ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos 作:トリミングチキン
百花繚乱の忙しさも落ち着きを見せ、アヤメも巡回や他委員会との会議のために外出する機会が多くなった。
俺はと言えば、会議中もアヤメの隣に立っているだけ。巡回でもアヤメの撃ち漏らしを片付けるくらいしか仕事がない。
快活な委員長の存在感もあり、俺が目立つことは無かった。
それ自体は好都合なのだが、さすがにこれは……
「退屈だな」
そう呟くと、隣にいるアヤメが目を見開いてこちらを凝視した。
片手で顔を覆いながら、小声で話しかけてくる。
「……不満を漏らすのはいいけど、もうちょっと場所を選んでよ」
「それとも、今の状況を理解してないの?」
俺達は滑らかな畳の上に正座しながら話を続けた。
「実質的な百鬼夜行のまとめ役、陰陽部の部室」
「今は陰陽部部長のニヤを待っているところ、だろ?」
ため息をこぼしながら、アヤメが口を開く。
「そこまでわかってるならなんで……」
「誰もいないのだから少しくらい良いだろ。もし来てたとしてもすぐ気づけるしな」
「でもナグサのことは気が付かなかったんでしょ?」
「……あの時は書類仕事に神経を割いてただけだ。意識していれば聞き逃さなかった」
「だとしてもでしょ…」
その時、複数の足音が徐々に大きくなりながら響いてきた。
「……来たぞ」
アヤメは姿勢を正し、前に向き直った。
俺もそれに倣う。
襖が開き、黒髪ショートで糸目の生徒と黄色い長髪をなびかせた長身の生徒が現れた。
糸目の生徒は奥の座布団の上に座り、長身の生徒はその隣に立つ。
糸目の生徒は手にある扇子を顔に当て、笑った。
「にゃははっ、お待たせしてすいませんね。アヤメ委員長」
「こちらこそ急な訪問となり申し訳ありません。ニヤ様」
あの糸目の生徒が陰陽部の部長、
ニヤの様子に長身の生徒がため息交じりに口を開いた。
「ニヤ様が駄々をこねなければ、これ程お待たせすることもなかったのですが……」
「この程度ならもう慣れっこですので、お気になさらないでください。カホ副部長」
アヤメは明るい笑顔で彼女らに対応する。
ニヤは扇子をぴしゃりと鳴らし、こちらに問いかけてきた。
「ところで、今回はどのような御用で来られたのですか?」
アヤメは少し間を置き、息を呑んでから答える。
「はい。実はしばらくの間、私用で百鬼夜行を離れなくてはならないのです」
「……詳細をお聞きしても?」
「…申し訳ないのですが、私用ですので、それに関してはご遠慮ください」
「どれくらいの期間、ここを離れられる予定なのですか?」
「1か月は帰れないかと」
「そうなると、百花繚乱の業務にも支障が出そうですねぇ」
「はい。ですので、私がいない間は副委員長である御陵ナグサに委員長代理を引き受けてもらう予定です」
「今回はそれを伝えに?」
「そうなります。既に百花繚乱内では話を通してありますので」
「……分かりました。これからは私達もその認識で事を進めさせてもらいますよ」
「よろしくお願いします。何かありましたら、ナグサかキキョウにお聞きください」
そう言って、アヤメは地面に置いてあった小銃を手に取った。
「では、私はこれで」
アヤメがその場に背を向けて歩き出した。
俺もその後に続く。
瞬間、俺は全身に纏わりつくような視線を感じた。
「…ところで、そちらの方は初対面だと思うのですが、お名前を伺っても?」
振り向くと、ニヤの微かに開いた瞳と目が合った。
「……カガチです」
それだけ言い残し、俺たちは足早にその場を後にした。
瓦屋根が連なる城のような造りの本館を出て、百花繚乱の本部を目指す。
人気のない川沿いを歩いていると、アヤメが口を開いた。
「……やり手だな。あの部長」
「目をつけられたかもね。まぁ、そんな見た目じゃ当然だけど」
「長居はできない。今晩にはここを離れるとしよう」
「…それは無理。まだ引継ぎが全く終わってないし、少なくとも明後日以降にして」
「何のために陰陽部に話を通しに行ったんだ。それに、俺の言うことには従う契約だろ?」
「……はいはい、分かったよ」
アヤメは不服そうな顔をして言った。
「それならいい。移動手段は俺が手配しておく、今日は引継ぎ作業に費やすといい」
「そうさせてもらうよ」
二人で静かに歩いているうちに、人通りの多い街道まで出ていた。
百鬼夜行は絶えず祭りが行われている学園だ。
そのためか、街はいつも活気づいている。
この通りも例外ではなく、屋台が並び、生徒たちが楽し気に談笑している。
「アヤメちゃん!ちょっといい?」
突然呼び止められ、アヤメが振り返る。
後ろには息を切らした生徒が彼女の袖を引っ張っていた。
「そんなに息切らして大丈夫!?」
「実は朝からずっとアヤメちゃんを探してて……」
「一旦落ち着いて深呼吸しようか」
生徒がアヤメの指示通りに呼吸を整え、落ち着きを取り戻した。
アヤメが視線を合わせて優しく問いかける。
「それで、どうかしたの?」
「次の川柳大会に出場する予定なんだけど、行き詰まっちゃって。何かアドバイスとか貰えないかな?」
「もちろん!」
「ありがとう!早速で悪いんだけど、ちょっとこっちで……」
生徒がアヤメを引っ張って行こうとする。
アヤメもその生徒にされるがまま付いていこうとしていたため、俺は彼女の腕を掴み、引き戻して間に入った。
「アヤメ委員長はお忙しい身です。今日中にしなければいけない仕事が多くありますので、日を改めてもらいましょう」
その生徒は口を開けたまま、あっけに取られていた。
「では、行きますよ」
「ちょ、ちょっと──」
アヤメの腕を引き、百花繚乱の本部まで駆け出した。
そのまま敷地内に入る。普段なら訓練をしている生徒たちで賑わっているが、周囲に百花繚乱のメンバーは見当たらない。
今回の件で忙しくしているのだろう。
息を整えながら外壁に寄りかかる。
「……お前の安請け合い癖も根っからだな」
「時間も休息も足りていないというのに、面倒な仕事をぽんぽん引き受ける」
「委員長として頼ってきた生徒の頼みくらい引き受けてやりたいのは理解できるが」
「……少しは力の抜き方を覚えた方が良い」
本部の中へ歩き始める。
だが振り返ると、アヤメはそこに立ち尽くしていた。
「仕事するんじゃなかったのか?」
「……あの子に『日を改めて』って言ったよね」
「あぁ」
「…でも今日の夜には百鬼夜行を離れるんでしょ?今を逃したらあの子はもう相談できないんだよ」
「別にそれでもいいだろ。お前が相談に乗ってやる義理もない。むしろその方が彼女なりの良い句が作れるかもしれないしな」
「でも…私は委員長なんだから、相談くらい……」
「委員長を理由にするな。業務にない仕事をやる必要があるわけないだろ」
「………そう、なのかな」
アヤメは俯き、ポツリと呟いた。
俺は本部の方へ足を向けながら言う。
「行くぞ」
アヤメはしばらく俯いたまま黙っていたが、顔を上げながら口を開いた。
「…いや、やっぱいいや」
振り返ると、アヤメは俺とは逆方向へ歩き出していた。
片手で日差しを遮りながら前を向いている。
「あんたもせっかく百鬼夜行に来たのにずっと仕事詰めだったし、どこか遊びに行こっか!」
「…引継ぎはいいのか?」
「うん。そっちは皆に任せちゃう!最低限のことはやっておいたし、みんな優秀だから大丈夫でしょ」
そう言いながら振り返るアヤメの笑顔は、普段より少し幼く見えた。
「そうだな。ちょうど腹もすいてきたところだ」
俺達は活気あふれる百鬼夜行の街中に紛れていった。
先ほどの通りへ戻ると、屋台が軒を連ねていた。
焼きそば、イカ焼き、りんご飴に肉まん。
見たことのあるものから、全く未知のものまで、気の赴くままに片っ端から食べていく。
正直、特別に美味しいわけではない。
だが、祭りの雰囲気のせいだろうか、俺はえも言われぬ幸福感に包まれていた。
アヤメは俺が買ったものを一口つまむくらいで、大した量は食べなかった。
きゅうりの一本漬けをかじりながらアヤメに問いかける。
「何か食べなくていいのか?」
「昔から小食でね。ちょっとつまむくらいで十分」
「……意外だな」
「そっちこそ。食事を楽しむタイプには見えないけど」
「馬鹿にするなよ。せっかく大金を積んで手にした上等な舌だ。どんな食事でも楽しめるさ」
アヤメは何か引っ掛かったように眉をひそめる。
「……大金?」
祭りの空気にあてられたせいか、つい話し過ぎてしまった。
キヴォトス生まれのこいつらには、縁のない話だ。
「こっちの話だ。忘れてくれ」
その後も食べ歩き、遊び歩いた。外から来た俺には物珍しいものばかりだった。
日が暮れた頃、アヤメに案内されて、とある店を訪れた。
カウンターだけの店で、目の前で料理が作られていく様子を見ることができるらしい。
「これは、噂に聞く寿司というやつか?」
「うん、私の行きつけのお店。委員長になる前は疲れた時によく行ってたんだ」
巧みな包丁さばきで魚を捌いていた初老の男性が渋い声で聞いてきた。
「おっ、アヤメちゃんじゃないか。久しぶりだね。いつものかい?」
「久しぶり大将。あと、この子に今日のお勧めを20貫お願い」
「あいよー!」
店内を見渡すと、俺たち以外に客はいないようだ。
夕食には遅い時間だというのもあるだろうが…
「このお店はね、料理は美味しいんだけど、値段設定が強気で立地もよくないからあまり人が来ないの」
「まぁ。だからこうして肩の荷を下ろせるんだけどね」
大将とは別の店員が、湯気の立ち上るおしぼりと、厚手の湯飲みに入ったお茶を差し出した。
おしぼりで手を拭き、茶を少しずつ飲みながら二人で料理を待つ。
無言ではあったが、気まずい雰囲気ではなかった。
「お待ちどおさま」
大将がこちらに出した木板の上には、きらきらと魚の身を輝かせる寿司が置かれていた。
「アヤメちゃんにはいつもの」
アヤメの前に、10貫あまりの寿司が置かれた。
「そっちの子は後輩かい?」
「はい。実は百鬼夜行に来たばかりなんです」
「そうかい。最近はアヤメちゃんが来ることは少なくなってたけどね、良い噂は絶えず流れてたから、おっちゃん嬉しかったよ」
「そうなんですか?それは、少し恥ずかしいですね…」
「そうかい?ともかく、これからも期待してるぜ」
「…ありがとうございます。いただきます」
気恥ずかしそうに笑ってから、アヤメは手を合わせた。
その動作を真似て、俺も寿司を手に取る。それを黒いタレにつけて頬張る。
このタレは醤油というらしい。
「…ん!」
柔らかい魚の身が溶けるように舌に馴染む。
その味わいを堪能していたところ、鼻孔を突き抜けるような独特の感覚に襲われた。
目尻に涙が浮かんでくる。
「ワサビが効いてるみたいだね」
アヤメは涙ぐむ俺の顔を見て、控えめに笑った。
「これは、ワサビというのか。だが悪くないぞ、口に残る僅かな甘みと清涼感……癖になりそうだ」
その後もしっかりと味わいながら食べ続け、気がつけば寿司をすべて平らげていた。
ふと横を見ると、アヤメは穏やかな顔でお茶をすすっていた。
「終わった?」
「あぁ。ここ最近で飛びぬけて美味だった」
「それならよかった。お会計お願いします」
こうして、百鬼夜行での最後の食事は幕を閉じた。
自分の分は払おうとしたが、想定以上の金額に手持ちが足りず、結局アヤメに奢ってもらった。
その後、出発の支度をするためにアヤメの家へ向かった。
街はすっかり寝静まっている。
玄関の外壁に寄りかかりながら待っていると、扉が開いた。
アヤメはキャリーケースを手にしている。
「……もういいのか?」
「いや、まだ最後に行きたいところがあるんだけど……?」
スマホを取り出し、時刻を確認する。
少し考えこんだのちに答えた。
「………早めに済ませろよ」
アヤメは返事の代わりに歩き出し、俺もその後を追う。
しばらくすると、俺たちは人里離れた山道を駆け上がっていた。
「どこに向かっているんだ?」
「ついてからのお楽しみ!」
アヤメとともに生い茂っている木々の隙間を駆け抜けると、開けた場所に出た。
そこにはベンチが一つだけ置かれ、周囲には白銀の花穂が咲き乱れていた。
アヤメに促されるままベンチに座り、空を見上げる。
そこには、神秘的に輝く満月が浮かんでいた。
包帯を外し、改めて満月を眺める。
「……これが見たかったのか?」
「…いや」
「なら、なぜここに来た?」
首をかしげて尋ねると、アヤメは少し間を置いてから俺の顔を覗き込んだ。
「……強いて言うなら、見せたかったから」
「…俺にか?」
「うん」
「なぜだ」
「……そう聞かれると、よく分からないかな」
再び視線を上げると、独り言のように答えた。
「人にこんなこと思うの、いつぶりだろ………」
ベンチに体を預け、脱力しながら天を見上げる。
涼しい風が花穂を揺らしていた。
「……こんなに空気が澄んだ夜は、特に月が綺麗だよね」
「そうだな」
見たことはないが、地球圏では月という衛星が見えると聞いたことがある。
目の前に浮かぶあの満月も同じものなのだろうか。
ルビコンを離れてから、あれより大きい惑星も、あれより強く輝く恒星も大量に見てきた。
だというのに、あの月には特別な風情があるように感じる。
俺たちはしばらくの間、そこで月を眺めていた。
やがて、ポケットのスマホが震え出す。
このタイミングで連絡してくるのは、あいつくらいか。
立ち上がり、先程来た道を眺める。
「ここから一番近い道路はどこか分かるか?」
「たぶん、来た道を引き返したところにある道路が一番近いと思う」
「行くぞ」
アヤメに手を貸して立ち上がらせ、来た道を戻りながら森の中を進んだ。
木々を抜けた先の道路には、見覚えのある車が停まっている。
「…相変わらず仕事が早いな」
斜面を下りて道路へ出ると、そこには改造され尽くしたピックアップトラックがあった。
運転席には見覚えのある装甲が見える。
「久しいな。チャティ」
『待ちわびたぞ…ビジター』
車の窓を下げ、見慣れた顔を覗かせた。
『後ろの生徒が七稜アヤメか?』
「あぁ、当分は仕事仲間だ。目をかけてやってくれ」
『善処しよう』
チャティの顔に近づけ、小声で耳打ちする。
「ところで、何かわかったか?」
『収穫はゼロに等しいな。ACらしき噂話はいくつかあったが、奴らに関する情報は得られなかった』
「ヒマリとお前でも見つけられないなら正攻法では厳しいか…」
『そうなる』
「例の依頼はどうなっている」
『順調だ。実際に行うのはまだ先になるが話は纏まってきた』
「依頼内容についてはどうだ?」
『未知数と言ったところだ。どうなるか一切の予想がつかない。俺達だけでは手が足りないかも知れない』
「それに関しては大丈夫だろう。優秀な新人が来たことだしな」
アヤメの方へ視線を向けた。
振り返り、チャティを指しながら言う。
「改めて、こいつはチャティ。無口だが仕事はできる奴だ。大体のことは出来るから何かあったらこいつに聞け」
『これからよろしく頼む』
「お、お世話になります…」
アヤメからキャリーケースを受け取り、荷台に積み込んだ。
「アヤメは後部座席に乗ってくれ」
「…うん」
アヤメはぎこちない返事をした。視線の先からして、運転席のチャティが気になるようだ。
俺は助手席に乗り込み、ドアを閉めた。
エンジンがかかり始め、車体が震えだす。
『行き先はどうする?』
「とりあえず今の拠点に頼む。アヤメの住処は後々探す」
『了解した』
手塩にかけて改造したエンジンが唸りを上げ、車は夜の百鬼夜行を駆け抜けていった。
アヤメは後部座席の窓から徐々に遠のいている街の明かりを眺めていた。
百花繚乱の羽織を脱ぎながら、眠気に体を委ねた。
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両方とも履修済み
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AC6は履修済み、ブルアカは未履修
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ブルアカは履修済み、AC6は未履修
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どちらも未履修
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片方または両方を途中まで