ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos 作:トリミングチキン
満月が輝く夜。
月明りだけが照らす薄暗い倉庫の中で、雨音だけが反響している。
俺は鴉面の泥を落としながら、小汚いマットに寝転がっていた。
そしてすぐ近くには、一人の少女が地面に転がっている。
しばらくすると、その生徒はうめき声をあげながらゆっくりと目を開けた。
「もう起きたのか。頑丈だな」
彼女は周囲を見渡すと、腕と足を縛っている鎖を鳴らした。
すぐ近くに置いていた仮面を手に取り、彼女のもとへと歩み寄る。
「ご機嫌は如何かな?七稜アヤメ委員長」
アヤメはこちらを見上げながら問いかけて来た。
「…ここは?」
「長らく放置されていた山奥の倉庫だ。あの戦闘から既に2時間ほど経っている」
アヤメは口角を僅かに上げた。
「それなら、もう捜索が始まってる頃かな。ここにたどり着くのも時間の問題だろうし、私としては自首をお勧めするよ?」
「残念だが、そうはならない」
アヤメは眉間にしわを寄せながら問いかけてきた。
「……なんでそう思うの?」
「証拠は雨できれいさっぱり流されてしまったからな。この状況では、空から探すのも難しいだろう。スマホも置いてきたしな」
「…それで、何が目的なの?私をどうするつもり?」
「一つ目の質問から答えよう」
俺は立ち上がり、鴉面を付ける。
「理由はシンプル、依頼だ。祭りの間は君を行動不能にするという内容の」
土砂降りの外へ歩いて行き、置いてあるドラム缶の縁を掴む。
「噂にたがわぬ実力だったな。誰に対しても優しく、強く、優秀で、完璧な委員長」
それを引きずりながらアヤメに近づく。
「俺の仮面を外せたのは、お前が初めてだ」
ドラム缶の中には雨水が満タンに溜まっている。
「二つ目の質問の答えがまだだったな」
「仕事の性質上、顔が割れているのは色々と不都合が生じる」
「そうなると、口封じが必要になってくる」
「ヘイローがある人間を銃弾で殺すのは困難だが、失血死や毒、窒息なら比較的簡単に死に至る」
「そうなると、一番手っ取り早い方法は、溺死だ」
ドラム缶を軽くたたきながら彼女の鋭い瞳に目を合わせる。
「ここまで話せば、分かるだろ?」
アヤメは橙紫のオッドアイを見開くとともに、生唾を飲んだ。
顎から冷や汗が零れ落ちる。
「…助けも来ない。戦う術も持ってない私は、詰みってこと?」
「そうだ」
俺のことを睨みつけていた顔が徐々に下を向く。
そして、脱力するように地面へ寝ころんだ。
すると、常人なら聞き取ることもできないような声量で漏らした。
「……なら、好きにして」
それは、想定していない答えだった。
命乞いでもなく、怒りでもなく、諦観。
「……俺が言うのもアレだが、正気か?」
先程とは打って変わり、地面に頬をつけながら俺を見上げる瞳は、虚ろなモノに代わっていた。
「うん。もう私の行く末は決まってるみたいだから」
「何かしらを差し出して生き残ろうとは考えなかったのか?」
「あなたを満足させられるほどのお金は持ってないし、委員長として百鬼夜行の不利益になるような情報も言えない」
「組織の長が消えるのは致命的な損失だろう?」
「私が居なくても百花繚乱は回るから、そうまでして生き残る理由は無いしね」
理屈だけで言えば合理的な考えなのだろう。だが、人間らしさを感じられない答えだ。
いや、厳密に言えば、個人としての欲求が一切含まれていないように感じられた。
アヤメは全身の力を抜き、眠るように目を閉じた。
「死にたいのか?」
「そうじゃないけど。ちょっと、疲れた……」
「生きるのにか?」
「いや…どちらかと言うと、百花繚乱の委員長という役回りに、かな」
そう言った彼女の顔は、存外穏やかなものだった。
「今まで胸につっかえてたものがようやく言えた気がする」
「…死を目前にして初めて誰かに打ち明けるとは思ってなかったな」
その姿が、ほんの少し、他人の尻拭いに一生を使って死んだ、ある大人と重なった。
だがそれ以上に、猟犬としての役割しか持たなかったかつての自分にも。
大きくため息を吐きながら、頭を搔く。
「はぁ……」
アヤメの制服を掴み、マットレスに投げる。
さらに、先程持ってきたドラム缶を蹴り倒した。
ドラム缶の穴から水が流れ出し、地面が浸り始める。
アヤメは起き上がりそれを見ると、口元をぽっかりと開けていた。
「……それで私を殺すんじゃなかったの?」
振り返り、再び彼女と目を合わせる。
「死にたいわけじゃないんだな?」
「もう一度言うけど、私は委員長として、あなたの求める物はーー」
アヤメが言い終える前に、被せるように放った。
「立場も役割も抜きに考えろ」
しばらく静寂が続いた。
その後、アヤメは一言だけ呟いた。
「……………死にたくはないかな」
アヤメの目線に合わせるように腰を下ろす。
「しばらく俺の仕事を手伝わないか?」
「私は、百鬼夜行の不利益になるようなことは…」
四肢を縛られたまま体勢を立て直し、こちらをまっすぐ見つめている。
「最近、難しい依頼が舞い込んで来た。お前のような実力者が欲しい」
「俺の正体は言わないこと、俺の指示には従うこと、目の届く範囲にいることが条件だが、それさえ守れば百鬼夜行に迷惑は掛けないと約束しよう」
「…お前が居なくても百花繚乱は回るんだろ?」
アヤメはあちこちに視線を乱しながら考え込んだ。
「……私がその話を受けると思う?」
「あぁ、疲れているんだろ?」
「依頼さえ終われば、すぐ百鬼夜行に戻ってもらって構わない」
「嫌ならここで死んでもいい。だが、気分転換にこの話を受けてみないか?」
「…具体的には何をするの?」
「何でもだ。まぁ今回は秩序側の依頼だからそこまで過激なことはしないがな」
アヤメは目を閉じ、数分黙りこくった。
そして、活力のある声で言った。
「……わかった。その話、受けるよ」
「契約成立だな」
懐からコキュレットを取り出し、四肢を縛っている鎖を撃ち抜く。
倉庫の奥まで行き、アヤメが持っていた包帯が巻かれている紺色の小銃を投げ渡した。
「言っておくが、もし契約を違えれば容赦しないぞ」
「分かってる。そっちこそ、約束は守ってよね」
置いてあった羽織に袖を通しながら言って来た。
頷きながら俺もコートを纏う。
アヤメはふと、何かに気づいたように声を上げた。
「あっ!」
「どうかしたか?」
「委員長がいきなり消えるわけにもいかないから、暫くは百鬼夜行で諸々の仕事を終わらせないと…」
アヤメの慌てように反し、その内容については既に俺の中で結論が出ていた。
「何だそんなことか」
「でも、目の届く範囲にいるようにって言ってなかった?私が百鬼に戻ったら見張れないんじゃない?」
「何を言っている。俺も付いていくに決まっているだろ」
「百花繚乱の本部には一般生徒は立ち入りできないけど…」
「手続きが終わるまでの期間は、百花繚乱の一員としてお前の補佐役をする。生徒一人分の身分を偽造するくらい、わけないだろ?」
「そりゃあ、できなくはないけどさぁ……」
倉庫の扉を開けると、百鬼夜行の街並みが見える。
そこから外に出ると雨はすっかり止み、明るい月がこちらを照らしていた。
(……百鬼夜行から追われず、戦力も手に入った。エンフォーサーの使い方も理解できた)
(プラスに考えて行こう)
アンケートへの回答ありがとうございます。
なかなか興味深い内容でしたので、参考にしながら精進していきます。
ご意見、ご感想などありましたら、今後の参考にもしたいので気軽にお願いします。
一言だけでも大丈夫ですので……
この作品を読む前に、AC6とブルアカをどの程度履修していましたか?
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両方とも履修済み
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AC6は履修済み、ブルアカは未履修
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ブルアカは履修済み、AC6は未履修
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どちらも未履修
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