ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos   作:トリミングチキン

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委員長

レイヴンとアヤメが契約を交わしたあの夜から二日後の朝。

 

 

コンコンコン

 

「失礼します」

 

ドアをノックした後、猫の耳と尾を携えた黒髪の生徒が入室してきた。

 

「アヤメ委員長。この書類にサインをもらってもいい?」

 

部屋の中には、机に向かいながらペンを動かし続けているアヤメがいた。

黒髪の生徒は書類を差し出す。

 

「怪我は大丈夫そうね。ナグサ先輩が心配してるから、後ででいいけれど顔を出してあげて」

 

「もちろん!でも、ごめんね私のせいで皆にも帰ってきてもらっちゃって…」

 

「…そんなに気にしないで。アヤメ先輩をそこまで追い詰めた相手が現れた時点で急を要する事態だからね」

 

「それで、何かわかった?」

 

黒髪の生徒は眉間にしわを寄せる。

 

「……全然。証言と照らし合わせても市場に流通してるどの兵器とも一致しないし、それらしきものが百鬼夜行に運ばれた形跡も見つからない」

 

昨日、アヤメがエンフォーサーから逃がした生徒たちによって、百花繚乱は百鬼夜行まで帰還していた。

彼女らの委員長を負傷させたエンフォーサーの行方を、百花繚乱全体が躍起になって探している。

 

「商店街の会長が魑魅(すだま)一座とお祭りをメチャクチャにしようとしてた件もあったし、しばらくは書類仕事が続きそう」

 

アヤメは顎に手を添えながら首を傾げた。

 

「みんなが帰ってきたのは今朝だよね。誰が解決したの?」

 

「お祭り運営委員会と修行部がシャーレの先生と協力して未然に防いだみたい」

 

「シャーレって、失踪した連邦生徒会長が設立した部活の?」

 

「そう。でも、祭りが終わった後にすぐ帰ったそうだけど」

 

「そっか。挨拶しておけばよかったかな」

 

一通り話し終えると、黒髪の生徒は委員長の隣に座って、書類仕事をしている生徒に気が付いた。

その生徒の目は包帯で覆われ、髪は後ろに束ねられている。

 

「……あなた。見ない顔だけど、一年生?その包帯は?」

 

その言葉が耳に入った瞬間、走り続けていたペン先が止まる。

黒髪の生徒に向き直りながら、アヤメは答えた。

 

「実はちょっと訳アリの子なんだ。でもすごく優秀だからしばらく特例で手伝って貰うことにしたの!」

 

アヤメはその生徒が発言する前に、慌てて差し込んだ。

 

「ふーん、そう。これからよろしくね」

 

黒髪の生徒が屈みながら目線を合わせると、その生徒は静かに頷く。

 

「委員長。その書類の期限、結構短いから気を付けて」

 

そう言い残し、振り返って部屋を退出する。

扉が閉まると、二人だけの部屋にしばらく静寂が続いた。

 

扉の向こうから足音が聞こえなくなったことを確認してから口を開く。

 

「あれが百花繚乱の参謀、桐生(きりゅう)キキョウか。バレるんじゃないかと肝を冷やした」

 

アヤメは半開きの目でこちらを見つめる。

 

「あの子は頭が切れるからね。ボロを出さないように黙ったのはいいと思うけど」

 

「……本当にその格好でよかったの?」

 

俺はペンを走らせながら目を覆っていた包帯を外す。

 

「…長居するわけでは無い、顔さえ隠せればそれで問題ない。見るからに訳ありな風貌だからな、怪しかろうと詳細は聞きにくいはずだ」

 

先程キキョウと話していたアヤメの表情を思い返しながら、こちらに向けられている顔を見つめる。

 

「……さっきの会話、あの夜とは随分態度が違ったな」

 

アヤメは一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに返答した。

 

「突然襲ってきた不審者と、可愛い後輩。同じ態度なわけないでしょ」

 

「それもそうだな」

 

一息つきながらペンを置く。

 

「終わったぞ。こっちの書類に必要なのはお前の署名だけだ」

 

アヤメの机に書類の束を置くと、彼女はそれに目を通す。

 

「…こういった仕事もよくやってたの?」

 

「いや、初めてだ」

 

「それにしては随分と仕事が早くない?」

 

「俺の脳みそは特別製だからな。処理速度に優れてるってだけだ」

 

「…へぇ」

 

極わずかなつぶやきが、ふと耳に入り込む。

 

「………私もそれくらい優秀だったらなぁ」

 

「俺は、お前も十分できる奴だと思うがな」

 

仕事をつづけながら彼女の独り言に答えた。

アヤメはピタリと手を止め、こちらに目を向ける。

 

「…聞こえてたんだ」

 

「耳がいいからな」

 

「事務作業で言ったら私より優秀な子はたくさんいると思うけど?」

 

書類をまとめながら口を回す。

 

「確かに今のお前の仕事は特別早くないが、それは疲れがたまっているだけだ。万全の状態なら話は変わってくる」

 

「………あんたのせいで仕事が山積みだけどね」

 

「だからこうして手伝っている」

 

アヤメは机に向き直り、書類を再び手に取る。

 

俺は彼女の机に置かれている書類の山をこちらにずらした。

 

「それにサインしたらもう休め。昨日から働き過ぎだ。こっちは俺がやる」

 

「これくらい働きすぎの範疇に入らない。二人がかりだからいつもより早いくらいだし」

 

「だとしても、そろそろ休憩を取るべきだ」

 

アヤメと話をつづけながら、改めて書類を確認すると内容に少し違和感があった。

既にリストに挙げられている必要物資の経費を集計するだけの仕事だ。

 

「……これは、委員長がする仕事ではなくないか?」

 

「それは元々私の仕事じゃなかったんだけど、担当の子が体調不良で休んじゃって。頼まれてたの」

 

アヤメは淡々と答え、机に向かい続けている。

 

「………そうか、さっさと終わらせるとしよう」

 

俺達はひたすらに書類を片し続けた。

 

 

それから数時間が経った。

 

百花繚乱が離れていた件や、俺の依頼主の件、シャーレに関する件。

ようやく、諸々の仕事が落ち着いてきた。

 

少し余裕のできた執務室で書類を処理し続けていると、扉がノックされた。

それ自体はよくあることだ。気にするようなことではない。

 

だが仕事中とはいえ、俺はその気配に気付けなかった。

 

「アヤメ。お邪魔するね」

 

そうして中に入ってきたのは新雪のような白髪をなびかせた生徒だった。

いや、髪どころか全身が白飛びしそうな程に白い。

 

その少女は入るなり、アヤメに笑顔を向けた。

だが、すぐ俺に気付いたようだ。

 

「……あなた、見ない顔だけど。最近入ってきた子?」

 

名を聞かれるのはここでは初めてだ。

アヤメの隣にいる有象無象を気にする奴も少なかったからな。

 

「百花繚乱に特例で入れていただきました。カガチです」

 

「アヤメ委員長の補佐をしています。以後お見知りおきを」

 

慣れない敬語を何とか継ぎはぎ、書類上の名前だけを簡潔に伝える。

 

白い少女が再び口を開く前に、アヤメが妨げるように放つ。

 

「それで、どうかしたの?ナグサ」

 

その生徒は百花繚乱の副委員長であり、アヤメに次ぐ実力者である御陵(ごりょう)ナグサ。

彼女もアヤメに負けず劣らず傑出した人物だ。

 

アヤメは笑顔で立ち上がり、彼女まで近寄る。

ナグサも邪気のない笑顔を向けた。

 

「うん。アヤメは最近、書類仕事ばかりだったでしょ」

 

「それで、久しぶりに手合わせとか、どうかなと思って……」

 

控えめにお願いするようにナグサは言った。

それに対して、アヤメは一切悩む様子も見せずに快諾する。

 

「うん、行こっか!」

 

「ナグサと違って最近戦ってないから、今回は負けちゃうかもなー」

 

ナグサは軽く笑いながらそばにあったアヤメの小銃を渡す。

 

「フフッ、私がアヤメに勝つなんて想像できないけど」

 

二人はそのまま執務室を出て行ってしまった。

 

机に積まれている仕事を残して。

 

「……まだ子供なんだ、少しくらい身体を動かした方が良いか」

 

俺も部屋から飛び出し、二人の後を追う。

 

和気あいあいと話している彼女らについていくと、床も壁も木材でできている建物に着いた。

 

(完全木造か、珍しい建造物だな)

 

それぞれ道場の端に立ち、銃を構えた。

アヤメはそこの掃除をしていた生徒に声をかける。

 

「試合の合図と判定、お願いしてもいい?」

 

その生徒は頷き、位置に着いた。

俺が邪魔にならない位置までよけると、審判が大きく空気を吸い込む。

 

審判の形式ばった口上の後、二人は数歩近寄りながら銃を構えた。

 

「古来より伝わる百花繚乱のしきたりに従い」

 

「いざ尋常に───」

 

「勝負!」

 

審判が腕を振り下ろすとともに、両者は銃を向け合った。

 

どちらも俊敏に動き回り、隙を見せない強者同士の試合。

実力が拮抗しているためか、互いに攻めきれない長丁場になった。

 

結果的に言えば、試合はアヤメの勝利で終わった。

アヤメがわざと晒した隙にナグサが引っ掛かり、投げ飛ばされたのだ。

 

地面に倒れたナグサは、負けたというのに満足げな表情をしている。

 

「やっぱり、アヤメは強いね」

 

「ナグサも強くなったじゃん!良い試合だったよ!」

 

アヤメは息を切らしながら、ナグサに手を差し伸べ、ナグサもそれに答えた。

二人は和やかな雰囲気を醸し出していた。

 

そんな二人に水を差すように声をかける。

 

「アヤメ委員長。まだ仕事が残っているので、そろそろ戻りますよ」

 

「うん。それじゃあまたね、ナグサ!」

 

ナグサの背中を軽くたたくと、アヤメはこちらに向かってきた。

二人で執務室まで戻った後、先程までの笑顔が嘘のように剥がれ落ちる。

 

その後、アヤメは口角をほんの少し上げた。

 

「……敬語、似合ってないんじゃない?」

 

「だろうな。昔から敬語は苦手なんだ」

 

「なんで?傭兵なら使えないと困る気がするけど」

 

「………当然、仕事で使うことはあるが、使うたびに嫌いな奴が頭をよぎってしまう」

 

アヤメが机の書類に目をやると、そこにはレジ袋が置かれていた。

 

「もう持ってきてくれてたみたいだね」

 

アヤメがそれを手に取ると、中からエナジーバーとゼリー飲料を取り出した。

 

「……まさかとは思うが、それが昼食か?」

 

「私はね。二人分あるけど、食べる?嫌なら出前でも頼むけど」

 

「……いや、貰おう」

 

一つずつ手に取り、パパっと口に放り込む。

数回だけ噛み、すぐに喉奥に流し込んだ。

 

「……忙しいのは分かるが、しっかりと食事はとれ」

 

「働きづめなんだ、倒れられでもしたらこっちの予定が崩れる」

 

アヤメは気のない返事をした。

 

「……わかった。指示には従う契約だからね」

 

「それでいい」

 

机でエナジーバーを頬張るアヤメを横目に、書類を手に取る。

仕事を再開すると、ふと先程の試合を思い出した。

 

(そういえば、アヤメとナグサの試合。途中までは完全に互角、むしろナグサの方が優位に見えたが)

 

(最後で完全に逆転していたな。あの程度のフェイクにかかるとは思っていなかったが、俺の読み違いだったのか……)

 




アヤメと621の百花繚乱でのちょっとした日常回です。
次話からまた話が動いていく予定です。

この作品を読む前に、AC6とブルアカをどの程度履修していましたか?

  • 両方とも履修済み
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