ジャックポット&ウィッチ&ハンター   作:黒木紫雨

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当作品はSEGAのアーケードゲーム『Wonderland Wars』の非公式二次創作です。
公式とは一切関係ありません

設定資料集ネタバレを含みます。
設定資料集にないこともたくさん混入しています。
区別するには買おう! 設定資料集!


 ・マイブック設定として、「ロビンが物腰柔らか紳士キャラなのは父親側が貴族の血筋だったから(裏で言葉遣いとか躾けられてた)」という設定でやってます。詳しくは過去作読んでください。
 ・メイドマリアンは出てこないけどロビンと恋人なのは前提条件とする描写が出てきます。詳しくは過去作読んでください。

 ・名無しモブの死ぬ描写あります(ネームドは死にません)
 ・制作過程でChatGPTガンガン使っているので、宗教の合わない人は閉じてね


ベガス・入場

 

王国の名のもと、✕✕領を治める代官を逮捕し、罪に問う。

 

ロバート・ハンティントンに、本件に関わる一切の権限を付与する。

この書状を目にしたすべての者は、王命に従い、便宜を図るべし。

 

国王 獅子心王

 

 

   *

 

 

 獅子心王は仕えるあるじの名で、だがこの書状を見た者は名前よりも巨大な手形の方に目を奪われることだろう――なんせインクで濡らして叩きつけた肉球だ。獅子という名はそのまま獣人としてのライオン頭の風体を表しているし、たてがみ以外にも爪も毛皮も立派なお方である。

 ロビン・シャーウッドは“自分の名前”が書かれた書状を閉じ、いまだ着慣れぬ衣装の襟を正した。青をベースに蔓草を連想させる金刺繍が施された、一張羅だ。一人旅であるため髪の毛を丁寧にセットする時間と金の余裕はなく、手櫛で申し訳程度に梳いただけ。砂まじりの乾いた風が吹くたびに乱れ揺れている。また入場前に梳きなおした方がよさそうだ。

 そして目の前にそびえ立つのは、ちょっと数えきれないほどの窓が光る絢爛な建物。ロビンのいた国とは趣が異なっていて、石とは似て非なるこんくりーとなる素材で直線をメインとした形状だ。何より今は夜だというのに、星や月よりも明るい光が地上全体を包んでいた。篝火とは全然違う種類の、揺れない光だ。さらに人間たちも昼と変わらず歩き回っていて、日の出と共に目を覚まし日暮れと共に眠るロビンにとっては何もかも感覚が狂う。

 わざわざ森を離れ海を越え砂漠を渡り、獅子心王の命を受けて訪れたのはこの“カジノ”なる施設。ここにターゲットである代官が潜伏しているという情報を掴んでいる。だがひとりを捕まえるためだけに獅子心王の正式な軍隊を国外へまで出すわけにもいかず、忠臣ロバート・ハンティントン、あるいは友でもあるロビン・シャーウッド――名前がふたつあるというだけで同一人物だ――が赴くことになった。

 

(獅子心王の信頼を裏切るなんてことは、しない)

 

 他の人間たちから迷惑そうに押しのけられたりしながらも、正義を胸に重たい扉を開いた。

 

「バニーちゃんおいでって」「やーん、エッチ!」「いいケツしてんな」「それ、ぺい~ん」

 

 嫌と言っているウサギの獣人女性――毛量は少なくほぼ人間の見た目だが、ウサギのような耳と丸っこい尻尾が揺れている――が、男たちに絡まれている!

 獅子心王からの任務という大義も重要であるが、目前のセクハラ行為へ正義の炎がまさしく燃え上がった。

 

 

   *

 

 

「ボス、店ノ入口、喧嘩デス。男性客三名、店ノバニーチャン一名」

「映像と音声を出せ」

 

 カボチャとワラでできた頭でっかちな部下からカタコト言葉での状況報告。

 それを受けてモニタールームで詰めているこのカジノの女ボス――ウィキッド・ドロシィは端的に指示を出す。雇われの人間スタッフだけで対応できるか、こちらから使い魔を送り出して実力行使で対応するかを見極めねばならない。

 映し出されたのは、一階“パブリック・ルーム”の常連二名、接客担当のバニーガール、そして見慣れぬ金髪の男だ。金髪からのぞく耳が長いのがふと目に留まって、ウィキッドは(この周辺どころか、国の外から来たのではないか)と分析する。形が普通と違うくらいなら後天的にも先天的にも珍しいことではないが、尖った形状で長さが十数センチはあるのは初めてだった。注釈をつけるならば後天的に耳の形を変えるというのも、銃弾なりナイフなりで短く欠損する方向への変化がほとんど。長く大きく発達した耳というのは知識にない。

 

『バニーガールとじゃれるとか普通のことだろ!』『いいえ、彼女は嫌と言ってました。獣人のお嬢さん、大丈夫でしたか?』『話が通じねえ』

 

 一体どこから来たのか、こいつ。ため息をつきながらトランプを手元で弄って考える。

 騒ぎを聞いて黒コートと狼型の錫杖が特徴的な、別の常連客が介入していった。使い魔を送るのは待ってもいいかもしれない。特に冗談が通じないらしい金髪の方も表情が落ち着いていく。どんな話術を使ったのだか。

 これでカジノ運営側から介入すべきことは無くなった。部下を平常業務に戻して、ウィキッドも真紅色のソファに沈む。機械的なモニタールームには似合わないデザインだが、このカジノ全体が自分のテリトリーであり環境を好きに整える権限はある。お気に入りのテンガロンハットとそれに付いた星型のシンボルを整えながら、呟いた。

 

「獣人ね……フッ、まるでおとぎ話だな。カジノ初体験が丸わかりだぞ、“一見さん”《チェリーボーイ》」

 

 日常に生きる少女だった頃にはそういう絵本に心をときめかせたこともあった、気がする。

 だが今のウィキッド・ドロシィは荒くれ組織“カウガール”を率いるボスで、カジノの最高責任者で、冷徹なビジネスマンだ。カモにして巻き上げられそうなら良し、また騒ぎを起こすようならつまみ出せば良し。

 

「まあいい。イカサマがないかしっかり見張ってろよ。あと物好きなVIPの依頼も」

 

 

   *

 

 

 カジノとやらはとってもむずかしい。とっても未知のせかい。

 ひっきりなしにあちこちから金属のぶつかる音、機械の駆動音、歓喜と落胆の騒ぎ声、時間帯を無視した光の雨あられ、もうロビン・シャーウッドは酔いそうだった。馬車酔いでもここまでひどくなったりしないものなのに。こめかみに響く頭痛がひどさに、頭を押さえながら壁際でしゃがんで休んでいた。

 

「やれやれ、さっきの威勢はどうしたんだい?」

 

 入場時のトラブルを仲裁してくれた男がにやにやと笑いながらも、放っておいて場を離れるでもなく付き添ってくれている。彼がいなかったらバニーガールなる出で立ちの女性がカジノでは普通で、あの長い耳とふわふわの尻尾は作り物で、男性ウケしやすい衣装で客をもてなすのが仕事だと分からないまま突っ走っていた。

 どうも獣人はこちらでは普通でないらしい。仕える獅子心王はライオンの獣人、そしてドワーフや小人族の友人もいるしエルフ族の恋人もいるしそもそもロビン自身が半人間半精霊という出自だし、人がみな違っているものだという感覚が普通だったのだ。ここだと人間族はみな人間族で、知り合いたちの中ではかなり人間に近い見た目をしているロビンですらかなり目立つ方だという。

 負けず嫌いな部分を刺激する言い方をされ、反抗心を糧に自分を奮い立たせた。

 

「……そうです、私には成すべきことがある」

「いいねいいね。このまま膝を抱えたまんまるハリネズミになっているようじゃ、せっかく助けたのに面白くないよ」

「励ましとして受け取ります。ささやかながら謝礼もしますので、カジノについてもっと教えてもらってもいいでしょうか?」

 

 気を取り直し、頭痛をこらえながら立ち上がって頼みこむ。海を越えた長旅もあってかなり手持ちが寂しくなっているのだが、飲み食いに関してはいざとなったら外での狩りなどやりようはある。何よりもどうやらカジノに詳しいらしく、それでいて友好的に接してくれるこの青年を逃したくない。

 黒コートと狼型の錫杖が特徴的な青年は人好きする笑みを浮かべて手を振る。

 

「礼とかやめてよ。トモダチになれそうだから付いてみたのに、金が動いたらビジネスになっちゃうじゃないか。“ウルフ”って呼んでくれよ。それに……」

 

 懐を指差された。

 

「あんまり、ないんだろう? ある分はチップに替えちまおうよ、ほら」

 

 確かに指されたところに手持ちの現金を収めているが、ロビンはまだ取り出す素振りもしていないつもりだ。

 少しばかり警戒レベルを引き上げたところで、手首を掴まれずんずんと連れて行かれる。黒服の、ちゃんと人間であるスタッフが待つカウンターまで来て「やってみな」と促された。

 遊戯が目的でないが、あまりにやる気がないようでは不自然だろう。ロビンは慎重に紙幣と金貨をそれぞれ差し出した。重たい金貨がディーラーの手の中で転がされ、同じくらいの大きさをしたカラフルなチップと引き換えられる。しかし紙幣の方は返されてしまった。

 

「お客様、こちらの金貨は問題ありません。しかし……紙幣の方はお預かりできません」

「だめなのですか?」

 

 逆だったらよかったのに。紙幣より金貨の方が価値があったので、ただでさえ資金難のところで惜しい気持ちになったのをぐっと堪えた。

 

「この国じゃ、紙幣は誰も信用しちゃあいないのさ」

 

 割りこんできた“ウルフ”が引き継ぐ。黒服のスタッフも小さく頷いて同意する。

 

「それはどういう意味です?」

「簡単な話さ。金貨はちゃんと金で作られる。だから混ぜもので誤魔化しても重さや光り方であっさり見抜かれる。でも紙幣は……まあ、裏で悪いことしてる連中もいるから、さ」

「公正なゲームを保証するためです」

「ああ、なるほど」

 

 ロビンがターゲットとしている悪代官、あれも不正発覚のきっかけは金の流れの不自然さだった。物々交換なら不正のしようがないのでは、と素朴に思うときもあるが、たくさんのものをたくさん動かすには貨幣でないと不便、そういうことも学びつつある。

 納得し、改めてフロアを歩きはじめた。代官らしい人物がいないか目と耳を研ぎ澄ます。森の守護者として磨いてきた感覚の使い道としてやや不本意だが、これも正義のためだ。慣れのおかげで、人工の光と音に囲まれての頭痛もいくらかましになってきた。

 客同士の会話が耳に入ってくる。

 

「なあ、ここってイカサマとかどうなんだ?」「命が惜しいならそんなこと口にするなって」「そんなに厳しいのか?」「あの“西の魔女"《ウィキッド》様に見つかりゃ二度と表の世界には戻れねぇぞ」「いけるだろ」

 

 意気込んでいる方の手に握り込まれたサイコロがちらりと見えた。何かしらの細工をしてあって、望む結果を引き出すようなイカサマダイスなのだろう。ロビンは苦笑する。

 

「私でも分かってしまう程度では、だめなのでは?」

「キミにはセンスがあるから、他人に当てはめちゃカワイソウだよ。ほんとのカモ……初心者の立つ瀬がない。貴重な人柱、観察しようじゃあないか」

 

 ロビンたちを追い抜き、明らかに異形の――カボチャとワラで頭ができている――スーツ人型たちが足早に通路を通り抜ける。客たちは慣れた様子で道を譲っていた。人をかきわけて行き着く先は、あのイカサマダイスを握っている男。逃げだそうと出口に向けて走りだしてももう遅い。

 カボチャ頭が無言で首根っこを掴んで、大の男ひとりを宙吊りにする。「た、助けてくれぇ……」と懇願しても誰も踏みこめる雰囲気でない。不正を目論んでいたと知っているから、ここはロビンとしても何もしない方が正義に則っている。

 

「ボス、爆破ヲ」

 

 淡々とどこかへ呼びかけた途端、カボチャでできた頭もスーツの下の腕も胸も脚も、全部が膨らんで、不愉快な叫び声をあげたと思ったらその場で爆発。捕まえていた男も無事で済んでない。ロビンがどうしたらいいのか戸惑う間にスタッフたちが掃除をして、他の客も遊戯に戻っていた。

 

「びっくりした? ここはね、イカサマがないから、繁盛してるんだよ」

 

 あのカボチャ頭スーツについて“ウルフ”が補足してくれることには、魔法でできた使い魔ゆえに生き物ではなく、自爆しても死ぬという概念がないという。

 一連の出来事を見て、ロビンはまた別の思いも抱いていた。

 ロビンの恋人も魔法を扱えて、狩りや侵入者への対応でトラップを編んだりもする。だが視覚聴覚を奪ったり動き回る足を止めさせるのが主な用途で、こんな、人を爆殺できるほどの威力は出ない。最大火力がどんなものかわざわざ尋ねたこともなかったが、仮に殺意を伴うとしても、その人間が森に火を放つといった明確な害があるようなケースだけだろう。たかが、イカサマ……それも未遂でここまでする必要があるのか。てっきり外につまみ出す程度と思っていたから、男が助けを乞うても無視していたのに。

 

 ちょうどロビンのところへ巡回してきたバニーガールがグラスを一杯ずつ差し出す。ロビンは丁重に断って、“ウルフ”は追加のチップを渡しつつ受け取った。とても飲むような気分でない。

 笑顔のままバニーガールは一旦グラスを戻して、フルーツたっぷりのより豪華な一杯を“ウルフ”に改めて渡した。手と手が触れた際になにやら彼の指をなぞるよう艶めかしい触れ方をしていたのは、ある種のサービスだろう。ロビンは恋人以外にそういうことをされても全く喜ばないが、若い女性なら誰でもいいというタイプの人間もいる。

 そしてこのような接客に“ウルフ”がどういうリアクションを示しているのか、その程度の確認も忘れるくらいにおのれの思索の中に深く沈んでいた。

 

(不正をしていない客には最大限のもてなしをする。悪いことをする者は許さない。だがこの容赦のなさは……正義なのか?)

 

 頭を振ってどんどん逸れていく思考を振り払う。今回の任務は悪さで指名手配された代官の逮捕で、このカジノが果たして正しいかどうかはロビンに関係ない。潜伏しているカジノそのものの調査は決して無駄ではないが、肝心のターゲットに近づける情報は何も得られていないのだ。

 

 そうしているうちに“ウルフ”はバーにいく、と言い残して行ってしまった。

 ここで遊戯をするでもなく考え事をしているような客はロビンしかいない。もしかしたらカジノ側にもロビンの《シャーウッドアイ》の力や恋人の《シャープアイ》のように、広い場所を見渡すような手段が――これはロビンの知らないことだが、実際にモニタールームで監視されている――あるかもしれない。じっとしているのは下策だ。

 

 足元に広がる深紅の絨毯は血ではなく染料で染まっていて、そうだ、ここは戦闘がないだけで、ある意味で戦場。戦いのない場所にしてはあまりにも戦場のような道を、ゆっくりと歩きだした。

 

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