転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった 作:yumui
俺が「王」と呼ばれるようになったのは、力だけの話じゃなかった。
それは、世界を見て、戦い、選ばれ、決断した――俺の、生き様の果てだ。
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この地には、21の部族があった。
山に住まう者。川に生きる者。馬と共に旅する者。空を仰ぎ星を読んで暮らす者。
それぞれが自らの掟と神を持ち、交わらず、時に争い、奪い、殺し合ってきた。
だがある時、大地が裂けた。
南方から魔族と呼ばれる存在が現れた。
彼らは部族の集落を次々と焼き払った。
戦う術も持たぬ小さな部族は滅び、強者の牙も届かぬまま踏み潰された。
恐怖と混乱の中、誰もが「次は自分たちか」と震えていた。
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そんなとき――俺は、現れた。
赤髪に金の瞳、空から舞い降りる姿に、「竜の子」「紅き星」「天より遣わされた者」と噂された。
部族の間に広まっていた名は、すぐに俺の耳にも届いた。
笑った。だが、誰よりも強く、誰よりも自由に生きた俺の姿は、確かに希望に見えたのだろう。
俺は、自ら名乗った。
「俺の名はヴェルギリウス。空を知る者。ドラゴンと心臓を交わした者。そして――お前たちを導く者だ」
最初は、信じようとしない者ばかりだった。
長老たちは「神を冒涜している」と言った。
勇士たちは「自分の方が強い」と唸った。
民は「また新たな侵略者だ」と怯えた。
だから、俺は示した。
力を。
知恵を。
そして、覚悟を。
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はじめに訪れたのは、氷河を越えた北の部族。雪の民、ザルガン族。
その王バルナは巨漢で、斧を振るえば岩すら砕けると恐れられていた。
「俺より強ければ、従う。ただし、負けたらその首をもらう」
彼の言葉に、俺はただ一言、答えた。
「悪いが、首はくれてやれねぇ。俺の首には、お前らの未来がかかってるんでな」
戦いは、わずか一撃だった。
拳でバルナの斧を砕き、雪を裂いた。
その後、ザルガン族が膝をついた。
「紅の王に、忠誠を」
それが、最初の一歩だった。
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次に俺が向かったのは、炎の民エクシャ族。
彼らは火山のふもとで暮らし、火を神とする。異端者を焼き殺すことで知られていた。
だが、俺の髪の色を見た巫女は震えた。
「これは……火神の子。伝説に記された、“赤き竜人”……!」
神話と偶像を重ね、エクシャ族は俺を受け入れた。
やがて俺は、言葉と力で、部族をつなぎ始めた。
争いの原因を分析し、長く続いた復讐の連鎖を断ち切り、力ある者に役目を、知恵ある者に場を与えた。
そして俺の背後には、いつもアンジェラがいた。
「いいわねぇ、ヴェルちゃん、すっかり王様じゃない♡」
「やめろ、まだ“候補”ってだけだ」
「でも、あたしには分かるの。アンタは王になるわよ。世界をつなぐ、たった一人の存在になるのよ」
アンジェラの瞳は、俺の未来をすでに見ていたのかもしれない。
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部族を束ねるための最後の関門。それは、神殿族――イザラーだった。
彼らは言葉ではなく、“運命の炎”と呼ばれる試練によってのみ王を認める。
「お前に問う。我らを導くに足る魂を持つか」
巫女たちが炎の円陣を描いた。
俺はその中心へと歩み出た。炎が渦を巻く。空気が焦げる。
そのとき、俺の中にアンジェラの声が響いた。
『行きなさい、ヴェルちゃん。あたしの心臓は、あんたの中にある。あたしの願いも、あんたに託してる』
「――ああ、行くさ」
俺は、歩いた。灼熱の炎の中を。
足は焼けるようだった。皮膚が焦げ、痛みが身体を裂いた。
だが、俺の心臓は鼓動し続けた。あの紫の竜の、誇り高き命のリズムが、俺の中で燃えていた。
そして、俺は炎を抜けた。
試練の神官たちは跪き、こう告げた。
「運命は、汝に選ばれた。空より来たりし竜の王よ――ヴェルギリウス」
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その日から、21の部族はひとつになった。
「赤き王」
「竜心の王」
「空を見た男」
俺の名は、世界に響いた。
争いは減り、知識と文化が交わり、かつてない時代が始まった。
俺は戦士たちに言葉を与え、巫女たちに未来を任せ、子らに道を作った。
だが、それでも――
「……なあ、アンジェラ」
『なに? 王様、夜更かし?』
「これで良かったんだよな?」
『ふふ、誰が何と言おうと、あんたは立派よ。世界を背負ってるのに、自分の在り方を疑える。そういう王こそ、あたしは好き』
「……ありがとうよ」
俺は空を仰ぐ。夜空は深く、星々が瞬いていた。
かつて、空を見て泣いた自分が、今は空の下すべてを見ている。
ヴェルギリウス――21部族の王。
だが、それは終わりではない。
新たな時代の、ほんの始まりにすぎなかった。
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大陸北方を一つにまとめてから五年。
俺――ヴェルギリウスは、21部族の王として日々政を執っていた。
部族間の争いは減り、交易が始まり、文化が混ざり合っていく。
だが、その平和の上には、常に外からの脅威があった。
俺は気づいていた。
「力」は守るためにも、進化しなければならない。
そして――新たな時代を導く「鍵」は、火の中にあった。
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きっかけは、東の山岳地帯、ウァガル族から届いた報告だった。
「黒い石が地中から出た」と。
俺はすぐに、アンジェラと共にその地を訪れた。
「へぇ〜、鉄鉱石じゃないのこれ? あたしの時代にもあったわよ。ま、あんたたちが使えるかは別だけど〜」
「……使えるさ。必ず」
俺は山に籠もり、鉱石を砕き、焼き、溶かし、繰り返した。
昼も夜もなく、実験は続いた。
鉄は、炎の中で変化する。
木炭と共に炉に入れ、温度を上げることで、やがて粘土のように柔らかくなり、叩けば形を変える。
銅や青銅とは比べものにならない硬さ。
斧にすれば森を切り裂き、槍にすれば骨を貫いた。
「これは……時代そのものを変える力だ」
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まず最初に鉄器を授けたのは、北の狩猟部族だった。
獣の骨で作っていた槍を鉄の穂先に変えたとたん、狩りの成功率は倍に跳ね上がった。
斧を渡すと、これまで一日がかりだった伐採が数時間で終わった。
農耕部族に鍬を与えると、荒地がたちまち耕地となった。
「これが鉄か……!」
「手が……痛くない!」
「刃が欠けない……!」
鉄器は、民に革命をもたらした。
「ヴェルギリウス王は火の魔法を手に入れた」
「鉄を生み出す“竜王の炉”を持つ」
そんな噂が、王国全土に広がっていった。
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だが、変革には必ず「恐れ」がつきまとう。
長老たちの中にはこう言う者もいた。
「鉄は神の意思に逆らう存在。火を操り、土を変えるなど、人の領分を越えている」
「鉄の武器は争いを呼ぶ。人の心は、石より脆いのだ」
俺は静かに彼らを見つめて言った。
「鉄そのものが悪なのではない。どう使うかが問題だ。
狩りにも、農耕にも、家を建てるにも役立つ。
これを使いこなす人間に俺はなってほしいんだ。王として、俺がその道を示す」
その言葉に民が応えた。
「我らは鉄と生きる!」
「王と共に、新たな時代を歩む!」
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次に取り組んだのは、「鉄器の普及」だった。
ひとつの部族だけが鉄を持てば、不均衡が生まれる。
だから、俺は鉄工房を王都に築き、各部族から若者を集めた。
鍛冶の技を教え、炉の設計図を渡し、王国の各地に「鉄の火種」を広げていった。
ときに爆発し、ときに失敗もあったが、彼らは必ず立ち上がった。
「王の技を我らの手に」
「火を恐れず、鍛えよ」
やがて、各部族に「炉」が根付き、鉄の道具が日常に溶け込み始めた。
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「ふふっ、ほんっとすごいわね、ヴェルちゃん。あたしが見てきたどの王よりも、未来ってやつを分かってる」
アンジェラがそう言って、背中から覗き込む。
「……人は変われる。それを信じたいだけだ」
「ふふ、でもあたしも変わったのよ。ねぇ、あたしの心臓、アンタに渡して本当によかった」
「今さら何言ってんだよ、相棒」
俺はアンジェラの角をぽんと叩いた。
紫の竜は、誇らしげに空を仰いだ。
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鉄器が普及して三年。
王国の生産力は飛躍的に伸び、生活は豊かになった。
道具は洗練され、文字を刻む鉄の筆も生まれ、知識の記録が始まった。
農耕は飛躍的に進み、余剰の食料は文化を育てた。
部族ごとに芸術が生まれ、鉄を打って作る音楽器、装飾、祭具が花開いた。
「ヴェルギリウスの治世を鉄の光明と呼ぶ」
その名は、伝説となった。
だが、俺は知っていた。
鉄は「使える者」だけに恩恵をもたらす。
持つ者と持たざる者の差が、新たな火種となることを。
だからこそ、俺は「教育」にも力を入れた。
すべての部族に言葉と計算、鍛冶の知識を学ばせ、各地に学び舎を建てた。
「学ぶことも、力だ」
それが俺の信念だった。
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王宮の丘の上。
かつては土壁だった俺の住処は、今や鉄の装飾と石の柱に囲まれていた。
俺はそこから、夕日に染まる王都を見下ろしていた。
「アンジェラ、俺たち……変えたんだな。時代を」
『うん……ねぇ、ほんとに綺麗ね、この景色。空から見たときとはまた違って……』
「違うか?」
『うん。空からは世界の広さが見える。でも地上からは人の営みが見えるの。あんた、ちゃんと地に足ついてる』
「……ありがとな」
俺は、かつて空で泣いたあの日を思い出していた。
空の美しさに震えた少年が、いまは地上で「未来」を築いている。
鉄は、その象徴だ。
人の手で打たれ、人の知で磨かれ、そして人の心で使われる。
この世界は、まだまだ変わる。
俺たちは、その先へ行ける。
そう、信じている。