ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos 作:トリミングチキン
トゥルルルルルル
仕事用の携帯が通知音を響かせる。
その不快な音色が眠っていた俺の脳みそを叩き起こした。
ソファから半身だけを起こし、窓の隙間から僅かに光が入るだけの暗い部屋で手さぐりで仕事用の携帯を探す。
目の霞みが晴れ、机の上に携帯が転がっているのが見える。
それを持ち上げ、耳に当てながら通話ボタンを押す。
「……依頼ならメールで詳細を送ってくれ。受ける場合のみ折り返す」
『…あんた寝ぼけてるの?とにかく、依頼には遅れてこないでよ!』
「そうだったな。了解した」
『ちょっと、本当に分かってーーー』
ブツッ
通話ボタンを押し、強引に電話を切った。
リモコンで照明を点けると、まぶしい光が瞳孔に入り込む。
そこは見慣れない部屋だった。
意識がはっきりしてきた。
(そういえば、アビドスを去ったあと…この家を借りたんだったな)
デスクと椅子、タンスや電子レンジ、冷蔵庫などの生活に必要な家具と電化製品は一通り揃っている。
D.U.の郊外にある目立たない一軒の貸家。防音が施されており、監視カメラもなく、人通りも少ない。おまけに二階建てで屋上にも上がれる。
傭兵として生きるには実に都合がいい最高の立地と物件だ。
さっきの電話は昨日受諾した依頼の催促だろう。
依頼の催促で電話まで寄越してくる依頼主は初めてだ。随分と慎重な奴もいるものだな。
依頼を受けるためだけに買ったパソコンの電源を点け、メールを確認する。
待機場所はD.U.の裏路地、時間は……もうすぐだ。
「…歩きだと時間がかかりそうだな。そろそろ向かうか」
立ち上がり、タンスから取り出したレイヴンの制服を身に着ける。
カードとコキュレットを一丁、胸ポケットに入れておく。
個人用のスマホで目的地を確認し、レイヴンの仮面を着けてから貸家を出た。
見慣れないD.U.の街中を歩きながら、依頼内容を頭の中で反芻する。
(今回の依頼は珍しくヘルメット団からだったな。あの集団の依頼を受けるのは初めてか…)
(そもそも、あいつらは木っ端の不良生徒の集まりだからな。下請けばかりだと思っていたが、
(依頼内容は敵勢力襲撃の手伝い、よくある不良グループ同士のいざこざだな)
(随分と楽な依頼だが、久々の仕事だ。ウォーミングアップにはちょうどいいだろう)
考えながら歩いていると指定された場所に到着した。
人通りが極めて少ない以外に特筆すべきところは何もないただの路地だ。
こんなところに俺を呼ぶ理由は、集合場所をデータ上に残したくない。
もしくはーー。
俺の周囲のごく狭い範囲が暗くなった。太陽光が遮られたように。
すぐさま見上げる。
上空からヘルメットを被った生徒が銃を持ちながら落ちてくる。
落下しながら、その生徒は両足を胸元まで引き付けた。
俺は左腕を頭部を守るように掲げる。
案の定、その生徒は瞬間的に両足を伸ばし、俺の頭部めがけて蹴り込んできた。
左腕で受けたため直撃は避けられた。
だが、全体重に落下速度も乗った蹴りだ。俺は地面に倒れ込んだ。
生徒は俺の腹に尻餅をつくように着地し、そのまま馬乗りになる。
彼女のショットガンが俺の頭部に向けられる。
彼女はポツリと言った
「お終いよ」
蹴られた左腕の拳を握り込む。
「いい蹴りだった。だが、
その生徒が引き金に力を込めた瞬間、銃身を左手で弾き飛ばす。
銃が明後日の方向へ飛んでいき、彼女の視線がそれに吸い寄せられる。
勢いよく上体を起こし、右手で彼女の首根っこを掴みながら覆いかぶさるように彼女を押し倒した。
「久々の依頼はやはり軽めがいいな。不意打ちの可能性は頭にあったが、内心そんなことは無いだろうと高を括ってしまっていた」
彼女は弱々しい力で首を掴む俺の腕を引っ張っている。
「…声からしてお前が依頼人だな。ここでは初めての騙し依頼だ。大した恨みは買ってないはずだが……」
押さえつけている喉からかすかに動きを感じ、さらに力を籠める。
「助けを呼ぼうとしても無駄だ。そいつらもしばらく痛みに悩ませられることになる。弾薬費も馬鹿にならないんだ、勘弁してもらおう」
彼女は僅かに頷いた。
喉の拘束を少し緩める。
「……恨みを買ってないなんて馬鹿な事言うのね」
「事実だ。お前らのような不良に私情で何かした記憶は一切ない」
反応からしてこの少女自身に何かある訳ではなさそうだ。
俺に恨みがあるなら何かしら言いたくなるようなセリフだったと思うのだが、小言の一つも言ってこない。
つまり、別の人間からの指令か依頼と考えるのが自然か。
「……お前らに指示を出した人間は誰だ」
「こっちだって貰う物は貰ってるのよ!そう簡単に言うわけ無いでしょ!!」
随分と大きい声で怒鳴られてしまった。
根性の据わった少女だ。
「ラブ隊長ー!どうかしましたー!?」
数人の足音と共に声が聞こえてきた。
彼女の怒鳴り声を聞いて、部下たちが駆けつけて来たらしい。
「お前から聞き出すのは骨が折れそうだ。だが…部下達ならどうだろうな」
右手で彼女の首を強く抑えながら、服の裏からコキュレットを取り出す。
部下たちが現れるであろう曲がり角へ照準を合わせる。
「待って!」
彼女は声量を抑えながら言った。
「話す!話すからあの子たちには手をださないで!」
足音が徐々に近づいてくる。
あと数秒もすれば、互いに姿が見えてくるだろう。
「こっちは大丈夫だから!周囲を見張ってなさい!」
彼女がそう言うと、部下たちは踵を返した。
「了解しましたー」
彼女の指示を聞いた部下たちは脚を止め、踵を返した。
やがて足音も聞こえなくなった。
「…賢明な判断だな」
首から手を離し、コキュレットを仕舞いながら立ち上がる。
「一応言っておくが、抵抗は無駄だからな」
「心配しなくてもそんなつもりは無いわよ。さっきので力の差は痛いほど分かったから」
彼女も痛めた首をさすりながら立った。
近くに置かれていた木箱に腰を下ろした。
「早速だが、話を聞こうか」
「その前に質問させて」
そういって俺を睨みつけた。
「本当に、恨みを買った覚えは無いの?」
「無いわけでは無い」
キヴォトスでの出来事を思い返してから答えた。
「だが、大体は依頼か相手から喧嘩売ってくる場合くらいだ。少なくともここまでされる心当たりはない…」
「それならあの依頼は……」
彼女は少し俯きながら顎に手を当てて考え込んだ。
だが、長考に付き合ってやるほど暇ではない。それに、この場の主導権は俺にある。
「まずは、お前の素性から言ってもらおうか」
「うちは
「なぜ俺を襲撃した」
「依頼があったのよ」
ラブは少し顔をしかめながら答える。
「話によると、あんたに訳も分からず壊滅させられたらしくて、その復讐をして欲しいってことだったわ」
「その依頼主というのは誰だ?」
「私達と同じヘルメット団の一派で、確か名前は…白白ヘルメット団だったかしら。ちょっと前は大きい派閥だったんだけど急に没落して。可哀そうだったし同じヘルメット団のよしみで依頼を受けることにしたの」
白白ヘルメット団。確か初めての依頼で拠点もろとも団員を叩き潰した奴らだったか。
カイザーの走狗として周辺企業に片っ端から襲撃をかけていたな。
「知ってるやつらだ。依頼で殲滅した」
「やっぱり恨み買ってるじゃない!」
「元はと言えば奴らが蒔いた種だ。悪事を働かなければ俺に依頼が来ることもなかった。俺を恨むのは筋違いだ」
「それは、まあ……そうだけど」
ラブは俺からそっと目を逸らした。
「ところで、なぜそんな依頼を受けた。レイヴンの名くらいは聞いたこともあるだろ。リスキーな依頼だ」
「確かに聞いたことはあったわ。でも、私も腕っぷしには自信があったし」
ラブは顔を下ろしながら続けた。
「私達だって、出来ることなら良いことしてお金稼ぎたいのよ」
悪人退治が良いことなのかはキヴォトスの倫理観では良くわからないが、その答えは嫌いではない。
「そうか。奴らの居場所は?」
「ちょっと待って」
ラブがスマホを取り出し、何度か操作する。
「ここよ」
差し出された画面にはD.U.郊外からさらに都心から離れた町の端っこの廃墟が映されていた。
俺も携帯で奴らの拠点の座標を確認する。
「わかった。これで話は終わりだ。お前も部下達も好きにすればいい」
スマホを仕舞い、立ち上がる。
路地の壁を交互に蹴り、建物の屋上まで上がる。
「ちょ、ちょっと!」
下からラブが慌てて声をかけてきた。
「一人で戦う気なの!?」
「あぁ。一応言っておくが、邪魔はするなよ。その時はお前も部下達も無事に帰れるとは思わないことだ」
そこから屋根から屋根へと飛び移りながら、目的地まで駆けて行った。
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それから数十分後。ラブに見せられた建物が見えてきた。
屋上から観察する。
2階建てで平たい直方体の建物。
周囲は土の庭で囲われ、さらに外側は金属製の門とコンクリート塀で囲われている。
現在は使われていないはずの廃墟だが、庭には足跡が多数残っている。
30から50程度の人数が居そうだ。
「さすがにコキュレットでは殲滅力に欠けるな」
殲滅力に長けた武器を思い浮かべる。
それなら実弾。弾幕を張れるものがいい。せっかくなら二丁あった方がいいか。
カードを取り出し、久々に銃を生成する。
大豊製の圧倒的な連射性能と継続火力を誇るガトリングガン『DF-GA-08
物量による制圧、という言葉を体現したような代物だ。
カードを仕舞い、両手に1丁ずつフーベンを持つ。
両手には巨岩でも乗っかったかのような重さが伝わってくる。
(今回は必要ないが、これでは機動力が必要な戦い方は厳しいな)
フーベンを握り締め、屋上から飛び降りる。
廃墟に向かって歩き始める。
「ちょっと待った!」
右側からでかい声が聞こえてきた。
つい先ほど聞いた声だ。
声の方へ振り返ると、ヘルメットを被った一団がこちらに向かってきていた。
「警告はしたぞ、ラブ」
そいつらを睨みつけ、右手のフーベンを向ける。
「待って待って!邪魔しに来たわけじゃないのよ!!」
ラブは部下達と共に両手で顔を庇いながら立ち止まった。
「なら何しに来た」
銃口を下ろすと、ラブはショットガンを肩に担ぎながら、再びこちらまで歩いてきた。
「私だって、騙されたままじゃ腹の虫がおさまらないのよ」
俺の目前まで来ると、廃墟の方に銃口を向けた。
「あんただって、人手があった方が助かるでしょ?」
正直そんなことは無いのだが、別に断る理由もない。
それに、こいつらに現場を見せればレイヴンの名もまた広がるかもしれない。
「ラブはついてこい。部下には出口と周囲を押さえさせといてくれ。逃げ出す奴らが居たら片しておいてくれ」
「分かったわ。ちょっと待ってて」
ラブが部下たちに指示を飛ばす。
塀の門から中を見渡すと人影はない。
「全員中にいるのか。いや、外出中なのか、だとしても一人くらいは残ってるだろう」
「レイヴン!みんな配置についたわよ」
ラブが銃を構えながら隣に並ぶ。
身体は正面を向いているが、彼女の眼だけはどこか別のところを見ている。
「……あんた、よくガトリング二丁も持てるわね」
「普段は使わないんだが、今回は殲滅力が欲しかったからな」
施錠されている門を蹴破り、庭に足を踏み入れる。
「突入した瞬間に弾幕を張る。ラブは当たらない様に俺の後ろから来てくれ」
「分かったわ」
そんなこんなで正面玄関まで着く。
扉を蹴飛ばし、部屋に入る。
中にはドラム缶や木箱、ガードレールなどの遮蔽物が山積みになっていた。
そして、その山から銃と白いヘルメットが顔を出す。
「……罠か」
「そうだよ!!残念だったな!観念しなレイヴン!」
奴らが笑い声と共に銃口をこちらに向けた。
瞬間、フーベンを構え、引き金を引く。
端から端まで薙ぎ払うようにフーベンを掃射する。
暗い部屋の中は火花で照らされ、うめき声と硝煙の香りで満たされた。
放たれた無数の弾丸が障害物を穿ち、白いヘルメットを次々と吹き飛ばしていく。
やがて声が聞こえなくなった頃にはフーベンの銃身もすっかり赤くなっていた。
「俺は二階を見に行く。意識があるかどうか確認しておいてくれ」
「え、えぇ。それはいいけど……うちら、必要だった?」
ラブは控えめな声で答えた。
質問に関しては言うまでもないから無視した。
弾痕が刻まれ、ところどころ欠けている階段を上る。
上には一人のヘルメット団が机の裏に隠れていた。
「お前が、リーダーか?」
「わ、悪かった!もうお前には手を出さない!だから見逃してくれ!!」
机の裏から飛び出してきたそいつは、両手と額を床につけ、震え声で懇願している。
「いや、通らんよ。それはな」
フーベンを振り上げ、ヘルメットごと頭部を叩き潰した。
「さすがに、死にはしないよな……」
あまりに恐怖に満ちた声だったからか、そう思ってしまった。
やり過ぎたような気もしなくはないが、レイヴンの強さを広めるなら恐怖心を煽るのが手っ取り早い。
「……ん?」
改めて二階を見渡すと、おもむろに置かれている小型の金庫があった。
フーベンを置き、コキュレットを取り出して金庫の扉の端を撃つ。
空いた穴から指を突っ込んで引き千切る。
広がった穴を手で掴み、扉を外す。
「……拠点を破壊したときに全てなくなったと思っていたが、こっちにも貯めてたか」
金庫の中には金の延べ棒。
1000グラムの刻印が刻まれている金塊が10個ほどあった。
誰かに見られる前にそそくさと仕舞い込み、その場を離れた。
一階に降りるとラブが倒れてる奴らを運んでいた。
「全員もれなく気絶してるわ。そっちはどう?」
「リーダーが一人で隠れていた。あと、これやるよ」
懐の金塊を一つラブに投げ渡す。
「なによこれ……え!」
彼女はしかめっ面から、一瞬にして口角を上げた。
「え!え!本当にいいの!?」
「あぁ。代わりに後片付けは任せたぞ」
「えぇ!任されたわ!」
フーベンを回収し、負傷者と瓦礫ばかりの廃墟を後にした。
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貸家に戻った頃にはもう日が落ちていた。
玄関に入り、部屋の電気を点ける。
レイヴンの制服と仮面をクローゼットに仕舞いこみ、ラフな格好に着替えてソファに寝ころんだ。
体を起こし、机に置いてある個人用のスマホを手に取る。
階段から屋上に上がり、生ぬるい風に吹かれながら電話を掛ける。
『ビジターか。アビドスを離れてもう2日になるが、どうだ』
「問題ない。臨時収入で金銭面も潤っている」
『家は無事に借りられたか?』
「あぁ、いい物件が見つかってよかったよ。口座も金もあるし、ゲヘナの学生証もまだ生きてるから簡単に貸りられた」
『それなら何よりだ』
「そっちは今どこだ?」
『特異現象捜査部の部室だ。例の件をヒマリと調べている』
「そうか、ヒマリとは話せそうか?」
『少し待っててくれ』
少し待つと、透き通るような高い声が聞こえてきた。
『はい、こちらミレニアムに割く一輪の高値の花であり、超天才清楚系病弱美少女ハッカーこと、明星ヒマリです』
「……ヒマリ部長。相変わらず元気そうだな」
『イツキさんもお元気そうで何よりです』
「それで、頼んでたものの調べはついたか?」
『はい、アビドスに現れた巨大ロボット…たしか
『まず、最初に観測できた場所はアビドス砂漠であるということ。姿をくらました場所も同じです』
『アビドス砂漠には監視カメラは愚か、まともに電気すら通ってない場所もあります。キヴォトスのあらゆる情報を観測できる天才美少女ハッカーであるこの私でも、手の出しようがありません』
「二つ目は?」
『鯉龍に使われていた技術はキヴォトスに存在しないものでした。チャティさんや、あなたの乗っていたロボットと同じように』
(当然だ、キヴォトスの外がルーツの兵器だからな。LCも、チャティも、鯉龍もそうだ)
「もう一方の機体。ヘッドブリンガーの方はどうだった」
『こちらは情報統制が敷かれていたので多少難儀しましたが、私の手にかかれば容易いものです』
『と言っても鯉龍と同様にアビドス砂漠を出入りしていたので詳しいことは分からず終いですか』
「あれだけの規模のロボットが整備もなしに動けるはずがない。本当にアビドス砂漠には電気が通っていないのか?」
『ふふふ。流石に鋭いですね。本当は伝えるつもりは無かったのですが……』
ティロン
スマホにモモトークの通知音が鳴った。
ヒマリとのトーク画面に一枚の画像が貼られている。
それは見慣れないマークの張られている施設の写真だった。
マークの下にはアルファベットで何か書かれている。
「カイザー…PMC?」
『えぇ、カイザーの系列会社であり、民間軍事会社でもあるカイザーPMCの大規模な施設があるようです。ですが、諸々が内部で完結していて外部からシステムに干渉するのは不可能でした』
『あれらはカイザーの兵器だったようですね』
「それは違う。あれはまた別だ。あれのパイロットとカイザーが結託しているだけだろう」
『……そうですか。これで貸し1つということで』
『本来の契約にはあなたの個人的な調べ物は含まれていませんでしたから。異論はありませんね?』
「あぁ、助かった。また連絡する」
少し待つと聞きなれた音が聞こえてくる。
『ビジター。オレだ』
「チャティか。すまなかったな仕事を増やしてしまって」
『まったくだ。そうやって人を振り回すところ、ボスに似て来たんじゃないか?』
「…そうか?むしろカーラはウォルターや俺に振り回されていたじゃないか」
『確かにな。なら飼い主の方か』
「俺はあの人みたいにはなれないさ。そろそろ切るぞ」
通話ボタンに指をかけた、その瞬間だった。
『………ビジター』
「なんだチャティ。まだ何かあるのか?」
『さっき話していたカイザーPMCだが、あそこの理事はアビドスが借金をしている張本人だ』
さっきまで生ぬるかった風が急に肌寒く感じられた。
「…それが、何だというんだ」
『今日の昼、カイザーPMCがアビドスに攻め込んだ』
「………」
『便利屋と先生の協力で辛うじて撃退はできたそうだ』
「そうか」
『用件はそれだけだ。じゃあな』
スマホの通話が切られた。
アビドスのことはもう何の関係もない。
俺はあそこの生徒ではないし、手伝ってやる理由もない。
スマホをポケットにしまい、懐からマッチと煙草を取り出す。
煙草を咥え、マッチを擦る。
深呼吸するように一息吸い込み、白い煙をゆっくりと吐き出す
ポケットから唐突に鳴りだした。
スマホを触ったが震えているのはこれではない。
仕事用の携帯だった。
画面を確認すると電話を掛けているのは先生の番号だった。
ため息をつき、小さくタバコを吸ってから通話ボタンを押す。
『”独立傭兵レイヴンに依頼があります。聞いてくれませんか?”』
先生としてではなく、依頼主としての口調だった。
「……言ってみろ」
『”アビドス対策委員会の3年生。小鳥遊ホシノが連れ去られた”』
『”連れ去ったのはカイザーPMCという民間軍事会社です。通常戦力では一筋縄ではいかない。その上彼らが保有している巨大な人型兵器が出てくるかもしれません”』
『”君には、その相手をしてほしい”』
「訳が分からないな。俺にそんな奴らを相手にできる力はない」
『”10億円”』
先生は平然と、耳を疑うような金額を口から零した。
『”前金で10億円。実際に働く場合は、その倍の額を払います”』
『”受ける場合は折り返してください”』
ブツッ
言うだけ言って先生は通話を切った。
煙草を再び咥え、煙を吸い込む。
「なんでどいつもこいつも通話ブツ切りするんだよ」
白い煙を宙に吐き出す。
今朝のラブとの電話を思い出した。
「……俺も人のこと言えないか」
普段と比べて倍以上の長さになってしまった。
その割には対しては無し進んでない……
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