マッチング&ファイト 作:○○もりもり
「すごいですね。初戦で勝利だなんて」
「嘘こけ、俺の電子体だけ異様に強かったぞ」
「あら?分かるのですか」
「なんとなくだけどな」
実戦から戻ったヒロト。
勝利で終わった彼は自分の電子体が相手より強いと感じたのだ。
「初心者の電子体は強くなるように調整されるのです。10回勝利するまでは1.5倍のビギナーズラックで無双しましょう」
「なるほど……新規を囲い込むための施策か」
マッチング&ファイト。
電子空間で行われる戦闘。勝者は全てを手に入れる。
勝者としての経験と特権を一部与えることで逃げ出さないようにするのだろう。
「この後はどうしますか?」
「まずは10勝する。俺が欲しいものは初心者には手に入らないだろ?」
「ええ、個人情報は大事なものですから」
実際に父の現在が提供されるのかは分からない。だが、過去に関与していたことが明らかな以上、手掛かりはあるはずだ。
「さっそく悪いけど、次のマッチングを頼む」
「はい。行ってらっしゃいませ」
即座に新しい戦いへと赴く。
終われば次の戦いへ。本来なら倒れるペースだが、電子で構築された体には疲労はない。
「よし。これで10勝!初心者脱却だな」
「随分と気張ってるなア?ヒロトちゃんよ」
「ロマノフか」
初心者から脱却したヒロト。
彼に近づくのは初戦で戦ったロシア人、ロマノフだ。
「まずは卒業おめでとうって言うべきか?初心者さんよ」
「ああ、ありがとう。今度は下駄がなくても勝つぞ」
「ガッハッハ!!おもしれえ!いつでも歓迎してやるぞクソガキ!!」
豪快に酒を飲み、睨みつけるロマノフ。
このまま戦闘へと移行しそうになる2人。しかし、これを遮ったのは通知音声だった。
「ヒロト様。泡奇様から『会おう!!』が届きました」
「お?アキ?日本人からか」
「そういえばマッチングアプリでもあったな」
マッチング&ファイトは戦いと交際。2つをメインに活動している。そのため、突発的な通知が来ることがよくある。
「よかったじゃねえか!行ってこいよ」
「戦わないのか?」
「バカ野郎!戦いなんざいつでもできる!!だがな…デートってのは今しかできねえ!!行ってこい!」
大きく背中を叩かれ、押し出される。
今日は戦いをする時間は終わったようだ。
「仕方ない。行くか」
アキとチャットをすると、すぐにでも会うことになった。
マッチング&ファイトは電子空間のため、瞬時に移動することができるのだ。
「……その前にマナビに話を聞いてみるか」
これまで一度もデートしていなかったので、マナーや服装などについてはさっぱり分からない。AIとはいえマナビも女だ。自分一人で考えるよりはマシだろ。
手元のデバイスを操作し、できる限りの準備を終わらせてから待ち合わせの場所へと向かった。
「ようこそ、ヒロト君。いきなりなのに会ってくれてありがとう」
カフェのような待ち合わせエリア。
控えめな外観の建物に入ると、紫髪と白いドレスを身に着けた少女が待っていた。
落ち着いた雰囲気は少女の外見とは、どこか不釣り合いだった。
「よろしく。アキ」
「うん。よろしく!」
さっそく始まったのはカフェから始まるデート。
カフェ・水族館・遊園地・デジタルで再現された空。普通では1日では巡ることはできない数の施設を楽しんだ。
「まるでスゴロクみたいだな」
「あはは……電子空間って瞬間移動みたいなのできるからデートも変な感じになっちゃうんだよね」
遊び疲れた2人は思い思いの感想を胸に抱く。
(意外と楽しかったな。向こうも盛り上げようとしてくれたし、結構良かったんじゃないか?)
デートの経験がないヒロトであったが、自分1人だけでは行かない場所にも足を運ぶことで新鮮な経験をすることができた。有り体に言えば、楽しかったのだ。
「楽しかったよ。ありがとう」
「こちらこそ楽しかったよ!」
それに対するアキは…………
(はーっ詰まんなかったわ)
心底、ムカムカしていた。
(このイモ男。見た目は整えているけど、中身は別。最悪だったわ…大体、いろんなイベントに女の子を連れまわす?普通は初対面にプレゼントを渡してどっかで食事した後にすぐ解散でしょ?)
アキは中学生のころからマッチング&ファイトに参加していた女である。数年に渡って勝者と遊んだ経験から贅沢で舌を肥えているのだ。
(はあ……暇だからって運試しをするもんじゃないわね。ハズレ引いちゃった)
さっさと帰ってブロックしよう。出会い系サイトでの常套手段で終わらせようと考えるアキ。
「じゃあ、また遊ぼうね」
「ああ、よろしく」
こうして2人は別々の思いを抱いて別れた。ヒロトは一度家に戻ろうとログアウトしようとした時、アキが歩いて行った方向から2つの人影が見えた。
「待ってえええええ!!クソアマあああああ!!金払ええええええ」
「嫌に決まってるでしょ!誰がアンタなんかに払うもんですか!!」
1つは先ほど別れた少女に似ており、もう片方は煌びやかな恰好をしている髪を金色に染めた男だ。
「なんだあいつらは……」
呆然とするヒロト。当たり前だろう。彼の目の前にある光景は常識を超えた先にある出来事だったからだ。
「あっ!ヒロト君、助けて!!」
ヒロトの後ろに隠れる少女、アキ。彼女の素早い動きにはヒロトは対応することができなかった。
「はあ…はあ…おいアンタ!そこの女を寄こしな」
「少し待て。何があったんだ?」
「ああ、いいぜ!教えてやる」
困惑しながらも事情を聞き出そうとする。意外にも男は簡単に教えてくれた。
「この女はな!俺のホストクラブで食い逃げしやがったんだ!!お陰で大変だったぜ!!あの時の金しっかり返してもらうぞ!!」
「あんなぼったくり払うわけないでしょ!大体、友達に誘われただけで私はなんにも悪くないわよ!」
叫ぶホストと言い争うアキ。先ほどまで見せた雰囲気は消え去っていた。
(これが本当の性格なのか…社交辞令って怖いな……)
自分は楽しめたのだから恨むつもりはないヒロトだが、アキに対する見る目は変わった。
「とにかくそのクソ女を渡しな!」
怒りの咆哮と共に要求するホスト。ヒロトはどうしようか悩んだ。
「えっと…どうする?払うのか?」
「払う訳ないでしょ!!守ってよ!!」
「とは言っても…食い逃げはよくないぞ」
あまりにも非常識な状況すぎて適切な行動が思い浮かばない。だが、悠長にしていられる状況でもなかったのだ。
「あーチンタラうぜえな!もういい!!ボコボコにして金払わせてやる!」
『強制マッチングが発生しました』
ホストがとあるボタンを押し、景色が変わる。
見慣れたリングにはヒロトとホスト、アキがいた。
「なんだこれ?」
普通のマッチングは承諾することで開始される。しかし、このマッチングは申し込みが強制的に働いたのだ。
「うそでしょ!?こんな所で強制券使う?」
「なんか知ってるのか?」
「強制マッチング券よ!目の前にいる相手と戦う権利のこと!!激レアだから数百万の価値があるのよ!たかが食い逃げにここまでする?」
「そうとう恨み買ってたんだな……」
どうやら、戦うしかないようだ。
「ヒロト!あんた絶対に私を守んなさいよ!守ってくれたら少しぐらいエッチなことしてもいいから!!」
「お前みたいな女はいらねえよ!」
目の前のホストに向けて拳を構える。
「どうやらボコボコにされる準備はできたようだな!!」
「来い!」
次の瞬間、戦いが始まった。
だが、形成はすぐに片方へと傾く。
「うそでしょ……」
呆然とするアキ。彼女の視線は2人の男による戦いに向いている。
「な…なぜだ……?俺の攻撃があたらねえ…」
「当たり前だ。お前、履歴見たけど戦うのサボってただろ」
攻撃をし続けるホスト。しかし、彼の拳はヒロトに突き刺さることはない。
常に躱される。防御する機会すらないほどなのだ。
「あいつ初心者よね…?なんであんなに強いの?」
初心者は1.5倍のボーナスを最初は貰う。しかし、これがない場合、大した強さではないはずだ。
「て、てめえ…チートを使っただろ!」
「右も知らない初心者がチートなんて使えるわけないだろ」
攻撃することもなく、躱し続ける彼の姿。
その姿には上級者の余裕すら見える。
(あっもしかして海外勢に挑みまくっているタイプ?)
マッチング&ファイトが最も盛り上がっているのは海外だ。時には戦争かと思うような勢いを見せる彼らの熱は日本とは比べ物にならない。
(初心者ボーナスで背伸びをしまくったなら納得ができる…普通の奴ならしないわよこんなこと……)
マッチング&ファイトは電子体という仮の体を使って戦うが、痛みなどの戦いで感じるダメージは軽減されない。だからこそ、負けが確定している試合には行きたくないというのが本音なのだ。
(もしかしたら、日本でも有数の選手になるかもしれないわね……)
長年、マッチング&ファイトを利用していたアキは考える。
目の前の男が持つ力とポテンシャルはどこまであるのか。そして、活躍させることはできるのか。
(いいこと思いつーいた!!!)
ニヤリと笑うアキを他所に、戦いは最終局面へと移っていた。
「くっくっく…やるようじゃねえか…だが、ガキの戦いだな!?くらえ!俺の必殺技エークス!!」
「ほい!」
「!!っつ…てめえ…………」
「悪い。ヤバそうだったから止めさせてもらった」
お世辞と同時に腹部に突き刺さる蹴り。ホストは倒れて動かなくなった。
「これで大丈夫なのか?」
「ええ!大丈夫よ!強制券は負けるとどんな命令も聞かなきゃいけない物だから!」
アキはこれ以上付きまとうなという命令をホストに告げた。
「……これで終わりだな」
「おつかれー!お陰で追いかけまわされずに済むわ」
「…………お前なぁ」
話しかけてくるアキに対して思わず、胡乱な目を向ける。
「なによ。これでも感謝しているのよ」
「ああ、どういたしまして……じゃあ解散でいいか?」
トラブルも解決したのだから、これ以上関わる必要はないだろう。アキの本性を知った今では、もう一度会いたいとは思っていない。だが、アキは構わずに近づいてくる。
「なんだよ……」
「そう疑ってかからなくてもいいじゃない!あなたと一緒に戦いたいのよ!!」
「戦いたい?どういうことだ?」
マッチング&ファイトについて詳しくないヒロトは無視することができなかった。
「来月にあるフェスのことよ!1つだけお願いを叶えてもらえるマッチングフェス!!あんた新人だからまともに参加できないでしょ?私と一緒なら優勝も狙えるわよ!」
「願いが叶う!?」
ヒロトが求めている父の情報。これを知るための道筋が見えてきた。
「本当なのか?」
「運営ができないことは無理よ。死人を生き返らせるとか」
「そらそうだ、運営も人間だからな」
違和感なく受け止める。そして、最も大事な質問をした。
「ある人間の居場所を知ることはできるか?」
父の居場所。今どこにいるのかを知れば、会うだけだ。