!」
扉を開くと、昨日見た銀髪ツインテールの少女がライフルを一丁持って立っている。
「銀鏡イオリだ。これからお前の今後の……」
彼女は視線を上げ、俺の頭上をじっと見つめる。
「なあ、お前キヴォトスの外から来たんだよな」
「…そうだが」
「ヘイローは無いんじゃなかったか?」
彼女のセリフには違和感を覚えた。
ヘイローはキヴォトスの人間にしか存在しない特殊な部位のはずだ。
頭上に手を伸ばす。
何の感触もない。
すぐさま振り返り、ガラスに反射した俺の姿を確認する。
頭上には、彼女たちと同様にヘイローが浮かんでいた。
頬を引っ張る。
ジンジンと響くような痛みが滲む。
「……夢の中では無いようだな」
(昨日の怪我が一夜にして治っていたのは
拳を握り締めると確かに以前より力が強くなっている気がする。
(ヘイローが彼女たちの耐久性の所以だと思っていたが……もしやこれなら)
「おい、おい!」
イオリが俺の頬を軽く叩いていた。
「寝不足なのかもしれないけど、こんなところでぼけっとされちゃ困るんだけど」
「すまない」
イオリは俺に背を向けて歩き出し、俺も彼女についていく。
「ところで、これから俺は何をするんだ?」
「試験だよ。形式上だけだけだから、書類書いて終わりだけど」
廊下を歩きながら二人で話す。
周りにも同じ制服の人間が点々とだがいるのが見えた。
「本来はどんな試験なんだ?」
「能力を把握するためにしてるだけだから試験らしいことはしてないしなぁ……」
イオリは腕を組み、少し考えこんだ。
「強いて言うならーー」
何か思い出したように見開いた。
「たまに委員長や私に下剋上目的でタイマン申し込んで来るやつとかもいたな」
「俺もそれで頼む」
間髪入れずに答えた俺に対し、イオリは足を止めた。
数秒の間沈黙が流れるとこちらを振り返り睨みつける。
「……それ、本気で言ってるのか?」
「あぁ、君はキヴォトスでは強い方なんだろ。どれぐらいやれるか確かめておきたい」
「ダメだ。怪我でもさせたらまたアコちゃんに怒られちゃうし」
思いのほか分別はつくようだ。
だが、俺のキヴォトスでの力量は把握しておかなければならない。
「怪我か……もしかして、恐れているのか?」
「…は?」
「俺にはヘイローがあるんだ、君たちと身体構造は変わらないはずだ。なら、大けがすることはないと思うのだが?」
「ここまで言われたら私も引けないな、委員長には自分のわがままだって説明しろよ」
イオリは速足でどこかに向かう。
たどり着いたのは訓練場と思われる銃や武器、関連施設が置かれている広場だった。
風紀委員のメンバーがちらほらと訓練している。
「ここは自主訓練のための場所だからな、本来のメンバーはもっと多いんだ」
小柄な少女がイオリに駆け寄ってきた。
「イオリ先輩そちらの方は?」
「新入りだ。どうしても手合わせしてほしいっていうから、仕方なく戦ってやることにした」
その子に歩きながらあれこれと指示を出す。
「チナツを連れてきてくれ。あと、対人訓練場使うから使ってるやつがいたら止めさせといてくれ」
「はい!」
軽口をたたきながら訓練しているやつらも目に入る。
(軍隊のような感じはしない。いつか見たレッドガンの訓練とはまるで違うな)
イオリが倉庫のようなところで立ち止まる。照明もつけずそこに入り込んで何かを漁りだした。
「ほら」
イオリから一丁のライフルを投げられた。
受け取ったそれは木製ハンドガードのセミオートライフル。
(装弾数は10発、全長はストックも合わせて1200㎜といったところか。重さは5㎏程。使えないこともないがいつの時代の銃なんだ?ゲリラじゃねぇんだぞ……)
「使い方はわかるだろ?マガジンはいくつ欲しい」
「2個で構わない」
「随分少ないな、本当にそれでいいのか?」
「あぁ、どうせ時間は掛からない」
「…お前、ほんとに可愛げがないな」
イオリが再び歩き出し、厚めのブロック塀に囲まれているサッカーコートほどの大きさの広場にたどり着いた。
中には遮蔽物として使えと言わんばかりのタイヤや土嚢の壁が置かれている。
ライフルの薬室を確認しながらそこの入る。
地面はアスファルト、実戦使用の訓練施設といった様子。
互いに広場の端、サッカーで言うと気キーパーのいる位置に立つ。
オールマインドのアリーナのような感じだ。
「もう減らず口を叩けないようにしてやる」
「その調子で頼むぞ、あっけなくやられてもらっても困る」
イオリの顔にカッと血が上り赤くなる。
おそらく俺の発言が気に障ったのだろう。
(挑発したつもりは無いのだが、本気でぶつかってもらわなければ意味がない。好都合だ)
「何をしてるんですかー!!」
塀の外に昨日助けてくれた少女の姿が見える。
名前はたしか、チナツだったはずだ。
イオリがそこまで駆け寄り、事情を説明し始めた。
「……そういうわけだから」
「俺から頼んだ。怪我はしないさ問題ない」
チナツは頭を抱えいる。
常識的に考えれば彼女の反応が正しいのだろう。
イオリが元の位置に戻り、ライフルを両手で握った。
「チナツ!合図を頼む」
チナツはため息混じりに渋々了解した。
「二人とも準備はいいですね。開始ッ」
二つの銃声が重なると同時に、互いに横へ飛ぶ。
彼女の弾丸は俺の頬をかすめた。
すぐさま付近の物陰まで転がり込み、身をひそめる。
右目だけのぞかせ、状況を確認する。
イオリの姿はない。
(俺と同様に遮蔽物に隠れたか…)
近くの遮蔽物に一発一発、残弾を撃ち込む。
反応はない。
(当然、これでボロが出る相手じゃないか)
マガジンを交換する。残りは一つ。
遮蔽物を背にするように座りこむ。
ライフルを遮蔽物に乗せ、不規則に発砲繰り返す。
(イオリは俺のマガジンが少ないことを知っている。俺が無駄打ちしている間は無理に出てこないだろう)
二つ目も撃ち尽くし、すぐさま最後のマガジンを装填する。
これを撃ち切ればライフルを撃つことはできない。
(俺の耐久力がどれほどなのかは分からない、無暗に被弾するわけにはいかない)
依然として体を隠しながらライフルを撃ち続ける。
頭だけは出しておき、イオリの動向を監視する。
一発も命中せず弾薬だけが減っていく。
ダンッ
最後の一発が放たれた。
(もう弾はないが、寄ってくるか?)
数秒の静寂。
すると、最も端の遮蔽から人影が飛び出してきた。
一直線にこちらへ向かってくる。
銃弾を確実に当てるため距離を詰めたいのだろう。
遮蔽の裏で完全に身を隠す。
右側から彼女が銃口を向け、スライディングで滑り込んで来る。
俺の瞳に彼女が映ると同時にライフルを投擲し、彼女の元へ駆け出す。
イオリはそれを蹴り飛ばす。
「往生際が悪いぞ!」
「もう勝ったつもりか」
銃口が俺の頭部へ向く。
銃声と同時に身をひねる。
右肩に被弾した。
だが、それで止まる俺ではない。
左手で銃身を握り、懐からコキュレットを引き抜く。
ライフルを強く引き寄せ、間合いを詰め切る。
額にコキュレットを押し当てる。
連続で引き金を引いた。
鈍い衝撃音が響く。
間髪入れず、よろめく彼女の鳩尾めがけ前蹴りを差し込む。
イオリは後方に吹き飛んだ。ライフルからも手が放れた。
チナツの方に目をやる。
終了の合図はまだない。倒れている彼女に銃口を向ける。
「終了です!銃を下ろしてください」
チナツの声が響き、コキュレットを懐に仕舞った。
大きく息を吸い込み、高鳴る心臓を落ち着かせる。
久々の闘争だった。
イオリは流血こそしているものの骨や内臓には問題なさそうだ。
周りを見渡すと、ギャラリーが随分と集まっている。
「そこの二人、イオリを救急医療部まで」
近くにいた風紀委員が担架を持って駆け寄り、そのままイオリを運んで行った。
周囲への指示を出し終えたチナツがこちらに近寄る。
表情には困惑が浮かんでいた。
「……まさかイオリに勝つとは思いませんでした」
「伊達に修羅場をくぐっていない。イオリの具合は?」
「大した怪我ではありませんから、大丈夫だと思いますが」
(あれだけやっても問題ないのか…)
(そういえば俺の撃たれた肩も問題なく動かせる。キヴォトスの人間の耐久性はとんでもないな…)
ライフルと空のマガジンを近くの木箱に置く。
「俺はこれからどうするんだ?」
チナツはハッとしたように目を見開いた。
「…そうでした、委員長がお待ちです。急ぎましょう!」
チナツは俺の腕を掴むと、そのまま駆けだした。
風紀委員会の廊下を全力で走る。
心なしか他の風紀委員からの視線が痛く感じた。
チナツは突然扉の前で立ち止まり、少し息を整えた。
三度ノックし、扉を開く。
「ヒナ委員長、失礼します」
中には昨日の白髪の少女。
相変わらず鋭い目つきをしている。
「だいぶ遅れているけど何かあったの?」
俺達とその背後まで見渡す。
「…イオリは?」
「実は私も詳しいことは把握していなくて…」
「わかった。詳細はその子に聞くから、あなたは仕事に戻ってて」
「はい、失礼します」
チナツは一礼し、部屋を後にした。
ほんの一時の静寂の後、ヒナがため息混じりに聞いてきた。
「それで、何があったの?」
先程の出来事を簡潔に説明する。
話を聞き終えたヒナは額に手を当てた。
「そう、怪我がないならそれでいいけど…」
小さく息を吐く。
「改めて聞くけど、これからどうしたいの?」
「戦闘要員として使ってくれ。その方が慣れている」
「イオリに勝てる生徒なんてそうそう居ないし、こちらとしては助かるけど……」
しばらく考え込んだ後、ヒナは椅子を引いて立ち上がった。
「そろそろ学生証を作る準備も整ってると思うけど、案内する?一人で行きたいなら地図を渡しておくけど…」
「いや、案内を頼む」
ヒナの後について部屋を出る。
道中、風紀委員たちや一般生徒からの視線をやたらと感じた。見られていたのはヒナか、はたまた俺なのか。
しばらく歩き続ける。
気が付けば屋外の川沿いに出ていた。
(学生証を取りに行くという話だったが…)
「……学生証を取りに行くんじゃなかったのか?」
暖かい風が吹いている。
ヒナの柔らかな髪がなびいていた。
「…聞きたいことがあったの。でも、あまり人に聞かれたくないことだろうから」
ヒナは立ち止まって振り向き、俺の顔をじっと見つめる。
近くのベンチにヒナが腰かけ、隣に座るよう軽くベンチを叩いた。
それに応え、俺も腰を座る。
「あなたの所持品を確認したのは私よ」
「……」
彼女の言う所持品の中には、赤いカードが含まれているのだろう。そして、ウォルターの手紙も。
息を吸い、ゆっくり吐き出す。
「…それで何が聞きたいんだ?」
「あの手紙を書いた人は何て名前なの?」
なぜそれを知りたいのか。
何を知っているのか。
俺の正体に勘づいているのか。
いろいろ聞きたいことはあったが、それらを飲み込み。
何もないかのように彼女の質問に答えた。馬鹿正直に答えてしまったのは、よく知りもしないが彼女の人柄のせいだろうか。
「ウォルターだ。ファミリーネームは知らない」
彼女の意図を知るため、ヒナの表情を窺う。
軽く口元が緩まり、眉が柔らかく垂れていた。
それがどういった感情なのか、俺には読み取ることができなかった。
「学生証を作るには名前が必要だけど、さすがに621は使えないわ」
(キヴォトスの人間は日系人の名に近い。知り合いに誰かいれば、それを使えたのだがな)
ヒナは立ち上がり俺に手を差し伸べる。
「無いなら無いで構わないわ。歩いていけば思いつくかもしれないと思うけど。どうする?」
その手を借り、立ち上がる。
しばらく二人で川沿いを歩き出した。
「まずは苗字から考えましょうか。何か思いつく?」
「…苗字か」
(思えば人間らしい名前なんて考えたこともなかったな。六文銭…ではだめだろうな)
ふと空を見上げる。
1羽のカラスが川の上空を横切っていた。
誰にも縛られず、己の意思で自由に羽ばたく。そんな存在。
焼け焦げたような黒い翼が、空を駆け抜けていた。
「烏羽…」
思わず口からこぼれた。
なぜこの名が浮かんだのかは分からない。
だが、不思議と違和感はなかった。
もしかすると強化手術で記憶を失う前の名前なのかもしれない。
今となっては知る由もない。
「次は下の名前を考えないとね。何か希望はある?」
ヒナの口調は心なしか柔らかく感じた。
ふと右の草原に目をやると、紫色の花が咲いていた。
「ヒナ、この花はなんていうんだ?」
「それは
思い返せばルビコンでも他の
知識として知っているのと、実際に見るのではまるで違う。
食い入るように見て触るを繰り返していた。
「シオンはどう。あなたの名前」
ヒナは静かに言った。
「…いい名だと思う」
俺達はその後校舎に戻り、昨日会った奇妙な服の行政官の元で学生証を作った。
行政官からはずいぶん嫌味を言われたがヒナが止めてくれた。
年齢に関しては一番足がつかないであろう15歳の一年生ということになった。
顔写真や諸々の必要な情報を諸々決める。
こうして、俺の学生証が出来上がった。
学校:ゲヘナ学園
名前:烏羽 シオン
年齢:15歳
学年:1年生
所属:風紀委員会
これが俺のキヴォトスでの新しい名義だ。
ちなみにウォルターの残していた621の再手術費用は強化のための手術ですべて消えました。
ルビコンの外で使ってたスマホがキヴォトスでも使えるのはご愛嬌ということでお願いします。
この作品に1番期待している要素は?
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ac6らしい戦闘や残酷な描写
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キャラクターの掛け合いや日常の描写
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621の内面描写
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シリアスなストーリー
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アクション、バトル中心のストーリー
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ここにはない