転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった 作:yumui
魔王を討った後、レイナは人々の英雄となった。
だが彼女は心変わりがあったのか王宮の座を辞退し、故郷の孤児院を再建することを選ぶ。
あの日、あの夜、剣を取った少女は――今、未来を守る側になっていた。
彼女のもとには子どもたちの笑顔が集まり、旅の仲間たちも時折訪れるという。
“魔王を討った少女”の伝説は、静かな村の片隅で、今も生きている。
記憶を失い、世界に居場所のなかったシャリエラは、魔王討伐隊との旅で自分の「使命」と「意思」を知った。
彼女は旅のあと、各地を巡り、封印された古の武具や失われた魔術の記録を回収する役目を自らに課す。
「私は……まだ、過去と未来のはざまにいるのかもしれない」
けれど、彼女の目には迷いはなかった。
アムネシアの剣と共に、彼女は未来を守る勇者して再び旅立つ。
聖王国の騎士であったマリアは、戦後に一時帰国するが、父・レイナールとの再会を機に、王国の腐敗を正す改革に協力する。
戦火を知り、人を守る覚悟を深めた彼女は、女性騎士の教練所を設立し、多くの少女たちに剣を教える道を選んだ。
「弱さは、恥じゃない。向き合った先にしか、本当の強さはないのだから」
彼女の剣は、もう正義のためだけでなく、“未来”のために振るわれる。
ちいさな魔族、カーニャは、王庭との因縁を果たした後、公国に残って魔族と人間の共存を目指す動きを支援する。
その奇抜な発想力と破天荒な交渉術で「カーニャ式平和交渉法」は一部の知識層に大人気となる。
今や彼は、「公国の自由な外交官」として世界中を飛び回っている。
リアーネは今や人々の希望の風を導く者となった。
魔王討伐後、彼女は帝国の姫を救った功績で、帝国再建の象徴として迎えられる。
だが彼女は宮仕えを拒み、反乱軍の残党たちとともに、新たな自治都市の設立を提案。
風と共に生きる者たちの「居場所」を作った。
「戦った意味は、戦わずに生きる未来を作ることだと思うの」
その言葉は、帝国の新しい風として人々の胸に刻まれている。
奴隷から解放され、仲間となったルシアンは、魔術師としても心の強さでも大きく成長した。
戦後、彼女は帝国で行方不明の子どもたちを保護する施設を開く。
かつての自分のように、苦しみの中にいる子どもたちを一人でも救うために。
彼女の魔術は今、戦いではなく人々の癒しと教育に使われている。
「誰かを守る魔術こそ、本当の力だって、教えてくれた人がいたの」
彼女はもう、恐れない。
もう、あの闇には戻らない。
魔王が倒れ、王庭が解体され、四つの国はそれぞれに新たな道を歩み始めた。
争いの跡は深いが、人々は少しずつ、歩み寄る。
そして――
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静謐な銀の大地に、音はなかった。
空は果てなく黒く、ただ一つ、遠い地球の青が滲むように瞬いていた。
そこは世界の外側。神々でさえ訪れぬはずの場所。
その月面に立っていたのは、一人の女。
黒と紫の編み上げドレス、尖った帽子。夜を編んだような魔女の姿。
彼女の名は――ユミス。
その足元には、もう一つの異形がいた。
雪のように白く、巨躯の獣。狼の形をしてはいるが、眼には人の叡智を宿していた。
「……見届けたのか、ユミス」
白狼が低く、温かく問いかけた。
「ええ。終わったわ。レイナたちが、アルヴィスを倒した。……あなたの罪に、ひとつの決着がついたの」
獣は静かに、そして仰ぐように惑星を見上げた。
「こんなにも、美しい世界だったなんて……知らなかったんだ」
その目には、かつて持ち得なかった優しさと哀しみがあった。
「ずっと、私はシャリエラとして旅をしていた。自分の力を、記憶を、全て封じて……
人間の目で見て、彼らと語り、血を流して、誰かのために剣を振った」
「今まで神として、娯楽で私は世界に恐怖を与えた。でも、“シャリエラ”として生きてみたらね。
人って、こんなに温かくて、愚かで、でも……素晴らしかったんだね」
白狼はふっと口角を上げた。
「それを知るために、私は君の提案を選んだ。自ら姿を変え、記憶を封じ、“ただの少女”として世界を旅したんだ」
月の地には影がない。だが、二つの影がそこには確かにあった。
魔女と獣。支配と知恵の象徴が、互いに寄り添って立っている。
白い獣はユミスの隣に静かに横たわる。
二人の間に言葉はもう必要なかった。
ユミスは、ふっと笑った。
「またどこかの国で、“シャリエラ”として歩いてみようかな。花畑の丘がいい。
……今度は、戦争のない世界で」
「いいね。それもまた、ひとつの贖いだわ」
魔女と獣は、互いを見て笑った。