マッチング&ファイト 作:○○もりもり
「できるわよ」
当たり前だと言わんばかりに即答するアキ。ヒロトは自ら聞いたのにも関わらず、思わず聞いてしまう。
「大丈夫なのか?個人情報だろ」
「できるわよ。数年前にも同じようなお願いが叶ったもの」
「叶ったのか……」
我ながら微妙だと考えていたのだが、大丈夫らしい。
「まあ、いいや。マッチングフェスってなんだ?名前からして人が集まるのは分かるけど」
「ただのサバイバルゲームよ。100人の強者が1人になるまで戦うフェス!このフェスを見物する人もいれば、サポーターとして参加するのもいるわ」
「俺は選手として戦うってことか」
「ええ…私はサポーターよ」
基本的にチームを組み、協力しながら頑張るのが当たり前らしい。
「でも、なんで俺を誘ったんだ?初心者と戦う理由なんてないだろ」
ヒロトは初心者だ。知らない機能はいくらでもある。こんな人間を仲間に誘う理由が分からなかったのだ。
「俺よりも強い奴いるだろ?」
「いるけど、知り合いにいないわよ。今から探して性格が合うかも分からないけど、あんたはデートしても大丈夫でしょ?」
理由を述べるアキ。しかし、内心にあるのはそれだけではない。
(初心者なんて知らないことばっかり!私が活躍する場面が多ければそれだけお金が手に入るチャンスが増えるわ!)
有力チームからのスカウト、イケメンとの出会い、スポンサーによる強力なサポート。そして、何よりも願いが1つ叶う。
これだけのチャンスは普通のマッチング&ファイトで手に入れることはできない。
(目の前のこいつは強いし、1位は無理でも戦い方次第で2位や3位は十分狙える!だってこれはサバイバルゲームなんだもの!!)
マッチングフェスで重要なのは生き残ること。最も強い人間が1位になるわけではないのだ。
「そんなわけだから組まない?後悔はさせないわよ!」
「ああ、よろしく」
これによってマッチングフェスのために組むことになった。
「っというわけで次は何をするんだ?」
「最初はフェスの手続きね。専用の会場があるからエントリーをするのよ」
手元を操作し、アキとヒロトは場所を移動する。
移動先はエントリー会場だ。
「ここが会場か」
「ええ、気を付けてよ。ここは……」
警告をしようとするアキ。しかし、彼女の声は男の声に遮られる。
「ヒャッハー!!鴨鍋にしてやるぜ!」
襲い掛かってくるチンピラ。しかし、先ほどまで戦いを行っていたことから神経を研ぎ澄ませていたヒロトは即座に反撃をする。
「クベぇ…………」
「いきなり襲い掛かってきたぞ」
「エントリー会場にはいるわよ。番外戦術を使うやつらが」
金を使って依頼し、勝負を有利にする。景品が豪華だからこそ、手段を択ばないのだ。
「マッチング&ファイトは元々非合法な場所なんだから気をつけなさいよ」
「ああ、その通りさ」
アキの解説に割り込む声。水を撒いた土のようにしっとりとした響きは人の心に潤いをもたらすのだろう。
「……誰よあんた!いきなり話しかけて!」
しかし、突然割り込んできたアキにとっては不信感の方が上回る。彼女は鋭い視線と共に警戒の感情を表に出す。
ヒロトも同様に拘束していた男を手放し、目の前の男に意識を集中させた。
「おやおや…失礼。手ごわそうな相手がいたから少し挨拶をしようと思ってね……」
紳士のような仕草を仰々しく行う男は自己紹介する。
「僕の名前はミョウゴ…趣味は園芸だよ……新しい土地が欲しくてフェスに参加している。強いであろう君と協力関係を結びたくてね」
「協力?後ろから襲って楽に倒すための間違いでしょ!」
「当然だけど手厳しいね…もちろん、肩を並べて戦おうという話じゃない」
あっさりとアキの訴えを受け入れるミョウゴ。彼自身も当然であると考えていたのだろう。
「情報交換さ。僕は強い敵の情報を君たちに流す。君たちも流す。戦うか漁夫の利、逃げる。選ぶのは君たち次第さ」
「ふむ…………」
ミョウゴの提案を聞き、頭を悩ませるアキ。彼女は悪くない話だと考えているらしい。
「俺はいいぞ。この大会、生き残ることが重要なんだ。負けないためにも強い奴のことは知っておいた方がいい」
「まあ…そうだけど、フェアじゃないのよ。なにか落とし穴があるかもしれないじゃない」
どうやら罠の存在を警戒しているようだ。確かに情報が偽で潰し合いに誘導されたら笑い話にもならない。
「まぁ……そこは僕を信じてもらうしかないね。自己紹介でもするかい?嘘偽りなく話すよ」
「じゃああんたのことを言いなさいよ!今までの生活とか犯罪歴とか!」
「犯罪歴はなし。ただ合法的な国では人身売買の片棒を担いでいたことがあるよ」
「顔が良いわりにヤバいことやってるわね!?」
ミョウゴという見知らぬ相手について根掘り葉掘り聞こうとするが、初手でありえない返答を食らってしまうアキ。彼女の視線は冷ややかなものとなっている。
「仕方がないじゃないか。君が正直に話せと言ったんだから」
「悪いけど、うちの国でアウトな奴と組む趣味はないわ!」
「そう言わないでくれよーこのままだと孤軍奮闘になってしまうよー」
拒絶するアキと引き留めるミョウゴ。彼らの様子を見ていたヒロトは口を開く。
「だったら情報交換と戦わない約束で手を打たないか?共闘だのなんだのは今決めなくてもいいだろ」
ヒロトの意見を聞いたアキは懐疑的な視線を向け、ミョウゴは笑みを深める。
「アンタね……こいつが危ない奴だっていうのは分かるでしょ……」
「だからって遠ざけても敵になるだけだ。それに初見殺しを防げるかもしれないだろ?」
闇の空気と共に歩んできたミョウゴであれば、自分たちの知らない方面は詳しいだろう。利用できるものは利用した方がいい。
ヒロトは自身の考えをアキに伝えた。
「へえ…度胸があるんだね。言葉選びを間違えた自覚はあったんだけど」
「正直に話してくれるなら信じようと思っただけさ。短い間だとは思うけどよろしくな!」
「うん。よろしく…」
ニッコリと笑みを向けたミョウゴ。アキはすんなりと決まった出来事に文句をこぼす。
「ちょっと!!私抜きで話をまとめないでよ!トントン拍子で進めちゃって!」
「ごめんごめん。だけど、情報交換ぐらいならいいだろ?」
「はあ……いいけど、あんた1人で聞かないでよ。世間知らず」
文句を言いながらも許すアキ。彼女の様子に感謝しながらもヒロトはミョウゴへと向き直る。
「情報交換って話だったね。僕としてはフェスに参加する有力選手の情報を出せるよ」
「私はマップの情報ね。最後の100人が使う用のやつだから人によっては無駄になるかもしれないけどいる?」
「いるに決まっているさ。優勝を目指さない人間はこの祭りに参加するわけがない」
メインブレインであるアキとミョウゴが互いの情報について好感し始める。
「はい、お求めのデータ。開封のために必要なパスワードは情報を聞いてから教えるわ」
「うん。ありがとう……じゃあ話そうか。まず、このフェス……個人戦ではないよ」
最初に語ったミョウゴの情報。これはアキにとって信じられない情報だった。
「どういうこと?マッチングフェスは個人戦によるバトルロワイアルでしょ?一時共闘なんて裏切りのリスクを考えると現実的じゃないわよ」
「うん。マッチングフェスは一度死んだら終わり。だからこそ、結託する人間はほとんどいなかった……だけど、事情が変わったのさ」
ミョウゴが2人に差し出すのは1枚の写真。
そこには長身の男が映っている。
「誰よこのイケメン!?」
「海外の俳優、ジェイケー・サイコ。海外のマッチング&ファイトでとてつもない成績を収めている選手でね。彼がファンと一緒に参加するんだよ」
「なるほど…推しを優勝させるために結託する集団ってことね」
即座に理解するアキに対して、納得のできないヒロト。特に躊躇なく質問する。
「推しを優勝させるって……それだけのために戦いに行くのか?」
「行くわよ。好きな人に振り向いて欲しい……いや、その人が偉大になるためのピースになりたい。それこそが自分の人生を肯定する手段だって割り切っている奴は結構いるのよ。そして、このイケメンはファンの扱い方も慣れているでしょね。……顔だけじゃなくて頭もいいわ」
あとで出演作を見ておこうと決意するアキの返答を聞き、少し納得する。ミョウゴはそんな2人の様子を見て話を続ける。
「そんなわけだから、日本にいる参加者も大混乱。対抗するための一時結託すら少しずつ生まれ始めている」
ミョウゴの言葉を聞き、息をのむアキ。彼女はヒロトの実力を見て、勝算があると判断した。しかし、集団によって戦わなければならないのだとしたら、その大前提は機能しないからだ。
「冗談じゃないわよ!それじゃあ個人で参加する人間はどうしようもないじゃない!!」
「落ち着けアキ。対策を考える時間はいくらでもある。今はミョウゴの話を聞こう」
「逆になんでアンタはそんなに落ち着いてるのよ!?超ピンチよ!!」
このままだと何もせずに負けるかもしれない。アキは敗北の危機感によって緊張の糸は極限状態となっていた。そんな彼女に対してヒロトはあっけらかんと答える。
「勝つ自信があるから」
「はあ?」
「やってみなきゃわからないけど、勝つ可能性はあると思うんだ。なんとかなるさ」
「なんとかなるってアンタ……適当ね……」
「まあな。どうとでもなるさ」
ため息をつくアキ。2人の様子を見ていたミョウゴはカラカラと笑っていた。
「図太いね、君。面白いよ」
「ありがとよ。お前側の情報が終わりか?」
「いいや、最後にとっておきがある。個人で勝ち取ろうとする奴らの情報さ……君たちと同じようにね」
ヒロトに向けてカードを差し出すミョウゴ。白紙となっているため、中身を見ることができない。
「ちょっとしたプロテクトだよ。濡らすと文字が見えるようになる」
「へーすごいじゃない」
「もちろん、現実の水ではやらないでくれたまえよ」
どうやら中身の内容を口頭でも説明してくれるようだ。ミョウゴは先ほどよりも饒舌に語る。
「1人目は人斬りの達人、ジン。彼は真剣ではお揃い技量だが、竹刀みたいな模擬刀では大したことない。後は正面戦闘が得意だね」
なんかしらの手段で見えるようにしたのだろう。アキの手元には無精ひげを生やした30歳ごろの男が映っているカードがある。
「2人目は魔導士マスル。様々な戦術を使い、盤面をかき乱すのが得意だ。彼がいる戦いは乱戦になることも多いし、最善は正面から潰すのがいいね」
頷きながらメモを取るアキ。ヒロトは手持無沙汰となっており、暇を持て余していた。
「そして最後の3人目。彼が非常に恐ろしい人間だ。彼に負けた人間は、自由を奪われ、海外へと売られてしまう」
「随分と物騒ね」
「ああ、危険すぎて最後まで放置されることが多いよ」
笑みを深めるミョウゴは一礼をする。その様子からアキとヒロトは3人目の正体を察する。
「3人目、敗者の人材派遣、ミョウゴだ。君らのことは売ることはできないから安心したまえ」
人好きする声色で凄まじい言葉を発するミョウゴ。彼の様子を見て、アキは警戒レベルを大きく上げた。