転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった   作:yumui

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双理魔術

鉄が大地に根を張り、王国に豊かさが満ちた頃――

俺は、次の「革命」に着手した。

 

それは、「魔法」だった。

 

 

きっかけは、かつて母から教わった“癒し”の術だった。

 

手を当て、傷を治す。

それは俺の中で、ただの家族の記憶でしかなかった。だが、ある日、負傷兵の腕を握ったとき、それが応えた。

 

まるで、俺の意思に呼応して、肉が繋がった。

 

「……これは、ただの奇跡じゃない」

 

俺の中に眠るアンジェラの魔力。それが、傷を塞ぐ力を引き出した。

癒し、浄化、祝福、再生――それらは全て、同じ源から来ていた。

 

だが同時に、俺はもう一つの「魔法」も知っていた。

 

それは、かつてアンジェラが黒き竜と戦ったとき、空を裂いた力。

熱、雷、風、影――この世の理そのものをねじ曲げる破壊の意志だ。

 

俺は思った。

 

「これらは同じ魔法ではない」

 

そして、王国の知者たちを集め、研究を始めた。

 

まず着手したのは、魔法の原理の解明だった。

 

母から伝えられた癒しの術は、「信仰」に依っていた。

心を静め、祈り、生命の律動に意識を合わせる。

それは神や精霊との共鳴によって起きる現象。

 

一方、俺が戦いの中で使ってきた炎や風の魔法は、内なる魔力を外界に干渉させる力だ。

 

祈りか、意志か。

外か、内か。

導かれるか、制御するか。

 

この違いを、俺はこう名付けた。

 

「神聖系魔法」

「魔力系魔法」

 

前者は信仰と心を通して発動し、主に「癒し」や「守護」「浄化」に特化する。

後者は個人の魔力と制御によって生まれ、「攻撃」「強化」「変化」に長ける。

 

それぞれは真逆の性質を持ちながら、いずれも“魔法”であるという本質を共有していた。

 

俺はその違いを柱に、王国全土に「魔術教育機関」を設立することを決めた。

 

 

王都に最初の「学院」が誕生した。

 

名を《双理塔》という。

 

東の塔では神聖系魔法を学び、西の塔では魔力系魔法を研究する。

 

若者たちは、日々祈りと訓練に励み、術式と実践を繰り返した。

 

アンジェラは塔の上から笑っていた。

 

「ふふ、ヴェルちゃん、ついに学園ものに突入? 可愛い子いっぱいいるじゃな〜い♡」

 

「お前の見守り方って偏ってるよな……」

 

「いいのいいの。才能はね、見た目にも宿るのよ」

 

俺は呆れつつも笑い返した。

 

魔術は、確かに育っていた。

 

 

学院では、魔術の基礎に「魔力流動式」を導入した。

これはアンジェラが古代竜語から編み出した「力の循環図式」で、魔力の流れを目に見えるかたちで学ぶ手法だった。

 

神聖系の者には、「聖句」と「精神集中訓練」を、

魔力系の者には、「魔核鍛錬法」と「術式構築理論」を教えた。

 

驚くほど多くの若者が才能を開花させた。

 

中には、俺をも凌ぐ瞬発魔力を持つ少年や、癒しの力で盲目を治す少女も現れた。

 

「ヴェルギリウス王は、ただの王ではない」

「知を与える者。魔法を人に与えた賢王だ」

 

人々はそう呼ぶようになった。

 

 

しかし、進歩の裏には常に恐れがある。

 

「魔術を持つ者は、神を超える」

「この力が乱れれば、戦乱が再び訪れる」

 

一部の保守派は、魔術の普及に反対し始めた。

 

だが俺は彼らに告げた。

 

「だからこそ、教育が必要なんだ。

無知ゆえに力が暴走するなら、知識で封じ、理で導けばいい。

魔法は神の専売物じゃない。意思ある人間にこそ、託されるべきだ」

 

俺の声に応えるように、双理塔の生徒たちが立ち上がった。

 

「我らは理を学び、力を誇らず、ただ守る者となる」

「ヴェルギリウス王の理を、火と風と祈りに刻む」

 

その言葉に、民は涙した。

 

 

そして、ある日。

 

神聖系の巫女と、魔力系の術士が並び立ち、一人の病人を前に立った。

 

巫女は魂の穢れを祓い、術士は肉体の細胞を活性化させる。

 

奇跡は起きた。

男は立ち上がり、目を開いた。

 

「……わたしは、生きている……」

 

人々は拍手し、地に跪いた。

 

魔術は、ただの武器ではなく、未来を救う技となった。

 

 

アンジェラがぽつりと言った。

 

『ねぇ、あたし、少し泣きそう』

 

「お前に涙腺なんてあるのか?」

 

『あるわよ、心の奥に……。だってね、あたしがいた時代、魔術は破壊の象徴だったの。あたしだって、それで多くを殺した。でも今、アンタはそれを癒しにした。道具にした。希望に変えた』

 

「アンジェラ……」

 

『あたし、ヴェルちゃんに心臓あげて、ほんとによかった……』

 

俺は空を見上げた。

 

魔術の光が王都に灯り、夜を照らしていた。

 

神聖と魔力。

祈りと意志。

外なる力と、内なる力。

 

それらは、今や双翼となって、この世界を未来へと運んでいる。

 

そして、俺はその翼の名をこう記した。

 

「双理魔術」

 

――それは、かつて竜の血を継いだ男が、世界に残した“知”の体系である。

 

#

 

魔族の王国には、かつて数多の部族があった。

翼を持つ鳥人の氏族、地を這う蜥蜴の一族、霧を操る影の者たち。

その中でも、最も厄介とされたのが――巨人族だった。

 

彼らは、力こそが正義を信条にする異形の部族。

知恵は乏しく、文明も粗野だったが、彼らの「巨体」だけは、どんな理屈も吹き飛ばした。

 

ある日。

北方の警鐘が鳴った。

 

「巨人族が……来る……!」

 

見張り台の兵が叫んだとき、すでに山脈は黒煙に包まれていた。

木々をなぎ倒し、岩をも砕く足音。

6メートル級の巨人たちが群れをなし、地を踏みしめていた。

 

その中心に、異様な存在がいた。

 

「……でけぇ……あれが……王、か?」

 

50メートル。

それが、巨人の王だった。

 

ただし、その目は幼子のように濁っていた。

巨人たちはその王に指示を飛ばし、まるで玩具を操るように進軍させていた。

 

「オイ、アノヒカリ、メンタイ! ツブセ!」

「アソコ、ヒト イッパイ!」

 

王は言われるがままに動き、防壁を拳一つで粉砕した。

 

#

 

王都の北門では、避難が始まっていた。

 

指揮を執っていたのは――ヴェルギリウスの父、バルド。

 

老いは感じさせず、堂々たるその体躯は、若き日のヴェルギリウスそのものだった。

 

「子どもと老人を先に! 焦るな、隊列を乱すな!」

 

その声に、人々は恐怖の中で秩序を取り戻していた。

 

「父上!」

息せき切って駆けてきたのは、ヴェルギリウスだった。

 

「俺が代わる! あなたは早く避難を!」

 

「……馬鹿を言うな。民を導くのは王の義務だ。王の父として当然の務めよ」

 

笑って、背を向けた。

 

その瞬間だった。

 

王が、足を持ち上げた。

 

巨人の部下が叫ぶ。

 

「オウサマ! フンヅケロ!」

 

「――父上っ!!」

 

間に合わなかった。

 

重たい、圧倒的な一撃。

大地が裂け、塔が揺れ、風が絶叫を飲み込んだ。

 

その下に、バルドの姿はなかった。

 

 

ヴェルギリウスは、崩れた地面に膝をついた。

そこに、血に濡れた腕が突き出ていた。

 

掴んだ。

温もりがあった。

 

「……ヴェル……ギリ……」

 

その声は、か細く、震えていた。

 

「……よく……民を……守ってくれた……な……」

「おまえは……王に、なれる……この地の、希望だ……」

 

「――やめろ……話すな、今すぐ癒しを……!」

 

「いい……もう、十分……生きた……」

「お前なら……奴を……倒せる……そう……信じてる……ぞ……」

 

最後の言葉と共に、その腕の力は抜けた。

 

 

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