転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった   作:yumui

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大会

聖王国で開かれる騎士競技大会――その出場条件の一つは、「二人一組での参加」だった。

 

 宿舎の一室、レイナは布団に寝転がったまま、天井を睨んでいた。

 

「……誰と組めってのよ……」

 

 片手には参加登録票、もう片手には大会の規定が記された紙束。そこには「試合形式:二人一組の団体戦。ペアでの戦術、連携、精神力を問う」と書かれている。

 

 レイナの周りには、既に旅の仲間となった二人――シャリエラとカーニャが座っていた。

 

 だが、どちらも戦闘には向かない。

 

 シャリエラは「歌姫」としての力を持っているが、それは癒しや支援の歌に限られていて、直接戦うことはできない。カーニャは二刀流を名乗ってはいたが、実際のところ――

 

「そ、それはだな……い、今は体調が万全じゃないだけで……! 回復すればオレの跳躍剣術で空をも切り裂けるのだ!」

 

「……干し肉の早食いなら、あんたが最強でいいわよ」

 

 レイナはため息をついて立ち上がった。

 

「とにかく、あんたたちは応援よろしく。私は……組める相棒を探してくる」

 

 その日の午後、大会の準備でにぎわう訓練場の外れ、参加者同士の交流広場には、あちこちで戦士たちが腕試しや自己紹介をしていた。

 

 レイナも人波をぬって候補者を探していたが、見つかるのはガタイの良い男ばかり。気が合いそうな人物は見当たらない。

 

「……やっぱり私が“普通”すぎるのかしら」

 

 レイナがぼやきながらベンチに腰を下ろそうとしたとき、一本の木剣が彼女の足元に転がってきた。

 

「ご、ごめんなさい! それ取ってもらえますか!」

 

 振り返ると、銀髪の少女が訓練用の鎧に身を包み、焦った様子でこちらに駆け寄ってきた。年はレイナと同じくらいだろうか。整った顔立ちに、背筋の伸びた所作――どこか貴族の出のようだった。

 

「はい、これ」

 

「ありがとうございます」

 

 少女は木剣を受け取ると、深く頭を下げた。

 

「あなたも、参加者ですか?」

 

「うん。パートナー探してるの」

 

「……!」

 

 少女の瞳が輝いた。

 

「実は、私も同じなんです!」

 

「ホントに?」

 

「はい! 私、マリア・フォン・リューネブルクと申します。リューネブルク辺境伯の次女で、王国騎士団への入団を目指して修行中です」

 

「私はレイナ。村の出身。今は剣の修行中ってとこかな」

 

 マリアはふふっと笑った。

 

「……お父様に黙ってこっそり参加したんです。大会なんて低俗な見せ物に出るなど“騎士の誇り”に背くと、猛反対されて」

 

「でも、それでも出たいと思ったんだ?」

 

「はい。騎士としての実力を証明したかったんです。ただ“家柄の娘”じゃなくて、一人の戦士として見てもらえるように」

 

 マリアは木剣を腰に戻しながら、少しだけ照れたように言った。

 

「それに……なんだか、あなたからは“まっすぐな強さ”を感じました。見知らぬ相手に剣を抜かせることなく自然に接する――そういう人となら、私、安心して背中を預けられる気がします」

 

「……えっ、それって」

 

「もし、よければ――私と組んでいただけませんか? レイナさん」

 

 レイナは一瞬驚いたが、やがて口元を緩めてうなずいた。

 

「こちらこそ、お願い。マリア」

 

 翌日、組み合わせ抽選会。

 

 レイナとマリアのペアは、初戦で商会傭兵団出身の猛者ペアと当たることが決まった。

 

 控室で準備をする中、シャリエラとカーニャが激励に訪れた。

 

「レイナ、マリア、これ、幸運の守り石! 売店でシャリエラにねだった!」

 

「わざわざ“ねだった”って言うな!」

 

 二人の応援に、レイナは思わず笑ってしまった。緊張していた肩の力がふっと抜けた。

 

 マリアも剣の鍔に手を置いて言った。

 

「……いきますか、相棒」

 

「うん。行こう、マリア」

 

 競技場の熱気は想像以上だった。観客席は埋まり、王国貴族、聖騎士団、各地の評議員たちが目を光らせていた。

 

「第一戦、東ブロック第二試合――レイナ&マリア組 VS ドラン&キーヴ組!」

 

 開始の合図とともに、敵ペアは前へ出た。大柄な斧使いと、長槍を扱う機敏な男。傭兵団で鍛えられた、いかにも手練れのコンビだ。

 

「私が槍を引きつける! レイナさん、斧の男をお願い!」

 

「了解!」

 

 マリアは盾を掲げて前へ、レイナは後ろから斜めに走る。

 

 カン、と槍と盾がぶつかる金属音。観客がどよめく。レイナはすかさず斧男の背後へ回り、反応の遅れを突いて剣を打ち込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

 斧男は後退しながら構え直すが、マリアの押し込みとレイナの機動力で防戦一方に。

 

「今よ、マリア!」

 

「はいっ!」

 

 二人の剣が交差し、槍と斧が地面に落ちた。

 

 勝敗は明らかだった。

 

「勝者! レイナ&マリア組!」

 

 歓声が上がる。レイナとマリアは互いの手をしっかりと握った。

 

「……いい連携だったわね」

 

「うん、マリアが後ろを守ってくれるから、思い切り動けた」

 

 二人は笑い合った。

 

 その夜、カーニャが言った。

 

「なあ……あの斧使いの組、準優勝候補って言われてたんだぜ……」

 

「え?」

 

「つまり、だ。お前ら、もうそこそこ目をつけられてるってことだ」

 

 シャリエラも神妙な顔で言葉を続けた。

 

「そして……エイゲルズが出場するという噂も、現実味を帯びてきてる。大会が進めば進むほど、私たちの戦いは過酷になるわ」

 

 レイナは剣を見つめた。

 

 その刃には、微かに光が宿っていた。

 

「……大丈夫。私は、やるって決めたから」

 

 マリアがその隣に立ち、そっと言った。

 

「私も、あなたの剣になれるように、頑張ります」

 

 こうして、騎士競技大会は本格的に幕を上げた。

 

 #

 

騎士競技大会の初戦を勝ち抜いた翌朝、レイナとマリアは大会本部からの呼び出しを受けた。案内されたのは、聖王国の政庁に隣接する中庭にある、小さな応接室だった。

 

 出迎えたのは、マリアの父――レイナール・フォン・リューネブルク。

 

 白銀の鎧に身を包んだその姿は堂々としており、白髪交じりの短髪と鋭い目が印象的だった。かつて「王国の剣」とまで謳われた騎士。だが今は王国軍の戦略局に籍を置く、いわば“デスク騎士”だ。

 

 彼の前に立つマリアは、わずかに唇をかみ、何も言わず背筋を伸ばしていた。レイナも黙ってその横に立つ。

 

 重苦しい空気の中、レイナールの口が開かれた。

 

「……貴様、マリア。今すぐ大会の出場を取りやめろ」

 

「……」

 

「何も言わんのか? 我が家は代々、正規の道を歩み王家に忠誠を誓ってきた。大会のような見世物に参加するなど、誇りある騎士の家にとっては、堕落だ。貴様は名を汚しているのだぞ」

 

 マリアは静かに目を閉じた。

 

「私は……私の剣で証明したいの。家の名前じゃなく、私自身の価値を」

 

「戯言を言うなッ!」

 

 その一喝に、レイナが思わず身じろぎした。

 

「貴様はまだ子供だ。騎士の矜持を語るには十年早い!」

 

 そのとき、ドアが開かれ、革のマントを纏った長身の男が入ってきた。

 

「……レイナール。お話中に失礼するよ」

 

「しっ、失礼いたしました! これはこれは、ヴェルデ准将殿……!」

 

 レイナールは先ほどまでの威圧的な態度が嘘のように変わり、椅子から立ち上がるや否や深々と頭を下げた。

 

 ヴェルデ准将は軽く手を上げただけで、顔をしかめて言った。

 

「昨日の報告書。三ページ分、数値が間違っていた。そちらで提出した兵站計画も、予定通りに回らないと各地の物資輸送に支障が出る」

 

「そ、そんなはずは……! 確認した上で……」

 

「書類はすべてこちらで保管してある。言い訳はいい。次はないと思え」

 

「……は、ははっ……も、申し訳ございませんっ!」

 

 レイナールは低く頭を下げ、背を丸めて謝罪した。応接室の空気が、さっきとはまるで違っていた。

 

 やがてヴェルデ准将が退室すると、沈黙が落ちた。

 

 レイナは何か言おうとしたが、隣のマリアが先に口を開いた。

 

「……今のが、騎士の“誇り”?」

 

 レイナールの肩が、ピクリと震えた。

 

「な、なんだと……?」

 

「私にはそうは見えなかった。机にかじりついて、上司にペコペコ頭を下げて……誇りって、そういうものじゃないでしょう?」

 

「ヴェルデ准将は上官だ。命令系統においては――」

 

「“誇り”って、命令に従うことだけじゃないでしょう! 自分の剣に、自分の意志に、胸を張って生きることじゃないの!?」

 

 マリアの声は激しかった。だが、それは涙を堪えるような、切実な叫びだった。

 

「私、覚えてるのよ。お父様がまだ王国騎士団の第一線にいた頃。どんな相手にも毅然としていて、どんな戦場でも堂々としていた……その背中に、私はずっと憧れてたの」

 

 レイナールは口を開きかけたが、何も言えなかった。

 

「なのに……今は、何? 机の上で数字と格闘して、上司の顔色を見て、私には“誇りがない”ですって?」

 

 マリアは歯を食いしばってレイナの方を見た。

 

「ごめん、レイナ。ちょっと一人になりたい」

 

「マリア……」

 

 レイナが呼び止める間もなく、マリアは応接室を飛び出した。レイナも追おうとしたが、レイナールが立ち塞がるように声をかけた。

 

「待て。……マリアに、伝えてほしい」

 

「……何を?」

 

「私だって、理想だけで生きていけるなら、そうしていた。だが、家を守るためには、頭を下げる時もある。貴様ら若者には、それが“誇りを捨てた”ように見えるかもしれんが……」

 

「でも、マリアはそれに絶望してるんですよ」

 

 レイナの言葉に、レイナールはぐっと言葉を詰まらせた。

 

「私、思うんです。誇りって、相手に押しつけるもんじゃない。自分で持つものです。誰にどう見られても、自分で信じられる剣を持つこと……それが、マリアの“今の誇り”です」

 

 そう言い残して、レイナも応接室を出た。

 

 夕暮れの庭園。赤い空の下、噴水の縁に一人腰をかけているマリアを見つけた。

 

 彼女は口を引き結び、目元を赤くしていた。

 

「……来たのね」

 

「当たり前でしょ。あんな顔されたら、ほっとけないわよ」

 

 レイナはマリアの隣に座り、ポーチから焼き栗を取り出して一つ渡した。

 

「うちの村じゃ、泣いてる子にはこれ渡すの。少しだけ元気出るよ」

 

「……ありがとう」

 

 しばらく沈黙が続いたが、やがてマリアがぽつりとつぶやいた。

 

「……私、間違ってるのかな。父を責めて……自分の正しさばかり押しつけて……」

 

「間違ってなんかない。でも、正しさを貫くのって、きっと誰かとぶつかるってことなのよ」

 

 レイナは栗を食べながら、言葉を選ぶように言った。

 

「でも、あんたの剣は――すごく真っ直ぐだった。初戦でそれが分かった。誰かを守りたいって、ちゃんと心にある剣。……私は、そんな剣と一緒に戦いたい」

 

「……レイナ」

 

「それでも、明日やめるなら止めない。でも、もし戦い続けたいって思うなら――私はあんたの剣になるよ」

 

 マリアは小さく笑い、涙をぬぐった。

 

「ううん、私は出るよ。明日も、明後日も。剣を抜いて、自分の誇りを見せるために」

 

「よしっ、それでこそ、私の相棒!」

 

 二人は笑い合った。

 

 その背後、遠くからレイナールが立ち去っていく姿があった。彼は言葉なく空を見上げ、一瞬だけ、自分のかつての姿を重ねていた。

 

 こうしてマリアとレイナは、より強い絆で結ばれた。

 

 騎士としての誇り。

 

 人としての誇り。

 

 そして、仲間としての誇りを胸に――彼女たちは明日の戦場へと歩き出す。

 

 

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