どこでもかしこでも漢字が使われているのも
国同士で言葉が通じるのも
某赤い国の如く兵士が畑から収穫できるのも
武人の巨大化も気やらなんやらの不思議パワーも
存在Xがそう望まれたのです
森林に『農薬』を撒いてほしい──
一見、ただの単純作業のように思えるその依頼を、彼女は断固として拒否した。
少し不機嫌そうに、しかし確固たる意志を込めて、椅子にゆったりと腰掛けたのだった。
彼女の名はターシャ・ティクレティウス。
民間航空輸送会社ザラマンダー・エアー・サービスのCEOである。
「非科学的な世界で女として生まれ、戦争を知り追い詰められるがいい」
そう言い放たれ、運命の歯車は動き出した。
彼女の人生は決して楽なものではなかったが、それでも彼女は“それなりに”満足のいく道を歩んできたと言えるだろう。
この世界では科学技術は一定の発展を遂げていたし、何よりも女性であることが致命的な障害とはならなかった。
しかし、戦争は紛れもなく現実であり、彼女はそれに直面しなければならなかった。
だが、元の世界で培った知識、己の不断の努力、そして存在X――神を僭称する悪魔が彼女に与えた才能と、優秀な部下たちの支えがあったおかげで、彼女は数多の死線をくぐり抜けてきた。
戦火が去った後は、合州国に渡り、学び舵を取る者としての地位を築いた。
会社の運営は順調そのもので、経済的にも精神的にも満たされつつあった。
「ざまあみろ、存在X。
この世界がどれほど私を苦しめようとも、私は文明的で人間らしい生活を手に入れてみせた。
貴様が仕掛けた数々の罠を超えてな」
そう心の中で嘲笑を浮かべた。
しかしそんな彼女の前に、またもや“仕事”という形で厄介な依頼が舞い込む。
ジャングルへの枯葉剤散布の要請だ。
その仕事を引き受ければ、法的なリスクや倫理的な責任を負うことは必至。
そんな危険な橋を渡るつもりは毛頭ない。
「もしどうしても免責が得られないのであれば、せめて輸送する荷物に、表示されていない成分が含まれていないかを確認させてもらいたい」
そう告げて、あからさまな地雷のような仕事から逃げるために使われた時間のことは、なるべく思い出さずに心の平穏を取り戻そうとしていた。
だが――そんな穏やかな時間は長く続かなかった。
⸻
「貴様には、相も変わらず信心というものが芽生える気配が見えんな」
……奴だ。存在X。
この土壇場になって、今さら何をしに現れたというのだ。
現在の情勢を見れば、軍事的にも地政学的にも各陣営は拮抗している。だが、長期的な趨勢は明白だ。
連邦はやがて経済的に行き詰まり、内部から崩壊する。
人民共和国も体制維持のために、資本主義的な市場原理を取り込まざるを得なくなる。
そして最終的には、世界は資本主義の枠組みへと収束していくだろう。
勝敗は、すでに決している。
世界は、やがて邪悪なコミーどもを淘汰し、健全なる競争と自由に基づいた社会へと移行していく。
……そんな未来が見えている今、何を今さら介入しに来たというのだ?
盤面が自分の思い通りに動かないのが、そんなに気に食わないのか?
そう思っていた、その矢先──
「今回の世界は、非科学的な世界というには文明が進みすぎていた。それに、戦いの才を持って生まれた貴様は、戦時下においても追い詰められることがなかったようだな?」
……あれ?ん?なんか、これは……マズいパターンなのでは?
というか──この展開、身に覚えがあるぞ!!
「ならば次は、文明がろくに発達していない時代に、非才の身で生まれれば、さすがの貴様も信仰心に目覚めるであろう」
ちょっと待て!
おい貴様、前に「次また死ねば、次の転生はない」って、そう言わなかったか!?
それとも何か? 自分の発言に責任を持つことすらできないのか?
そんな基本的な誠実さすら欠けているのか、存在X!!
「──文明未発達な世界で才能も持たずに生まれ
引き続き戦争によって追い詰められるがいい」
⸻
「テン、こら口を開けんか。好き嫌いはいかんぞ」
くぐもった声とともに、老翁が匙をこちらの口元に突き出してくる。
私は動けない。体が小さすぎる。筋肉も発達しておらず、首すら据わっていない。
先ほどからの状況とこの体の感覚──すでに理解はしている。
私は今、赤子として転生したのだ。
ついでに女である
、、、うん,女として生まれって言われなかったから期待したけれど
残念ながら女である
文明未発達な世界に、才能を持たずに生まれ、戦争によって追い詰められろ──
存在Xの言葉は明確だった。
……なるほど。
つまりここは、「文明未発達」な世界。
どの程度の発達具合なのかはわからないが、、、未発達というからには十中八九産業革命はまだ先だろう
次に「才能を持たずに」生まれた、というくだり。
存在Xはあのとき、前世における私の“戦争における才能”が災いして、追い詰められなかったと考えたようだ
ならばこの体には魔法の才能はない
もしくはこの世界に魔法そのものが存在しないと考えられるだろう
つまり、存在Xは、前世の私が享受していた“科学技術”や“戦術論”“軍事指導能力”といったものすら無力化させるため、魔法などというものの存在しない、純粋な前近代に放り込んだのだ。
帝国でも合州国でも、剣や弓がメインのドクトリンなど教わっていない いるわけがない
いやそもそも、演算宝珠による身体強化が不可能な以上、男の体に合わせて作られた弓をまともに引けるかすら怪しいだろう
くくく……やってくれたな、存在X。
この有様で「信仰に目覚めよ」だと?
貴様に屈したら、それはすなわち、私の知性と意志の敗北ではないか。
私は文明と秩序、そして理性によって立つ人間だ。
おいそれと神にすがるような真似は、断じてするものか‼︎
……匙が再び口にねじ込まれ、粘つく何かが舌に広がる。
味? いや、そんなものは存在しない。ただの炊き潰した雑穀か。
だが──喰わねば死ぬ。喰って、生き延びて、また這い上がるしかない。
存在Xよ。
貴様はまたしても、私の人生に試練という名の呪いを仕掛けたな?
だが私はそのたびに乗り越え、叩き返し、文明的かつ合理的に生き延びてきた。
この世界でも同じことだ。
貴様の不条理に屈するつもりは微塵もない。
──その覚悟だけは、赤子となった今も変わらんぞ!!
さぁーて
黒卑村でゴリッゴリに犯罪に手を染めるための言い訳はできたか赤ん坊!?