転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった   作:yumui

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王庭テルシス

王宮の庭園は、午後の日差しを受けてまばゆいばかりに輝いていた。真紅のバラが咲き誇り、噴水の音が静かに響く中、白亜のテーブルには王家の紋章が刻まれたティーカップが並べられていた。

 

「ようこそ、勇者レイナ、そして皆さん。」

 

王女が優雅に微笑んだ。金の髪を結い上げ、紫のドレスに身を包んだその姿は、威厳と慈愛を併せ持っていた。招かれたのはレイナ、シャリエラ、マリア、カーニャ、リアーネの五人。いずれもこの国で名を上げつつある者たちだ。

 

だが、その場に一人、異様な気配を放つ存在がいた。

 

黒いマントに身を包み、鋭い紅の瞳を持つ男――王庭の一員、テルシス。

 

「……どういうつもりだ、王女殿下。」

 

レイナが厳しい声で問いかけた。

 

「あなたが言っていた。テルシスは連続殺人事件の犯人だと。」

 

「ええ、ですが……それだけでは判断できない事実があるのです。」

 

王女は一冊の古い書簡をテーブルに置いた。その中には、王国の記録にも載らぬ歴史が記されていた。

 

「この書には、百年前に追放された私の姉、第一王女アメリアの名がある。彼女は父王に背き、処刑される寸前で姿を消しました。しかし、その後……王家を狙うような影が、王都に差し始めた。」

 

王女は鋭く、しかし哀しげな瞳をレイナたちに向けた。

 

「今回の事件、そしてテルシスの行動。その背景には、アメリアの影があると私はにらんでいます。」

 

沈黙が場を支配する中、テルシスが低くつぶやいた。

 

「……奴らは、俺に選ばせた。恋人の命か、忠誠かを。」

 

リアーネが顔を上げる。

 

「やっぱり、あの手紙は本物だったのね。」

 

シャリエラが静かに頷いた。

 

「だとすれば、犯人はアメリアと繋がっている者。いや、もしかすると……彼女自身かもしれません。」

 

「王都の北西、ブラックフォールの断崖にある廃砦。そこがアメリアが潜んでいる場所と見ています。」

 

王女の言葉に、レイナは剣に手を添えた。

 

「わかりました。私たちで確かめに行きます。その姉君が、真に王家を憎む理由を。そしてテルシスの無念を晴らすために。」

 

* * *

 

廃砦への道のりは険しく、霧と森に包まれた山道が続いた。

 

「ここ……空気が変だよ……」カーニャがぴたりと足を止めた。

 

リアーネが首を傾げる。「血の匂いが混じってる……魔族か、いや……もっと古いもの。」

 

テルシスは黙って先導していたが、砦が見えた瞬間、足を止めた。

 

「……ここに、リゼットがいる。」

 

 

「……俺の恋人だ。」

 

その名に、レイナたちは驚き、言葉を失った。テルシスは何も語らなかった。だが、その目に宿った哀しみは、言葉以上に重かった。

 

砦の門をくぐると、そこには武装した盗賊たちが待ち構えていた。彼らの紋章には、王家の紋章を塗りつぶしたような意匠が刻まれていた。

 

「来たか……王の狗ども。」

 

砦の上段から現れたのは、黒衣の女。銀髪を風に靡かせ、紅い瞳を持つ彼女は、確かに王女レミリアと同じ血を感じさせた。

 

「私はアメリア・オルレアン。正統なる第一王女にして、王国を焼き払う者!」

 

その声は、怒りと憎しみに満ちていた。

 

「王は私を裏切った! 真実を隠し、父の命を奪い、王家の理を捻じ曲げた! 今こそ報いを受けるべき時!」

 

「王女……本当にあなたが……」シャリエラが囁く。

 

「テルシス。よく働いたな。恋人は無事だ。だが、もう後戻りはできまい。」

 

テルシスは剣を抜いた。

 

「その恋人に、今の俺を見せるわけにはいかない。だから俺は――お前たちと共に戦う。」

 

「テルシス……!」リアーネが涙を浮かべた。

 

レイナも剣を構える。

 

「真実がどうであれ、罪のない人を犠牲にしてきたなら、あなたを止めるしかない。」

 

「その剣……勇者の剣か。なるほど……貴様が、次の選ばれし者か。」

 

アメリアが高らかに笑った。

 

「ならば試すがいい、勇者よ。我が王国への憎しみと、すべての復讐を!」

 

その瞬間、砦の中に火が走った。魔法陣が起動し、壁に潜んでいた魔獣たちが姿を現す。

 

「来るぞ! みんな、準備を!」

 

レイナの叫びに、仲間たちが動いた。マリアが盾を構え、シャリエラが詠唱を始める。カーニャが地面を駆け、リアーネが影に紛れて飛び出した。そしてテルシスが、かつての仲間たちに剣を向ける。

 

「来るよ!」マリアが叫び、レイナは剣を構えた。

 

「突破するしかない!」

 

 レイナは剣を振り抜き、次々と襲いかかる魔物たちを斬り伏せた。マリアの盾が咆哮する魔獣を受け止め、カーニャの炎が背後から援護する。リアーネの短剣が素早く敵の急所を貫き、シャリエラの聖なる歌声が仲間たちに力を与えていた。

 

 だがアメリアの魔力は強大だった。彼女が唱える呪詛は周囲を黒く染め、次々と魔物を生み出す。戦局は拮抗し、敵の勢いは増す一方だった。

 

「このままじゃきりがない!」カーニャが叫ぶ。

 

「私たちが食い止める! テルシス、行って!」シャリエラが言った。

 

 テルシスは頷き、ひとりアメリアの前へと進み出る。

 

「終わらせよう、アメリア。王族の誇りも、過去の呪いも、すべて……」

 

「来るがいい、裏切り者。私の苦しみを、貴様にも教えてやる!」

 

 激突する剣戟。テルシスの剣と、アメリアの魔力によって形作られた魔剣が火花を散らした。何十合も剣を交えた末、テルシスの一閃がアメリアの胸を貫いた。

 

「……なぜ……わたしが、敗れる……」

 

「君は強かった。だが、復讐に呑まれた時点で、王家の誇りも、姉としての君も消えていた」

 

 アメリアは崩れ落ち、闇が砦の中から引いていった。

 

 テルシスは倒れた彼女の奥の扉を開ける。そこに囚われていたのは、鎖に繋がれ、衰弱した美しい吸血鬼の女性だった。

 

「……リゼット!」

 

 テルシスが駆け寄ると、リゼットは弱々しく微笑んだ。

 

「来てくれたのね……信じていたわ」

 

 二人は静かに抱き合い、周囲の時間が止まったようだった。

 

 やがて、レイナたちが到着した。テルシスは彼女たちに背を向けたまま言った。

 

「恩に着る。今回の件、感謝する」

 

「テルシス……」レイナが声をかける。

 

 彼は静かに振り返り、リゼットの手を取ったまま言った。

 

「だが、次に会う時は敵だ。私は王庭の一員として、魔王城で待っている」

 

 その言葉に、誰も反論しなかった。彼が背負った覚悟と決意を、レイナは感じ取っていた。

 

「……わかった。また、会おう」

 

 テルシスはリゼットと共に砦を後にした。彼の後ろ姿が、どこか寂しげに見えたのは、気のせいだったのだろうか。

 

 砦を後にしたレイナたちは、山道を抜けながら次の目的地を話し合っていた。

 

「テルシスがああまでしてリゼットを救いたかった気持ち、少しはわかる気がするわ」マリアが呟いた。

 

「ねえ、次はどうするの?」カーニャが振り返る。

 

 レイナは空を見上げる。雲間から陽光が差し込み、かすかに鳥の鳴き声が聞こえた。

 

「次は帝国。そこに、王庭が暗躍している噂がある」

 

 シャリエラが静かに頷く。

 

「だったら、急ごうか」リアーネが前を向く。

 

 旅はまだ終わらない。次なる地、帝国。その地では、さらに大きな陰謀と試練が彼女たちを待っていることを、レイナは直感していた。

 

 だがそれでも、進むしかない。勇者として、仲間として。そして──人として。

 

 レイナはしっかりと剣を握りしめ、仲間たちと共に、帝国への道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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