ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos 作:トリミングチキン
人通りの少ない、ごく普通の住宅地。そこを一台の車が走っている。
「う、うぅん」
車の振動が体に伝わり、私の意識が呼び覚まされる。
重い瞼を開けると、座席を一つ挟んでハンドルを握っているロボットが見えた。
私のすぐ隣には寝息を立てている生徒がいる。
独立傭兵のレイヴンだ。
よく見るとその顔はイメージしていたよりも幼い。
以前私を脅した彼女と同一人物だとは思えないほどに。
灰燼を思わせるような髪。
左手からは、昨日まで巻いていた包帯が垂れている。
『良い朝だな。七稜アヤメ』
前方から饒舌な機械音が聞こえた。
すぐさまそちらを振り向き、体を強張らせる。
『改めて、チャティ・スティックだ』
『ビジターとは古い仲になる。質問があれば、できる限り答えよう』
ビジター。恐らく隣で寝てるレイヴンのことだ。
だけど、なんで
そのロボットはそれっきり口を閉ざしてしまった。
車内には走行音だけが響いている。
沈黙が続く中、私から話を切り出した。
「私が勧誘されたとき、レイヴンは『難しい依頼が来た』と言っていたんですけど、その依頼っていうのは?」
『それについては詳しく話せない』
「そうですか」
怪しい。最初の話からしてそうだったけど、彼女の実力で難しい依頼なんてそうそう無いはず。
百鬼夜行で私を襲ってきたロボットがいるならなおさら。
「ここまで手間をかけて私を引き込んだ理由を聞いてもいいですか?あなた達が保有してるロボットがあれば戦力には事欠かないはず」
『ロボットというのはエンフォーサーの事か。あれは防衛機構として設計されたのもあって融通が利かない』
「だとしても、他の傭兵に依頼すればそれで済む話じゃないんですか?」
そのロボットはこちらを少し見ると、軽い笑い声を上げた。
『フッ。お前の言う通り、コストに見合わない行為だ』
「…あなたから見てもレイヴンの真意は分からないんですね」
『まぁ、全く見当がつかないというほどでもないが』
「それなら教えてもらえませんか?」
ロボットは不自然な間を置いてから答えた。
『………放っておけなかったんだろう』
『ペットは
レイヴンもこのロボットも、よくわからないセリフをいきなり口にする。
正直勘弁してほしい。
すると、徐々に車の速度が落ちてきた。
やがて一軒の家の前で停車する。
『長話しすぎたな。着いたぞ』
車が止まった振動でレイヴンも目を覚ました。
ゆるりと体を起こし、深紅の瞳でこちらを覗き込む。
「もう起きていたのか。疲れはとれたか?」
「うん。大分マシになったかな」
「それなら結構だ」
レイヴンと共に車から降りると、そこは何の変哲もない一軒家だった。
「さっさと入って昼食にしようか」
歩き出すレイヴンの後を私とロボットがついていく。
家の前に置かれている黒いバイクを避けながら扉の鍵を開ける。
中はそこそこ広く、家具も置かれていた。
リビングまで行くとレイヴンはソファに座り込み、銃をテーブルに置いた。
「座らないのか?」
彼女に問いかけられると、私は改めて周囲を見渡した。
私はテーブルを挟んでレイヴンと向かい合う位置にある椅子に腰を下ろし、百花繚乱の羽織を背もたれに掛けた。
「それで私は何をすればいいの?」
「早まるな。せっかく帰って来たのだから落ち着いて昼飯にしよう」
レイヴンは近くに掛けられていたエプロンを手に取り、キッチンに向かった。
「アレルギーはあるか?」
「……ないけど」
「そうか。チャティ、食器の用意をしてくれ」
『了解した』
二人は手際よく食事の準備を始める。
私は自然と耳に入る調理の音を聞きながら椅子に座っているだけだった。
調理場の方からは優しく、まろやかなミルクの香りが漂ってくる。
チーンというトースター特有の音が響いた。
二人は皿を載せたお盆を持ちながら、リビングに戻ってきた。
レイヴンは先程のソファに座り、私と向かい合う。
ロボットはお盆を私の目の前に置くと、再びキッチンへ戻っていった。
皿の中には、白いシチューと半分に切られたトースト。
どちらも湯気が立ち上っている。
「……これは、クリームシチュー?」
レイヴンはパンをシチューにつけ、それを頬張りながら尋ねた。
「嫌いか?」
「そんなことは無いけど、少し意外だなって」
「何がだ?」
「料理とか凝るタイプには見えなかったから…」
「昔は色々な趣味に手を出していた時期があったんだ。他はあまり続かなかったが、料理は出来ると便利だったからな」
「ふーん」
スプーンでシチューを掬い上げ、口に運ぶ。
一般的な味付けではなかったけれど、それはとても美味しくて、温かかった。
(独特な味付け…どこの味なんだろう。オリジナルかな)
ふとレイヴンの方を見ると、皿の上からパンが消えていた。
さらにシチューを飲み干すように平らげている。
「ところで、レイヴンと呼ぶのは控えてもらえないか。お前にはあっさり素顔が割れてしまったが、これでも俺達は正体を隠して活動している身だ」
「そう。でもほかの名前を教えてもらえないと、呼びようがないんだけど」
「それもそうだな……」
レイヴンは顎に手を当てながら考え込む。
『無難だが、イツキでいいんじゃないか?』
キッチンで皿洗いをしているロボットが口を挟んできた。
『お前がキヴォトスで最も馴染みがある名前は
「…そうだな」
レイヴンはこちらに向き直って答えた。
「そういうわけで、仕事の時間以外はイツキと呼んでくれ」
「りょうかい」
私は止まっていた手を再び動かし、食事を再開した。
そこそこの量があったはずだけれど、気が付けばきれいさっぱり平らげていた。
私がスプーンを置くと、待ってましたと言わんばかりにロボットが皿を下げ、それをシンクで洗い出した。
レイヴンはパソコンを取り出して画面をこちらに向ける。
「さて。早速だが、仕事の話をしよう」
「これは?」
「今回受ける依頼だ。仕事に関することはメールでやり取りしているからな。見た方が早い」
映し出された画面には依頼の詳細がズラリと並んでいた。
(こんなに細かく書くなんて、生真面目な人もいるんだね)
メールの送り主の欄に目を向ける。
「エンジニア部。ミレニアムサイエンススクール……」
「依頼料1000万円!!」
思わず机を叩いて立ち上がる。
とてもじゃないけど、個人に依頼する金額とは思えない。
「この金額もそうだけど、まさかミレニアムからも依頼が来てるとは……」
「あぁ。ここいらでは名の売れた傭兵だからな。来る依頼も相応の代物になる」
レイヴンは驚きを隠せない私に対して、威張るでも誇示するでもなく、さも当たり前のように答えた。
「そこに驚くのもいいが、まずは依頼内容を確認してくれ」
「う、うん」
改めてメールを見返す。
「依頼内容は、脱走したロボットの捕獲」
「それはエンジニア部が開発を担当した熊型ロボットであり、熊の思考を模したAIを搭載していてる。出力に関しても本物の熊以上のスペックを誇る」
「熊の生態的特徴を極力模倣し、さらなる機能を追加した代物だ」
「搭載しているGPSによると、現在はゲヘナの山奥で停止中。それを秘密裏に回収してもらいたい」
「だってさ」
レイヴンの方を向くと、初めて会ったときと同様の仮面をかぶり、黒ずくめの服に身を包んでいた。
とんでもない早着替えだ。全く気が付かなかった。
するといつの間にか隣にいたロボットが何かを差し出していた。
『百花繚乱の制服で活動するわけにもいかないだろ』
その手には暗い紫色の制服と機械仕掛けの鉄面。
制服は心なしか百花繚乱の羽織と似たデザインな気がする。
鉄面に関しては、目元から顎までを覆っており、目元のバイザーは淡く発光している。
これで正体を偽装しろってわけか。
「実名で呼ぶわけにもいかないからな。少なくとも依頼の間は別の名義を使ってもらう必要があるが」
「それは既にこちらで決めている。シャルトルーズ。これがお前のこれからの名義だ」
「シャルトルーズ……?」
意味も由来も分からない単語ではあるけれど、嫌な感じはしない。
「…それでいいよ。これからよろしく、レイヴン」
「改めて歓迎しよう。我々、
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私たちが食事を済ませてから7時間後。
ゲヘナ自治区にある山の麓。
夜が更け、月も雲に覆われているため周囲は暗闇に包まれていた。
人通りの少ない道路に車を停め、私たちはゲヘナの地に足を着ける。
私たちの服装は彩度が低いこともあって夜の闇の中に溶け込んでいた。
渡された鉄面をつけると、周囲がよく見えるようになった。
この薄さで暗視ゴーグルのような機能も兼ね備えてるらしい。
持参した銃に弾倉を装填する。
この銃は委員長になる前まで使っていた百花繚乱制式ライフル。
昨日まで使ってた百蓮は百鬼夜行に置いてきちゃったから仕方なく引っ張り出してきた。
「レイヴン、この山であってるの?」
問いかけた彼女の背には巨大なライフルが携えられていた。
「あぁ。俺とお前で標的を回収する。チャティは車内で待機だ」
『了解した』
「行くぞ」
私たちはさらに暗い森の中に入っていった。
レイヴンは道とも言えないような険しい山道を登っていく。
私もその後に続いた。
「メールによると、燃料切れで動けないんだよね」
「内蔵GPSの座標に一切動きがないそうだからな。依頼主はそう判断したのだろう」
「開発したエンジニア部が言ってるなら信憑性は高いよね」
レイヴンは少し俯き、間を開けてから答えた
「……あの依頼文を書いたのはセミナーだと思うがな」
「セミナーってミレニアムの生徒会の?」
「あぁ。
「普段ならセミナーもこれほど干渉しないだろうが、ゲヘナとの外交問題の発展する恐れがあったからこそ、俺たちに依頼を回したのだろう」
レイヴンは渡されたGPSの座標を確認しながらさらに足を速めた。
「何はともあれ、事がばれる前に回収する必要がある。急ぐぞ」
暗く不安定な足元だというのに、レイヴンは軽い足取りで進んでいく。
普段から百鬼夜行を駆けまわっていた私でも食らいつくので精いっぱいだった。
しばらく走り続けていると、唐突にレイヴンが足を止め、左腕で私の進行方向を塞いだ。
慌てて速度を落とし、何とか激突は免れる。
レイヴンは携帯端末を取り出し、もう一度GPSの現在位置を念入りに確認している。
「……ここからおよそ20m先が目標の地点だ」
彼女から差し出された端末を手に取り、画面を確認する。
確かに、この先が目的地で間違いなさそう。
GPSの座標は依然として動いていない。
「それなら、さっさと回収して終わりにしようか」
地面を蹴り、駆け出す。
目の前には洞窟があり、座標はその中を示している。
中へ駆け込むと、すぐに行き止まりに突き当たった。
だが周りには目標の熊型ロボットらしき姿はない。
改めて端末を確認してみても、GPSは私が今いる地点と重なってる。
ふと、足元で何かが輝いていることに気が付く。
拾い上げると、それは金属片のようだった。
引きちぎられたような跡が残っているのが分かる。
「………まさか!?」
背後に大柄な影が落ちた。
すぐさま振り返ると、出口を塞ぐようにそれは佇んでいた。
重厚な装甲に覆われたボディ、3mを超える巨躯、そして熊さながらの見た目。
事前に確認した標的の姿と全く同じ。
機械仕掛けの瞳で、獲物を見つけたようにこちらを睨みつけている。
「…話と違うけど。やるしかないよね」
ライフルを構え、眼球パーツに狙いを定める。
(一撃で装甲を抜くのは無理だろうけど、カメラならさすがにダメージが通るはず!)
熊型ロボットが咆哮を上げながら、こちらに一歩踏み込んでくる。
ガンッ!
鋭い着弾音が響いた。
巨体が大きく揺れ、背中から黄色い電光が散る。
そのまま声を上げながら、前のめりに倒れ込んだ。
「怯んでいる隙に畳みかけろ!」
奥からレイヴンの声が聞こえる。
瞳に照準を合わせ、周囲の装甲ごと削り取るように弾丸を撃ち込む。
(熊を模してるならメインコンピューターも頭部にあるはず…!)
弾倉を交換し、さらに頭部へ弾丸を叩き込む。
装甲が吹き飛び、内部機構が顕わになった。
「さらに、もう一発!」
ありったけの力を込め、開いた穴に銃身を突き立てる。
ロボットの体が一瞬固まる。
すると瞳は光を失い、全身が脱力するように地面に倒れる。
緊張の糸が切れ、大きく息を吐き出しながら、私は地面に座り込んだ。
「ご苦労。無事か?」
レイヴンがこちらにゆっくりと歩いてくる。
「それにしても、随分派手にやってくれたな」
レイヴンはグシャグシャになったロボットの頭部を見ながら言った。
「ごめん。破壊じゃなくて、回収するのが依頼だったのに……」
「謝るな。元々こいつがゲヘナで問題を起こす前になんとかすることが依頼の趣旨だ」
「だとしても依頼を達成できなかったからで報酬は望めないんじゃ…?」
「そもそも燃料切れで停止しているというあちらの情報が誤りがあったんだ、むしろ追加報酬を望めるくらいだろう」
「そう、かな」
「あぁ」
レイヴンは改めてロボットの状態を確認する。
背中には一か所だけ装甲が千切れ、内部が露出しているところがあった。
そこに特異な形状の弾丸が突き刺さっている。
「まさか装甲ごとGPSを引きちぎって囮にしていたとはな。大した知能だ」
「まぁ。そのせいで俺の弾丸が内部まで突き刺さったんだがな」
レイヴンは見るからに重そうな熊型ロボットを軽く背負い上げると、私が驚いてる暇もなく彼女はズンズン進んでいった。
慌ててその後を追う。
「そういえば、さっきこのロボットの背後で電光が散ってたように見えたけど、その銃の機能?」
レイヴンが肩にかけている巨大な銃を指さしながら言った。
「あぁ。こいつの弾丸は特殊でな、着弾と共に放電する。どんな機械でも内部に受けたら電気系統に損傷が残るだろうな」
「だからあの時も動きを止められたというわけだ」
饒舌に答えているけれど、さっきよりも確実に足取りが重い。
さすがのレイヴンもこの巨体を背負いながらだと、行きのような速さは出せないみたい。
随分のんびりした下山になった。
気まずさい空気に耐えられなかったのか、彼女の方から話しかけてきた。
「……やっていけそうか?」
「さぁ。今のところは何とも言えないかな」
「けど、思ってたより悪くないかも」
「そうか。それならいい」
しばらく歩き続けていると、私たちの車が見えてきた。
誤字報告ありがとうございました。よろしければこれからも報告していただけると幸いです。
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ブルアカは履修済み、AC6は未履修
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どちらも未履修
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