転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった   作:yumui

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転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった

世界は静かに変わろうとしていた。

大陸に広がっていた戦火は収まり、夜空はようやく穏やかな星々を取り戻した。

 

その空の下、風の吹く高地に、二つの影が並んでいた。

 

ひとつは、黄の外套をまとう長身の男――

覇王ヴェルギリウス。かつて世界を制し、そして自ら退いた存在。

 

もうひとつは、鱗に覆われた巨大な龍――

紫の翼をたたみ、螺旋の角を戴くその龍は、艶やかな口調で話す異形の存在。

名はアンジェラ。かつての戦場に舞い降り、彼の傍にあった者。

 

「終わったわねぇ、全部……シャリエラちゃん、よくやったわ」

 

アンジェラが言うと、ヴェルギリウスはゆっくりと頷いた。

 

「……ああ。あれが彼女の選んだ結末。人の目で見た世界を、美しいと感じたのなら、それでいい」

 

「でもあなた、本当に後悔はないの? すべての因果を見届けながら、ただ見守るだけだったのよ?」

 

ヴェルギリウスは少しだけ笑った。その目はどこか遠く、だが優しさを帯びていた。

 

「かつて、私はこの世界を制し、そして滅ぼしかけた。その責を取るのが、俺の役目だったのだ。

だが……人が、自らの手で未来を掴むならば、俺の出番はない」

 

風が吹いた。彼の外套が音もなく揺れる。

 

「……それに、最後に彼女が笑っていた。それがすべてだ」

 

アンジェラはヴェルギリウスを見上げ、しばし黙っていたが、やがてふっと笑った。

 

「やっぱり、あなたって面倒くさくて、優しいわねぇ。昔からずっとそうだった」

 

「そうかもしれん。……だが、これからはもう少し、自分の心に素直になってみたいと思っている」

 

彼はふと、横目でアンジェラを見た。

 

「アンジェラ。……次は、お前と一緒に旅をしたい」

 

紫の龍は目を細めた。その大きな体が、少し震えたように見えた。

 

「……ほんとに、そう言ってくれる日が来るなんてねぇ。何千年も、ずっと、そばにいたのよ?」

 

「ああ。……だが、もう待たせはしない」

 

アンジェラはその巨大な身体を縮め、やがて人の姿に変わる。

紫のドレス、長いまつげ、妖艶な笑みをたたえた美しい女――

だがその瞳は、誰よりも深く、そして長い時間を見つめてきた者のものだった。

 

「じゃあ、決まりね。あなたとあたし、今度は世界を眺める旅よ。

戦うためじゃなく、守るためでもなく――ただ、美しさを見るために」

 

ヴェルギリウスは黙って頷いた。

 

それは、かつて「覇王」と呼ばれた男と、「紫の龍」として恐れられた者の、新たな旅の始まりだった。

 

夜の風が、過ぎ去った時代の残り香をさらっていく。

だが彼らの足は、新しい時代の中へと踏み出していた。

 

月の下、笑い合うふたりの影が、銀の道を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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